#17 上薬草のうまみおかゆ〜冒険者キャンプで「ヨシノヤ」開店〜(1)
グラニスとミルカは、王都を離れ、間も無く冒険者のキャンプに到着した。
魔物が出るという洞窟は、入り口からして瘴気が漂っており、近づくのも躊躇われる。
洞窟から少し離れた湖のほとりに、いくつかのテントが立っている。
ここで冒険者たちは寝泊まりして、洞窟にアタックしているらしい。
まだ昼間ということもあって、ほとんどの冒険者は洞窟内にいるらしく、人はまばらだ。
「じゃあ、店を出すのはここにするか」
「森に、湖に、景色がいいっスね! 了解っス!」
ミルカが背負っていた木箱を下ろす。
「店主グラニス・ヨシノが命ずる。ひらけ、ヨシノヤ!」
手をかざし唱えると、木箱がパタパタを開き、見慣れた浮遊する屋台になった。
「何度見ても面白いっスね」
「夕方までには冒険者の人たちも帰ってくるだろうから、準備をしよう」
「どんな料理がいいんスかね」
「疲れていて、怪我も多いだろうから回復効果の高いものがいいんじゃないか」
「確かにっス」
「そこで、何に困っているのかも聞いてみよう」
薬草を多めにつかったおかゆにすることにした。
ディメンションボックスから幾束かのフレッシュな上薬草を取り出して、バフ包丁で3cmくらいの大きさに切り分ける。
湖から水を取り、米の入った鍋にひたひたになるまで入れる。
はじめちょろちょろなかぱっぱ。
ふっくら炊き上げる。
「おお! つやつやに炊けたっスね!」
「一部は、ちゃんとこのままとっておこう」
乾燥歩き茸からとったたっぷりの“だし”をさらにたっぷりの水で割る。
鍋の半分くらいのごはんを、そこにいれて煮立てる。
「いい匂いス」
ごはんがたっぷりのだしを吸っておいしくドロドロになったら、薬草をたっぷり入れる。
最後の味付けに塩を振ってできあがりだ。
日も暮れて来て、冒険者たちもぞろぞろ戻って来た。
しかし、こちらを怪しそうに見るばかりで、なかなか寄ってきてくれない。
昨日までなかった浮遊する大きな屋台的なものがあるのだ、無理もない。
「師匠、とりあえずなんでもいいんで、肉焼いてください」
「どうしてだ?」
「こういうときは、適当に肉でも焼いて煙の匂いでおびき寄せるんスよ」
「はぁ」
とりあえず、からあげにし損ねていたコッコ鶏のもも肉を、鉄板の上で焼いてみる。
ジュゥゥゥ
という音とともに、肉が焼け、下味のにんにくや醤油の香ばしく焦げた匂いが広がる。
さっきまで、怪しんで近寄ってこなかった冒険者たちがなんだなんだと寄って来た。
「おお、すごい!」
「ほら、私の言った通りっス! 胃袋には誰も抗えないんスよ!」
「バフ屋台『ヨシノヤ』! 本日オープンっス! お腹空かした冒険者のみなさん、バーベキューばかりで飽きてないっスか? ちゃんとした飯が食べられるっスよ〜! しかも、バフ魔法の効果付き!」
ミルカが、大声で客引きをする。元気な奴だ。
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いただけますと、とてもとてもありがたいです...!!
いつも拙著をお読みいただきまして本当にありがとうございます!