第8話 宿探し
冒険者登録と情報収集を終えた俺は受付嬢に礼を言って冒険者協会を後にした。
すぐに依頼に取り掛かってもよかったのだが、別にそんなに急がないといけないというわけでもない。
まだ金銭的余裕もあるし、今日の所は宿屋を探す事にした。
別に俺のド田舎にあるあの家に帰ってもよかったのだが、それだとまた来るのに時間がかかってしまう。
というのもあの家から直接この街に転移した場合、転移した瞬間を誰かに見られる可能性がある。
家の2階からのんびり外を眺めていた奥様にたまたま転移の瞬間を見られただけで一発アウトなのだ。
そう言う理由も今回バリエスタまでやってくるのにわざわざ町の外に転移して歩いてバリエスタまでやってきたのだった。
それに俺がこれから稼ぐ金額から見れば数日間の宿代など屁のようなものなのでそこをわざわざケチる必要性もない。
(とはいえそこまで豪華な宿である必要もないし、あんまりボロボロすぎてもこれからの労働意欲が削がれるな)
ただでさえ俺は働きたくはないのだ。
その上、労働の後の休む場所があばら屋みたいな所じゃ休まるものも休まらない。
そんな事を考えながら俺は町中を適当に歩いていると俺はちょうどいい感じの宿屋を発見した。
新しいという感じではないが特に古めかしさも感じない2階建て。
建物の大きさからして部屋の広さもそこそこありそうな感じもする。
(ここでいいか。E級冒険者が泊まるにしてはちょっとイイ感じ過ぎる気もするが非常識という程でもない)
そして俺は『宿屋四つ葉』へと入っていった。
中に入ると、外観から予想したくらいのちょうどいい感じの宿だった。
それでも清掃がきっちりと行き届いているのか、それなりに古いはずなのにかなり綺麗に見えるのが俺としては好印象である。
「いらっしゃい! お泊りで?」
俺に気付いた30代くらいの店主が俺にそう尋ねてきた。
「えぇ、とりあえず1泊お願いします」
流石に1日で1発当てられるとは思わないが念のため1日だけ部屋を取る事にした。
下手に1週間も予約を入れて3日でニート資金を稼げてしまったら勿体ないからだ。
まぁまた偶然四天王がやって来てくれる可能性も低いので多分3日では帰れないだろうけどな。
憂鬱である。
出来る限り短期間で荒稼ぎしてまたあのド田舎の我が家でニート生活を満喫したいものだ。
「それにしてもお客さん、運が良かったな。1週間前だったら新規の客なんてどこもいっぱいで泊まれなかったぜ。あっ、1泊3銅貨な」
例の勇者誕生祭か。
結構この街は宿屋が多かったはずなんだが、それでもどこも一杯になるとは余程観光客が集まるらしい。
勇者を辞退したというのに勝手に人の名前を使って荒稼ぎするとはひどい商売である。
利益の10%くらい寄こせと言いたいものだ。
そんな事を思いつつ俺は店主に3銅貨を手渡す。
「毎度あり。203号室な。ところでアンタ見ない顔だが冒険者かい?」
「えぇ、さっき冒険者登録を済ませたばかりのE級冒険者ですけど」
俺の格好を見て冒険者と判断した店主に俺は正直にそう答える。
正確には昔E級冒険者だったのに勝手に勇者にされた現E級冒険者だが、書類上も気持ち上も俺はE級冒険者なので嘘ではない。
「初心者冒険者なのか! これからも贔屓に頼むぜ! あぁ、それと初心者冒険者なら聖鎧勇者様を見に行ったらどうだ? この時期はいつもバリエスタに滞在しているからな。多分まだいるんじゃねーか?」
(この街にいるのかよ!)
例によって勇者誕生祭が関係しているのだろう。
単に祭りを楽しみに来たのか本気で俺の事を探しに来ているのかは知らないが、後者だとするなら100年前の勇者の事などさっさと諦めて欲しい。
なんにしても絶対に会いたくない相手だ。
門番たちや受付嬢の反応を見る限り、直接見られても気づかれない可能性も十分あるが、それも絶対ではない。
なんせ100年前の死んでいるはずの勇者に1万金貨もの懸賞金をかけ続けているような執念深い奴なのだからな。
次回ニートが男気を見せます