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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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赤羽利子の旅立ち

赤羽家では利子と触手の会話が続いていた。


「主様に魔法を教えることはできません」


「えっ何で? 貴方は魔法の生き物でしょう?」


 魔法の生き物なのに魔法を教えられない? 利子は触手に聞いてみる。


「確かに私は魔法生物です。しかし、主様と私では体の構造が違いすぎるのです。」


 触手は魔法を行使する上での注意点を話す。人間などの場合、魔力回路が形成される4、5歳の時に親や教師、あるいは師匠によって専門教育と基礎訓練が行われ、少しずつ使えるようにしていくのが一般的である。これは人間の器用貧乏なところが大きく影響していて、人間がその気になれば、あらゆる魔法が使える反面、それに見合った専門知識と訓練が必要となる。最初から特定の魔法しか使えないようにできている魔法生物とは根本的に異なったものであり、触手が利子に魔法を教えることはできないのであった。


「この世界では魔法を教えているどこかの組織に入るか、家庭教師を雇うのが一般的な方法ですが、日本国内ではその方法は使えないでしょう。しかし、どうしても主様が魔法を使いたいならば、一つだけ方法があります。」


魔法を諦めきれない様子の利子を見て触手は提案をする。


「できるの? どうやるの、早く教えてよ。」


利子は諦めかけていた魔法が使える希望ができたので触手に話を急かす。


「私と主様の合体でございます。」


「 へ? 」


思理解できずに利子は間抜けな声を出す。


「正確には融合といった表現が正しいでしょう。私と融合することによって主様は私の特性を持つことになります。それにより、私の魔法を主様が使えるようになるのです。」


「つまり、どういうこと? 魔法が使えるようになる以外に姿とかの変化はあるの? 」


嫌な予感がした利子は合体による変化を細かく聞くことにした。


「状況によりますが、合体には多くの利点があります。まず、魔法生物に近い存在になるので疫病に罹らなくなります。また、私は魔法と物理的な攻撃に大きな耐性を保有しておりますゆえ、時折外を走っている車に轢かれた程度では怪我もしないでしょう。4センチほどの隙間があれば通り抜けることもできます。見た目は人の形になると思いますが、体は私と同じものになるでしょう。体の支配権は主様にあるため、合体の解除は主様が解除魔法を行使することでできます。」


 利子は全てを理解し、うんうんと頷く。つまりは触手と合体することで自分がホラー映画の主役になれるわけだ。主役と言っても怪物の方である。


「却下。」


 利子はこれ以上の会話を止めて寝る準備を進める。風呂に入り、触手をボストンバックに詰め込んでから布団に入った。


「何とか魔法が使えるようになれないかな・・・」


利子は未だに魔法を諦めきれずにいた・・・



次の日、利子は学校の進路相談室で熱心に調べ事をしていた。


「外交官、、、私の頭じゃ無理。」

「海外魔法学校への留学、、、世間に触手のことをどう説明する? 無理。」

「海外の家庭教師を雇う、、、お金がないし一体誰に相談する? 無理。」


 魔法を教えてもらえそうなところは中々見つからず、あっても現実離れした物ばかりであった。


「どこもダメか~」


 椅子にもたれかかって壁を見ると、昨日見たポスターが壁に掲示されていた。「この世界には君を必要としている人々がいる」の文字の背景には南海大島の写真が載せられていた。その写真を見て利子は立ち上がる。「戦争孤児の授業風景」と書かれている写真は明らかに魔法の授業が行われているものであった。


「これだ! 」


利子は学生派遣についての資料を調べ上げ、必要なものの準備を始める。


「まずは両親の説得だね・・・」



 夜、利子は両親に進路について打ち明けた。そして猛反対を受けることになる。特に母は強く反対し「こんな子供に育てた覚えはない」とまで言う始末であった。

 つい最近まで戦地であった所に高校生の娘が行きたいと言い始めたのだから当たり前の反応である。利子の両親は転移前、戦争終結直後の中東へ無理して入国した日本人がテロ組織に人質として捕まり、斬首された事件を知っていた。今の娘は殺害された日本人と同じに見えたのだ。それでも利子は自分の考えを伝えて説得を続ける。

 いつもとは違う娘の態度に異変を感じ、最初に理解を示したのは父であった。


「今の時代だからかも知れないな。どの道、日本は近い将来戦場になる。やりたいことを今のうちにやらせてやったらどうだい? 」


「あなた! 利子が殺されちゃったらどうするのよ。」


「やりたいことをやっている中でならいいんじゃないか? 利子はもう大人だ。」


 どうやら両親は自分が死ぬ前提で会話を続けているようだ。どうしてこうなった?

中東での日本人殺害事件を知らない利子にとって親の反応は大げさに見えた。親の心子知らずである。結局、父の説得によって母が折れ、利子は両親の承諾を得ることができた。


「次は学校への申請か・・・」


自室に戻った利子は次の予定を立てる。


「主様、派遣が決まった者には予防接種が義務付けられます。南海大島ですと、この種類です。接種間隔を考慮しスケジュールを立てました。」


 触手には話してなかったが、どうやら自分の行動は全て予測されていたらしい。でかした!触手。


 次の日、利子は担任教師に相談し驚かせることになる。最初話を聞いた担任は利子に諦めるよう説得を始め、両親に連絡を取ろうとした。しかし、利子は両親のサインがある申請用紙を見せて親の承諾を得たことを伝える。この学生派遣は国が力を入れている事業であり、ここまでされたら学校側に拒否する権限はなかった。利子は学生派遣第1号となる。

 利子の学生派遣は学校中に広がり、ある日の昼休みに男子生徒にちょっかいを出されることになる。


「戦地の観光に行くの~? 利子ちゃんには力仕事できないでしょ♪ 」


 以前、自衛隊に就職が内定していた生徒と喧嘩していた男子生徒である。この男子生徒は事あるごとに周囲の学生にちょっかいを出して喧嘩の原因をつくる、いわくつきの学生であった。


「はぁ? 何もできない男がデカい口叩いてるんじゃないよ・・・」


 普段から頭に来ていた利子は、あまり口に出さない言葉で威嚇した。利子がやろうとしていることは復興支援事業への参加である。何の落ち度もない利子へ行った男子生徒の仕打ちは、クラス全員から軽蔑の視線を集めた。


「へへへ・・・」


 男子生徒は利子の威圧とクラス全員の視線でクラスから退散していき、利子とクラスメイトは平和な昼休みを取り戻したのであった。


放課後、帰ろうとした利子をクラス委員長が引きとめる。


「昼休みの件はスカッとしたよ。お前もあんなことができるんだな。」


「普段から頭に来ていたんですよ、あいつ・・・」


「お前、変わったな。悪い意味じゃなくて、良い意味でさ。」


 溜め込んだストレスが原因なのか分からないが、今までの利子からは考えられないことをやっていた。


「何がお前を変えたか分からないけど、あっちじゃ気を付けろよな。」


そう言うと委員長は利子の前から離れていった。


「そんなに変わったかな、私・・・」


 その後、利子は必要なものを揃え、国が定める講習に参加し、正式な派遣学生となって南海大島へ向かうのであった。そして、自身の運命を決定づける人物と出会うこととなる。

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