バタフライエフェクト
成田空港に降り立ったフェイルノートは日本中の関心を集めていた。当初、黒霧内へ危険を冒してまで来た理由が「この世界の大半が瘴気内に侵略してくる」というものであったため、国民に情報が漏れないように対策が取られたが、息を吹き返したマスコミとSNSの前に効果は薄く、フェイルノートの乗員が移動中に記者の質問に答えてしまったため、その情報は日本国のみならず蜀や倭国の一般人にも瞬く間に広がってしまった。
何の非もない自分達が、何故戦争に巻き込まれなければいけないのか分からない国民は、政府にその答えを求める。だが、この時点で日本政府も戦争の理由がわからなかった。総理の留守を任されていた副総理は対応に追われ、国内へは「総理大臣が戻り次第、ジアゾの外交団と会談し国民に説明する」とし、時間稼ぎをしていた。
数日後、東京都内、某ホテル
ジアゾ合衆国の外交団は貸切のホテルで日本政府と情報を共有しつつ、今後の予定を話し合っていた。
「今後の予定ですが、2日後に日本国のトップが神竜との会談から帰国し、すぐに我々との会談が行われます。会談後、日本国政府と共同の記者会見が予定されています。記者会見の内容は直ぐに瘴気内国家へ伝えられるそうです。」
秘書官が淡々と予定を伝える。
「日本国は我々の活動を全面的にバックアップするそうです。これで各国での外交がし易くなりますし、遠く離れていても我々は連携がとれます。」
「倭国と蜀、神竜に会う3チームに分けての同時行動ができそうだ。」
議員や外交官は瘴気内の進んだ通信網に驚きつつ、日本国のバックアップを得られたことによって外交の効率化を行い、予定を変更していた。
当初の予定では、倭国にフェイルノートで不時着して倭国で会談、最低でも1週間の予定で政府を説得し、倭国の航空機で蜀へ向かい蜀の権力者との会談、次にヴィクターランドへ行き、神竜への協力要請という流れであった。試算では神竜の協力を得て、各国が態勢を整えるのに4~6年はかかると予想されており、上手く事が進んでも開戦に間に合うか分からなかった。
日本国による黒霧内の通信網整備は未完成だが、通信衛星は間もなく黒霧内をカバーできるまでになっていた。転移前、黒霧に邪魔されずに通信が行える通信衛星とGPS衛星の打ち上げが予定されていたのだが、種子島が黒霧に包囲されてしまったため、代わりのロケット打ち上げ施設を九州の南端に建設していた。転移後はこの2つの施設を交互に使い、各種衛星を打ち上げていたのである。
他にも日本から黒霧内各国へ海底通信ケーブルが引かれている最中であり、各国では地上施設と通信網が急ピッチで整備されていた。
「オクタール上院議員、神竜への謁見予定が前倒しされました。」
「これ以上早く到着できるのかね。」
神竜への謁見はオクタールにしかできない仕事である。そのために彼は次期大統領候補という肩書が用意されていた。神竜への謁見を早く行いたかったオクタールは、日本国の協力を取り付けてヴィクターランドまでの船を用意してもらうことになっていた。
「日本国との共同記者会見翌日、船に変わり飛行艇にてヴィクターランドに送ると日本側から連絡がありました。」
「飛行艇? ヴィクターランドまでは距離があるが大丈夫なのか。」
日本国からヴィクターランドまでは約5千キロ以上離れているのでオクタールは不安を口に出す。
「途中の海域に日本の艦隊がいるので、そこで補給するそうです。」
ジアゾ合衆国の外交団は新たな国の出現と予想以上に早く進む外交日程に嬉しい悲鳴を上げながら仕事を続けるのであった。
ジアゾ外交団の到着は日本国にとって寝耳に水であり、様々な国家プロジェクトの優先度が変更されることとなる。食料と資源調達、国内を復興して配給制度を無くす、黒霧消滅後の海外輸出etc・・・
政府は通信と防衛費に国力を注ぎ込む方針に変更し、配給制の廃止は無期限延期された。
2つの衛星打ち上げ施設は海に面しているため半漁人の襲撃を警戒して自衛隊が警備しています。危険なため付近の土地所有者には立ち入り許可が出ていません。
衛星打ち上げ施設と半漁人達は最後まで活躍しますよ。




