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とある転移国家日本国の決断  作者:
パンガイア大陸動乱
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ひよこ達の休日 その2

南海大島西部、ポロ村。


 戦渦を免れたポロ村の住人達は生活再建の最中であった。連合軍の攻撃は3ヶ月という短期間にも関わらず、南海鼠人国家を滅ぼし、多くの犠牲者を出していた。そのあまりにも大きい被害に比べればポロ村は幸運に恵まれていると言えるだろう。


戦争を生き残ったポールは故郷に戻り、自警団に入る傍ら復興活動に従事していた。


「アダムスさん、柵の修復が終わりました。」


「いつもありがとな。自警団には頭が上がらないよ。これ、少ないが持って行ってくれ。」


唐突にポールは大きなチーズの塊を渡される。


「気にしないでください。僕は当たり前の事をしているだけです。」


「そんなことはない。牧場に居座っていた大蠍を駆除してくれたんだからな。」


アダムスは受け取りを拒むポールに強制的にチーズを持たせる。


 戦争が終わって南海鼠人は大幅に弱体化していた。兵器工房は大半が破壊され、軍は解体。多くの男手を失った状態の南海鼠人達は原生生物の標的となっていた。

 以前は軍や自警団が各地の砦や監視所に詰めて周辺の安全を確保し、定期的に魔物などを討伐、駆除していたのだが、それらが戦争で全て失われたことで村から村へ移動するだけでも命がけな大昔の状態に戻ってしまう。日本国としては蜀軍と自衛隊、民間警備会社で治安の維持を計画していたものの、蜀軍が早々に引き揚げてしまい計画は破綻、次々に発生する魔物の被害を防げないと判断した国は南海鼠人の再武装を許可する。ポールのような元軍人を自警団員とすることで地元の警備を任せることにしたのだ。

 南海鼠人の再武装は多くの不安を抱かせるものであったが、南海鼠人達に再独立等の動きは無かった。理由としては彼らは新聞やラジオで黒霧内の世界情勢を把握していたからである。現在、南海大島西部は実質的に日本国の保護領となっている関係で、長年争ってきた倭国の妖怪達は南海鼠人に手を出せない状態になっていた。属国のような扱いであるが、有史以来の天敵を心配しなくて済む状況は多くの南海鼠人に受け入れられていた。何より、彼らは戦争に疲れ切っていたのである。


「今日の業務はここまで、村に戻るよ。」


 ポールはアダムス牧場の復旧に携わる面々に指示を出す。この復旧作業には村の住民だけでなく、外部の者も多く参加していた。


「素早く撤収して整列、人数確認。」


 きびきび動いている集団は孤児院の年長孤児達である。日本国が建設した西部の大規模孤児院の孤児達は年齢によって学業の他に復興作業にも投入されていた。


「菊池先生、人数と装備、異常なしです。」


「怪我は無いな? よし、車に乗り込め。」


 菊池と呼ばれる日本人の指示で孤児たちは車に乗り込んでいく。その傍らでは他の日本人達も自身の車に乗り込む。ポールはその光景を見ながら彼らが初めて村に来た時のことを思い出す。

 南海鼠人の暫定政府は西部全域の復興を最優先に行っており、村には事前に連絡が来ていた。復旧が必要な個所を伝えて政府が派遣してくる人員を待っていたポロ村だったが、派遣されてきたのは日本人が率いる孤児達であった。

 まとまった男手が派遣されると考えていたポロ村は落胆したが、後日日本人の集団が重機を入れたおかげで復旧は大幅に進むことになる。

 ポロ村の住人は戦時中の経験から日本人に対して恐怖を抱く者が多かったが、南海鼠人で構成される暫定政府の要請で動く日本人に大きなギャップが生じていた。当初は「日本人が移住してくるのでは?」「土地が奪われるのでは?」と懸念していたが、日本人は移住することは無く、仕事が終われば彼らは次の仕事場に移動していった。

 日が経つにつれて日本人への偏見は薄れていき、現在では日本人がいても恐怖を感じる者は少なくなっていた。


 ポールは日本国から自警団へ供給された多目的車両「軽トラ」に乗り込む。軽トラはその能力から南海大島で真価を発揮していた。小型軽量4WDで走破性、整備性が良く、人員輸送、物資輸送、警戒活動に幅広く使われ、復興を後押ししていた。

 ポールの車両は村で自警団仕様に改造してあり、座席上部に銃が掛けられる他、荷台からも車内の銃を取れるようになっている。また、荷台には収納ボックスが装備されており、状況に合わせた様々な道具が収められていた。


ポール達が村に戻ると、1人の日本人がうずくまっていた。


「う~、気持ち悪い・・・」


「利子~また車酔いか? だらしねぇなぁ。」


「この仕事に向いてないんじゃないかな? 」


 赤羽利子は悪路による車酔いに苦しんでいた。そして、最近仲良くなった鼠人の孤児「ユース」と「キド」にからかわれていた。


「うるさ~い、私は、まだ、大丈ぶっ・・・」


力なく反論する利子だったが、そのまま日本人が設置した公衆トイレに駆け込んでいく。

 そんな利子を前に、ユースとキドだけでなく周囲の鼠人達も戦争が与えた日本人への恐怖心は根底から崩れていった。ただ1人ポールを除いて・・・


ポールは自警団の事務所に立ち寄って業務の報告を行ってから自宅に戻る。


「ポールおかえり。」


 家に入ると双子の妹カタリナがポールを出迎えた。この家は現在、ポール、カタリナ、サラの3人で暮らしている。両親は西へ出稼ぎに行っており、長期間不在となっていた。


「これから料理を作ることろだから、待ってて。」


「カタリナ、サラは? 姿が見えないけど。」


「サラだったら孤児達と遊んでるわよ。」


定期的に村へ来る孤児達とサラは、いつの間にか友達になっていた。


 ちょくちょくサラがユースやキド達と遊んでいる所を目撃していたポールは複雑な気分になる。以前だったら家に帰ると自分に抱き着いてきていたのだ。


「ポール、サラだっていつまでも子供じゃないんだから、好きにさせてあげたら。」


ポールに漂う空気を読み取ってか、カタリナはポールに話しかける。

 確かに妹に対する感情はカタリナの読み通りである。しかし、サラの遊び相手のユースとキドに関してポールには秘密があった。2人は孤児院が休みの日に密かにポールの元を訪れていた。



それはポールが1人で畑仕事をしている時に急にやってきた。


「「お願いです。銃の扱い方を教えてください! 」」


突如現れた2人にポールは事情を聴く。

 2人は西の大規模孤児院の孤児であり、戦争によって目の前で母を殺された事を話す。そして、当時何もできなかった自分達は、妹だけでも守れるようになりたいとポールに話すのだった。

 ユースとキドは授業の一環で各地を回っていた時、戦時中に少年兵部隊、第55部隊が日本軍との戦闘で成果を挙げたという噂を耳にする。各地で情報を集めた結果、銃の名手であるポールがポロ村に住んでいることを突き止めた2人は、休日にポロ村向けの輸送車両に紛れ込んでポールの前に現れたのであった。


 当初、ポールは2人の頼みを拒否する。もう戦争は終わったのだ。魔物が闊歩するようになったが、自警団が機能し始めた今は以前の治安を取り戻しつつあった。

 それでも引かない2人にポールは「約束を守れば教える」と言い、銃の扱い方を教えることにした。


「銃を持てば非力な鼠人でも魔物に対抗することが出来る。裏を返せば、妖怪ですら簡単に殺傷できる武器だ。これから教えることは大切な者を守る以外に使わない事、そして銃は正規の物を正式な手続きを経て使う事。」


ユースとキドにとって実戦を経験したポールの話は重いものだった。


「使い方を誤れば今まで積み上げてきたものを一瞬で壊してしまう。戦争で死んでいった人達が築いたこの平和を、壊すも護るも扱う人間次第だ。それを忘れないでくれ。」


こうして3人は孤児院の休日に密かに銃の取り扱い訓練をすることになった。


 ポールは周囲にばれないように注意を払って2人に訓練をしていた。しかし、ユースとキドのクラスがポロ村の復興に派遣されるようになり、担任の菊池から「生徒が世話になっている」と言われた時、ポールは全身の血の気が引くことになる。ポールは菊池に事情を説明し、全て自分に責任があると話す。戦争が終わったとはいえ、日本人への恐怖を未だにトラウマとして抱いていたのだ。また、本島鼠人に近いポールは菊池が軍人であることを見抜いていた。

 菊池は上へ報告しない代わりに、ユースとキドの状況を自分に教えてほしいとポールに持ちかける。事情は分からないが、ポールは菊池の提案を呑み、ユースとキドに気付かれないように菊池とも裏で接触することになる。



 後日、孤児院が休みの日にいつも通りユースとキドはポールの元を訪れていた。そこでポールは2人に菊池について尋ねる。菊池は孤児から慕われ、良き教員と言うことが分かる。そして、驚くことに2人は菊池が軍人であることを知っていた。これ以上踏み込んだ話をすると疑われるので、ポールはそれ以上の話はしなかった。


「それにしても、利子のやつ間抜けだよな。」


「あんな所で転ぶこと自体ありえないね。」


休憩中に2人は間抜けな日本人の話題で盛り上がっていた。2人とは歳が3倍以上離れている人生の先輩に対してあまりにも失礼な態度であったが、その名を聞いたポールは釘を刺す。


「2人とも聞いてくれ、日本人は戦後に僕たちを助けてくれている。ただ、利子という日本人には気を付けろ。」


 ポールの話をユースとキドは全く聞かなかった。「あの間抜けの日本人に何ができる?」といった感じである。


 ポールは戦後、多くの人種に会う機会があった。日本人、蜀人、倭国の本島鼠人や妖怪。特に印象に残ったのは妖怪で、初めて見た時はその妖気に戦慄を覚えたほどだった。「こんな怪物と戦争していたのか」と現物を見た時に初めて実感する。

 日本人は魔力も妖力も持たない異質の存在と知り、実際に会った日本人からは本当に何も感じなかった。だが、最近になって赤羽利子という日本人に会ってそのイメージが大きく変わることになる。


「そ、そんな馬鹿な・・・皆、なんで普通に話せるんだ?」


 ポロ村の復興作業に来た一団の中に、妖怪に匹敵する怪物が紛れ込んでいた。ポールは初日に利子と話すことはできず、会話出来たのは1週間後となる。


 今のところ害は出てないが、その魔力から人畜無害ということはあり得ない。ポールは利子に対して村人に注意喚起しつつ、警戒するのであった。

ひよこの休日は次回で終わります。

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