#11 失敗したバトルシュリンプのビスク〜王宮料理人たちの誤算〜【王宮サイド】
一方、王宮では、グラニスを出し抜いた王宮料理人たちがどやどやと働いていた。
「いやぁ、グラニスがいなくなったおかげで、やっと俺たちの時代が来たな」
「ああ、先代の王に贔屓にされてからっていつまでも第一位の座にいるんじゃねぇよって話だ」
王宮料理人第二位のルメールを筆頭に、料理人たちはにちゃにちゃとした嫌な笑みを浮かべながら、料理の仕込みを進めている。
「それで、ルメール、今晩のメニューはどうするんだ?」
「そうさな、王の好きなバトルシュリンプのビスクにしよう!」
「いいねぇ、あのグラニスの引きつった顔を今でも思い出す」
「今日のビスクの味は、狂わないからな」
「あの日は、グラニスのために、いつもと違う味をと思ってちょっと【にがり】を入れてやっただけのだが、失敗だったな」
「今日は入れなくていいぞ」
ワハハという小悪党丸出しの声で笑う料理人たち。
バトルシュリンプのビスクの作り方は、この王宮の料理人であれば誰でも覚えている。
グラニスが先代の王の時代に生み出したメニューだが、現ルイス王の好物であるがために、ある者は教えを請い、ある者は盗み見て習得していた。
ただ、グラニスがいた頃は、あくまで彼の料理であり、他の者が王に作って出すことはなかった。
「じゃあ、はじめるか」
バトルシュリンプの殻と頭を、鍋で炒め香ばしさを出したら、オリーブオイルと香味野菜を入れてさらに炒める。
野菜がしなっとしてきたら、白ワインを加えて、しばらく煮る。
鍋の中身を裏ごしして、どろどろとした濃厚なビスクに。
仕上げに、サッと焼いたバトルシュリンプの身をのせて、完成。
「うむ、グラニスの野郎が作ったのよりおいしそうじゃないか」
「あいつの専売特許みたいになっていてもビスクがかわいそうだもんな」
「違いない」
絢爛な夕餉の間には、すでにルイス王が食卓に座っている。
「ルイス王、バトルシュリンプのビスクにございます」
「ほぉ」
「王宮料理人第二位、このルメールが心を込めてつくりました」
「グラニスのような失敗はあるまいな、そのようなことがあればお前も」
「滅相もございません……味見もきちんとしております」
ルイス王は、スプーンでビスクをすくい口に運ぶ。
「うむうむ、悪くない」
「ありがたき、お言葉」
一口、二口、どんどん食べる。
しかし、その刹那、スプーンがカランカランと音を立てて床に落ちた。
そして、苦しそうにむせはじめるルイス王。
「ゲホッ、ゴホッ、なんだこれは、毒でも仕込んだか! ルメール!」
「いえ、決してそのようなことは……私も食べておりますし」
ルメールは他の料理人を見やるが、皆一様に青ざめており、毒を盛ったような雰囲気は感じられない。演技が上手いだけかもしれんが。
「大丈夫でございますか!ルイス王!」
侍従やメイドたちが駆け寄ってくる。
ルイス王は、椅子から床に倒れこみ、苦しそうな咳をしながら、胸を押さえている。尋常ではない。
「料理人どもをひっ捕らえよ! 尋問に処す!」
筆頭侍従が叫ぶと、近衛兵たちがルメールたち料理人を荒々しく捕まえ、床に顔をおさえつける。
「何をする近衛兵!」
「痴れ者が! 逆賊に言葉はいらぬ!」
そう言うと、近衛兵はルメールの顔面をボコボコに殴った。
「やめ! やめ……ろ…」
ルメールは気を失った。
ルイス王は、バトルシュリンプをはじめとする甲殻類が身体に毒として作用するアレルギーを持っていた。それが、グラニスの料理がバフとなり無効化されていたのだ。
幼い頃からグラニスの料理を食べ続けており、また王という立場上戦闘などすることもなくそのバフには気がつかなったのだが。
だがまだその真実を、王宮の誰も知らない。