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とある転移国家日本国の決断  作者:
黒霧連合結成
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対峙

艦これで友軍を待つ間に続きを投稿します

 日本による魔物への核攻撃から数カ月後、ある施設内トイレで2人の男が雑談していた。


「こんな状況でも医療の進歩は早いものですね。新薬のおかげで、こんなに体調がよくなるとは今まで考えてもいませんでした。」

「良いことは続くものです。今は国内も周辺国も安定し始めた。これから、更に良くなっていくでしょう。かくいう私も昨日悩みの種がトイレで出ましてね、近年ないほどすがすがしい気分なのですよ。」

「それはめでたい事です。石の辛さは当事者にしかわかりませんからね。」


 2人は手を洗いながらも雑談を続け、その後は待合室でくつろいでいた。


「今日は内密にした党首会談と周囲には話してあります。」

「こちらは核爆発後の汚染と怪物の状況説明会に出ると話してある。」


 2人は全く違う用事でこの施設に来ていたが、互いの目的は「名も無き組織」との会合である。


「お待たせ致しました。どうぞこちらへ・・・」


「さて、何が出るか。」


 総理と前総理は立ち上がり、案内人と護衛に囲まれながら内閣情報集約センターへ向かう。




 内閣情報集約センターは危機管理センターを運用しており、指揮系統の最上位へ情報を送る施設で、非常時に総理大臣をはじめとした各組織のトップが日本全体を動かす基礎となる。転移直後にはその機能を発揮して早期に魔物対策を行うなど、大きな成果をあげていた。


 2人の総理が会議室へ入ると20人もの人間から視線を浴び、妙な威圧感を受ける。


「話には聞いていたが、これほどの人数を出してくるとはな。想像以上にでかい組織だ。」

「開催場所をここに指定された時点で予想はできていました。」


 2人は小声で話しながら参加者の顔を確認していく。


「お待たせして申し訳ございませんでした。これより会合を始めます。」


 各参加職員の挨拶後、進行役の職員は組織の説明と今回の会合内容を伝える。


「・・・以上であり、忌憚のない意見交換が目的です。」


「御託はいい、お前らの頭は誰だ。」


 前総理はドスの利いた声で参加者全員に問う。大学卒業までラグビー部だった前総理は今もなおガタイがよく、その迫力は気の弱い者であればひとたまりもない。


「組織とは言うものの、我々に上下関係はありません。強いて言うならば1人1人が頭であり、手足なのです。」


 名も無き組織には司令塔となる頭はいない。大きな問題に対して自分達の組織では対処できない事を他の組織と連携して解決するための組織であり、「名も無き組織」は組織間のハブのような存在である。


「しかし、創設者はいるはずですよ。転移前の暴動を陰で抑え込んだ人物は誰ですか? 」


 現総理は無き組織が生まれるきっかけとなった転移前の暴動について尋ねた。


「それは私です。」


 1人の職員が手をあげて立ち上がった。彼の名は上杉健志郎(うえすぎけんしろう)、40代半ばの環境省職員である。


「環境省? 冗談だろ。」

「私はあなた方を容認する気はありませんが、当時の事を話していただけませんか。」


 意外な人物に隣の前総理が思わず口に出すが、現総理は話を続けさせる。

 上杉は当時の状況を事細かに話していった。


 黒霧は発生してから年々勢力を広げ、日本国を覆う勢いで拡大していた。環境省で黒霧の調査班だった上杉は、黒霧が高確率で日本を覆いつくすことが分かっており、黒霧が地上に発生しないにしても日照時間の減少などで食糧生産が大幅に落ち込むことを報告する。

 当時の政府は有効な対策を出せないまま時間だけが過ぎていたが、有効な対策がないのではなく、政治判断で対策を取らなかったのだ。

 黒霧という超常現象、各国の日本人避難拒否に対して各省庁は現状の日本国がとれるギリギリの対処法を出していた。離島住人の強制避難、地下避難施設の建造とそれに伴う土地の強制収用、早期の物資配給制度、国民の移動制限、国民管理制度etc 後日、その全てが実行されることになるが、当時の政府は動かなかったのである。

 各省庁から出された法案や計画は国民の自由を奪い、負担を求めるものばかりであり、政府は国民負担をなるべくさせない対処法を探していた。これらの行動は支持率を気にしたものであり、黒霧の絶望的な情報が送られてきている中でも、政府は国民の顔色を伺って政策を決めかねていた。


 日本国は民主主義国家である。国民が選挙によって政治家を選び、政治家は国のために法律をつくる。どの政治制度にも良し悪しはあるが、民主主義は国民の意見が政治に反映されるのが良くも悪くもあるところである。国民の意に反すること、嫌がることは総理大臣ですら好き勝手にできない。特に日本国は投票率が低く国民の政治への関心が低いため、国民の意見を政府が読み取ることが困難であり、政治が迷走することがしばしばあった。

 近年の総理大臣達は国民の意見を聞くことに力を入れており、本来国が関与しないことまで手を出して現場に大きな混乱を招き、失敗するケースが増えていた。その裏で「政治にノーを言える」「国民の自由と権利を守る」を合言葉に新政党が誕生し、大きな躍進を見せていたのだった。

 新政党「無職の派閥」の国会議員達は食料制限に反対し、撤回を求める。これには十分な理由があり、食糧生産施設の増設で賄えるというものである。計算上では霧に囲まれるまでに間に合うものの、この案は異常気象などによる減少を考慮していない。

 彼らは良く「科学的証拠」や「根拠を示せ」と言い政府に回答を求めるが、黒霧の科学的証拠や根拠を示せるはずもない政府は答弁に苦しみ、支持率はどんどん下がっていった。


「「無色の派閥」が急速に力を付けてきたのは、国民負担の多い政策を出した時でしたね・・・」

「暴動の発生源だな。自分達が共産主義者という自覚のない者達が集まった、実質ネオ共産党だ。」


 現総理と前総理は小声で話しながら上杉の話を聞く。


「暴動発生数週間前に政府は情報を把握していましたが、国民には自制を求めるのみでした。省庁の横の繋がりはそんなに強いものではないのですが、この時ばかりは大規模な暴動が起こるという情報は共有されていました。」


 各省庁は何度も暴動対策を政府に提出し、許可を待っていたものの暴動発生まで返事が来ることは無かった。

 暴徒達はSNS等でデマを拡散し、各地から政府に反対する者達が都内に集まることで、その数を大きく増やしていく。そして、都内の大規模食糧備蓄基地で機動隊とにらみ合う形となった。

 彼らは各地のガソリンスタンドから火炎瓶の材料を手に入れ、バスやトラックなどの大型車両で機動隊の突破を計り、対する機動隊は対テロ用の車止めや有刺鉄線で施設への侵入を防ごうとしていた。


 刻一刻とその時が迫る中、上杉達は各省庁で待機していた。この時、霞ヶ関にも暴徒とそれにつられたデモ隊が迫っており、警視庁からは建物の外に出ないようにと言われていたからである。

 動かない政府、拡大するデマと暴動、煽るマスコミ。缶詰め状態の上杉達は誰に言われることも無く他の省庁と連絡を取り合い、そして、首相官邸に籠る総理大臣に代わって内閣情報集約センターに集合し、事態の収束に取り掛かるのであった。


 上杉はその時ほど組織の力を実感したことはなかった。先ず公安と各地の警察が各テレビ局を制圧し、インターネット上のデマや暴動を煽る者を全国で一斉に検挙。全国の通信を掌握し、自衛隊による特定通信機器へのジャミングを行うことで暴徒やデモ隊の連絡手段を奪う。かねてより特定していた外国の工作員と国内協力者、各地の過激派と関係が疑われる者達を全て逮捕。総理大臣は唯一放送が許可された放送局とインターネット動画投稿サイトで改めて国民に自制を促す放送を行う。

 普段であれば、どれもこれも多くの法律と壁が立ちはだかる行動だったが、タガが外れた公務員達には意味をなさず、また、彼らは戦い方を熟知していた。いや、彼等は事務的に淡々と仕事をこなしていただけだった。


「機動隊が暴徒とまともにぶつかれば死者が出る可能性があったので、引き揚げさせました。」


 上杉の話を補完する形で他の職員が話す。暴動の最後を知っている2人の総理は同時に「まさか」と、あることが頭に浮かぶ。


「暴徒が東京都第1食糧備蓄基地を制圧した直後に、施設が焼失したのは我々の指示です。」

「情報統制が上手くいったので、国民の多くが備蓄基地焼失は暴動の結果と信じ切っています。」


 放送と動画配信で総理の国民への訴えと同時に画面の半分を暴徒と燃える備蓄基地を映されれば、大半の国民は自分達の食料が暴動によって失われたと認識する。結果として国民から支持を失った大規模暴動とデモは急速に収束していった。


「それが、名も無き組織の始まりですか・・・」


 上杉の話を聞いて現総理は今まで見えなかった幾つもの答えが見え始める。


「馬鹿な! そんなことのために備蓄基地1つを燃やしたのか。」

「勿論、国民が飢えない程度の損失に抑えています。」


 食糧備蓄を担当している部署が国民の摂取カロリー計算を厳正に行って、燃やしていいギリギリの量を割り出していたからこそ出来た芸当である。


「見た目のインパクトは必要ですからね。」

「貴様、どれだけの国民が空腹に苦しんでいるか分かっているのか! 」

「日本人は今まで食べすぎだったのです。現在は配給によって1日に必要なカロリー、栄養バランスも考慮したものになっています。」


 前総理は声を荒げるが、淡白に返される。



「さて、話を現在に戻しましょう。我々も、お二方に確かめたいことがあります。」

「回答次第では、どうしますかね? 消えてもらいますか。」


 会合は本題に入る・・・

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