第8話 ピオという女
「それでその最下級の最強魔王が俺に何の用だ?」
途中で神階級の話に話が反れてしまったが、元々のウルスラの要件はそれではないのだろう。
「お前性格悪いって言われるだろ?」
ウルスラは俺を軽く睨みつけつつそう言うが、最下級でしかもチビのウルスラに睨まれても何も怖くはない。
まぁ確かに勇者時代もそれほど評判は良い方ではなかったが、一応は勇者であった俺に面と向かってそんなことを言う奴はかなり稀だ。
「あまり言われた事はないな。むしろ人から敬われていた口だ」
「嘘つけ」
ウルスラは呆れた顔で俺にそう言ってきたが断じて嘘ではない。
少なくとも俺と面識があまりない人間からは多少は敬われていたはずだ。
総合的に見て敬われていたと言っても問題ない。そのはずだ。
「そんなことはどうでもいいだろう。さっさと要件を言ってくれ。俺もそこまで暇ではない」
暇ではないが、かといって神になって何をすればいいのかよく分からず、特にやる事が決まっていなかったのも事実だ。
だからこそ、胡散臭さ満開のウルスラの話を聞くことにしたわけだが。
俺が促すとウルスラはテーブルに両肘を付き、組んだ両手に顎を乗せるどこぞの司令官のようなスタイルで無駄な神妙感を出しつつ語り始めた。
「そうだな。事の始まりは俺が最強魔王として君臨していた所まで遡る。俺が——」
「ちょっと待て」
嫌な予感がした俺はウルスラの話に待ったをかけるとウルスラは機嫌を悪くしたのか俺を睨みつけてきた。
「なんだよ?」
「それ長くなるだろ? そういうのはいいから端折って話してくれ」
俺がそう要求すると、ウルスラは司令官スタイルを崩し、普通のトーンで言った。
「……最近の話って言うかさっきの話なんだが、俺の妹の領地が正体不明の敵に襲われてな。配下の者達が大勢殺されて、ピンチなんだ」
「今度はえらく端的に言ったな」
簡潔だが、流石に具体性皆無な話に俺は呆れながら言うと、ウルスラに変わってピオが説明を始めた。
「ウルスラ様の妹君の領地が今朝、正体不明の敵に襲われたのです。突然の強襲に配下の者達が応戦したらしいのですが、敵の攻勢が厳しく数時間の戦いの末、配下の多数が討ち死に。幸い敵はどこかに去って行ったのですが、もともと妹君は周りに敵が多く、現在とてもまずい状態に陥っているのです」
「まぁそういう感じだ」
ピオの説明にウルスラが同意する。
「なるほどな」
俺はピオの説明を聞いて酷い話もあるものだと思った。
ウルスラの妹ということは年端もいかない少女なのだろう。
配下の者が大勢いたというくらいだからそれなりの身分なのだろうが、一応元勇者としてはそのような非道は放ってはおけない——とまでは思わないが、まぁ助けてやってもいいとくらいには思う。
それにウルスラはともかく第6級神であるピオに恩を売っておいても損はないなというのもあるが。
「まぁ話次第じゃ助けてやらんでもないが、その前に一つ質問がある」
「なんだ?」
「最下級の最強魔王はともかくそこのお姉さん、ピオって言ったか? アンタはめちゃくちゃ強いよな? 敵が何かは分からないがアンタが行けばどうとでもなるんじゃないか?」
6級がどの程度凄いのか俺にはよく分からないが、目の前に立っているだけでよく分かる。
並の魔人など相手にならない程の魔力量を有しているのは明らかで下手したら魔王クラスの実力を持っているような気さえする。
俺がピオにそう言うと何も答えないピオの代わりにウルスラが答えた。
「ピオはダメなんだよ。もしピオが許可なく天界を抜け出せば、上級神共がすぐに飛んでくる。そうなったら流石の俺でも対処できない」
流石の俺っていうかピオがだよな?
(ていうかピオって女、なんなんだ? なぜ天界を抜け出しただけで上級神が飛んでくるんだ?)
上級神というくらいだから恐らく2級神とか3級神のことだろう。
ウルスラのいう事が嘘でなければ、ピオが天界を抜け出しただけでセレネアかそれに近いクラスの神が複数体飛んでくるという事になる。
6級神がどんなものかは知らないが、どう考えても尋常ではない対応である。
こう見えてかなり凶悪な性格の持ち主なのかもしくは天界においてもかなりの重要人物なのか。
ウルスラの言う事否定しない所を見ると恐らく本当の事なのだろう。
「アンタ何やらかしたんだ?」
俺が尋ねるとピオは表情を変化させることなく平然と言い切った。
「天魔大戦の時に当時の3級神を倒したことを未だに根に持たれているのでしょうね」
「天魔大戦?」
3級神を倒したという衝撃的なピオの話が嘘か本当かは分からないが、その以前の問題として俺は天魔大戦というワードが気になった。
そこまで俺は歴史に疎い方ではないが、聞いた事の無い話だったからだ。
すると、今度はウルスラとピオが驚いたように俺の事を見た。
「天魔大戦を知らない? お前、無知にも程があんだろ? 常識だろ?」
「そんなことを言われてもな」
知らないものは知らないし、俺はそこまで無知でもない。
するとなぜかウルスラは俺の顔をまじまじと見て、何かに気付いたのか俺に尋ねた。
「お前、まさか人間か……?」
「そうだが?」
逆に何に見えていたんだ? と俺が心の中で突っ込みを入れているとウルスラは驚きを隠せないのか目を見開きながら呟いた。
「マジかよ……。 通りで見たことのない種族だと思ってたぜ」
ピオさんの強さは魔王クラスらしいです。
天界って恐ろしい所ですね。