表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マトリョーシカ人間

マトリョーシカ人間

作者: ふるなる

できれば呼んで欲しいです。特に、異能バトル好きの方には呼んで欲しいです。斬新なバトルが繰り広げられます。

また、主要人物の半分以上が同一人物という常識破りの斬新なバトルストーリーです。どうぞ気軽にお読み下さい。

 マトリョーシカ────


 それはロシアの民芸品の人形。その人形の中にまた人形が入っている。さらにその人形の中に人形が入っていて、その繰り返し。基本的にはこの何重程度の多重入れ子構造となっている。


 そして俺は「マトリョーシカ人間」────


 死ぬと無限に増え続けるという能力の一つをマトリョーシカになぞり、俺は"マトリョーシカ人間"と呼ばれる。無限に増え続ける俺の身体。マトリョーシカ人形に終わりがあるように俺の身体にも終わりがある。出尽くした先には"悪魔"が現れる。



 この世界では人間の中で二つの種類に分けられる。

 一つは人。猿から派生した動物であり、地球上を同族で占め、極度に発展した科学技術を駆使された中で暮らしている。人は国という巨大な集団に所属し、社会秩序の中で生きていく。日々技術を発展させさらなる幸せを求めて生きている。

 もう一つがマトリョーシカ人間。人と何ら変わりはない。だが、それは全て佐藤太一という人の同個体(クローン)である。約一億人越えの日本の人口の中でその半分をこのマトリョーシカ人間が占めている。そんなマトリョーシカ人間には人が到底持つことのできない不思議な特徴を持つ。


 マトリョーシカ人間の主な特徴は三種類。

 一、不老・治癒。歳を重ねて老化することはない。また、傷跡ができても死に至らなければすぐに傷跡を皮膚が覆う。

 一、不死・増加。焼死や異次元の穴に食われるなど例外はあるが、マトリョーシカ人間は死んだ瞬間に蘇るため死ぬことはない。さらに、死んで蘇る瞬間にクローンを一人生み出す。

 一、能力:魔の手。マトリョーシカ人間のへその緒を自身の好きなタイミングで異次元の穴に変え、穴を広げることができる。その穴からは魔の手が飛び出す。魔の手に捕まれ異次元の穴に引っ込まれた時、食われたマトリョーシカ人間は死し、喰らったマトリョーシカ人間の魔の手はより強(じん)となる。


 使い方次第では社会に大きな効能を生み出す。例えば、少子高齢化によって人手の足りない力仕事があるとしよう。マトリョーシカ人間の魔の手を使えば軽々と重い材料などを持ち上げられる。何人ものクローンを喰らった強いマトリョーシカ人間となってくるとクレーン車の代わりにもなり、費用を浮かすこともできる。

 ただし、悪用すれば社会が転覆しかねない。既にこの世界ではマトリョーシカ人間とそれに従う者のみが暮らす社会を画策している連中がいる。不老不死や能力は軍隊の何倍かの戦力となり、国家を落とすことも不可能ではない。


 人々との共存共栄を(うた)うジーズ(GZ)軍とマトリョーシカ人間中心の社会を目指すエルキュ(LQ)軍の対立。


 この物語はエルキュ軍の侵略から人々を守り、人と共存するために戦うジーズ軍の一人ルーク(本名:佐藤太一)の物語である。





「またサポートするの上手くなったな」

「ありがとう。モカ、すっごい努力したんだ!」

「頼もしいぜ。ほんとに」


 東京にでっかくそびえるジーズ軍の拠点。そこの建物内の廊下を話しながら話す二人の姿。

 ワックスで固められた短い黒髪。右耳に付けられたピアスと指輪を通したネックレス。そして、佐藤太一の輪郭。


 マトリョーシカ人間はクローンであり普通なら区別がつかない。そのため、シーズ軍では区別するために見た目を少しずつ変えている。特に、髪とアクセサリーで見分けられる。髪の色や形。ピアスやメガネ。タトゥー、カラーコンタクト。様々な違いによって違いを生んでいる。そして、それぞれの違いを持つマトリョーシカ人間の一人一人には二つ名を持つ。本名は佐藤太一だが、その名は捨てたも当然に扱っているために二つ名が本名と言っても変わらないのではないかと感じさせる。


 焦点の当てられているマトリョーシカ人間の二つ名はルーク。そして、ルークと話す少女藤城(ふじき)萌佳(もか)

 二人は仲良く廊下を歩いていく。そんな中……



 ウーウーウー



 ポケットの中で急に鳴り出す緊急音。呼び出しを示す。エルキュ軍が人々に危害を与えたのだろう。


「せっかく今日は事務仕事だけで終わると思ったんだけどな。」

「仕方ないよ!」

「俺は司令部に行って出陣陣形を確認してくる。モカはドローン操作室に向かって戦闘態勢に入ってくれ。」

「うん」


 エルキュ軍が一般人に被害を及ぼした。彼らの攻撃から一般人を守り、エルキュ軍を撃退するのが役目。


 ルークはジーズ軍の十三番兵隊長。一番兵が一番強く二番、三番になっていく程弱くなる。敵の強さに見合ったチームに出動要請が出る。ルークはこれを見ても強いとは言えない。つまり、今回の敵はそんなに強くないはずである。


 ルークは仲間の近距離担当(ソルジャー)ミカ、遠距離担当(ガンマー)トモチカ、そして補助担当(サポーター)モカの飛ばすドローンとともに司令を受けた場所へと向かった。



 折れた標識。

 倒壊した家々。

 荒れた道。


 痛ましい被害が目に映る。


 そして、目の前で破壊を楽しむマトリョーシカ人間。


『北東少し先に一人、その近くの家の中に二人いる。そこから先に進むと四人が束になってるわ。全員マトリョーシカ人間。それと、モカ達と同じ時刻に第一兵が動いてるから、彼らは第一兵の当たってる敵の一派かも知れない。多分、彼らは"(おとり)"よ。』


 無線から聞こえるモカの声。

 モカはドローンで見た映像を頼りに無線を通じて状況を伝えてくれた。



 エルキュ軍の狙いは刑務所だと予測されている。刑務所に入っている人は国家に反乱する心を持ってる者が多い。光を浴びることのできないよりか新たな国家の中で光を浴びようと考える。そんな彼らはエルキュ軍には都合が良い。敵の敵は味方。彼らは味方を増やすために刑務所を(おそ)うのだ。

 脱獄者や反社会的・反国家的思想を持つ者、マトリョーシカ人間第一主義が相まって、そんな考えに揺れ動かされた(やから)が単独で暴れて人々に危険を及ぼす場合がある。その場合は仕事が楽だ。ただ単に暴れている奴など到底強くない。

 が、エルキュ軍がチームとして動かして人々に危険を及ぼす場合は危険だ。最低限の実力を持つ者が送り出され作戦の元に動く。相手がチンピラか組織かの違い。もちろん、組織の方が圧倒的に強い。


 そう───当たる敵が囮だからと言って油断・・・・・・・・・・・・できない(・・・・)




 ついに敵の近くに来た。

 目の前で破壊行動を楽しむクローン。魔の手を振り回して家々を壊す。

 高機能スノボーのワンウィールから降りる。タイヤのついたそれを置き去りにして走っていく。


 敵はもう目と鼻の先だ。


 魔の手を腕に(から)ませる。魔の手の黒色の腕と肌色の腕が重なる。


 魔の手の威力をそのままに。強い火力でうち放つパンチ。


 目的のマトリョーシカ人間はなにか来るのを感じ取り振り返る。だが、時すでに遅し。もうこの攻撃は避けれない。

 強烈な一打が(ほお)を潰し、バランスを崩し、地面に叩き落とした。やられたマトリョーシカ人間は身体を回転させて距離を置く。


「すまねぇな。不意打ちしてしまって。これ以上破壊されるのは勘弁して欲しくてさ。」

「ちっ、ジーズ軍か。面倒くせぇ。」

「まっ、これは軽いあいさつだ。どうせ、この攻撃は一時的にしか効かない。」


 砕けた頬の骨が治っていく。瓦礫(がれき)で擦り切れた傷ももう消えている。


「何というかお前、回復が普通よりも早くねぇか?」

「ああ、俺は回復が人並み以上に早いのが売りさ。」


 彼はお腹の次元の穴から魔の手を繰り出した。


「俺の魔の手はよく切れる(・・・)。」


 ムチのようにしなる魔の手。その手が弧を描くように進んでいく。俺は間一髪避けることに成功した。魔の手の当たったコンクリートの電柱は簡単に二つに割かれて倒れた。


「ちっ、被害を増やしてくれたな。こりゃあ、予備発電機のない家は停電してしまうぞ。」

「これは……あいさつ代わりだよ。」

「これがあいさつなら、もう町はメチャクチャだな。」


 再び敵の魔の手がしたっていく。また、鋭い魔の手を振り回してくるに違いない。そうなれば、また被害が及ぶ。

 その前に決着をつける。敵は───雑魚だ。


「トモチカ!!」

「あいよ。」


 屋根で身を潜めていたトモチカが銃を放つ。銃弾は敵を貫通した。


「そんなもん、マトリョーシカ人間には効かねぇよ。知ってるだろ。俺らは不死身だっていうことも、こんな銃弾じゃ俺を殺せねぇことも。」

「知ってるよ。だから、普通の銃じゃない(・・・・・・・・)んだ。」



「────!!?」



 魔の手がピタリと動かなくなる。力を失った魔の手は地面へと落下。さらに、徐々に敵の懐へと戻っていく。まるで、掃除機の引き伸ばされたコンセントを本体に収納するかのように。


「何だ。身体が言うことを効かねぇ。動かねぇ。」


「痺れるだろ? そりゃあ、麻酔銃(ますいじゅう)だからじゃねぇの?」


 俺は魔の手を繰り出した。魔の手が敵の身体を掴む。


「卑怯だぞ!!」

「これは喧嘩(アソビ)じゃないんだ。殺し合いなんかに卑怯か何かがあるもんか。お互いに生きるか死ぬかの争い。卑怯かなんてもんは言ってられねぇんだ。」


 敵をつかんだ魔の手が次元の穴に戻っていく。魔の手が次元の穴へと消えると敵も次元の穴に取り込まれ消えてしまった。


(うら)むならこの争いの状況を恨め。」



 ふと襲う取り込んだ敵の記憶。何度も見た光景。マトリョーシカ人間が安易な労働力として休憩なし、食事なし、休みなしで重労働をさせられている記憶。

 他のマトリョーシカ人間には持ってない俺だけの個性。取り込んだマトリョーシカ人間の記憶が走馬灯のようによみがえる。


「うっ───またこの記憶か。」

「大丈夫か。また敵の記憶か。」

「ああ。」


 ミカが優しく寄り添ってくれた。

 俺は走馬灯を見ると頭が一時的に痛くなる時がある。

 そんな俺を優しく寄り添ってくれる仲間がいる。俺はいつも感謝している。記憶がある時からの付き合いは約十年とそこそこ。俺の頼れる仲間だ。



「油断してると命取りだぜー!」


 家の中に隠れていたマトリョーシカ人間が二人俺らを切りつけようと刀で切りかかる。人が苦しんでいる時に狙った不意打ちだ。



 そう来ることは予想してたから、何とも思わないが……



「逆に油断してるのはどっちだ!?」


 右腕に装備した魔の手が敵の一人を真横に飛ばす。


「残念。油断は命取りになるわよ。」


 ククリ刀が武器を持つ腕を切り落とす。



 飛ばされた敵は動けなくなる。俺は魔の手を使って次元の穴から喰らった。一人は微塵(みじん)もなく消えた。次は腕を失った敵だ。


「頭が痛くなると言ってももう慣れてるから何ともない。油断してるように見せかけて、敵を油断させる罠だ。」


 そしてもう一人も俺に喰われる。

 後は先に進むといる四人の敵だけだ。ただし、油断はできない。今のは勝手に暴れていたただの雑魚。だが、集団になると一人一人が雑魚だとしても数で圧倒してくる。気を引き締めなければ。


『残りの四人は北北西側へと進んでいるよ。歩いて追いつくからワンウィールは使わずに向かって。』


 モカが情報を飛ばす。

 俺は「了解」と返事をした。


『それと、目標の敵はエルキュ軍の大幹部"四要八武人(しようはちぶじん)"の一人「無敵の亡霊」率いる黒フード集団の一派よ。強いから油断しちゃ駄目だよ。』


「もちろん。俺は誰も格下として戦ってねぇ。勝つまでは全力。それだけだ。」


『うん。やっぱりルークらしい。絶対に死なないでね!!』


「当然だ。」



 俺らは目的の場所に向かって走っていく。

 俺は不器用だから手加減をすることができない。敵は強いらしいが、変わらず全力で戦うだけだ。彼らの好き勝手にはさせない。これ以上、町を破壊させない。



──

────

──────



「ジーズ軍が来たぞ。」


 黒いフードを被さった四人。三人はマトリョーシカ人間。一人は女性の顔に見えた。


「左から二番目。奴は人間だ。ミカ、頼む。」

「了解。」


 魔の手を絡ませた腕が敵一人を強く吹き飛ばす。強い衝撃で飛ばされた敵は車へと衝突し、車は粉々となった。


「後で壊した車の弁償金請求を申したてなければな。」


「さすがお強い。雑魚三人は簡単に殺られたのでしょうね。まあ、俺は負けないですけどね。」


 ダメージを受けた敵は何事もなかったかのように立ち上がった。魔の手が身体中にとぐろを巻いている。


「俺は魔の手を身体に巻き付けることで受けるダメージを減らし、魔の手がつかめないようにする守りのエキスパート。俺にはこんな攻撃、効きませんよ。」

「面倒くせぇな。取り敢えず、全力でぶっ倒す。」

「血の気が多いですね。でなければ、出会ってそうそう攻撃してきませんか。まだ自己紹介がまだだと言うのに。」


 俺と敵が話している間にミカは敵の女と激しい戦闘を繰り広げていた。

 敵の振りかざす小刀をかいくぐり、その武器に向かってククリ刀がふられる。宙に浮く小刀と丸腰になった女。すかさず携帯手錠(てじょう)で敵を拘束した。

 後は俺がこいつらを倒すだけだ。


「俺の第二の名前はジャヌ。以後顔見知りを。」

「覚える気はない。どうせここで倒すからなっ。」


「そうですか。それは残念。それと、あなた俺に勝てると思っているのです?」


 足に絡ませた魔の手がキック力を増強させる。ジャヌは空に向かって吹き飛ばされた。空では身動きのできない。つまり、魔の手を放つには格好の機会。

 俺が魔の手を繰り出すと、敵の仲間はそれを止めさせようと襲ってきた。が、ミカが立ち塞がり、トモチカが一人を麻痺させた。


「俺を捕まえられると思っています?」


 魔の手が魔の腕を握る……ことができずに魔の手が滑っていった。ジャヌは落下し、地面に衝突する。


「魔の手は魔の手の腕を掴めない。これはマメです。それともうひとつ、あなたでは俺には勝てない。これは絶対です。取りあえずですが、命拾いして良かったですね。運がよろしいようで。」


 俺は何を言っているのか分からず首を傾げた。


「セブ、ディッセン。シモさんの所へ戻りますよ。」


 敵の仲間は「リーダーの元へ」と驚いていた。


「ええ、今連絡の音が鳴りました。集合の呼び出しですよ。」


 ジャヌとセブは(きびす)を返して走っていった。ただ一人だけ、ディッセンは身体が言うことを聞かずに走ることもできなかった。


「追いかけるぞ!!」

「ええ。」


 追いかけようとする俺の足をつかむ魔の手。ディッセンの繰り出した魔の手が俺を引き止める。だが、喰らうために魔の手を引き戻す力はないようだ。


「ちっ、めんどくせぇ奴だな。」


 トモチカが近くに来て銃の取手を先端にして強く殴る。魔の手は俺の足を離した。


「喰らってる時間はない。さっさと火を放って追うぞ!」

「ああ、もちろんだ。」


 道路の上で真っ赤に燃える炎を背にして走っていく。炎は風吹く木枯らしによっていつしか消えていった。



 ジャヌの所へとたどりつくとそこには第一兵隊がいた。


 地面に広がる瓦礫の山。それを二階建てビルから見下ろす八人のフードを被った者達。その真ん中の先頭は異様なオーラを放っている。フードの奥は何も無いように見える。人間じゃないオーラ。彼こそが───無敵の亡霊。

 身がすくむ。武者震いがやまない。敵の強さは本当だ。ジーズ軍な事実上トップがここにいるんだ。間違いない。奴はめちゃくちゃ強い。


「ルーク……。司令はあの部下だろう。俺らが奴らをバラけさせるから、そいつらを当たってくれ。くれぐれも八武人(・・・)には手を出すな。お前が敵う相手じゃねぇ。」


 俺は止まない武者震いを押し殺し息を整えた。第一兵隊長であるアゼカワが言うんだ。彼の命令は絶対だ。ただ、俺が勝てないとされる敵の部下だ。いい勝負が出来そうだ。


「じゃ、やるか。作戦"typhoon"開始。」


 ドローンが陣形を組みながら敵を囲う。敵の集団の真ん中に落とされる不思議な黒色のボール。


「どこでもいいから逃げろ。全力だ。戻るなよ。」


 敵は逃げる気だ。


「そう。それが正解。水素は……爆発するからな。」


 巨大な爆発が敵を襲う。彼らは四方へと逃げた。さらに、戻れなくするようにドローンの面々が追い討ちをかけるように小さな爆破を繰り出して煙をだす。


「手の空いてる奴らは逃げた敵を追え!! 俺は無敵の亡霊を殺る。もちろん第十三兵隊もだ。」


 俺らは返事をした後、西に向かって進んだ。


 第一兵隊達も各方向へと散らばって逃げた敵を追った。



 その場所に残ったのは"無敵の亡霊"シモツキと第一兵隊長アゼカワだけとなった。



 アゼカワが愛刀を構える。


「不気味だな。無敵の亡霊ってのは。」

「……。」

「報告で聞いている。お前は口がなく喋れないってな。けど、聞こえてるし見えてるんだろ?」

「…………。」


 アゼカワは瞬く間にシモツキの前に現れる。


  〘闘龍横払(とうりゅうよこばら)い〙


 目に見えないスピードで行われた鋭い横払い。シモツキは人間には不可能なバク転で簡単に避ける。


「流石だ。」


「だが、始まったばかりだ。」



  〘紅雪桜舞(こうせつおうま)


 見えない刀さばき。無数に打たれる乱撃。

 しかし、シモツキは紙のように舞い、攻撃を全て避ける。


「もはや人間技じゃねぇな。いや、マトリョーシカ技でもねぇよな。」

「……。」


 いつの間にかシモツキと背中合わせとなっているアゼカワ。刀の鉄部分を反対側にして持つ。刀が布を、シモツキを貫通する。鋭く空いた布が目に映る。


「これで無傷だとすると、もう何者か分かんねぇな。」

「……。」


 振り向く二人。アゼカワは刀を振りかざそうとした時、手がとまる。片目に何かが貫通した。すぐに貫通した片目は元通りに回復した。


「それと、これが噂に聞く目に見えない攻撃か。」


 さらに緊張感が高まる。力強いオーラと謎に満ちたオーラがぶつかり合い、空間が揺れた。



   「「「………………………………。」」」





「これで二人目だ。」


 ルークは開いていた次元の穴を閉じてさらに先へと走った。



 瓦礫の跡と所々に湧き出る煙。第一兵隊の二人が一人の敵を前に倒れていた。

 最強の兵隊が二人も倒れているなんて、こいつただ者じゃない!!


 顔には大きな黒マスクで口元全体が覆われる。被っているフードが目を半分隠している。顔が全く分からないが雰囲気でマトリョーシカ人間であることはわかった。

 油断はできない。死ぬか勝つか。


 俺は力を振り絞り強烈な一撃を放とうとした。



──────。──



 手も足も出ない……。

 俺の攻撃は全く届かず敵の攻撃を前に動けずにいる。魔の手を使わずにただ手に持っていたヌンチャクを振り回しただけなのに。俺は地べたで倒れている。


「今、魔の手が使えない。助かったね。お前。」


 俺の頭を踏みつける敵。

 何が起きたのか分からない。ただ、治るはずの痛みが治らず、俺は敵を前に何もできずに地面に這いつくばっている。

 まだ、ミカもトモチカも無事だ。


 「逃げろ」と声にならない声を出すが二人には届かない。ただ、無力な自分が悔しいだけだ。

 敵わないと知っていても止めることはできない。ミカはククリ刀を敵の腕関節を狙って振りかざされた。


「遅い。」


 (かわ)される攻撃。

 敵はミカを蹴り飛ばす。その威力でミカは遠くまで地面を転がり続けた。


「弱いなぁ。」


 ミカは諦めずに立ち上がり、刀を構えた。


「なのに、まだやるのか。悲しいかな。俺の得意は中距離だ。」


 ヌンチャクが振られると、そのヌンチャクの鎖の部分が伸びていく。そして、ヌンチャクはミカの腕に巻き付き離さない。

 伸びきった鎖が勢いよく戻っていく。それに続いてミカが引っ張られる。敵が背負い投げのようにヌンチャクを降るとミカは強く地面に叩きつけられた。


 血反吐が宙を舞う。


 それだけでは終わらない。


 ヌンチャクの鎖は元の位置に戻るまで収束を続ける。鎖に絡まった腕が外れたのは敵の目前の場所だった。一瞬にして逃げなければさらなる攻撃がくる。だが、負傷をしたミカには逃げることもできなかった。

 鎖がミカの首元を絞める。

 敵はヌンチャクの取手を引っ張り、首を絞める勢いを強める。


 このままではミカは死んじまう───

 手は伸ばせても身体全体は動かない。俺は叫ぶことしかできなかった。


「まずは一人目。チェックメイ……」


  パンッ────


 急な銃声音と横に倒れこむ敵。敵は片手をヌンチャクから離し、ミカは解放された。首に手を当てて苦しそうにしながら地面に横たわるミカを見て無力な自分が痛まれる。


「ただでミスミス殺させる訳ねぇだろ?」


 トモチカが四階程のビルの上から銃を構えていた。今の発砲はトモチカの銃からだったのだ。

 敵の頭上に現れる巨大な影。それと、屈強なマトリョーシカ人間。

 ハンマーが敵の頭をカチ割った。


「大丈夫か。第十三兵。第一兵隊である我らが見苦しい所を見せたな。」

「助かりました。」


 ハンマーの衝突跡で(へこ)んだ地面から何事もなく立ち上がる敵。


「気をつけろ。この攻撃を何事もなかったように瞬時に回復すると言うことは……。こいつは相当強いぞ!」

「ああ。分かるよ。じゃなきゃ負けたりしない。」


 再び構えられるハンマー。その支えの部分にヌンチャクの伸びた鎖が絡まった。そのせいでハンマーが振れない。


「くっ……」


 そのまま鎖は収束する。その勢いに任せて敵は飛んでいった。すぐにして、彼の目の前だ。


「俺は今ムカついてんだよ!!」


 強い蹴りが入る。

 さらに、ヌンチャクを振り腕に鎖を絡ませると、力強くヌンチャクを引っ張り腕を引きちぎった。


「お前、第一兵隊長……の仲間(チーム)だろ?」

「そうだが。だから、どうした。」

「じゃあ、生かしておけんな!!」


 敵が凶暴になった気がした。

 そこへ射たれる銃弾。その銃弾が仲間に当たった。敵が目の前の仲間を動かして盾にしたのだ。

 その銃弾は麻酔銃だったようでその場で倒れて動けなくなる。敵はそいつを見下して(かかと)で顔面を踏みつけた。


「それと、さっきから邪魔だな。あのガンマー。」


 敵のターゲットがトモチカに変わった。

 俺にかけられた縛りが敵を止めようとするのを防いでいた。

 ヌンチャクを器用に扱いビルの屋上へと辿りつく。このままではトモチカが危ない。後少しで動けそうなのに動けない。


「邪魔だ。死ね……」


 トモチカは四階から落とされた。落下音が鼓膜(こまく)にこびりついた。


「やめろぉ!!」


 そんな叫びは虚しくも届くことはなかった。

 その時、身体が解放され鳥のように軽く感じられた。だが、「もう遅ぇよ」と後悔が残る。俺はミカやトモチカの分まで戦わないといけない。


 そう誓って────

 俺は魔の手を足に絡ませた。



  〘悪魔の兆脚(デビルズ・ジャンプ)



 力強い兆脚でビルの上にいる敵の目の前へときた。後は蹴り飛ばすだけ。

 魔の手が絡む蹴りで敵は戦場の真ん中へと蹴り飛ばした。

 俺は間髪入れずに飛ばした方向へと跳ぶ。もう一発攻撃をぶちかます!!


 瓦礫の山の中を飛ばされていく。

 立ち上がった時、フードは取れ、マスクは落ちていた。


 敵の頬に刻まれたXと一つの縦線。

 その刻印を見たことがある。エルキュ軍の実力者であり幹部の四要八武人にのみ刻まれている刻印。


「お前……まさか、四要八武人の一人!?」


「まさか気付かれるとはな。そうだ。俺は八武人が一人、"無敵の亡霊"霜月(シモツキ)だ。」


 倒れていた第一兵隊の一人が立ち上がりシモツキに問うた。


「無敵の亡霊は今、隊長が戦っているはずだ。」

「そうだな。それは間違いない。」

「じゃあ、お前は何者だ? 無敵の亡霊の身代わりか?」

「俺は本物だ。お前らのムカつく隊長が戦っているのは偽物だ。」

「何っ!?」


「ハンデをやろう。俺の魔の手の力を教えてやる。俺の魔の手は小さく分解することができる。そして、分解した部分を自由に飛ばすことができる。例えば、それを使ってフードの中に魔の手を仕込めば……フードを被った亡霊をも作り出す。」


「そうか。それで亡霊!!」

「俺がまだ無力な頃、俺はある剣士に殺されかけた。その剣士の流派をお前らの隊長が踏襲してた。まじで俺はムカついたぜ。奴の弟子だったとしたら、お前らはもう単に死ぬだけじゃ許されねぇ。」





 刻まれてボロボロになったフード。

 アゼカワは手を緩めない。


「まじでダメージがないのは厄介だ。無敵と呼ばれる理由と強さが分かったよ。だけどな……」



  〘闘龍(とうりゅう)切り〙



「例え無敵だとしてもどこかには弱点やトリックの種があるもんだぜ!!」


 シモツキのフードは真っ二つに切れ、地面に落ちた。それと同時に瞳に映った魔の手の手首。その手首は露見されるとどこかへと逃げてしまった。


「なるほどね。魔の手を隔離して操ってた訳か。四要八武人ともなればサーチ能力も人並み以上。中に人がいると錯覚させるぐらいに攻撃を避けたことも頷ける。それと、見えない攻撃は分割された魔の手の攻撃でフードの中で攻撃してた訳でもなかった。」


「無敵なのはそいつが魔の手で動かされていたフードそのものだから。つまり、本物がいる(・・・・・)はずだ。面倒だな。下手したらそいつと出会わせた奴らが全滅しちまう。」


 アゼカワは本部の所と連絡を取った。


「なるほどね。ルークらがやばいな。」


 アゼカワはルークの元へと向かった。しかし、その距離を埋める時間はそうそう残されてはなかった。





 二人の第一兵隊がシモツキを前に倒れ込む。

 シモツキは魔の手が使えない。そのおかげで救われていた。


 だが、ついにシモツキの元に魔の手の手首が戻ってきた。


「ついに、戻ったよ。これでようやく本領発揮できるよ。手始めに第一兵隊のハンマー使いから食べようかな。」


 彼はハンマーを持って対抗しようとするが、ヌンチャクで行動を牽制(けんせい)され、その間に魔の手がお腹を掴んで次元の穴に持ち帰った。


「これで三人目。チェックメイトだ。」


 シモツキの後ろを狙うもう一人の第一兵隊。だが、シモツキはヌンチャクで攻撃を防ぎ、彼をもまたシモツキの(えさ)となってしまった。


「四人目。ここに残るは後一人だね。」


 ヌンチャクだけでもかなり強いのに、魔の手が合わさると鬼に金棒。遥かに敵わない。


「……っていいたいけど、お前は殺そうにも殺せないな。確かお前は"駆け出しの起源(オリジン)"。

 初めて魔の手が現れた発現者にしてボスのお気に召した存在。ボス曰く、ハプニングさえなければこっち(エルキュ軍)側存在にして重要な戦力。もし味方にならなくても、ボスが食わなければならない存在。俺らはお前を殺さず捕らえなければならない。」


「……。」


「まあ、まずはボコボコにして動けなくしないとな。今は動けなくてもマトリョーシカ人間は徐々に回復する。」


 ヌンチャクが俺の左腕に絡む。そして、俺の身体を引きずっていつしかシモツキの目の前に連れてかれた。

 俺は"ジーズ軍"だ。人の常識を覆し、人に危害を加えることに何とも思わずにやるお前らを許せない。ここでノコノコと連れていかれるよりここで暴れてジーズ軍のために戦いたい。

 もしここで暴れずにエルキュ軍に加われば死ぬことはない。だが、もし死ぬかもしれなくても俺はここで暴れてジーズ軍の(やり)となれれば……"本望だ!"



 俺は腕に魔の手を絡ませた。魔の手と手が重なり合う。その手はまるで魔獣の牙のよう────

 岩をも砕く破壊力。魔獣はシモツキの右腕狙って駆け抜ける。それはほんの一刻の出来事。



  〘悪魔の魔獣の牙(デビルズ・ファング)



 ヌンチャクを持つ腕が切り離された。離された腕は元には戻らず、もうヌンチャクを右手で扱えない。


「俺は誇り高き人民の味方ジーズ軍だ。佐藤太一第一主義でその他の人を何とも思わない汚点に何もしずに連行されるなんて屈辱(くつじょく)だ。それぐらいなら俺は足掻(あが)くよ!!」


 落とされた腕を見ながら俺を(にら)むシモツキ。


「……許さねぇ。……絶対に許さねぇ。例え、ボスが殺すなと言われてもこいつだけは殺さずに生かすなんてできねぇ。」


「こう考えればいいんだ。俺がこいつを喰って、こいつを喰った俺が喰われれば力は結局ボスが受け継ぐ。俺はボスによって死ねるなら本望だ。」


 殺意が溢れ出していた。

 俺はそんなシモツキから距離を置いた。


 シモツキから出た魔の手は次の瞬間、瞳から消えてしまった。


「消えた!?」


 俺の身体を突き抜ける無数の攻撃と俺の身体にできた無数の風穴。瞬く間に俺は動けなくなっていた。


「何が起きたんだ。」

「これが俺の力だ。小さく分けた魔の手は目には見えなくなり、さらに素早い速さで敵を貫く。」


 分裂した魔の手が集まり元の状態へと戻った。

 魔の手が俺を狙い定める。


「これでチェックメイトだ!!」


 避けなければ。

 俺はその一心で足に魔の手を絡ませて空高く跳んだ。


「身動きの取れない空に逃げるとは……経験が浅いな!!」


 魔の手が俺を追ってくる。が、俺はその攻撃を避けることはできない。空にいてはただ落下を待つだけで逃げることなどできない。


「これで本当のチェックメイトだな。」


 俺の右足が(つか)まれる。

 そして、シモツキの次元の穴に一直線に進んでいった。俺の右足はもう次元の穴の中にある。後は身体全体が喰われるだけ。


 俺は全力で敵と当たったんだ。もう悔いはない……



 《まだ諦めちゃ駄目─────》



 どこからか聞こえる女の人の声。モカの声でもないし、ミカのでもない。この人の声を聞いたことはないのに、何故か聞き覚えがある。



 《太一君にはまだ、生きていて欲しいの───》



 誰かは分からない。けど、その声は俺に勇気をくれた。諦めない心を思い出させてくれた。

 まだ、俺はやれる!!



  〘悪魔の魔獣の牙(デビルズ・ファング)



 俺は魔の手を腕に絡ませた。


「もう遅い。お前の足は俺の身体の中だ。後は喰われるだけだ!」

「いいや、まだ俺は諦めない!!」


 魔獣の牙が俺の右足の太ももを切り裂く。分かれた足の先は次元の穴へと喰われてしまった。


「しまった!!」


 もう二度と無くなった足は戻らない。マトリョーシカ人間は切れた部分が即死に値しなければ生えることはない。

 だが、俺は足を捨てることで命を捨てないで済んだ。


「これで終わりだ!!」


 魔の手は絡んだ足から離れてシモツキの腹を掴む。からの、一瞬にして喰らった。シモツキは跡形もなく消えた。

 俺は戦力差がありすぎる敵に勝ったのだ。


 あの時の声の主はなんだったのか。ミカやトモチカは無事なのか。第一兵隊長は無事なのか。気になることが沢山ある。


 俺はボロボロの身体で立ち上がった。右足がないせいでバランスが取りにくい。俺はそこで義足の代わりに魔の手で代用した。


「おい。大丈夫か!!」


 まず第一兵隊長は無事だった。次はミカとトモチカの安否を確認しなければ。


「俺は大丈夫。第一兵隊の二人は死んだ。後、ミカとトモチカ……」

「あたしらは無事よ……」


 ミカがトモチカの肩を持ちながら歩いてきた。


「もう女のあたしに担がせるとか……。まあ、こいつは骨折で済んだし、あたしは首を絞められたけど死に至る前にトモチカに救われた。だから無事よ。」


 ミカやトモチカも無事だった。良かった。

 安心感が疲労感に変わる。


 疲労感を感じている時に、強い走馬灯が襲ったせいで俺は倒れてしまった。

 この走馬灯はシモツキの記憶だ。



───

────

─────



 脱獄して見つけた太陽の光。

 掴めると思っていたのに、俺の前に立ちはだかる巨大な壁。


「分身しちゃったね。全員殺さないと……」


 目の前で刀を握る一人の少年。優しく微笑みながら刀を構える。



  〘新闘龍(しんとうりゅう)切り〙



 その刀は近くにいたマトリョーシカ人間の腕を切り落とした。その腕は身体に戻ることなく地面を転がる。俺らは腕が治らないことを知らなかった。そのせいで恐怖心が高まる。

 今度は炎を放つ。炎に触れたマトリョーシカ人間は炎が移ってすぐに跡形もなく消えていた。

 恐怖で身体が動かない。

 恐怖を与えた少年はもいつの間にかここにはいなかった。周りに広がる炎。逃げ場はない。炎に当たればさっきのマトリョーシカ人間のように消えていなくなる。


 死ぬ────


 俺はここで死ぬのか。

 その時に見つけた保存床。床の中の物を取り出すとそこには人一人が入れる程の大きさ。俺は神に祈るようにそこに隠れた。一か八か。死にたくないと願って俺は眠っていた。



 次の日。

 起きて床から出ると焼けた土地。跡形もなくなった村。俺以外のマトリョーシカ人間もこの村も、村の人々も全て少年(アイツ)が奪っていったんだ。


 シクシク……


 泣き声が聞こえる。

 聞いてるだけで悲しくなっていく。


 シクシクシク……


 俺は泣いている人の元へと向かった。まだ若い女の人だった。


「大丈夫か?」

「……大丈夫じゃない。全てを奪われた。あの男に。家族もこの大切な家も、村も、友達も。」

「それは……悲しいな。」

「あなたは確か、あの男に狙われてた人よね? 目の前で死んでなかった。」

「俺は大丈夫だ。だが、もうどこにも行く宛てはなくなった。」

「同じ……だね。」

「ああ。」


「そう言えば自己紹介が遅れた。俺は佐藤太一っていうんだ。何か縁がありそうだ。」

「あたしは(けやき) 志帆(しほ)っていうんだ。よろしく。」

「よろしく。」


 俺と志帆は社会の日の目から隠れるようにして生きた。俺らは闇に精通することを余儀なくされた。一方で、火事は事故であるとされ、村を滅ぼした張本人は悠々と暮らしていた。

 辛い日々だったが、二人でいれたことが何よりの救いだった。

 愛し合う関係に向かって少しずつ全身していた気がする。同居までは到達できた。けれども、それは一時的に途切れてしまう。


 ある日、村を滅ぼした男が英雄扱いを受けることになった。その男は警察から表彰を受ける予定。俺らは村を滅ぼした罪を一切受けず逆に英雄になることが、到底受け入れられない。特に、志帆は怒りが沸点に達していた。


「ごめん。あたし行ってくる。また会えたら……」


 志帆は包丁を(かばん)に入れて出かけていった。


 志帆はその男を包丁を刺して殺害した。

 そしてすぐさま逮捕。俺は止めたかった。志帆にこんなことをして欲しくなかった。だが、もう遅い。俺は日の目を見ることのできない偽物(クローン)(しゃく)熱の太陽の監視下にいる志帆とはもう会えない。そう諦めて日々を過ごした。



「俺たちの仲間になれよ。もちろん、志帆も救ってやる。」



 俺に特殊な力が宿ってから数日後。ボスとなるその人物は突然現れた。そして、俺を仲間にしようと誘った。

 俺は半信半疑で仲間となった。


 ボスは様々な刑務所を襲っていった。そして、ボスは本当に志帆を脱獄させた。……と思った。志帆は刑務所にはもういない。俺が知ったのは遺体の場所だけだった。


 ボスは悲しむ俺に寄り添ってくれた。


 俺にはもう何も残っていない。

 心の中に溜まるこの社会への不満。怒り。それらがボスの思想とマッチした。ボスは俺の後悔を払拭してくれそうだ。


 俺は……


「あんたに全てを捧げます。……ボス。」

「よろしく頼む。今日からお前は幹部の一人。"霜月"の名を授けるよ。」


 ボスに全てを捧げたんだ。

 ボスが願いを達成するまでボスの槍となると思ってた。



 まさか、ここで俺の物語が終わるなんて予想もしなかった。"駆け出しの起源(オリジン)"。お前は強い。俺の完敗だ。

 負けて申し訳ない。ボス。俺はこんなところで負ける男だ。弱いんだ。こんな俺を拾ってくれて、認めてくれて、ありがとう。

 この世には未練しかない。けど、それ以上にあの世が楽しみだ。



 俺も、もう、そっちに行くよ。



 お待たせ────志帆。





 首から下げた指輪。ワックスで固められた黒髪。何より印象的なのは右足が"魔の手"の義足。

 その人物の名はルーク。

 彼は今、ジーズ軍に追い風をもたらしていた。義足の魔の手が放つ高速の移動で敵との距離をつめ、一撃の蹴りを放つ。ルークは快進撃を続け、新たな立場を手に入れた。


 スーツで畏まった人達がルークらの前に立っている。ルークの横には緊張するモカ、ミカ、トモチカ。


主将(リーダー)ルーシー(Lucy)クィール(Quill)。そして、遠隔担当金木(かねき)智哉(ともちか)、近距離担当渡辺(わたなべ)美香(みか)、補助担当藤城(ふじき)萌佳(もか)。貴殿達を第十兵隊に任命します。」


 ルークらは第十三兵隊から第十兵隊へと昇格。新たなステージへと足を運んだ。


「エルキュ軍の幹部はまだ十一人残っている。どれも侮れないから、気を緩めずに当たってくれ。」


「「「「はい!!!」」」」



 緊張と不安を押しのけるように希望と勇気が湧いてきた。





「まさか、四要八武人ともなる方が二桁の兵隊長に負けるとは思いませんでした。せっかく、俺が第一兵隊長を引き付けていたのに、残念です。」

「ああ、残念だ。」

「それでですよ。空白になった席に俺を任命してくれませんか? あの最強の一人と戦える力を持ってますから。」

「ジャヌが四要八武人へだと。無理だ。」

「何故です。ボス。」

「お前の守りは最強だが、お前は攻撃できない。残念だが、守ってばかりで攻めれないお前にはその席は埋まらない。」

「そんなぁ。」

「安心しろ。第一兵隊長相手に無傷で戻ってきたことは評価に値する。四要八武人にまではいかないが、昇格させてやろう。」

「ありがたいです。」





 満月の夜が輝かしい。

 鉄塔の頂きを魔の手の義足で掴み立ち尽くす。


 暗闇の中に広がる街中の光ども。それらが交わり美しい風景を生み出している。

 ルークはその景色を見て感慨に(ふけ)った。


  《まだ諦めちゃ駄目》


 あの言葉は誰の言葉なのだろうか。



 そんな事を考えてる時に呼出音が鳴る。こんな夜遅くにエルキュ軍の暴徒が暴れているらしい。


 ルインはその鉄塔の上から地面に向かって降りていった。強い風を受けながら、勢いよく落ちていく。そして、やる気の溢れ出す言葉を言い放った。



「行くか────」




 月夜の下に照らされる一人の影。名をルーシー・クィール、短縮してルーク。

 マトリョーシカ人間と人間の共存かマトリョーシカ人間優位の社会か。その対立で強い存在感を放つ。


 過去を知らぬ、今を生きる者。駆け出したその一歩を強く噛み締めながら歩んでいく。


 彼は希望への一歩を踏み出したのであった。

お読み下さりありがとうございます。よければ評価やコメントの方をして頂けると幸いです。特に、悪い点とか良い点とかを書いて頂けると次の改善に繋がります。ご協力お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ