#2 バトルシュリンプのビスク〜追放された料理人〜(2)
「ってな、訳なんだよぉ! 酷い話だろぉ? なぁそう思うだろうぉ? ビルさんよぉ?」
グラニスは、王都のはずれの酒場「銀の蹄」で呑んだくれていた。
テーブルには空の木製ジョッキが積み上がっている。
ここは、飯も酒も特別にうまいわけではなかったが、王宮の堅苦しい空気とは違って、とにかく居心地がよく休みの日にはよく来ていた。
今日からは残念ながら毎日休みだ。
「いやぁ、愉快愉快! 天下の王宮料理人さまが、1日で無職とは! 人の嫉妬は怖いねぇ」
筋骨隆々で無精髭を生やした大男がカラカラと笑う。
ビルは、この酒場で知り合った魔法大工で腐れ縁だ。
王宮料理人であることを知っても気軽に接してくれる。
毎晩呑んでいるらしく、なぜかいつ来てもいるのだ。
自分で腕は立つ職人だと言っているが、酒場で一緒に呑んでいるだけなので真実はわからない。
「無職か、無職......無職かぁ!!!」
グラニスは、また大声で泣いた。酒場が色めき出す。
「おいおい、そんな顔してちゃ、せっかくの凛々しい顔も台無しだぜ」
「これが泣かずにいられるかぁ!」
「しかし、王宮料理人ってのはそんなに楽しいものだったのか?」
「......楽しい?」
グラニスは考えたこともなかった。
王宮料理人としての毎日は充実こそしていたが、楽しいと感じたことはほとんどなかったのだ。
「おや、本当に楽しくなかったのかい」
「まぁ...そうだな...楽しいとかじゃなかったな...」
「なんか好きな食材で、好きなもん作って、高い金もらってハッピーなもんかと思ってたよ」
「そりゃ、それなら最高に楽しいだろうよ!」
現実は違う。
確かに、使える食材は最高級品ばかり。
だが料理自体は、毎日、毎日、王の好みに合わせてほぼ決まったメニューたちを完璧に作っていくだけの日々。
創造性もなにもあったもんじゃない。
「これからどうすんだ、グラニス」
「ああ、旅にでも出ようかなと。いろんな世界を周るのは夢だったんだ。どうせ、長くはこの国にはいられないし...エールおかわり!」
「おお、いいじゃねぇか! 俺もおかわりだ!」
「しばらく生きて行くだけの金は十分あるんだ」
エールのジョッキが2つテーブルにドンと置かれる。ビルがニヤリと笑ったように見える。
「だったらよ、その金俺に預けてみないか?」
「は?」
「お前さんにとっておきのもんつくってやるよ。悪いようにはしないから、なっ?」
何か騙そうとしている目じゃない。
酔っ払ってるのでちょっと視界がぼやけてるが、たぶん。
グラニスは、エールを一気に流し込む。どうせすることもないんだ。
何か起きるかもしれない方に金でも使ってないとやってられない。
「......いいぜ! その話乗った!」
「わお! 信じてくれんのかい! まっ、任せとけってな!」
ビルが、不器用なウインクをしながら発達した大胸胸をドンと叩く。
「で、なにつくってくれんだよ、ビル」
「それはできてのお楽しみだ!1週間後、俺の工房に来てくれ。忘れんなよ!」
「いや、これは忘れそうだ...」
「絶対忘れんなよ!」
「もう一杯呑んだら覚えてられそう...」
「エール、もう2杯おかわり!!」