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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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戦場のひよこ達 その3

 日本国が転移してきた星は、惑星配列による潮の満ち引きや気候など、地球に良く似ている。大陸配置としては日本国の西にはユーラシア、ヨーロッパ、アフリカ大陸が繋がったような形の巨大大陸パンガイアがあり、地球の北米大陸にあたる場所にも同規模の大陸が存在する。南米大陸に当たる部分は瘴気に包まれているが、北米大陸に該当する大陸はジアゾ合衆国が統治するジアゾ大陸である。

 転移前、ジアゾの母星には6大陸あり、それぞれの大陸に独特の特徴をもった種族が文明を築いていた。大航海時代の到来によって世界の全貌が判明して交流が始まると、各大陸の代表が集まって国際法がつくられた。しかし、これからという時に突如として瘴気が発生し、僅かな期間でジアゾ大陸は消滅してしまったのであった。


 ジアゾ合衆国は多くの部族国家によって構成されている。人口構成としては金髪と白い肌が特徴的なアゾ族とアジ族が最多で、次いで白髪と黒い肌が特徴のヒドラ族、ヒドロ族、人口比率1割以下のメエケパ族など、他20以上の部族が存在する。全ての部族がこの世界のエルフに似た容姿をしているが、寿命はヒトと同程度で魔力はヒトと同じかそれ以下しか保有していない。そのため、この世界では劣化エルフやエルフモドキと蔑視されることが多々あった。



ジアゾ合衆国北西部、ピクリン州

 この州は内陸が亜寒帯気候、北部は一部寒帯気候となるなど厳しい環境であるが、南部には温暖な地域もあり州人口の大部分が南部に集中している。

 現在、パンガイアと戦争が始まれば最前線になるため急ピッチで州全体の要塞化が進められていた。


 雪原に幾筋もの線が引かれていく。黒煙を吐きながら雪原を爆走している物体は、この星の住人はあまり見た者がおらず、名前も「獣機のような何か」としか答えられないだろう。しかし、日本人が見た場合、一目見て名前を言い当てられる。南西部の軍演習場では20両もの戦車による実弾を使用した訓練が行われていた。

 「T6」と呼ばれる戦車は雪原を時速40㎞以上の速度で移動し、目的地に到着すると索敵し、目標を砲撃する。75㎜戦車砲弾は1㎞先の林に設置された標的付近に着弾し炸裂、標的を吹き飛ばした。


 2時間後。訓練は終了し、雪原のキャンプに戻った戦車隊は補給を終え休憩していた。


「移動もスムーズにできるようになったし、目標にも難なく当てられる。これで俺達も訓練生卒業かね? 」


砲手のギルノールが同僚に話しかける。


「まだまだ無理だろ。俺らができるようになったのは、動かせる、砲撃できる、だけだ。これから俺達には地獄の連携訓練が待っている。」


操縦手のアセスが答える。


「あぁ、他隊との連携訓練が上手くいって卒業だ。それに、実戦じゃ敵は動いている。動目標にある程度当てられなきゃ話にならない。」


車長のルニールも楽観的なギルノールに釘を刺す。


「どんなに動いていても狙いをつけられる自信はありますよ。T6の照準器はT5よりも格段に良くなってる。これならアーノルドの「獣王」相手でも戦えるんじゃないですか? 」


「ばか言うな。お前は現物を見たことがないから、そんなことが言えるんだ。獣王は陸軍、空軍の総攻撃じゃなければ撃破不可能だ。」


高性能古代兵器の撃破を夢見る部下に、実物を目にしたルニールは現実を教える。


 5年前、まだパンガイアとの関係が悪化する前にルニールは軍事交流でアーノルド国へ行ったことがあった。ルニールは当時最新鋭のT4戦車に乗っており、古代兵器「人機」に対抗可能と言われる自国戦車に大きな自信を持って訓練に参加していた。演習では合同訓練の他、アーノルド側とジアゾ側に分かれた模擬戦闘訓練も行われ、T4は人機に対してその性能を存分に発揮し、人機1型にはキルレシオで優位に立ち、人機2型戦でも撃破を出すなどの大戦果をあげて参加各国を驚かせた。

 人機2型戦では大敗したが、ルニールには十分な手ごたえがあった。「科学技術の進歩は速い。あと数年もあれば人機2型にも対抗できる。そして、その次の世代で戦車は人機を圧倒する。やがて科学は魔法を越える。」と実感したのだった。

 しかし、すぐにその考えは変わる。

 合同訓練はアーノルドとジアゾの模擬戦闘訓練で終了予定だったのだが、想定以上の性能を発揮したジアゾの新兵器「戦車」を前に、面子を潰されかけたアーノルド側はもう1戦できないか申し入れた。「次は人機を超える兵器を出してくる」ということで興味を持ったジアゾ側上層部が了承し、再戦が行われることになった。

 最後の戦闘訓練に投入された戦力はジアゾ側で戦車16両、アーノルド側は「獣王」と呼ばれる古代兵器1機のみであった。ここで負けた場合、面目丸潰れになるので、先の戦闘を見た各国の関係者は単機で挑むアーノルド側に多くが不安を感じていた。

 獣王と呼ばれる古代兵器は4つ足で獅子を模した形をしている。ルニール達はどのような攻撃をしてくるか全く想像できなかったが、敵は全長20m以上の巨体である。全車が上手く連携できれば攻撃を当てる自信はあった。しかし、結果は戦闘開始30分で戦車16両が全滅・・・


 不整地でも時速190㎞を超える速度で走り、都市を想定した訓練場では高層建築物の壁も足場とする獣王を前に、T4は補足することすら困難であった。そして、高度な自動補足・照準装置、追尾光子弾、ヒートクローとヒートブレード、想像すらできなかった攻撃を前に友軍は瞬く間に壊滅してしまう。

「こんなの、反則だろ」そう思う間もなくルニールの車両も撃破判定を受ける。



「敵は空想科学の世界すら超える兵器を持っている。慢心はするな。」


「おーい、お前たち。来月からT7の配備が始まる。何時ここに配備されてもいいようにマニュアルを暗記しておけ。」


 ルニール達が話しているところに装填手兼整備員のケルンが来て全員にマニュアルを配り始めた。戦車兵は全員ある程度の整備ができるように教育されているが、陸軍では故障が多い車両には乗員に整備兵を乗せて運用している。近年、兵器がどんどん複雑になる中で、ケルンのような熟練整備兵は貴重な存在となっていた。


「えっ、T6が配備されてまだ2年も経ってないんですよ。」


「やっと車両に慣れてきたところなのに、また1から訓練ですか? 」


アセスとギルノールは兵器更新の速さに驚きと不安を隠せない。


「つべこべ言わず暗記しろ。変化に対応できない奴は戦場では生き残れんぞ。それと、ルニールちょっと裏に来てくれ。」


 呼ばれたルニールはケルンに付いていき、テントの裏に移動した二人は煙草に火をつける。


「何かあったのか? 」


「本部の知り合いからなんだがな。敵さん、歩兵から人機にまで展開式防御スクリーンを配備したらしい。」


「はぁ? どんな物量しているんだよ。人機の防御スクリーンとなると75㎜じゃ威力不足か? 」


「それは分からないが、上の連中が兵器の更新を急いでいるということは、そういうことだろう。既にT8の開発が済んだとも聞く。整備士泣かせだよ、まったく。」


ケルンから渡されたT8の仕様書にルニールは目を細める。


 T8仕様書一部抜粋。主砲105㎜ライフル砲、不整地走行で時速45㎞以上、暗視装置を使用した夜間戦闘を可能にするetc


「戦争の形が変わるな。技術の進歩で俺も一兵卒と変わらなくなるということか・・・」


「今はまだ良い・・・政府は高校生を1年前倒しで卒業させて軍に放り込む気だ。これから自分の子供と変わらない歳の部下が来て、戦争が始まればそいつらから最前線に送られる。今のうちに覚悟しておけよ。」


 ルニールは吸い終わった煙草を雪の上に捨てる。湿気た煙草は不味いが、こんな状況では吸わずにもいられなかった。



 人は日々進歩し、必要に迫られればその分野は飛躍的に進歩する。戦争による進歩の先には何があるのか、死者のみ知ることなのかもしれない。

 夜が訪れた地上を日本国の人工衛星が撮影する。北米大陸に似た形のジアゾ大陸にはいくつもの大都市が存在し、日本の都市ともパンガイアの都市とも異なった明かりを放っていた。

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