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とある転移国家日本国の決断  作者:
黒霧連合結成
86/191

日本国の野望 その3

日本国東京都、霞ヶ関

 ある省庁の一室では「名も無き組織」の面々が集まって緊急補正予算の大幅な見直しが行われていた。


「一外交官にしてやられましたね。」

「仕方あるまい。精霊の有用性を把握できなかったこちらに非がある。」


 組織は、肝いりで進めていた蜀の要塞建設が白紙となったことで、計画のために獲得した予算と労力、資材を他方面に転用する計画変更に追われている。

 組織は幅広い根回しをしており、多額の予算が割かれた計画の変更に、組織への評価は大きく低下した。要塞建設見直しの緊急会議では、組織の発言力低下を危惧して計画を強行することも案として挙げられたのだが、精霊の有効利用で得られる成果とコストダウンの大きさを鑑みれば、計画を変更せざるをえなかった。このことにより、東部森林地帯の要塞開発規模は当初の10分の一以下に抑えられることとなる。


「決まった予算の変更は骨が折れます。職場に戻ったところで誰も手伝ってくれない・・・」

「勝手に動いて勝手に失敗したんだ。自分の不始末は自分でしなければならん。」


 要塞建設を主導した名も無き組織のメンバーは皆、死んだ魚のような目をしながら後始末の会議にあたる。



 沈んだ空気が流れる部屋の隣では防衛装備品の会議がおこなわれていた。


「空自に関してですが、来月にはF-15Xの試作量産機、8機が納入されます。」

「もう完成したのか? ずいぶん早いじゃないか。」

「F-15Xはまだ未完成で、今回の機体は試作量産型です。」


 兵器事情に疎い職員にもわかるように、担当職員が説明する。この試作量産機は飛行が出来るだけで武装が一切できない。F-15Xは完成してからXの文字が抜け、正式名称が決まってから量産が始まるのだが、それまでの飛行訓練、試験用の機体である。


「それは飛ばして大丈夫なのか? 黒霧発生前にF-35で事故がおきていたような・・・」

「機体開発には必要な行程ですよ。今回は例の新パイロット達を使うので、落ちたところでベテランパイロットを失う危険はありません。」

「F-35ですが、機体の目途は立ったものの、プログラムが間に合わない可能性が高くなりました。これは、他に優先すべきプログラム開発が増えたためです。」


 パンガイア戦に備えた防衛計画は、衛星画像やジアゾ外交団がもたらした情報によって変更が加えられていたが、最近では神竜教団からの情報提供と共同研究から、更なる大幅な変更がなされていた。


「F-35は現状の機体数を維持しつつ、性能を引き出すといったところでしょうか・・・」

「その方向でいいと思います。今は蜀へ供給するF-2C関連の開発もあるのです。」

「あれか・・・供給する機体数の割に予算が多くついているのは何故なんだ? 結構クレームが来ているぞ。」


 内情を知らない職員は、1機あたりの調達予算が自衛隊のF-2よりも高くついていることを疑問に思っていた。


「それは追加機能と装備によるものです。」


 蜀へ供給するF-2Cは自衛隊の機体にはない機能が追加されていた。武装で大きな追加は対戦車ミサイルと誘導クラスター爆弾の運用能力獲得である。また、対レーダーミサイル「HARM」が運用できるようになっていた。HARMは黒霧に囲まれる前に米国から生産ラインそのものを購入していたものである。既に自衛隊では対レーダーミサイルは形になっているが、当たり前ながら実戦での実証はされておらず、信頼性という面でHARMに軍配が上がった。

 魔法が主流であるファンタジー世界に、対レーダーミサイルが必要かと言うと必要はないのだが、古代兵器は魔力波を発して索敵を行っていることが分かり、HARMを基にした対魔力波ミサイルの共同開発を神竜教団と蜀で行う予定になっていた。


「更に、パイロットの多くが獣人である点が挙げられます。」


 当初、F-2Cと共にヘルメットやパイロットスーツの供給が行われる予定だったが、獣人には装備できないことが判明し、急遽獣人用の装備が開発されることになったのである。開発現場からは「耳と尻尾をどうする? 」「重力が獣人に与える医学的な情報が無い! 」などの悲鳴が上がっていた。また、超低空でも安全に脱出できるパラシュートの開発、クライアントからの要望も費用に含まれている。


「この予算で押さえられている方が奇跡です。」

「航空自衛隊の作戦機全てに無人機運用能力を付与する計画も進んでいるため、産学官の連携が非常に重要になりますね。」


 自衛隊の新装備開発は既に国のキャパシティーを超える規模となっていた。人、物、時間、全てが足りない中で重要なものから順に効果的に予算と人材を振り分けていく作業が続く・・・



「海自の無人護衛艦隊は何時頃整備するのですか? 」

「6ヵ年計画の2年目から作り始めて、順次建造数を増やして4年目から国内の建造能力をフル活用して整備する方針です。今は護衛艦より資源を輸送するための船を造らないと、国が回っていきませんからね。」


 話は海上自衛隊に移る。パンガイアの戦力予想がだんだん固まってきた現在、今からでも護衛艦を全力で造りたいのだが、国を回す資源も護衛艦を建造するための材料も不足しているため、6ヵ年計画4年目までは海上自衛隊の予算が大幅に削減されていた。


「今後のために今は我慢してもらいましょう。しかし、今年度の海自予算から米海軍の艦艇修理費が出ているのはなぜです? 在日米軍駐留経費負担に組み込めなかったのですか? 」

「その項目は一般には開示されないものです。」

「転移前、黒霧に囲まれる前に在日米軍は重要戦力を避難させたのですが、原子力潜水艦が1隻黒霧に接触して横須賀に戻ってきたのです。黒霧の侵食が酷く、国内の資源不足から修理が行えなかったのですが、使わない手はありませんので・・・」

「それにしたって、ただでさえ少ない海自予算から更に予算を回すのはどうかと・・・政治ですか? 」


 思いやり予算からは出せない出費、一般には公表されない予算。これ程の怪しい予算は政治が関係していた。

 在日米軍は微妙な状態にある。転移直後の混乱では何とか規律を維持できており、襲い来る魔物から周辺住人を保護していたが、現在は家族も国も無くしてしまった状況が判明し、兵士達の心は不安定になっていた。彼等は黒霧に囲まれても国に帰ることが出来ると考えていた兵士が殆どだったのだ。

 魔物に対する核使用で国が真っ二つになっている日本国で、原子力潜水艦の修理に予算を出すというのは国民の米軍に対する不信感や反発を招きかねず、公にしたくない情報だった。


「めんどくさいですねぇ。わざわざ北海道で魔物を集めて使わなくても、直接巣を核攻撃すればいいのに・・・」

「手順が重要なんだ。一歩間違えれば核攻撃も出来ずに政権交代さ。」

「それに、実験は必要ですからね。それはそうと、文科省は大丈夫なのですか? 自衛隊が警備しているとはいえ、既に6発の核爆弾を保管してるのでしょう? 必要に迫られて急遽作ったやつが。」

「転移前に米国から送られてきた「燃料」のおかげで短期間で完成しました。保管も警備も厳重なので心配はいりませんよ。」

「その米国からのプレゼントだけど、日本にいる米国人で知っている人間が誰一人としていない理由は、まだ話せないのかしら・・・」

「それは私にもわかりません、米国内でもトップシークレットだったのでしょう。」


 名も無き組織は国の存続を目標として生まれた組織である。彼らは目指すものが一緒であるため連携がしやすく、直ぐに国を動かせるという強みがある。だが、一枚岩と言うわけではない。



防衛省の一室

 この部屋では蜀への兵器供給に関して問題点が話し合われていた。


「多連装ロケットシステム200両を追加で供給・・・FH70を500門供給すると決定してから半月も経たないうちにこれですか。」

「蜀に陸上自衛隊を超える戦力を供給するのは、誰が見ても危険なことです。」

「現状では危険を承知でやらざるを得ない。蜀は唯一の資源供給国であり、西から侵攻してくるパンガイア連合軍の防波堤。そして、240万㎢を超える国土を守るには、これでも少ない。」

「海自兵器の供給はしないので、陸空の戦力を強化するしかないのです。」


 日本国としては、パンガイアとの戦争が始まっても可能な限り資源を輸入する考えである。西の防波堤としての役割も期待しているため、出来る限り時間稼ぎをしてほしいのだ。


「我々は日本全国、特に北海道で魔物と戦っている。その予算を大して増やさないで蜀に回すのはいかがなものか? 」


 連日北海道に上陸してくる魔物に、自衛隊は苦戦し始めていた。当初は人員の増強と兵器の効果的な投入で防げていたのだが、国民からクラスター兵器の自国内での使用に大きな反発があり、MLRSの効果的な使用ができなくなっていた。更に、地上部隊の上空支援は攻撃ヘリが主になるのだが、主力のAH-1Sが老朽化で墜落事故を立て続けに起こして稼働率が低下、その数を減らしていた。

 結果、上陸した魔物の群れに対して上空支援なしで地上部隊が対応することが増えてしまう。


「敵の巣に対して核攻撃が行われれば、状況は大きく改善します。」

「国民が割れている状況では何時になるかわからない。このままでは何時大損害が出てもおかしくない! 」


 防衛省の危機感は現実になりつつあった。しかし、この状況を手をこまねいて見ていたわけではない。


「AH-2の量産は既に始まっています。間もなく新戦力が投入できるでしょう。」


 AH-2はAH-1Sの後継として転移前から開発が進められていた機体である。当時の日本国には攻撃ヘリの必要性が見いだせずに長年放置されていたが、転移後の新状況に押される形で開発が急ピッチで進められたのである。

 AH-2の開発はAH-1FやAH-64E、またはOH-1を基にしたものまであり、決定には時間がかかったもののAH-1Zを基に開発された。UH-2同様、双発エンジンにメインローター4枚など、飛行性能や安全性が大きく向上している。

 他にもAH-64Eを基にしたAH-3の開発が行われ、蜀向けにはAH-64Ⅾの生産が始まる予定である。


「初の実戦では、単機でクイーン6体、他撃破多数の戦果をあげています。間もなく形勢はこちらに傾くでしょう。」

「それは対処療法に過ぎない。何時かは限界が来る。それまでに奴らの発生地点を破壊しなければ・・・」


 既に強力な兵器を保有しており、敵拠点の構造も判明した。後は命令を待つのみである。

 だが、国民の理解が得られなければ政治家は動けず、総理大臣は自衛隊に命令できない。国を、国民を守ろうと必死で戦い続ける自衛隊は国民の無理解に本来の力を出せないでいた。

オリジナル新兵器がどんどん出てきます

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― 新着の感想 ―
[一言] バケモノが上陸してくるのに、クラスター爆弾を使うなとか、どこのアホか。 こんなバカ設定は、なろう小説ではよくあることだが、いくら平和ボケの日本人でも、こんなこというわけないぞ。
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