序章 魔王城で
新作始めました。
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この世界には6体の魔王がいる。
それぞれが人間とは隔絶した力を持ち、人間界の東に広がる広大な魔界を6つに分け統治を行っていた。
この城の主であるベルガーもまた魔界に君臨する6人の魔王の1人だった。
例に漏れず絶大な力を持つ魔王ベルガーはここ近年で最も人間界に侵攻した魔王と知られ、現在の人間界では最も恐れられる魔王となっていた。
そんな存在であるはずのベルガーが自身の城の一室で側近であり四天王の一人でもある魔人キンベルと共に膝を付いていた。
魔界の中でも屈指の実力を持つ魔王ベルガーと魔人キンベルの視線の先には存在すら疑わしく思えてくるほどの超常の美貌を持った金髪の少女が不機嫌そうに立っている。
そして一言。少女は2体の魔人に吐き捨てた。
「貴方には失望したわ」
「……申し訳ございません」
ベルガーは膝を付いたまま謝罪するが、少女は更に冷たい視線をベルガーへと向けた。
「魔王のくせに弁解の言葉も出てこないの? あのお方の前で私に恥をかかせておきながら」
その瞬間、神の如き途轍もない魔力が少女を中心に渦巻いた。
少女が発した魔力はこの城の主である魔王ベルガーをも遥かに凌ぎ、ベルガーはおろかこの地に住まう全ての魔人で挑んだとしても決して敵わないと悟るには十分過ぎるほどのものだった。
「……申し訳ありません」
ベルガーはそう謝罪の言葉を重ねるしかなかった。
少女、そして少女の背後にいる巨大な存在と敵対して待っているのは破滅しかない事は既に1000年前の戦いで理解していたのである。
ただ少女としてもただ謝罪の言葉を聞くためにわざわざベルガーの元までやってきたわけではない。
確かに怒りはあるが恥をかいたことを除けば今回の失敗は少女にとってそこまで痛手ではないのだから。
「それで今回の失敗の原因は?」
ベルガーに対する失望感を全面に出しつつ、少女は再度ベルガーを問いただす。
ベルガーはちょうど1か月ほど前、人間界侵攻を実行した。
目的は人間界にいる勇者達を倒し、人間界に甚大な大打撃を与える事。
だが決して人間界を支配してはならない。
絶望的な恐怖だけを与え、適当な所で引き揚げろ。
それが少女が今回の人間界侵攻作戦でベルガーが少女から与えられた命令だった。
というのにベルガー率いる魔王軍は勇者の一人も倒せなかった上に人間界の1都市にすら攻め上がれず、魔界と人間界の境界付近で退却を余儀なくされてしまったのである。
ここ近年ではなかった事態であり、今の人間界の戦力から考えてもそれはありえない事態だった。
すると、少女の予想に反してベルガーが逆に少女に問い返す。
「それはミラ様、貴方の方がよくご存じなのでは?」
「……それじゃあ本当にあなた達は勇者クレイに敗れたという訳?」
人間界おいて歴代最強の勇者と噂され、今回の魔王ベルガーによる人間界侵攻を防ぎ切った最大の功労者とされている人間界の英雄。——それが勇者クレイだ。
ミラが人間界に持つ情報網から得た情報を信じるとするのならそれが答えなのだろう。
更にそれを肯定するようにベルガーがミラの質問に答える。
「実際に戦って敗れたというわけではありません。ですが、あれ以上戦いを続ければこちらにも多大な損害が出ると判断し、退却を決断したのです」
ベルガーの話は一見話は通っているように思える。
確かに勇者クレイはあの女を除けば歴代最強の勇者と言っても過言ではないほどに強い事をミラは知っていた。
だが、それでもミラの疑念は晴れない。
(いくら勇者クレイが強いと言っても今の人間界の戦力で魔王の軍勢の進行を防ぎ切る事が出来るものかしら?)
この疑問があったからこそミラはベルガーを問いただす為にわざわざ魔界へと赴いてきたのだ。
確かにミラも100%完璧に人間界侵攻が上手くいくと思っていたわけではない。
だがそれでも4人いる勇者の1人すら倒せず、人間界側の死者が100人にも満たないで終わるなど考えてもいなかった。
これでは人間界に甚大な打撃を与え、恐怖を与える所か逆に勇気を与えてしまったくらいだろう。
現に人間界は魔王ベルガーへの反撃としてベルガー領へ逆侵攻をかけてくるほどの余力を見せてきた。
流石にそんなものが成功するはずなどなく勇者クレイを含めた全ての人間は数日で人間界へと帰っていったのだが。
確かに勇者クレイはこちらの想定以上に強かったのだろう。
それでもミラは強大な魔王軍を率いて人間界に大した打撃を与えられなかったベルガーへの失望を感じずにはいられなかった。
「そう。勇者クレイはそれほど強かったのね。残念だけど次回からは別の魔王に頼むことにするわ。貴方の役目はここで終わり。一生惨めに魔王でもやってればいいわ。さようなら」
そう捨て台詞を吐いたミラは冷たい視線をベルガーへと向けた次の瞬間、一瞬の内に姿を消したのだった。
ミラが消えて数秒後、ベルガーとキンメルはゆっくりと立ち上がる。
ベルガーが横にいるキンメルを見るとプルプルと震え始めた。
少ししてプルプルが収まったかと思うとキンメルが大きな声で——。
「何が一生惨めに魔王でもやってればいいわ。——じゃボケェェェー! こっちこそお前に二度と会わずに済んでせいせいするわ! 二度とベルガー様ん敷地を跨ぐんじゃねぇぞ! ぺっぺぇ!」
そんなことを喚き散らしながらキンメルはどこに持っていたのか部屋中に塩を撒き散らし始めた。
そんなキンメルをベルガーはただ無言で見つめているとそれに気づいたキンメルがベルガーに尋ねた。
「あ、ベルガー様もやりますか? まだありますよ?」
キンメルはそう言いながら懐に抱えていた紙製の塩袋を差し出すがそんなキンメルにベルガーは冷たい視線を向ける。
「どうでもいいが、ちゃんと片づけておけよ」
ベルガーはそう言って、大量の塩が撒き散らされた部屋を出る。
部屋の中からは「えー、ベルガー様もやりましょうよぉー」と謎の叫び声が聞こえた気がするが、ベルガーはそんな声を無視して自室へと向かう。
その道中ベルガーはミラが言っていた事を考えていた。
(他の魔王か。果たして他の魔王はあの男に太刀打ちできるかな?)
ベルガーは戦場で見たあの男の戦いぶりを思い出すと、小さな笑みを抑える事ができなかった。
次回が第1話です!
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