転移後最初の決断 の裏話
日本国が転移して1年9ヶ月が経過した某日。ある極秘会議が開催される。
この会議に先立って関係省庁は活発に情報交換を行い、綿密に連携して会議に臨んでいた。情報の性質上極秘会議としており、特定の省庁幹部が中心となって総理大臣と各大臣に情報を報告するとともに、とある提案をするために開催したものだった。
「日本国に上陸する怪物を抜本的に駆除するための今後の方針を決める会議」そう書かれた会議資料を渡され、事前に目を通していた総理は各大臣とともに既定の時間に会議室に入る。会議は始まり、日本各地の怪物の情報が報告された。その情報は総理が毎日報告を受けていたものと同等のものであり、渡された資料にも目新しい情報はなかった。
「総理、ここからが本題となります」
職員は説明を続ける。
「資料にある「怪物の総数について(予測値)」をご覧ください。」
総理は資料を見る。そこには不明の文字が書かれていた。
「北海道の北方に、怪物の巨大なコロニーが存在するのはご存知かと思います。」
「1年にわたる調査により、およその数が判明しました。このコロニーには少なくとも6千万、最大1億を超える怪物がいます。小型のものを含めれば、さらにその数倍・・・」
驚愕の事実であった。
「なんて数だ・・・」
「おいっ!私にはまだ報告されていないぞ。」
大臣達が声を上げるが、反応が一部大臣だけであることを見て、総理は嫌な予感を感じる。根回しが相当進んでいると予想した総理はそのまま説明を聞く。
「何らかの影響で、コロニーの怪物全てが我が国へ移動してきた場合、これを防ぐ手立てはありません。」
職員の説明が終わると、大臣達が話し始める。
「開発が完了した嫌忌音波発生装置を全国に緊急配備しては?」
「あれは嫌がるだけで、完全には追い払えるものではなかったはず。」
ざわつく会場で、総理が発言する。
「で、対応策は考えてあるのでしょうね?ただそれだけの情報を伝えるために、私達(政治家)を呼んだのではないでしょう?」
総理の問いかけに文部科学省と防衛省の職員が説明を行う。
「現在、対応策が一つあります。」
「転移前、黒霧が我が国を包囲する直前に、原子力発電用の燃料を米国に緊急で輸送してもらいました。この燃料は地下避難所用の発電所で使われるものでしたが、その中に核兵器に使用される濃度のものがありました。」
「米国に問い合わせたところ、「世界的な核燃料不足に自国用燃料が不足したため代用品を送った」との回答を得ましたが、その真意は確認できていません。」
当時の日本国は政治的に不安定な状態であった。国が分裂するかもしれない混乱の中で、この情報は政府に伝えられることはなく、関係省庁の一部の幹部と職員の間で秘密にされた。兵器転用可能な核燃料が悪用されることを危惧したためだ。
「核爆弾は半年以内に実戦投入可能です」
防衛省職員が発言する。
「それで?唯一の被爆国である我が国が核を使用すると?」
「国民の・・・被爆関係者の前で「日本国は核を使用します」と私に言えと?」
総理は問いかける。
問いかけに文部科学省と防衛省の職員は「それ以外に日本を守る方法はありません」と答える。
「分をわきまえたまえ!」
普段はあまり感情を表に出さない総理が声をあらげる。
「なぜ当時の政府に情報を伝えなかった!国民に情報を公開するも、非公開とするも、国民に選ばれた我々(政治家)が判断することだ。貴方達ではない。」
総理の言葉に会場は静まり返る。会議は平行線をたどり終了した。
極秘会議が終了して数日後、怪物と核燃料の情報がマスコミにリークされ、核使用の判断を巡って国を二分する大問題となる。
転移後から怪物に悩まされてきた国民世論は核使用に傾いていた。核使用を頑なに反対していた被爆関係者は不特定多数から誹謗中傷を受けることになる。その現状に心を痛めた総理は緊急会見を行い、怪物に対して核を使用することを発表する。そして、核議論で割れた国民の間に入るように、総理は反対する被爆関係者の前を訪れ、核を使用することへの謝罪と理解を求めた。
日本国初の核使用から2年後、北海道の北方にある怪物のコロニーで6発の核が炸裂する。その爆発は巨大な魔力の嵐も併発させ、コロニー内の怪物を全滅させることになる。
日本国の核開発は止まることなく進み、後に強大な核戦力を保有するに至る。
登場人物「総理」の説明。ころころ変わっていたので見分け方を紹介。
転移前に国民の海外避難を止めたのが総理A。
転移後すぐに退陣した防衛音痴の総理B。
総理Bのあとに就任した総理C。
この話で出てきたのは総理Cで、冒頭で核ボタンを押した人です。総理Cは訓練された総理で、今後長期に渡り日本国民を導いて行きます。
ストーリーの進行重視で話を投稿する予定ですが、今回のような話も少し投稿していきます。