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第10話 流石に無理

「そこの少女はいくらかと聞いたんだ? 俺が買ってやる」



そう言い放った俺を男は値踏みするような視線を送ったかと思うと突然笑い声を上げた。



「ふははは! お前がこいつを買うって!? 見た所、冒険者のようだが金はあるのか?」



恐らく俺を低ランクの冒険者だと思っているのか金などないと思い込んでいるようだ。


確かに俺は最下層のE級冒険者だし、四天王討伐の報奨金もかなり使ってしまっていた。


それでも銅貨銀貨も全て含めると10金貨以上はある。


男でもなければ働き盛りの年齢でもない上にかなり弱っていそうなこの少女であれば恐らく10金貨もあれば足りるというのが俺の予想だった。



(飯代と宿代くらいは残ればいいが……。まぁ最悪今日すぐ終わりそうな簡単な任務をやればいいか。小さな依頼なんか受ける気はなかったのにな)



俺の目的は一発当てて、すぐに優雅なニートとして返り咲く事だった。


だから、小さな依頼など受けるつもりはまったくなかった。


だが、飯代もなくなるのなら流石にすぐに終わりそうな小さな依頼も受けなくてはならなくなるだろう。


そんなことを考えていた俺に男が言い放った言葉はあまりにも予想を超えるものだった。



「100金貨だ。それだけ払えるというのならお前に譲ってやらんこともない」



にやりと笑った男が口にした金額ふざけているとしか言いようのないだった。


俺の思っていた実に10倍近い金額だ。


俺に期待の表情を向けている少女には悪いがどう考えてもこのみすぼらしい少女にそこまでの額を払う者はいないだろう。



「おいおい、100金貨もするわけがないだろう」



俺がそう男に言い返すと男は更に笑い声を上げた。



「ふははは、そうだろうな! 確かにこの女にそれほどの価値があるとは思わんよな。だがこいつはレア物なんだ。半分魔人の血が入ってる。普通のこの年齢の女よりも遥かに力も強いし、魔法まで使える。とても便利な道具なんだ」



そんな男の言葉を肯定するかのように少女は男の言葉に何も返さず、俺と男の会話をただ見守っているだけだった。


当然の話だが人間と敵対している魔人は基本的に魔界に住んでいる。


だが別に魔界と人間界は明確に境界線が引かれているわけでもなければ互いの侵入を防ぐ壁が立っているわけでもない。


俺が四天王を倒した時のような大規模侵攻となれば人間の包囲網破る必要があるが、極論人間に見つかりさえしなければ人間界の侵入することは可能なのだ。


そうやってうまく侵入した魔人が人と子供を成す事がごくごく稀だがあるらしい。


そうして半分魔人の血を受け継いだ子供は半魔人と呼ばれる事になる。



(これが半魔人か。見た目だけじゃ全く区別がつかないな)



ごく稀に人間とほとんど区別がつかない魔人も存在するが基本的には角が生えていたり、肌の色が極端に白かったり黒かったりで区別が付きやすい事がほとんどだ。


だが、半魔人は魔人の血が半分入っているがもちろん人間の血も半分混じっている。


確率的にどうなのかは俺には分からないが、この少女は母親である人間の特性が色濃く出たのか俺には言わなければ只の人間のようにしか見えなかった。



「そうか、なるほど。すまないが10金貨ほどにまけてはくれないか? 金がないんだ」



「なるほどじゃねーよ。お前は馬鹿か? どこの誰が見も知らない他人に自分の奴隷を90%オフで譲ったりするんだ?」



俺の先程までの威勢はどこ行った?発言に男は呆れ半分怒り半分の表情で俺を睨みつける。


確かにお前の言う事にも一理ある。


だが、金がない物はどうしようもない。


普通こういう場合は後日に金をかき集めるか夜中に男の家に忍び込んで助け出すなどかしてどうやってでも少女を開放するように動くのが異世界転生モノの主人公としては正しい行動なのだろう。


実際問題、そのどちらの方法も俺がやろうと思えばやれないことはない。


力のない物語の主人公の前に立ちはだかった強大な敵でもなければ、達成困難な目標という程の事もないのだ。


だが、普通に考えれば100金貨はかなりの大金である。


稼ごうと思えばそれなりの労力を要するし、それだけの金を使えば俺のニート資金調達はかなり後退することは間違いない。


もちろんこの男の家に忍び込んで誘拐するのは普通に犯罪だし、露見すればかなり面倒な事になるのは間違いない上、そもそもの話だが俺のニートとしてのポリシーがそれを許さない。




まぁ色々理由をつけてみたが俺の結論はこうだ。


手持ちで払える10金貨くらいなら無茶な労働を強いられている少女のために使ってもよかったが、流石に他人に100金貨は無理。


というもの。



えっ? お前は本当に異世界転生モノの主人公か! って?


じゃあ逆に聞くが、世界中で病気や貧困に苦しんでいる少年少女が山のようにいる中、100万円の貯金しかないのに目の前の他人の少女が「1000万円あれば手術ができるんです? お金を出してくれませんか?」って言ってきたらアナタはその手術費用をポンっと出せますか?


絶対出さないね。そんなやつは地球上にも異世界にも存在しない。


逆に「100万なら出せるんですけど……」と手を上げた俺を褒めて欲しいくらいだ。




そもそも俺が仮に真っ当な異世界転生モノの主人公だとするなら100年前に魔王軍四天王を倒した後、勇者になって魔王を倒す旅にでも出発していたさ。


というわけで俺の男に言うべきセリフは決まった。



「確かに見も知らない他人に90%オフはないな。アンタの言ったことは正しいよ。だが、俺も金はない。だからこの話はなかったってことで。じゃっ」



俺がそう言うと男は満足そうに笑い、それと対照的に横で膝をついていた聞いていた少女の俺に対する視線は希望の眼差しから冷たいものへと変わっていた。



(ちょっと、そんな目で見ないで! 昔を思い出すから!)



俺がそんな罪悪感に襲われながらもその場を去ろうとしたその時だった。



「——って、おいっ! 助けないのか!?」



そんな男らしき大きな声がした方を俺が振り返ると、それは見事な銀色のフルプレートアーマーを着た男が立っていた。


次回あの人が出ます

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