第2話 神化覚醒
お待ちかねかはあなたの心次第ですが、とにかく第2話です!
「勇者エリオ。——貴方は神になることを望みますか?」
目の前の少女、——第2級神セレネアは笑みを浮かべながら俺にそう問いかける。
セレネアを神だと信じる事の出来ない者だったなら目の前の只の少女を中二病認定していたことだろう。
そりゃそうだ。常識的に考えれば人が神になる事などできるわけがないのだから。
俺だって事前に師匠であるリアから聞いていなければ、恐らくセレネアを妄想癖の強いちょっとヤバい奴に認定し、関わるまいとダッシュで逃げ出していたかもしれない。
だが、俺はリアから話を聞いて知っていた。——人が神になる方法を。
リア曰く、この世界には討伐ポイントなるものが存在し、悪しき魔人や魔獣を倒すとポイントが少しずつ蓄積していき、ある一定水準を超えると人は神になる資格を得る。
普通の人間がこんな話を聞いても完全に笑って蹴っ飛ばすだろう。
現に俺も最初は師匠の冗談か何かだと思っていた。
師匠は冗談もあまり言う方ではないが、それ以上に嘘は絶対につかない。
だから真剣な眼差しで語り続けるリアの言葉を俺は信じることにした。
そしてこの事を俺に話したリアが数か月後、人間界から姿を消した時、俺は確信したのだ。
この事こそがリアの失踪の原因で同時にリアの行方を捜す手掛かりだと。
だから俺もリアの痕跡を追うため、討伐ポイントやらを荒稼ぎできるこの地へと単身乗り込んできたのだ。
「あぁ、頼む」
俺は悩むことなく答えるとセレネアは不思議そうな表情で見返してきた。
「驚かないんだね? まさかこの事を知っていたとか?」
セレネアが心を見透かすような金の瞳で俺の瞳を覗き込んでくる。
分かってはいたが、セレネアという少女が只の少女ではないという事を俺は本能的に理解させられ、そんな俺を見て、セレネアはクスクスと笑みを浮かべる。
「まぁいっか。でもいいの? 神になれば人間界は勇者を失うんだよ?」
セレネアの言う通り俺が神になってしまえば一時的とはいえ人間界の勇者が4人から3人になる。
勇者が1人欠けるということは人間界が魔界に対する切り札を一つ失うという事である。
実際魔王ベルガーがエルクラウン王国侵攻の準備を始めたのもリアが勇者ではなくなったことが原因だと俺は考えていた。
だが、今回に限っていえば全く問題はないだろう。
なぜなら。
「安心しろ。そもそも俺は勇者として何もしていない」
「ある意味凄い自信だね。まぁ君がそう言うなら私達は歓迎するよ」
俺の言葉にセレネアはクスッと笑ったかと思うと手を俺の頭へと伸ばす。
「じっとしててね、——女神セレネアが神の名の下にこの者を天の子として認める」
そう言ったセレネアの手が光を帯る。
そして、その光が俺の身体を巡り、全身に行き渡った所で光は何事もなかったように喪失した。
「はい、終わり。君は今日から第7級の神エリオだよ」
「結構簡単なんだな」
どうやら今の短い動作が神になる儀式のようなものだったらしい。
俺としては神になるには長ったらしい儀式やら試練やらが必要だと思っていたのでかなり拍子抜けだった。
さらに気になったことがもう一つ。
「7級神? それって偉いのか? アンタよりずいぶん下の階級みたいだが」
いまいちわからないが、セレネアが第2級神なので第7級神はその5階級下ということになるのだろう。
するとセレネアは俺の質問に少し考える様子を見せて答える。
「ん? そこそこじゃないかな? 普通は第11級神からスタートなんだけど魔力総力やらその他諸々で少し上の階級からスタートする事もあるんだよ」
かなりざっくりなセレネアの説明だが、俺はそういうものかと納得する。
どうせなら高位の神になった方がリア失踪の秘密に辿り着きやすそうだと思っていた俺にとってみればラッキーである。
「それにしても7級神スタートね」
「何かあるのか?」
意味深な言い方をしてきたので俺が理由を尋ねるとセレネアは何でもないように言う。
「ん、結構有望株だなと思って。私も7級神スタートだったんだよ。結構いいとこまで行くんじゃない?」
それを聞いて俺は目の前にいるセレネアも謎の討伐ポイント制度を使い神になったのだと知る。
どれだけいるかは分からないが、天界にいる神々はほとんどがこうして神になったのだろうか?
そんな中、俺はふと気になる事を思いついたのでついでにセレネアに聞いてみた。
「もしかしてミラも討伐ポイントやらで神になったのか?」
俺が言ったミラとは人間界で最も信仰されている宗教であるミラ教の神だ。
無信仰である俺からすれば会ったことすらないので存在自体結構疑わしかったのだが、神というものが本当に存在すると知った今、ミラも本当に存在しているものだと理解している。
俺がそう言うとなぜかセレネアは一瞬嫌な顔をしたが、すぐに笑顔に戻って俺に言った。
「ミラは私とほぼ同期だよ。ミラも私や君と同じように討伐ポイントを得て神になった。ちなみにだけどミラは第1級神だよ」
衝撃の新事実だ。
俺的には正直それほど興味はなかったのだが、ミラが元々は人間だったとミラ教の偉いさんにでも伝えたら腰を抜かすだろう。
それよりも「そんなことあるはずがない!」と激怒される可能性の方が高いだろうな。
まぁ二人して「ミラミラ」と呼び捨てにしている時点でブチ切れ事案モノなのは確実だ。
そんな事を思いつつ、更なる疑問が湧いてきた俺は情報収集ついでに更にセレネアに聞いてみる。
「ていうか1級神ってことは天界で一番偉い神なのか? ミラは」
1という数字が付くくらいだからそんな気がしたがセレネアは笑いながら否定する。
「はは、まさか。創世神様と最高神がいるから第1級神はその次だね。ちなみだけど第1級神はもう一人いるよ」
つまりミラは数いる神の中でも3,4番手に位置する神ということらしい。
流石は人間界で朝から晩まで祈り倒されている神なことだけはあると俺はどこか納得した。
まぁ俺はミラ教徒ではないからどうでもいいのだが。
そんなことよりも今はこれからの事を考えるべきだろう。
「それで俺はこれから何をすればいい?」
「んー、まぁ特にやる事は決まってないのだけれど、とりあえずこれを渡しておくね」
そう言ってセレネアはどこから取り出したのか俺に無色透明のクリスタル的な物を手渡してきた。
「なんだ? これは?」
「転移クリスタル。天界の位置を記録した物だよ。いくら神になったとはいえ、位置座標が分からなければ転移できないからね。あ、無くしても再発行効かないから絶対になくしちゃダメだよ」
冒険者プレートかよ。まぁアレは無くしても金さえあればいくらでも再発行できるけどな。信用は無くすが。
ていうか当然のように転移とか言ってるけど元勇者の俺でも、流石に転移魔法など使えるわけがない。
「いや、そもそも俺は転移魔法が使えないんだが」
俺がそう言うとセレネアは何言ってんの? みたいな顔で俺を見る。
「ん? 使えるようになっているよ。神なんだから当然でしょ? 他にもいくつか使えるようになっていると思うから適当に試してみればいいよ」
セレネアはそう言って、今度は辞書サイズの分厚めの本を取り出し俺に手渡してきた。
ホントどこから取り出しているか謎だ。
「……今度はなんだ?」
「1級神になるための初心者神入門だよ。神になった際に使えるようになった魔法の説明から初心者の神としての心得。あとは神階級の上げ方とかが丁寧に書かれているよ。著者はなんとあのリーリー様」
「リーリー?」
知らない名に俺は首をかしげると、これまで笑顔しか見せていなかったセレネアの表情が初めて驚きへと変わる。
「えっ、君、リーリー様を知らないの? 一級神だよ?」
常識ですよ? みたいな言い方をしてくるが俺は全く聞いた事がない。
というかそもそも人間界で主に知られている神といえばミラくらいのものだ。
恐らく人間界ではミラこそが唯一神だと思っている者も少なくはないだろう。
「いや、知らないな。ていうか人間界じゃミラ以外ほとんど知名度なんて無いにも等しいぞ」
「え? そうなの?」
「うん。そうだぞ」
俺の言葉を聞いたセレネアは更に驚いた表情をする。
どうやらセレネアはあまり人間界の事には詳しくない系の神のようだ。
「……だからあいつあんなに出世早いのか?」
セレネアはなにやら一人でブツブツ呟いた後、俺を見た。
「あいつ、ほぼ同期って言ったけどちょっとだけ後輩なんだよね。人間界じゃ救世の女神とかなんとか言われてるらしいけど性格とかマジキツイから君も気を付けた方がいいよ。うん、ホント」
どうやら後輩が自分より出世したことによる嫉妬からのネガティブキャンペーンのつもりのようだが、俺に言った所で今更人間界にはほぼ影響はないと思われる。
まぁ別に俺には関係ないから適当に頷くが。
「分かった。気を付けよう」
「そうするといいよ。まぁ一級神と会う機会なんてそうないと思うけどね。あっ、私そろそろ天界に帰るね。渡すもんは渡したしさ」
「あぁ、ありがとう、セレネア」
そんな感じでセレネアはやる事を済ませるとさっさと天界へと帰っていった。
神と言うくらいだから偉そうなやつが来るかと思っていたのだが、思ったより気安い感じの神だった。
「さて」
俺は早速セレネアからもらった無駄に分厚い『1級神になるための初心者神入門』のページを開く。
最初のページから何ページかに渡って、神としての心得的な事が書いてあったが、どうでもいいのでとりあえずそこらへんのページはすっ飛ばし、目次のページを開く。
『宴会で上級神を笑わす10個のコツ』や『上級神に嫌われる下級神の言葉遣い』などめちゃくちゃどうでもいい項目がずらーっと並んでる事にイラっとしつつも俺は必要になりそうな項目を探す。
「本当に無駄なページが多いな。資源の無駄遣いじゃないか」
本当に必要な情報だけ纏めれば小冊子で済むのではないかと思うほどの氾濫しまくった情報の中から俺は『神化覚醒時に使用可能になる魔法一覧』の項目をなんとか見つけ出した。
☆天界都市への転移(初回時)……位置情報転移クリスタルに魔力を流し込みながら転移魔法を行使する。
「えっ、これだけ?」
何かの間違いかと思い、俺は前後の文章を確認するがまったく関係のない魔法の事が書かれてあり、本当にこれだけのようだった。
どう考えても説明不足だ。
「えっ? 本当にこれだけか? だからそもそも転移魔法の使い方が分からない——!」
とそう思った所で俺は違和感に気付いた。
「……分かるな」
無意識だと浮かんでこなかった転移魔法の使い方が意識した途端、俺の頭の中にスッと浮かんで来た。
どういう理屈かは全く分からないが、恐らく神化覚醒の時に無意識のうちに情報として埋め込まれたのかもしれない。
使ったことがないはずなのに、使い慣れた魔法のように自然と行使できることが本能的に分かる。
普通に考えたらめちゃくちゃ怖い現象だが、気にしたら負けだと俺は考えないことにした。
徐々にキャラやこの世界の設定が増えていきます。
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