#4 ホロホロ牛のサンドイッチ〜移動する屋台とバフの覚醒〜(2)
「どうだ、すごいだろ? 魔石をふんだんにつかっていてな、伸縮魔法を仕込んであるんだ」
「確かにすごいが…」
「それじゃあ、中を拝見と行こうか」
屋台へと足を踏み入れる。ふわふわと浮いている割には安定感がある。
中は決して広くはないが、横長な調理場に、かまど、料理道具も一式揃っているようだ。屋台にしては十分すぎる厨房だ。
調理場の目の前はカウンターになっており、そこからすぐに料理を出せるようになっていた。
「道具は王宮でつかってたもんには劣るかもしれないが、金具店のオヤジに聞いて、なるべくいいもんを揃えてみた。足りないもんがあったら言ってくれ」
「いや、十分だ」
グラニスは、たくさんある引き出しを開けるたびに出て来る、食器や調理道具の数々に関心していた。
「そして、今回のとっておき……」
ビルが腕を広げた先、厨房の隅に、子供の身長くらいの白い箱がある。これには見覚えがある。
「ディメンションボックスだ」
超高級魔道具である。どんなものでも個数制限なしに格納できる魔法の箱。
通常は、国賓級の上位の冒険者がさまざまな道具を格納し、洞窟などの探索に出向くために使われている。
そして、なぜか王宮の調理室にもあったのだ。
ディメンションボックス内のものは劣化しない。
その特性を利用し、王宮では食材の保管のために活用されていた。
かつてグラニスの師匠が、勝手に持ち込み使い始めたという話だ。
「こんなものどこで手に入れたんだ? 滅多に手に入らんだろう、いくらすると思って…」
チッチッチと指を振るビル。
「これは俺からのプレゼントだ。師匠からもらったんだがよ、工房もあるからもの置く場所には困らねぇし。だからといって、売るというのも気が引けてな」
酒場で気のいいやつだと思っていたが、まさかここまでとは。
「ただし、これ以外のお代はきっちりいただくからな!」
「そりゃまあな。だが、一体いくらなんだ…」
ビルは、そろばんを指で弾きながら、
「ほんとは、これくらい。だけど、酒場のよしみで大値引きして8,000万ベリルってとこだな!」
高い。普通に小さな家が買える値段だ。
だが、これだけの不思議な屋台にしては安い気もする。
そして、グラニスの貯金をほぼすべて切り崩せばギリギリ買える値段だった。
「だが、グラニス。この値引きをするにはひとつ条件がある」
「条件…?」