世界史と日本史
日本国某所
トライデントは執務室と化した収監施設で黙々と作業を続けていた。トライデントの仕事は南海大島の安定化であり、日本と南海大島間の数少ない通信回線を最大限利用し、各地の有力者と元部下へテレビ会談を行っていく。
「各地で放棄された地下拠点には、まだ武器が残されている。回収して自警団の強化に使うと良い。」
「出せる要望は早いうちに全て出せ。開戦間近になれば日本は南海大島の開発を止める。」
「ラドム、まさかお前が生きていたとは思わなかったぞ。早速で悪いが仕事だ。政治屋連中に西部の住み分けを指示しておいたから、自警団を指揮して良く見張ってくれ。」
時間経過とともに南海大島の混乱はすっかり終息しており、戦闘によって死亡したと思われていた部下達の多くが生存している事が判明し、トライデントは元第3軍団の組織力を活かして暫定政府の安定化を図っていた。
現在、全ての南海鼠人は南海大島の西部と南部に強制移住となっており、北部と東部は倭国が管轄している。南海大島は倭国の領土であるため、本来ならば倭国が南海鼠人を管理するのだが、日本国と倭国の取り決めによって南海鼠人と島の西部と南部を日本が管理している状態にある。
日本国と倭国は将来、南海大島を独立させる方向で戦後処理を行っており、戦後復興や資源開発名目で莫大な資金が南海大島に投入されていた。
会談を終えたトライデントは休む間もなく大量の資料を確認しながら次の策を練っていく。自身の裁判だけを考えればよかった頃とは違い、やることが多すぎて休む暇もない。そんな時、ドアをノックする音が聞こえる。
「入れ。」
「入ります。頼まれていた資料の翻訳が済みました。」
入ってきた人物はシヴァである。彼女はカートに積まれた資料の山を応接テーブルの上に並べていく。
「日本国で手に入る歴史資料はまだありますが、これだけで宜しいのでしょうか? 」
「あぁ構わない、こっちも一段落したところだ。休憩がてら世界史を学ぼうじゃないか。ん? そんな嫌な顔するなよ、歴史を学ぶことは生き残るのに必要不可欠なことだ。」
トライデントはシヴァの些細な表情の変化を見逃さず彼女に話しかける。
「この様な過去を知った所で何の意味があるのです? 今日と明日をどう生きるかの方が重要でしょうに。」
資料の翻訳をしたシヴァは内容を知っている。この内容は彼女にとってはあまり面白いものではなかったようだ。
「南海鼠人にも歴史はある。子供のころに教わった脚色されたものではない、本当の歴史がな・・・」
トライデントは南海鼠人の歴史を話しつつ、南海大島で入手した歴史書と日本国が入手した各国の歴史資料を比べながら各国の本質に迫ろうとしていた。
南海鼠人の歴史は大陸から新天地を求めて旅立った勇気ある鼠人達が大冒険の末、瘴気が晴れた期間に偶然南海大島に辿り着いたところから始まったと子供の頃に教わるが、この時点で既に脚色されている。
大陸での生存競争に敗れ、ありとあらゆる脅威から逃げに逃げた結果、一部の者が運よく南海大島へ漂着したというのが事実である。南海鼠人の本質は本来「逃げる」なのだ。
「命がけの大冒険というのは、物は言いようだな。しかし、ご先祖達の決断は間違っていなかった。大陸に残った鼠人は奴隷以下の扱いを受けているのだからな。」
「それは大昔のことです。ジアゾ外交団の話では待遇がかなり改善されたと言っております・・・今は大陸の鼠人達には普通に生きる権利が与えられているのです。私達がつくべきは日本国ではありません。」
シヴァはジアゾ外交団からもたらされた情報を基にパンガイア大陸では鼠人達が自由に生きる権利を与えられていると考えていた。しかし、トライデントはそんな虫のいい話が無い事を人生の経験から分かっていた。
「あぁ、近年になって見直された話は聞いた。だがな、長年奴隷以下の扱いをしてきた連中に支配者の考えが180度変わるとは到底考えられないし、支配されていた側も同じことがいえる。」
「トライデント様! 我々は妖怪との生存競争に敗北し滅びかけているのです。このまま瘴気内連合国に所属した状態で大陸間戦争が始まれば・・・」
「お前に言われなくても分かっている・・・。どちらに転ぼうとも生き残れるために世界の過去を学ぶのさ。」
「私にはよくわかりません。ですが、貴方の考えなら従うのみ。」
トライデントの考えはシヴァには理解できない。だが、彼がいつも的確な判断を下せていたことは身近で仕えてきた彼女はわかっている。意味の分からない行為、無駄に思える行動、それらは時間差で大きな効果を発揮していた。
「シヴァ、早速日本の歴史を教えてくれ。日本国の歴史はほとんど知らないんだ。」
トライデントは他国の歴史は多少知っているのだが、転移間もない日本国の歴史については何も知らなかった。
シヴァは地球の大陸分布、日本の成り立ちから説明していく。
「大陸分布がほぼ同じだ。偶然にしてはできすぎているな。」
次に日本人がどのように日本という島に住むようになったのか、縄文時代に弥生時代、当時の大陸との交流や世界各地に発生した文明の説明をうける。
「小国との小競り合いがあったものの、先進文明を習って国家の基盤を作っていったようです。」
「この時点で日本国は文明としてかなり出遅れているな。現在の日本国も最近まで強国の属国だったようだし、当時から付近にある先進文明の属国として今まで栄えて来たわけか。」
「いいえ、少し時代が進むと当時世界最大にして最強の国家、モンゴル帝国の後裔「元」から侵攻を受けます。」
シヴァは元の資料を出す。ユーラシア大陸を支配する元の勢力を見たトライデントは、当時の日本国が1回滅びたことを容易に想像できた。
「日本国は一度滅びているのか・・・」
「元の侵攻は2度行われ2度とも失敗しています。特に2度目の侵攻は甚大な被害を受け、10万ともいわれる死者を出しています。」
「あり得ない。文明で劣り、物量でも劣る国家が勝てるわけない・・・一体何があった? 」
「台風と呼ばれる大嵐によって2度とも日本国が勝利しました。これが日本人が子供の時に教わる歴史です。」
トライデントの問いにシヴァは神風の存在を教える。
「では、脚色されていない当時の歴史書には何と書いてある? 」
シヴァは用意した資料を見ながら説明していく。
「神風は1度のみの可能性が高く、鎌倉武士と呼ばれる職業軍人の活躍が目立ちました。」
「この文明レベルの国に職業軍人? 」
「説明する上で職業軍人と私が呼んでいるだけです。彼らを表す言葉を私は持っていません。」
トライデントは武士こそ日本国の本質があるのではと考え、何故か不機嫌なシヴァに武士について聞いた。
「彼らは我々とは異なる価値観に生きているため説明できませんが、当時の武士について書かれた歴史書の内容を伝えます。」
明らかに不機嫌なシヴァは、渋々説明を行う。
「元軍は住人を捕え、人間を盾として攻めてきましたが、武士は何の躊躇いも無く弓を射かけました。」
「 !? 」
「元軍2度目の侵攻時には、最前線の自国都市を侵攻が始まる前に略奪しています。」
「おい、待て! 」
トライデントの日本人像が一気に壊れてゆく・・・
艦これのイベントが終わりました。
新艦を入手しようとギリギリまで粘った結果、「何の成果もあげられませんでした!」
まぁ、こんなこともあります。気持ちを切り替えて次回に備えます。




