#39 リヴァイアサンの巨大蒲焼き〜魔剣と勇者の伝説と〜(3)
「お宝?」
「ああ、これの正式名称は【魔剣アウレリウス】だ」
「あ、アウ、なんスか?」
「【魔剣アウレリウス】だよ、お嬢さん」
この包丁が……魔剣……?
「僕が鑑定したんだ、間違いはない」
「魔剣って、何か呪いとかあったりしないよな……」
これまで魔剣を握っていたのかと思うと、ちょっと心配になる。
「ハッハッハッ、大丈夫だよ! 持ち主に危害を与えるような代物じゃない。伝説の通りなら、むしろその逆だ」
「……?」
「【魔剣アウレリウス】は、異界から召喚された勇者がその手に持っていたという魔剣でね。勇者の仲間にはあらゆる強化魔法を授け、反対に敵からのあらゆる弱化魔法を吸収して防ぎ、反対に弱体化の効果を与えたというまさに伝説の剣さ」
「そんなすごいものなのか?」
「すごいもなにも、ここに現存していること自体が奇跡みたいなもんだよ!! ハッハッ! 当時の魔王を倒した勇者とともに、行方不明になっていたんだ」
自分の師匠は「これは俺がまだ若いときに、お気に入りの剣を改造してつくってもらったんだ!」とか言っていたが、あれは嘘だったのかな。どこかでこの包丁を拾ったのか?
「しかし、どうして包丁になっているんだろう」
「ん? 最初から包丁じゃないのか?」
「ああ、これは【魔剣アウレリウス】を鍛え直したものだね、魔力ももともとの半分ほどみたいだし」
「元魔剣の包丁なのか……」
「こういうことがあるから鑑定士は辞められないね!!」
「いや、完全に辞めてたじゃないっスか……」
ミルカがぼそっと嫌味をいう。
「そりゃ仕方ない。僕はもう鑑定への熱意を完全に失っていたからね」
テンション高く饒舌になったエルメスが、孤高の釣り人になっていた経緯を教えてくれる。
「一人でこのトルキアに来たのは7年くらい前かな。王都のギルドを抜けて、ここに来ればたくさん見たことのないようなお宝にで会えると思ってね。路地裏で小さな個人店を始めたんだ。実際に最初は舶来品をはじめとして、自分の興味をそそるようなものばかりで心躍ったさ。毎日夢中になって鑑定して、値付けをして、いつしかトルキア一番の鑑定士を呼ばれるようになった」
「順風満帆じゃないっスか」
「ああ、順風満帆だった。稼いだお金で、事務所を大きくして、さらに大型の案件も舞い込むようになった。ただ、それと同時に虚しさも感じるようになっていったんだ」
「虚しさ……?」
「自分の思い込みで高いと思い込んでいたものが偽物だった分かったときになぜか怒鳴る貴族たち。裏金を用意してガラクタに高額の鑑定書をつけさせようとする悪徳な商人たち。もう見慣れたような品を珍品だと持ち込んでくる者たち、事務所を大きくしたことで増えてしまったやりたくもない事務仕事……全部全部嫌になっちゃんだよ」
なんとなく、気持ちはわかる。自分も王宮料理人として、やりたいことができるような環境にはなかった。周りの期待に答え続けるだけの日々は、想像以上に精神的に辛い。
「それで、全部放り出して、釣りをしてたってわけさ。何かお宝が引っかからないかなぁと」
それで、釣りに行くのはちょっとわからないが……
「魚じゃなくて、お宝を釣ろうとしてたんスか……師匠、この人意外とバカっスね」
「おいおい、これでも大陸一の鑑定士って呼ばれてる僕にそりゃないだろ」
エルメスが、爽やかに笑う。
「まぁ、この包丁は大事にするといいさ。鑑定はタダでやってやるよ」
そういうと鑑定書をスラスラと書いてくれる。
「え? いいのか?」
「あと、魔剣の発見というのは条約で、魔道具ギルドに報告する必要がある、これはすまないがこちらでやっておく」
まぁ、いいか。困ることもないだろう。うなずいておく。
突然ミルカが、すんすんと鼻を鳴らし始める。
「なにやらいい匂いがするっスね!」
「リヴァイアサンが焼きあがったんじゃないか?」
「2人とも、もし僕の鑑定に問題なければ、食べに行こうじゃないか!」
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