第3話 第1級神リーリー
日を跨いでしまいましたが第3話目です。
序章で登場したミラに並ぶ第1級神リーリーが初登場します。
当初はジジィの設定でしたが、とある事情から少しちょっと若めの設定に。
「早速だが使うか」
俺はセレネアから貰った天界の位置座標を記したという転移クリスタルを握り締める。
「今更だがやっぱ気持ち悪いな」
転移魔法の使おうとした時と同じく先程まで知らなかったはずの転移クリスタルの使用方法を意識しただけで元から知っていたかと錯覚するほどに自然に俺は理解できてしまった。
セレネアがロクに説明しなかったのも雑かつ無駄の多すぎるリーリーとやらのも本の事もなんとなく納得がいった気がする。
俺は早速転移クリスタルに魔力を込めて、転移魔法を行使することにした。
そして気づくと一瞬の内に俺は先程までいたはずの魔界ではない見知らぬ大地に立っていた。
「ここが天界?」
俺が空を見上げると空がいつもよりも近くにあると感じる。
というよりも本当に近いのだと次の瞬間、俺は確信する。
「人の気配を下から感じるな」
俺は元々魔力感知には自信がある方だったが、今はそれ以上になっている。
どうやら神となって魔力感知の性能も向上したようだ。
下から人々の魔力を感じるという事はここは人間界の上空なのだろう。
つまり本当に空は近くなっていたのだ。
「神々はいつも天から人を見守っているとはよく言ったもんだ」
ミラ教の聖典にある言葉だ。
特にミラ教の熱狂的信者でもない俺ですら知っている有名な一文。
それは比喩でもなんでもなく、本当の事を言っていたのだと俺はここにきて理解した。
「……さて、いくか」
俺はそう呟くと目の前に広がる天空都市へと歩き始めるのだった。
——エリオが天界へとやってきた頃。
第2級神セレネアは天界にある天空都市ラーミリアにある天界第一区画へとやってきていた。
とある重要人物に会いに来るために。
セレネアは第3級神以上の上級神しか入る事の許されない天界第一区画の中でも一際大きな屋敷の前で立ち留まると、2人いる門番の内の1人がセレネアに声をかけた。
「セレネア様、お待ちしておりました。我が主がお待ちです」
「うん、案内お願いするよ」
そんな簡単なやり取りだけすると、門番の一人がセレネアを屋敷の中へと招き入れる。
この門番はこの天界にいる者としての例外に漏れずに神だった。
この2人の門番の神階級は第4級。
並の魔人どころか力に自信がある上位魔人すらも圧倒する力を持つれっきとした神だが、それでもこの天界第一区画に入る事が許される第3級神以上の神ではなかった。
この門番がこの天界第一区画にいる事が許されているのはこの屋敷にいる主に仕え許可を得ているからこそである。
セレネアと門番は長い庭を抜けて、建物内に入り長い廊下を歩く。
普通にここまで歩いてきたセレネア達だったが、その道中には様々な結界魔法や妨害魔法が無数に組み込まれていた。
屋敷の外からの盗聴、透視などを試みたとしてもその全てを防ぐ強固な物だ。
仮に第1級神が本気でそれらの突破をしようとしても不可能と思わせるほどのものだった。
長い廊下を抜けてセレネアは一つの扉の前に到達すると、門番に言う。
「ありがと、ここまででいいよ」
「承知いたしました、では私はこれで」
セレネアの言葉に門番は素直に来た道を戻っていく。
門番がセレネアの視界から消えたとほぼ同時に部屋の中からセレネアを呼ぶ男の声が聞こえてきた。
「セレネアか、入ってくるのだ」
「はい」
セレネアは声の主に促されて重い扉を開けると部屋の奥には壮年の男が椅子に腰を掛けていた。
もちろん壮年とはいっても見た目だけの話だ。
実際は人間はもちろんこの世界に存在するどの魔人よりも長き時を生きるその男こそこの世界に2人しか存在しない第1級神リーリーだった。
リーリーはセレネアを部屋に招き入れるとすぐに問いかけた。
「それでリアの弟子とやらはどうだった?」
セレネアはエリオに神化覚醒の儀を施したことはまだリーリーには伝えてはいなかった。
それでもセレネアはリーリーの質問に対する驚きはない。
エリオと別れ、すぐにリーリーからの呼び出しがあった時に既にセレネアにはリーリーがその事を知っていると理解できたからである。
第一級神リーリーは全知全能ではないが、全知という点だけで見ればかなりそれに近い能力を有している事をセレネアは知っている。
すぐにセレネアはエリオの神化覚醒の結果と自身が思った率直な感想をリーリーへと伝える。
「第7級神になりました。恐らく力だけで言えば既に第3級神に匹敵するかと」
なんでもないようにそう答えたセレネアだが第3級神といえば、上位魔人はおろかこの世界に存在する魔王にすら匹敵する強さである。——もちろん魔王といえど6人いる魔王の強さには多少のばらつきがあるので比べる対象を選べばという条件は付くが。
「ほぉ、それは凄いな。もしかしたら第1級神にもなれるかもしれんな」
セレネアの報告にリーリーは思わずそんな言葉を口にする。
確かに神化覚醒を施したすぐの元人間がそこまでの強さなのが異常だという事はセレネアも同意する所だ。
だがそれでもセレネアはそんな事は無理だとこの身を持って知っていたのである。
「無理でしょう。第一級神になるには最高神に気に入られなければなれません。それこそミラのように」
セレネアがそう返すと、リーリーはどこか懐かしむように窓の外を見た。
「……ミラは残念だった。才能があるだけに実に惜しかった。まさか俺と同じ第1級神まで上り詰めるとはな」
セレネアにとってミラはかつて一緒に冒険した仲間だった。
だが、2人は神になった後、袂を分かつこととなったのである。
セレネアは今のこの世界のシステムに抗うためにリーリーの手を取り、ミラはこの世界のシステムの一部として人間界において最も拝められるミラ教の神となった。
「ミラの話は止しましょう。考えても無駄です」
「それもそうだな……で、彼はどうだ?」
セレネアとリーリーの味方となって今の世界のシステムに抗うか、それともミラのように今の世界のシステムの一部となるか。
「大丈夫だとは思います……ですか当分は様子を見た方がよいかと」
「そうか、リアのように先走らなければいいがな」
「……そうですね」
リーリーの口からリアの名前が出ましたね。
リアが何を思って神となったか。神になって何をしようとしたのか等が分かるのはもう少し先の事になります。
次回は勇者エリオがいなくなった人間界のお話です。
主人公の回はその次になります。