#6 ホロホロ牛のサンドイッチ〜移動する屋台とバフの覚醒〜(4)
「バフ魔法?なんだそれは?」
グラニスは、マッチョにマッチョを重ねた感じになっているご満悦なビルに尋ねる。
「簡単にいうと、人体強化の魔法のことだ」
「医者でやってもらう回復魔法とは違うのか?」
「まぁ、親戚みたいなもんだな。筋力増強だけじゃなく、すごいのになると体を鋼のように固くしたり、冬山に全裸で行けたりするような超人的な強化だってできるのよ」
「すごいもんだな」
「とはいえな、使い物になるようなバフ魔法を使える魔法使いなんてほんの一握りで、滅多にいやしない」
「そもそも魔法使いがそんなにいないだろ」
「そうだ。だから、冒険者ギルドにお願いして雇ったりするときゃ、べらぼうに高いんだ」
「なるほどな……で、そのバフ魔法がどうしたんだ」
ビルが急に真剣な目つきになる。
「グラニス、お前さん……この『ヨシノヤ』……稼げるぜ」
急に何を言い出したのか。
儲け話をするときには疑ってかかるのが世の常だ。
「グラニス、よぉく聞け。さっきも言った通り、バフ魔法が使える魔法使いってのは滅多にいないから“高い”んだ。だがな、冒険者は自分の生存率を上げるためだったり、もっと深く、もっと遠くへ探索するだったりで、とにかく喉から手が出るほどバフ魔法が欲しい生き物なんだ」
ビルがパンくずだけが残った皿を指差す。
「それで、どういう訳かあんたの料理には、そのバフ魔法と同じ効果の一部があるらしい」
「おいおい、そんな訳あるか! 普通の料理だぞ!それに魔法なんてほとんど使えないし……」
ただ、いつもよりやけにムキムキしているビルを見ると自分の言葉が少し不安になる。
「他のバフが料理でできんのかはわかんねぇけどよ。少なくとも今のサンドイッチには筋力増強、つまり物理攻撃力上昇の効果がある」
そう言って、ビルは工房にある小石を拾い上げて、デコピンで弾いた。
小石はものすごい速度で、壁に立てかけてあった分厚い鉄板へ飛んでいき…
貫いた——
「見間違いじゃ…ないよな……」
「ああ」
「ビル、お前、すごいな……」
「いやいや違う! 普通指の力だけで、鉄板撃ち抜けないだろうよ! これがバフ魔法の力ってぇやつだ」
「そ、そういうことか……」
冒険者というのはやはり常識の範疇を超えている。いや、ビルは元冒険者で今は魔法大工だが。
「で! だ! このバフ魔法の効果を持った料理を「バフ料理」と名付けよう。これはこの世界じゃものすごく貴重なもんだってことがわかるな」
「ああ、確かにそうなるな」
「一皿に高級料亭だって目じゃない宝石くらいの値段がつけられるぞ!」
なるほど、それで稼げるということか。納得だ。意外と悪くない儲け話に違いない。
しかし、グラニスには少し引っかかった。