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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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日本国の現状

 蜀での木人殲滅。倭国南海大島での鼠人問題解決。黒霧内の動乱が収まると、日本国は蜀と倭国の大規模開発を本格的に開始した。


 蜀では人間の支配地域で油田開発と鉱山、陸上輸送路、港湾施設の再開発と強化、都市部では交通機関、上下水道、通信インフラの整備が急ピッチで進められている。蜀の帝都「白城」郊外の油井付近には石油発電所が建設中であり、大規模太陽光発電所は完成した区画から順に電気を供給し始めていた。白城の都では各通信メーカーのアンテナが次々に立ち始め、いたるところで上下水道工事が行われ、道はアスファルトに置き換えられている。


「寝て起きたら都が別の都になっておる。この短期間でこれほどの開発ができるとは、まったく恐れ入る・・・」


 蜀の官吏、周天佑(しゅうてんゆう)は目まぐるしく変化する白城の都に驚きを隠せない。


「インフラが整えば都市機能は格段に良くなります。蜀の人口ですと、白城を始め、いくつかの都は1千万都市になるでしょう。」


 日本国外交官の佐藤大輔は将来の発展した蜀を見せた後、あるプロジェクトの進捗状況を確認しようとしていた。


「天佑様、以前よりお願いしていた皇帝陛下への謁見は実現できるでしょうか? 」


「それは私の口からは何とも言えないことです。しきたりによって皇帝陛下が人前に姿を晒すことは禁じられております。皇帝陛下が神竜ヴィクター様に謁見なされる以外、皇宮から出ることもないのです。」


 蜀の皇帝は国の最高権力者であるが、多くの決まりによって縛られ、皇帝の意思が政治に反映されることは少ない。代わりに官吏という国家公務員が国政から外交までを管理し、実質国を動かしていた。蜀の皇帝と会うためには、即位後に行われる神竜への謁見時に現地で会うしか方法は無く、倭国のオウマも蜀の皇帝即位後に行われる神竜への謁見に合わせてトップ会談を行っていた。


「しかしながら、私を始め官吏の多くは日本国首相との会談が必要と考えております。神竜ヴィクター様の仲介があれば、直ぐにでも場を用意いたしましょう。」


 神竜ヴィクターは黒霧内で絶大な発言力を有している。黒霧外では「瘴気内国家は神竜の支配下」とまでいわれており、それは正しい表現であった。


「そうですか、ご尽力感謝いたします。今、我が国の首相が神竜様へ謁見すべく、ヴィクターランドへ向かっているところです。この件は謁見が叶った時に話題の一つとして取り扱わせていただきます。」


佐藤はこの情報をすぐに本国へ伝える。



 倭国本島でも大規模開発が開始されていた。倭国は地下資源が日本国並なので、空港や港、インフラへの電力供給として石炭発電所が計画されたが、石炭を燃やすことによる公害が地元民から指摘され、計画に遅れが生じていた。倭国は畜産業が盛んであり、牛に似た家畜を多く飼育している。この家畜は栄養も魔力も豊富に含まれており、人間と妖怪の争いを終結させた、倭国では平和の象徴的な存在であった。その家畜に悪影響を与えかねない施設の建設に反対するのは当然の反応である。

 日本国の関係者は地元民に「高度な技術を使ったクリーンな石炭発電所」をアピールしたが理解されず、発電所計画は思いのほか難航していた。しかし、意外なところでこの問題は解決する。日本を視察した外務局長のコクコによって日本の石炭発電所が紹介され、立地を考慮することで公害をほぼ抑えられると理解されたため発電所の建設工事が始められたのだった。

 日本国との輸出入に関しては本島には魔石以外に大した資源は無いものの、家畜を多く飼育していたため、更に増産して日本へ輸出できないか農林水産庁が現地で研究を開始していた。日本への輸出は既に道筋が見えており、倭国の農業技術の発展によって家畜の増産は充分に可能で、数年内に輸出が始まる予定であった。


 日本国が蜀や南海大島での大規模戦闘後にも関わらず、自国復興と同時に周辺国開発を可能とした背景には、いくつかの要因と国家戦略が関わっている。

 転移前、黒霧の広がりが緩やかで猶予期間が多かったことが大きく幸いし、海外への自国民脱出が失敗したことで日本国は「国民総引きこもり」の国家戦略を立てたことが大きな要因である。

 当時、日本国は黒霧に囲まれる前に一国でも成り立つように国内に工場や技術移転を死に物狂いで行っていた。現代国家は技術を他国に頼ることが多く日本国も国を存続させるには国内技術だけでは限界があった。黒霧という絶対的な死と破壊の存在を前に、国家総動員に近い体制で準備が進められたのだ。

 企業は海外資産を引き上げ、自己資金で必要なライセンスを購入していった。大企業は必要なライセンスが購入できなかった場合、その企業の株式を買い占めて「敵対的な買収」を行い、国内に工場を建設するという強引な方法をとった。この方法は多くの非難を浴びたが、黒霧に包囲されるまでのタイムリミットが迫っていることと、日本人の強制送還を各国が行ったことで日本国全体で危機感が強まったからである。

 国は産学官が連携して必要な技術と資源量を計算し、巨額の国家資産を投じて民間企業には入手できない技術の取得と資源の確保を行った。国債発行が既に限界に達していた中、大いに役立ったのが米国債で、日本政府は1兆1千億ドルを超える米国債を使用して海外の技術と資源を交換していったのである。

 一部の人間はこう考えるだろう。「米国債を持ったまま日本国が消えれば米国は債務を踏み倒せて得をする」と。この考えは大きな間違いである。一歩引いた所から見ると、日本国消滅による米国債消滅のみを見ても世界全体で1兆1千億ドルを超える「価値の消失」となる。1ドル紙幣で1ドルの価値の物を購入しても1ドル紙幣は相手に行くだけで消失するわけではなく、価値を保ったまま何度も交換に利用される。「価値の消失」とはその価値を担保する存在の信用低下を意味する。

 いくら米国でも1兆1千億ドルを超える価値を消失した場合、米国債の信用低下や経済への悪影響は計り知れない。価値をなるべく保ちつつ、早急に日本国が保有する米国債を日本国外に移動させたい各国と日本国の利害は一致した。

 世界規模の金融危機に、日本国のみの判断で米国債を放出するのは世界の力関係を崩す可能性があり、世界経済への影響も考慮し国際機関で協議を行いつつ米国の顔を伺いながら、日本国は必要とする物を保有する友好国との間で米国債を交換していった。その結果、転移後の日本国は一国のみでも生活水準をなんとか維持できるようになり、早期の復興と大規模開発を可能とする国力を得ていたのである。

 現在、日本国は本格的な復興期に入っている。大量消費時代を経験し、そのように国を変化させた国家が、15年もの飢えから解放されようとしていた。



 不死身の怪物は檻から出る事は無い。怪物はガラスの檻が自分を守っていると思い込んでいた。

(中略)

 長い年月が経ち、人々は怪物が閉じ込められた理由と怪物の恐ろしさを忘れてしまったのだ。あの頃に戻りたいと願ってもガラスの檻はもはやない。怪物は、共に生きてきた人々と一緒に途方に暮れてしまった。

~とあるノルドの童話より抜粋~

日本国の国力、そのカラクリが少しずつ判明してきました。これからも小出しで出していきます。軍事に関しては「日本国の野望」というタイトルで出す予定です。

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