第3話 ニート、一発当てにいく
「はっはっは、まさかこんなに長生きするとは予定外だったよ」
そう、ニート生活を始めた当初はこれで余裕でニート生活に打ち込めると期待を膨らませていた俺だったが、甘かった。
なぜか100年経っても俺の寿命は尽きることなく、リティスリティアと出会ったあの時の若さを保ったままだったのである。
「誰が永遠の命をくれと言ったよ」
俺はただ働きたくないだけだった。
永遠の命などどこぞの悪の組織の親玉かどこぞの悪い王様が考えそうな願いを要求した覚えなどない。
俺の願いはニートとして静かに余生を送る事だったのだからな。
「とはいえ金がないのは不味いな。村に食料調達にすらいけないではないか」
絶対に働きたくない俺だが、生きていくにはやはり金が要る。
これまでは莫大な報奨金で食いつないできたが、流石にそろそろ限界が見えてきたのでどうしても働く必要が出てきた。
だが、俺に普通に働くという選択肢はない。
普通に働いていては食うだけでも継続的に働き続けなければならないのだから。
そう考えればあんな頭のアレな上司がいた世界も意外と悪くはなかったのかもしれない。
年金というニート資金永久支給制度があったのだからな。
だがそんなものは所詮ない物ねだりである。
「仕方ない。やっぱり冒険者になるか。また一発当てるしかないな」
四天王とは言わないまでも強大な魔人か魔物を倒せばかなりの金になる。
そうすれば数十年くらいはまたニート生活を続ける事は可能になるはずだ。
「冒険者プレートは……って別にいいか。どうせE級のやつだしな」
冒険者をするには冒険者としての資格の証明でもある冒険者プレートが必要になるのだが、よくよく考えてみれば100年前の四天王討伐の際は昇格する前にバックレたので、冒険者プレートはE級のままだ。
冒険者の階級にはS~E級までありS級が最高でE級が一番下のランクである。
ちなみに俺が100年前に昇格の打診を受けた勇者とはS級冒険者の事であり、その名を持つ者だけが魔界にいる魔王を討つことができるとされているらしい。
まぁそんなことはどうでもいい。
とにかく俺としては報奨金か依頼報酬さえもらえればそれでいいのだから。
俺は机に広げていた硬貨を全て革袋に詰め、壁に掛けてあった愛剣を持つと一つの魔法を行使する。
「転移門!」
俺の発声と共に部屋の真ん中には黒い渦のようなものが現れた。
俺のニート専用魔法の1つである『転移門』。
文字通りその中に入った者を任意の場所に転移させることができるとても便利な魔法でこれさえあればコンビニが近くにある駅近物件に住まずとも買い物や移動がお手軽にできるニートにとっては夢のような魔法だ。
まぁ駅もコンビニもこの世界には存在しないのだが、日々の買い出しやたまにどこかに出かけるのには重宝させてもらっている。
さてここで問題となるのが転移する先の町だが、冒険者協会の支部がある町のどれかがその候補となる。
かといってただ冒険者協会があればいいというわけでもない。
俺はひと山当てにいっているのであってゴブリンをチマチマ狩るためにわざわざ仕事をしに行くわけではないのだ。
流石に四天王討伐の依頼があるような冒険者協会はないだろうが、最低でもかなり高ランクの依頼が豊富にある町に行かなければならないのである。
「ふふ、だがそんなことで慌てる俺ではない。既に行く場所は決めてある」
誰に言ったかは分からないが、俺はゆっくりと転移門の中に入り、町に向かう事にした。
そう、俺が3日間もの冒険者生活を過ごし、魔王軍四天王の一人を倒した町バリエスタへと。