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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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日本国の野望

野望を抱くくらいでないとこの世界では生きていけないようだ。ただ、作中の日本は野望と言うより絶望が近いかも知れない。

日本国東京、防衛省

 転移前からの混乱と転移後の混乱が収束を向かえつつある現在、防衛省では新たな防衛戦略の策定と調整が行われていた。国際情勢を把握し、各国へ派遣された武官が現地の情報を収集し、その情報を元に懐事情を考慮して決めていく。異世界に転移したといってもやることは変わらない。しかし、ジアゾ合衆国の外交団が訪日したことで、今回の防衛戦略は大幅な変更が行われることになった。


「空自にかなり食われるな・・・」

「次期戦闘機がこんな状態じゃ仕方ないですよ。せめてF-35のプログラムが完成してから転移したのであれば、まだ救いはあったのですが・・・」


 航空自衛隊はF-35を導入している。最新のステルス戦闘機であり、当初予定していた次期戦闘機F-22を米国が輸出しない方針をとったため、検討に検討した結果導入に至った機体である。

 F-35は機体自体完成しているものの、高度なアビオニクスを最大限活かすプログラムが膨大な量となって開発は遅延し、最初に自衛隊へ引き渡された機体は戦闘ができず、ただ飛べるだけの存在であった。その後、数度のアップデートが行われ、何とか戦闘が可能な状態になったものの、未だに高度なアビオニクスを活かせないままである。


「プログラム完成は早くても10年以上かかると言われています。一応の形になるとしても数年、次の戦争に間に合うかどうか・・・」

「間に合わせるしかないだろう。次の戦争を戦うには戦闘機の数が少なすぎるんだ・・・」


 多くの職員が戦力不足を実感していた。黒霧発生前、少ない防衛予算の中でF-35を購入するため、旧式のF-15を米国に売却して購入費用に充てていた。近代化改修のできない機体だったが、パンガイアとの戦闘には十分使える性能だったため、その分の戦力喪失に職員は頭を抱える。


「F-15MJへの改修は順調で、来年には全機体の改修が完了しますし、2年後にはF-15Xの生産が始まります。そこに賭けるしかありません。」


 若手職員が予定表を確認しながら話す。F-15の近代化改修は以前から少しずつ行われていたが、予算不足と黒霧の混乱で予定が大幅に遅れていた。転移後も細々と行われていたものの、現在は状況が一変し、大慌てで残りの改修が行われていたのだった。

 また、他方では戦闘機の完全国産化計画が進行している。転移前の地球ではF-35の完成が遅れに遅れ、開発費用が高騰、機体の単価も上がったため導入数を控える国が出始めていたが、そんな時に米国で発表されたのがF-15EXである。米空軍の旧式F-15を更新するために計画されたものだが、何時まで経ってもアップデートが完成しないF-35に不安を感じていた日本の防衛関係者はF-15EXの導入に意欲的になっていた。

 防衛省は将来的なライセンス生産を目指し、黒霧に囲まれる前に4機を導入していたものの、転移によってライセンス生産計画は頓挫してしまう。防衛省のF-15X生産計画は今まで日本が培ったF-15の技術を総動員してのコピー計画である。

 更に、F-15とは別に黒霧に覆われる前に米国へ泣きを入れて日本国内に再現してもらったF-2の生産設備が一足早く稼働していた。生産ラインは一度閉められてしまうと再開は不可能と言われていたが、F-16の派生型でも独特の進化を遂げていたF-2は、米国にも十分な技術が吸い上げられていたために生産ラインの再構築が辛うじて可能だった。勿論、再生産される機体は既存のF-2を超える新型である。


「パイロットの不足は深刻ですが、無人機部隊の創設は2年後の目途が立ちました。南海大島へ投入された試験機RF-15は想定以上の成果を上げています。無人機部隊が量産されれば、戦争を有利に進められます。」


 日本国は黒霧調査のため、無人機技術を向上させ、国際協力によって技術はかなり高められていた。現在、F-15MJへ改修の際にコクピットを大幅改修してAIコンピューターを搭載、AIが戦闘機を操縦するという方法で無人機部隊が創設され始めていた。




「海自の再建具合はどうだ? 」

「乗組員が艦に戻って訓練を再開しています。報告によると順調なようです。」


 海上自衛隊は日本が黒霧に囲まれて以降、その存在意義を大きく失っていた。燃料節約のため多くの護衛艦が基地に係留され、乗員には地上待機が言い渡された。そんな状態が何年も続いてしまったので練度低下が心配されていたのだ。


「海自にも無人護衛艦隊構想が持ち上がっています。既に、北海道の北にある怪物のコロニー探索などに使われています。」

「海自も人員の大幅増が必要だけど、陸自と合わせると徴兵でもしない限り集まりそうにないわね。」


「不足人員の件は既に解決の目途が立っている。お前たちは心配しなくていいから自分の仕事をしろ。」


 人員不足を心配する若手に、突然現れた幹部は冷ややかに答えた。突然の幹部登場に若手職員達は蜘蛛の子を散らすように去っていき、今度は幹部職員同士の会話が始まる。


「在日米軍ですが、要請があればいつでも参戦するそうです。要請が無ければ独自に動くとも言っています。」

「当然か、この世界にとって日本人も米国人も関係ないからな・・・それより、戦争まで6年はあるが米軍は兵器と練度を維持できるのか? 」

「無理ですね、共食い整備を行って消滅するでしょう。なので、自衛隊の装備を供給する予定です。規模が大幅に縮小したとはいえ、在日米軍を腐らせるわけにはいかない。」


 在日米軍の戦力は現在、航空戦力がその大半を占めている。黒霧に日本が囲まれると分かった時点で海兵隊や空母機動部隊はグアムやハワイに引き上げ、空軍と海軍の一部が残されているのみであった。当初、海底や黒霧上空は通過可能だったため、航空機や潜水艦が残されていたのだが、急速に発達した黒霧に閉じ込められてしまった者達である。


「ロシア軍は今のところ平穏だが、戦争が始まったら彼等にも手伝ってもらわなければな・・・」

「えぇ、衛星画像からしてそこそこの戦力があります。北から東京を目指してくる敵の防波堤位にはなってくれるでしょう。」



他の部屋では若手職員が陸上自衛隊の装備調達について話していた。


「大半の兵器は自国での生産の目途が立ちました。陸自も戦車などの量産が進められています。」


 転移以降、日本を襲撃する怪物達から国を守ってきたのは陸上自衛隊であり、現在大幅な増強が行われていた。陸上自衛隊はその装備の大部分を国産で賄っているため、予算や人員不足以外に問題は無いように考えられていたが、大きな問題をいくつも抱えており、その一つが今話し合われようとしていた。


「機関銃の問題はなんとかなりそうか? 」

「メーカーがやっと特許を手放したところです。これから改修が始まります。」


 自衛隊の機関銃は最近まで大手重工メーカーが生産していた。しかし、このメーカーが作る機関銃は精度や強度が全く信用できないものであり、同じ機関銃を作っても米国製の物と、このメーカーの物では大きな差が出ていた。転移前、国産機関銃に不信感を募らせていた陸自幹部が発案者となり、日本は米国から大量の機関銃を輸入していたのだが、この判断は称賛されるべきだろう。

 その輸入機関銃と国産機関銃はFN社が開発したMINIMIとブローニングのM2であり、南海大島ではデータ取りのため、国産と米国産で分けて部隊に配備して運用された。結果は一目瞭然であり、国産機関銃は多く故障が発生する惨憺たる結果となる。

 防衛省はこのデータを突きつけてメーカーに改善を迫ったものの「社内調査を実施する」と言うだけで進展は無かった。メーカーは以前にも重機関銃の試験結果すり替えや強度偽装などを行っていた前歴があったため、防衛省はメーカーを告訴し、機関銃の特許を手放すよう強硬策に出る。

 メーカーは抵抗したものの、総理の行った汚職一掃作戦によって不良兵器を戦地に送った会社ということが国民に知れ渡り、ちょっとした国民運動が起き、政府と国民から圧力を受ける形になったメーカーは特許を手放さざるをえなくなった。以降、産学官での機関銃改良が行われることとなったのである。

 この一件は多くの国民に疑問を抱かせることになった。「日本は戦車や宇宙開発ができるほどの技術を持った国なのに、なぜマトモな機関銃が作れないのだろうか?」と。

 実は機関銃作りには多くのノウハウが必要であり、設計図通りに造ればいいと言うものではなく、日本は必要なノウハウを持っていなかったのがマトモな機関銃を作れない原因であった。更に、メーカーは試験の改ざんを行い、不良品をそのまま納入するという悪行を働いていたことも大きな原因である。作る技術がないなら、海外メーカーに技術協力を依頼するなり国に支援を求めればよかったのだ。その結果、平時に機関銃の発注がなくなったとしても、改良さえできれば今のような有事の際に対応できたのだから・・・


 陸上自衛隊には他にも装甲の無い装甲車やヘリ部隊問題などあるが、大急ぎで根本的な改善が進められていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] スーパー改は、結果的にF-2非で性能劣化機ですぞ。 F-2の最終製造型に普通に性能追い抜かれているし。(なのでギャグ機として扱われている) 日本が現在作ってないのは、スナイパーポットぐらい…
[気になる点] それとは別に黒霧に覆われる前に米国に泣きを入れて日本に移転してもらったF-2の生産設備が一足早く稼働し始めていた。 と有るがF-2は国産ですよ。
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