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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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第55部隊の軌跡 その2の2

 スタッレーを出発した第1第3軍団の混成部隊はナバホ洞窟へ向けて予定のルートを移動していた。偵察を得意とする部隊が先行して前方の偵察を行い、低い山に囲まれている周囲の安全確保はベテラン兵を有する部隊か山岳部隊が担当、道路は負傷した兵士や新兵、補給部隊が利用していた。その中で第55部隊は混成部隊の中央に配置されていた。部隊の後方には補給部隊が続き、最後尾はベテラン部隊がしんがりを務めている。

 この部隊の規模は以前の北部最前線級の規模と同じであり、倭国軍の総攻撃にも耐えられるほどのものである。しかし、現時点で南海鼠人勢力唯一の攻勢可能戦力であり、この部隊の喪失は戦闘力の喪失と同義であった。


 混成部隊はスタッレーを出発する前から偵察機や無人機で逐一監視されていた。そして、最高のタイミングで連合軍の攻撃が始まることになる。



部隊がスタッレーを出発して8時間後・・・


 いたるところで爆発が起きる。日本軍の長距離砲撃である。周囲の山からは蜀軍の銃兵隊が斉射によって弾丸の雨を降らせていた。

 敵の攻撃は渓谷に架かる橋を部隊が渡り切ったところで行われた。部隊の最後尾に砲弾が撃ち込まれ、渓谷に架かる橋と斜面が崩壊。補給部隊の過半を失うことになる。砲撃は最後尾から前に少しずつ移っていき、部隊は前進を余儀なくされた。時を同じくして先行部隊が敵に接触し、激しい戦闘の幕が開ける。


「前進だ! 前進しろ! 次の壕まで止まるな!」


 第55部隊長のケーンが叫ぶ。最初の攻撃後、第55部隊は残存した補給部隊と合流し最後尾となっていた。部隊の後方には砲弾が撃ち込まれ小隊単位で兵士が減っていった。撤退ルート周辺の山頂には蜀軍が陣を置いていたが、第55部隊にはそれほど銃撃は無い。混成部隊の周囲に展開していたベテラン部隊と山岳部隊が蜀軍陣地に激しい攻撃をおこなっていたのである。ベテラン部隊と山岳部隊はそのスキルを発揮し、蜀軍陣地に突撃する。多くの犠牲を払って陣地を制圧すると。他の蜀軍陣地へ射撃を行い本隊の撤退を支援していた。しかし、敵は陣地が攻略されたことを確認すると、陣地に対して砲撃を実施しベテラン兵たちを吹き飛ばしていった。


「なんて物量だ!」


「敵は進行ルート上の山全てに陣を置いているのか?」


 山頂を制圧したベテラン兵たちは進行ルート上にある幾つもの山頂を見て圧倒される。山が多いこの地形で真価を発揮するはずの山岳部隊やベテラン部隊は見る見るうちにその数を減らしていった。




南海大島西部、自衛隊拠点基地。


 司令室では多くのモニターが置かれ、偵察機などからの映像が映し出されていた。大きな西部の地図には友軍と敵軍の印が刻一刻と変化して表示されている。


「鼠が包囲に飛び込みましたな。」


「作戦通り、と言いたいところですが、彼らは運に恵まれている。ナガリ山攻略作戦が始まっていなければ空爆と攻撃ヘリで直ぐにカタがついた。」


「どのみち、彼らの運命は変わらない。それより、日本軍はやりすぎないようにしていただきたい。彼らの撤退先にはナバホへの入り口があるのですから、撤退前に全滅させないように細心の注意を払ってほしいですな。」


作戦は当初の予定とは違ったものになったが、敵がスタッレーからの撤退を始め、攻撃は予定通り行われることになった。自衛隊と蜀軍の幹部は作戦の成り行きを見つめていた。




 南海鼠人の混成部隊は混乱の中でも一定の指揮能力を取り戻しつつあった。先行している偵察部隊に速攻を得意とする部隊が合流し、ルート上の塹壕や掩蔽壕を確保して撤退してくる部隊を援護した。壕に駆け込んだ部隊は休憩と補給を行い撤退してくる次の部隊の援護にあたる。そして、先行部隊は更に先の拠点までのルートを確保していった。


「掩蔽壕まで僅かだ!走り抜けろ!」


 エドウィンが部下に叫ぶ。彼の周りには小隊の隊員が集まっており、隊長の命令通り行動する。この行動によってエドウィン隊は混乱の最中であっても素早い移動ができていた。

 エドウィン隊は速度を緩めることなく掩蔽壕の入り口に殺到したが、入る瞬間に一人が被弾して壁に激突、壁に血を塗るようにゆっくり倒れていった。


「第55部隊です!ここは自分たちが確保します。先に行ってください! 人数確認!」


 エドウィンは壕を確保していた部隊と素早く交替する。ほどなくして第55部隊長のケーンが飛び込んでくる。


「窓に兵を張り付けろ! 後続がどんどん来るぞ! 前進する部隊に援護を行う。牽制射撃用意!」


ケーンの指示が飛ぶ。若く身軽な第55部隊はいつの間にか混成部隊の前方に到達していた。


「隊長!このままだと、ナバホへ到着する前に全滅です!」


「兵の疲労が激しい、このペースで進んだら途中で脱落者が続出するぞ。」


 各小隊長は悲鳴を上げる。ケーンはこの掩蔽壕を確保し、後続の援護を続けつつ、部隊の疲労回復に努めるのであった。



同時刻。ナガリ大要塞。


 自衛隊の支援砲撃と空爆、攻撃ヘリと倭国軍による大規模陽動によって陸上自衛隊の特殊作戦群が要塞内に侵入していた。特殊作戦群は自衛隊の中でも潜入、破壊工作などの高度な訓練を受けた特殊部隊である。部隊は本島での6ヶ月間の訓練通りに要塞内部の対魔族結界や魔法抑制結界などを破壊していった。

 時を同じくして結界の弱体化を感知した倭国軍精鋭部隊「白蛇隊」と「陽炎隊」も行動を起こす。白蛇隊は倭国陸軍の中でも最高の人材で構成された最精鋭部隊であり、陽炎隊は隠密行動のスペシャリストで構成された部隊である。

 陽炎隊が先行してナガリ大要塞入口を制圧、更に内部に侵入して武器庫や司令部の破壊に向かっていった。白蛇隊は陽炎隊が開けた入り口から突入し、要塞内を制圧していく。ナガリ大要塞の防衛部隊が気付き、対処に向かった時には手遅れであった。対魔族結界が大幅に弱体化し、妖怪本来の力を出せるようになった精鋭部隊を止めることはできなかった。

 ナガリ大要塞は陥落し、その後数日で南海大島の中央部は連合軍によって完全に制圧された。



西部密林地帯。


 スタッレーから撤退中の混成部隊は先行部隊が密林東側のナバホ洞窟入り口に到達し、後続も続々駆け込んでいた。しかし、ナバホ洞窟入り口を確認した連合軍は周囲の丘に一夜にして陣地を構築し、撤退してくる混成部隊に銃弾の雨を降らせていた。ナバホの部隊と混成部隊はこの敵陣地を破壊するために2度の攻撃を行ったが失敗に終わる。敵の陣地が蜀軍であったならば1度目の攻撃で落とせていた。しかし、ナバホ洞窟入り口付近に陣取っていたのは日本軍であった。全ての兵士が最新鋭兵器ガトリングガンを超える性能の武器を保有している日本軍陣地からは5.56㎜と12.7㎜弾の雨が降り続け、陣地攻略部隊は一瞬で溶かされてしまったのである。


「あれがナバホへの入り口だ。」


 壕の中から外を指さしてクラウスが喋る。指の先約100mの位置には洞窟の入り口が開いており、内部からは友軍がガトリングガンで援護射撃をしている。しかし、その射角には敵の陣地は殆ど入っておらず、効果は薄い。敵は高い位置から信じられない連射速度で銃弾の雨を降らせ続けていた。50人ほどの部隊が敵陣へ向け牽制射撃を行い、入り口に向かって走り出す。しかし、50mも進まないうちに全滅する。


「隊長、どうします?」


 ケーンはあまりにも不利な状況に指示を出せずにいた。この状況でのセオリーは敵陣へ向け射撃し続ける部隊と、入り口に向かう部隊の二つに分けることである。少しでも多くの兵を撤退させるにためには、できる限り大勢で動き、敵の目標を分散させるようにしなくてはならない。しかし、それでもほとんどの兵士を死なせることになる。そのような命令をケーンは出せなかった。時間だけが経過していくように思われたが、第55部隊に救いの手が差し伸べられる。後続のベテラン部隊が到着したのだ。


「やはりケーン部隊長か。ここまで生き延びられるとは流石だな。」


「ラドム部隊長!ご無事でしたか。」


 混成部隊のしんがりを務めていた第3軍団第43部隊が合流する。第43部隊の損耗率はすでに5割を超えていたが、ラドムの部下は息を整えつつ状況を確認する。


「隊長。あそこを通るのは自殺行為だ。あの斜面の岩と木を使います。」


 ケーンはラドム達が何をしようとしているのかわからなかった。ラドムの部下たちは休憩なしで動き続け、敵陣へ向けて牽制射撃しダイナマイトを持って壕を飛び出していった。


「すげぇ、牽制射撃ひとつとってもここまで違うのか・・・」


効果的な射撃に第55部隊の小隊長が言葉を漏らす。


 ベテラン兵たちは被弾をものともせずに進んでいき、目標の場所まで来るとダイナマイトを斜面に投げていった。続けざまに爆発が起き、斜面は土煙に包まれる。煙が晴れる頃、撤退ルート上には大きな岩と倒木が存在していた。


「遮蔽物が無ければ作ればいい。私の部隊が掩護する。君たちはナバホへ行きたまえ。」


ケーン達新兵は呆気にとられていたが、すぐに移動の準備をすませる。


「ラドム隊長!ナバホで会いましょう。」


 第55部隊はナバホ洞窟入り口へ向けて走り出した。敵陣からは相変わらず銃弾の雨が降り、部隊はその数をどんどん減らしていくが今までと比べて被害は大幅に軽減されていた。部隊の相当数がナバホへ到達できたのであった。

 ケーンは自身の部隊が洞窟へ入っていくのを援護しつつ確認していた。残りは自分達である。


「後は俺達だけだ。エドウィン隊の所まで移動するぞ! 行け!行け!行け!」


 第55部隊は運に恵まれていた。しかし、幸運というのは長続きはしなかった。中間地点の岩影にはエドウィン隊がケーン達と第43部隊の掩護のために陣を置いてあり、そこへ向かって移動していた時にケーンが被弾する。仲間が岩影に担いできたが、ケーンは背中を撃たれ両足が動かない状態であった。


「俺は助からない、俺を置いて早くナバホへ行け・・・」


ケーンがうわ言のように喋り出す。この状況にエドウィンは決断する。


「部隊長は指揮能力を喪失した。代わりに俺が指揮を執る。クラウスたちはケーンを担いでナバホへ向かってくれ、俺達と第43部隊の掩護射撃が始まったら駆け抜けろ。」


「わかった。エドウィン、お前もすぐに来いよ。」


 皆、部隊をここまで率いてきたケーンを見捨てるという考えはない。各隊員が最善の方法を考え行動していた。しかし、今の彼らには死神が取りついていたのである。突如、第43部隊のいる掩蔽壕が大爆発を起こしたのだ。SH-60Kの発射したヘルファイアミサイルは掩蔽壕の側面をいとも簡単に貫通し内部で炸裂した。その光景を見たエドウィンは叫ぶ。


「ダイナマイトをありったけ投げろ!俺は煙に紛れて敵陣に突入する!お前たちはケーンを運べ!」


 あまりの光景に固まっていた部下たちはエドウィンの言葉で一気に動き出す。既にダイナマイトは投げられており、エドウィンを止める者はいない。いくつもの爆音が響き、周囲が土煙に包まれる中、エドウィンが敵陣へ向けて突撃し、残りは牽制射撃を行いつつケーンを運んで行った。


「うおおおおおおお!」


 エドウィンは両手に火のついたダイナマイトを持って突撃して行く。突如、土煙から現れた南海鼠人と牽制射撃に自衛隊は対応が遅れた。その間、エドウィンは敵陣との距離を詰めていく。敵の姿が判別できるまで近づいたとき、周囲に土煙が多数発生しエドウィンは倒れてしまう。立ち上がろうとした時、彼は自身の左の腕と足がない事に気付く。12.7㎜の弾丸は僅かにかすっただけで手と足を持って行ってしまったのだ。自衛隊陣地約30m手前で大きな爆発が発生した。



 混成部隊のスタッレー撤退作戦は終了し、第1軍団第55部隊は指揮官の負傷による戦線離脱と6割以上の損害を出し、ナバホの残存部隊再編時に解体されることになる。

次回で終戦です

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