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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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日本国、黒霧外国家と接触する

瘴気中央部、通称「瘴気の森」

 いたる所で濃い瘴気が触手のような形を形成して蠢き、飛行限界高度を超える高さの触手が夕日に照らされながら動く姿は、まるで黙示録の地獄を彷彿とさせる。その中を最新技術の結晶であるフェイルノートは飛行を続けていた。既に一番危険な場所を抜け、進めば進むほど瘴気はその濃度を減らしていく。


「瘴気が薄くなってきている。森の出口は近い、最後まで気を抜くな。」


 機長は瘴気通過を前に再度乗員に注意を促す。機長の放送に乗員全員が今一度気を引き締めて各自の仕事を行う。そして2時間後、眼下には瘴気の代わりに海が広がっていた。


「諸君、おめでとう。我々は瘴気を抜け、偉業を達成した。」


 機長の放送に機内は沸き立つ。

 ジアゾ合衆国は人類史上初となる瘴気中央部の通過を実現させた。高官用のフロアではささやかな祝いの場が設けられ、瘴気内を操縦したパイロットは酒の代わりにコーヒーで祝杯をあげていた。


「機体に不具合は出ていません。エンジンも良好です。」


「倭国の場所は300年前の情報を元に推定されていますが、誤差はほぼ無いと考えられています。このまま南下し続ければ、魔振通信機に倭国の通信が入るでしょう。」


 機長に送られてくる報告は怖いほど順調なものであった。夜が訪れた空を、フェイルノートは星と計器を頼りに飛行していく・・・1時間後、それは突然現れた。


「7時の方向に未確認機1機! 」


「4時の方向にも1機います。」


「何! 機影はなんだ。竜か? 」


 突然の報告に機長は神竜の遣いが来たのだと考えたが、フェイルノートの左右に移動してきた機体を見た者は愕然とする。月明かりに照らされたその機体は航空自衛隊のF-35であった。


「鳥機だと! 瘴気内に古代遺跡は無いはずだ。まさか、既に大陸の手に落ちていたのか・・・」


「機長、あの機体は鳥機ではありません! 鳥機であったのなら早期に魔力探知機が反応したはずです。あの機体からは魔力反応がありません。」


「計器に不具合は?」


「計器はしっかりと瘴気の魔力を捉えています。良好に作動中。」


「機長、あの機体は初めてみます。飛行方式も鳥機とは異なるようです。」


 パイロットの報告によって冷静になった機長は隣を飛行する機体をよく確認し、通信員に指示を出す。


「あの機体と交信せよ。魔振、電波通信あらゆる周波数で交信を試みろ。」


 機内が慌ただしくなる中、高官用フロアではヒドラ・オクタールが窓から未確認航空機を眺めていた。


「魔力を一切感じず、機体形状も異なる。あれは鳥機ではありませんな。」


オクタールの隣で武官が考察する。


「鳥機ではないなら、あれは一体何だというのだ。」


「分かりません。しかし、あの機体からは我々と同じ「匂い」がします。」


武官の発言は意味が分からず、オクタールは黙って窓の外を見つづける。



通信員が未確認機と交信を試みて間もなく、相手から魔振通信が送られてきた。


「こちらは日本国、海上自衛隊機である。貴機の飛行目的を報告せよ。」


「機長! 9時の方向から新手、恐らく魔振の発信元です。」


「電波探知機は大型機を探知していますが、他の機体は探知できず。」


 聞いたことのない国名と新たに現れた未確認機に、機内の乗員は戸惑っているが機長は毅然とした対応をする。国名、所属と機体名、瘴気内へ来た目的、現在は安全に着陸できる場所を探していること、機体の航続距離と着陸に必要な距離まで伝えた。


「・・・了解した。現在、倭国には貴機が安全に着陸できる飛行場は無い。南西にある日本国なら着陸できる飛行場がある。そちらへの進路変更を進言する。」


機長はすぐに武官や外交官と相談し、返答する。


「こちらフェイルノート、貴機の進言を了承した。先導願う。」


 通信員が返信すると、日本側も通信を行い4発エンジンの白い機体がフェイルノートの前に出てくる。そして南西に進路を変更した。

 フェイルノートが早い段階で日本側の提案に対して答えを出したのは、当初から倭国への着陸は無理であるとの予想があったからである。フェイルノートは胴体着水を想定しており、着水後フロートを展開させて自力で陸地に乗り上げるという強引な方法を考えていた。この方法は危険なため、安全に着陸できる飛行場があれば、そこに着陸するに越したことはなかった。


 南西に進路変更してから日本国へ到着するまでに時間があるので、機長は先導する日本の航空機に対して通信を行っていた。日本という国はどんなところなのか、いつできたのか、他の瘴気内国家は健在なのか。堅苦しい言い回しではなく、普通に会話するような感じで喋る。日本側は暫しの沈黙の後に回答する。


「我々も転移国家です。約2年前にこの星に来ました。倭国も蜀も健在ですよ。」


 ざっくばらんな会話で重要な情報がどんどん出てくる。機長の隣では外交官が通信の内容をノートに書き込んでいた。P-3Cでも同様のことが行われ、重要情報を本国に送信していく。両機は日本到着までに少なくない情報を交換していった。




 日本から遥か南方の海上では護衛艦隊が南下していた。艦隊の中心はヘリ搭載護衛艦であり、ヴィクターランドの神竜に謁見するため、総理大臣が乗艦していた。


「総理、蜀の日本国大使館から報告です。蜀皇帝との会談は神竜の助言があれば実現できるとのことです。」


「そうですか、神竜との会談なくして周辺国との本格的な外交は始まらないようですね。」


 総理大臣の臨時執務室として改装された一室で、総理はヴィクターランドと神竜を分析した報告書類を確認しながら答える。

 この艦隊の目的はヴィクターランドまで総理を護衛し、実質的に瘴気内国家を統べる存在、神竜ヴィクターと総理大臣の会談をサポートすることである。既に日本国はヴィクターランドと接触していたのだが、かなり特殊な国で外交交渉は、まず国のトップがヴィクターと会い、国交を結ぶに相応しいかを判断してもらうことから始めなければならない。

 ヴィクターの判断基準はかなり簡単なもので、自らに敵対しなければ国交の許可を与えていた。過去の例では蜀、倭国、ジアゾ国は1回で国交を結べていたのである。しかし、日本国は国交の許可が出ることを前提にその先のことまで今回の外交で道筋をつけようとしていた。事前調査によってヴィクターランドには莫大な量の海底油田と天然ガスがあり、蜀の資源地帯と合わせて開発できた場合、日本の石油とガス消費量を賄うことができるのだ。また、海産資源が豊富なため、輸入できれば国内の食糧制限を大幅に緩和できる可能性があった。


 日本国をここまで駆り立てた原因は黒霧による経済破綻と人口減少である。国家統計によって既に国の崩壊予測が出されており、日本国は手遅れになる前に資源を手に入れ、復興しなければならなかった。


「せめて、付添いが1人でも欲しかったのですが、仕方ないですね。」


 神竜ヴィクターとの会談は1対1で行われる。総理は事前の根回しができない国の運命を左右する交渉を前に、今までにない重圧がのしかかっていた。しかし、総理への重圧はさらに増えていく・・・


「総理! 本国から緊急通信です。」


外務省の職員が執務室に駈け込んで報告する。


「どうしたのですか。」


「我が国にジアゾ国の外交団が到着したとのことです。」


総理の頭に?マークが出る。


「ジアゾ国は黒霧の外でしょう。霧が晴れたのですか? 」


「いえ、航空機で黒霧を突破したようです。」


地球の文明ですらできなかった黒霧の突破に総理は驚愕する。


「それはすごい。それ程のリスクを負って来たのなら、よほど重要なことがあるのでしょうね。彼らの目的などは分かりましたか? 」


「現在、副総理と外務省が対応しているとのことですが、ジアゾ国の使者によると・・・アーノルド国とスーノルド国がパンガイア連合軍を組織して黒霧内国家への侵攻を準備しているとのことです。ジアゾ国への侵攻も秒読み段階であり、使者は神竜と黒霧内国家への協力を提案しています。」


「えっ・・・」


復興の希望が見え始めたところで、日本国に死の宣告がなされた。

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