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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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動き出す者達 その2

日本国東京某所。


 ある高級料亭で非公式の会合が行われていた。この料亭は良く政治家に利用され、影で日本の歴史が動いた場所であった。黒霧に囲まれてから営業はせず、必要な時だけ冷凍庫に保管された貴重な材料を使って料理を提供している。今は2人の客のために店が開かれていた。


「倭国の密使によると、双方の外交機関が独断で動いていたようです。開戦から終戦後の統治方法まで初めから決まっていた。我々政治家は彼らの思惑通りに動いていたというわけです。」


「私の伝手からは各省庁の一部上層部が裏で連携していると聞く。良くない状態だ。」


 現総理と前総理は自身の持つ情報を共有していく。過去も現在も政敵である二人がこのような場を持つこと自体異例である。しかし、2人には互いに会って決断しなければならないことがあった。転移前の混乱以降、日本国は政治家の手を離れて勝手に動き出していた。それでも各政党は各自の政治理念を曲げずに争い、政治は停滞。二人の総理が気付いた時には既に遅く、日本国は南海大島で多数の住民を殺傷してしまっていた。更に現総理には核開発の提案まで出されていた。ここにきて、理念の異なる組織同士が手を組むという事態になる。


「開戦の判断、攻撃方法を決めた者達を白日のもとに晒さなければ、この国はいずれ自滅するでしょう。」


「省庁の職員にも危機感を覚えている者が多い。動くなら、今だろうな。」


 後日、全省庁に捜査のメスが入ることになる。内部リークと国会内で与野党の追及によって多くの不正、汚職が判明し、多くの国民が知ることとなる。南海大島上陸戦で使われた桟橋などの即席港湾施設の不具合も起きるべくして起きたものと判明したため、関係機関は多方面からの批判に晒された。

 省庁の権力や発言力は大幅に低下したが、総理が目標としていた裏で日本を操っていた者達は誰一人として罪には問われず、裏の出来事が表に出てくることは無かった。巨大組織はトカゲの尻尾を切っただけで幕引きをはかったのだ。総理の行動は失敗に終わり、日本側の失敗によって外務局の摘発準備を進めていた倭国のオウマ議長は摘発の取り消しを指示した。



ジアゾ合衆国西部海岸、ロックデザート空軍基地。


 西海岸の砂漠地帯に存在するロックデザート空軍基地には巨大な航空機が駐機されていた。「フェイルノート」と名付けられたこの航空機は、瘴気を抜けるために造られたスペシャルモデルであり、怪物級の出力を誇る大型レシプロエンジンを6発搭載している。また、あらゆる観測機器を搭載し、損傷などの不測の事態にも対応できるように余裕を持たせた設計になっていた。将来、爆撃機としての運用も考えられており、完成した場合20tもの搭載量を誇る。


「あなたの帰りを待っているわ。」


「父さん、気を付けて。」


「行ってくる。後を頼んだぞ。」


ヒドラ家当主、ヒドラ・オクタールは家族に別れを告げフェイルノートに向かって歩いていく。


 彼の目的は瘴気内国家と接触し、対パンガイア連合軍に引き入れることにある。パンガイア各国よりも早く接触することで、瘴気が晴れた際に自国に有利な状況をつくるのが目的であった。また、オクタールには神竜ヴィクターとの会談のために次期大統領候補という肩書も用意されていた。

 この任務は倭国ですら通過不可能な瘴気中央部、通称「瘴気の森」を突破するというもので、成功の可能性が極めて低い危険な任務であった。しかし、先進2ヶ国との戦争が決定的となった今ではこの危険な任務をやらざるを得ない状況にまで追い込まれていたのである。転移国家であり、古代文明の遺跡も古代兵器も保有していないジアゾ合衆国は誰が見ても滅亡に向かっていた。

 瘴気という絶対的な防壁に守られた瘴気内国家は外の状況を知らない。有力議員として精力的に外交に携わってきたオクタールはパンガイアの脅威を正確に伝えるため、瘴気内国家との外交に臨むのであった。


 国民に伏せられた任務であるため見送る者は少ないが、搭乗員の家族、基地関係者に見送られフェイルノートは基地を飛び立っていった。


 数時間後、機体は成層圏下部を飛行し眼下には瘴気が広がっている。この任務を成功させるために乗員は何度もこの機体で瘴気上空を飛行し経験を積み、機長やパイロット、レーダー観測員や監視員、全ての乗員が覚悟を持ってこの任務に参加していた。


「フェイルノート、これより瘴気に突入する。」


「了解、幸運を・・・」


 基地と最後の無線通信を行い機体は瘴気中央部へ侵入していく・・・瘴気中央部は成層圏上部にまで瘴気が触手を伸ばしていた。機体は遥か前方の瘴気によって手前の瘴気が見えづらい状況の中、魔力波による観測、暗視装置と人の目による監視で巧みに瘴気を回避していった。


「ここまでは順調だが・・・」


「あぁ、ここからが本番だな。」


 機長とパイロットの目の前には、まるで意思を持ったかのように蠢く瘴気でできた触手の森が広がっていた。




 日本国から北西に黒霧を越えた先には港湾都市国家サマサがある。パンガイア大陸東部にはいくつもの港町があるがサマサには他にはない特徴があった。町の郊外に高さ約650mの古代遺跡が存在しているのである。この遺跡は高さがあるため、古くから船乗りや旅人の道しるべとなっていた。


「と、言いますと、貴方方の目的は基地建設だけではないと?」


サマサ市長は土地の使用権交渉に来たアーノルド国とスーノルド国の担当者と会談していた。


「はい、ジアゾ合衆国との開戦は間近ですが、この地をジアゾとの最前線にしたいわけではありません。」


「我々はサマサ港を最重要視しています。あと数年で瘴気が晴れることはご存じかと思います。」


「瘴気内国家には最高品質の魔石鉱山があります。我々は誰よりも早く、そして大量に輸入したい。そのためにはサマサ港の拡張、内陸への輸送路整備などを瘴気が晴れるまでの間にさせていただきたいのです。もちろん、費用の大半は我々が負担いたします。」


「瘴気内国家との国交が再開されれば、サマサはパンガイア最重要港の一つとなるでしょう。」


「それは・・・願っても無いことです。」


大きな発展が約束された話にサマサ市長は土地使用の許可を約束する。



サマサ市内、サマサホテル。


サマサ市長との会談後、アーノルド国とスーノルド国の担当者は身体を休めつつ、雑談をしながら次の段取りを決めていた。


「サマサ再開発に問題はないようですね。」


「これほどの好条件。呑まない指導者はいないさ。軍の試算じゃジアゾは2年で落ちる。戦後の後始末を終えればちょうど瘴気も晴れるさ。全て計算済みだ。」


「ジアゾ戦は予定通り進むでしょう。しかし、貴国と我が国の試算では開戦時期から終戦まで多少の誤差がありますよ。誤差も踏まえて余裕をもってサマサに軍を集結させておきたいですね。瘴気消滅が確認されたと同時に瘴気内国家への侵攻を開始できなければ、私たちの首が飛ぶことになります。」


後日、サマサ議会は大多数の賛成によってアーノルド国とスーノルド国との共同開発法案を可決した。

核燃料のリークで総理は動いた途端に止められてしまいました。次は「戦場のひよこ達」です。

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