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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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南海大島攻略作戦 その5

 南海大島の戦局はここ数日間で大きく動いていた。西部に上陸した日本国、蜀の連合軍は上陸作戦を成功させ、敵の防衛線を破り、西部最大の拠点ピドール大要塞を陥落させた。既に西部では掃討戦が始まっている。

 北部では自衛隊の支援を受けた倭国軍が敵の防衛線を次々に突破し、敵の総司令部が存在するナガリ山への攻略作戦が可能な位置にまで進出していた。


倭国静京、軍総司令部


「西部の橋頭堡は完成しており、補給の問題は解消されています。」


「蜀軍の増援が続々到着し、西部は広大な範囲を維持できる目途がたちました。」


「山岳要塞群の制圧によって、西部と北部の連合軍が合流できました。補給が済み次第山岳部の制圧作戦を実施します。」


 司令部では情報が共有されていく。南海大島の戦局は決したと言っても良いほどに連合国側に大きく傾いていた。今後の作戦は戦闘終結までに、どれだけ被害を押さえられるかが争点となっていた。


「ピドールの敗残兵がスタッレーの町に撤退しました。付近の部隊もこの町に集結中です。」


「まずいな、あの町には相当数の住人がいたはずだ。迂闊に手を出せないぞ。」


「既に作戦はできています。捕虜と難民から得た情報によると、彼らは住人をナバホ洞窟へ避難させています。スタッレーの住人もナバホへ避難させるでしょう。」


 派遣された連合国軍の首脳らが集まり、今後の方針を決めていた。日本国によって精巧に作られた大きな地図には、スタッレーとナバホ洞窟までのルートがいくつか書かれており、日本側は西部の敵残存戦力にトドメを刺すべく作戦を伝える。


「避難ルートはある程度予想ができ、誘導もできます。この色が塗られた部分には敵が使用している塹壕や掩体壕を破壊せずに残しています。このルートは敵の連絡路にもなっており、彼らはこのルートを必ず通るでしょう。」


「敵は避難民を連れて山に囲まれた谷間や川沿いを通るので、列は相当長くなります。列が伸びきったら多方向から攻撃を加え戦力を分散させます。避難民と軍を分離できたら、その隙間に輸送ヘリで本島鼠人部隊を投入し、避難民を確保します。」


「既にルート上の山頂部には蜀軍が展開を始めています。作戦が始まればルートを移動する敵に対して攻撃が始まります。」


「支援砲撃と航空支援の準備は完了しています。」


軍の首脳たちは頷き、作戦は実施されることとなる。


「この作戦は問題ない。西部最後の問題はナバホをどう落とすかだな・・・」


作戦立案にかかわる者たちは、それぞれの知識を出し合って作戦を作っていく。



南海大島、中央部

 自衛隊の空爆によって破壊された集落には鼠人はおらず、代わりに倭国軍が占領し、彼らはある任務を遂行していた。


「俺達はいったい何をしているんだ? 」


倭国陸軍に所属するシノヤマは自身が今やっている作業に疑問を感じる。


「なんでも、お偉いさんが日本側から依頼されたらしい。日本人はおかしな奴らだよ。こんな大きな戦果を無かったことにしたいなんてな。」


 同じ部隊のタダスケが隣で答える。彼は他の隊長達や司令部員と仲が良く、コネもあるため、今回のような情報を持ってきたりする。


「墓荒しなんて罰当たりだが、これも任務、しょうがない・・・」


 部隊の任務は中央部の各集落に作られた集団墓地を掘り起こし、遺体を完全に処理することであった。現在は全ての遺体を掘り起こしたところで、処理が始まろうとしていた。

 シノヤマは配下の虫達を虫笛で呼ぶ。無数の巨大な虫達が現れ、遺体を食べ始める。タダスケも口笛で配下を呼ぶ。タダスケの前には5mを超える魔獣が集まり、タダスケの指示で遺体を食べ始める。この二人は虫使いと魔獣使いであった。遥か昔、人間と妖怪が争っていた時代、まだ人間達に新世代が生まれる前は、妖怪と唯一互角に戦える存在であり、人間と妖怪の共存が実現してからは、虫使いは農業や害虫駆除、魔獣使いは護衛や警備の仕事となっていた。


「こんな事早く終わりにすんべ。おらぁ、かかぁに残してきたベコが心配で心配で・・・」


 周囲を警戒する妖怪のゲンジが話す。彼は部隊でも長く兵役についているので、実家に残してきた家畜を心配していた。勿論、シノヤマ達も自分の畑が心配であった。動員された倭国軍の兵士達は、長期化する戦闘に嫌気がさしており、国に戻りたがっていた。

 中央部の集落を制圧した倭国軍は集団墓地を確認すると、上層部の指示通りあらゆる方法で遺体を処理していく・・・



南海大島西部、ナバホ要塞司令部

 ナバホ洞窟には多くの避難民と敗残兵が避難した関係で大きな問題が発生していた。周辺の集落や拠点から物資をかき集めていたが、食糧の不足は解消されずに苦しい状況が続いていたのだ。


「スタッレーから住人を避難させると、現地指揮官から通信がありました。」


司令部要員となったシヴァはトライデントに伝える。


「スタッレーには第1第3軍団の精鋭部隊が集結している。彼らと合流できれば西部を立て直せるかもしれない。」


「スタッレーには物資がまだ多く残されています。この物資はナバホに無くてはならないものになるでしょう。」


幹部達はスタッレーの部隊と避難民の受け入れ準備を進めようとする。しかし、


「住人の避難は中止させろ。」


トライデントは作戦の中止を指示する。


「何故です。ここまでのルートは未だに健在、この機を逃せば撤退もできなくなるのですよ。」


「お前たちはこの状況に違和感を持っていないのか? 鼠人のスキルをフル活用すればわかるはずだ。これは罠だ。スタッレーの部隊はこのルートを通るように仕組まれている。このルートを住人に使わせてはだめだ。」


「しかし、どうすれば良いのですか! もう使えるルートは残されていません。」


「住人を置いていけばいい。」


「なっ! 」


トライデントの発言にその場にいた者たちは驚愕する。


「住人を見捨てるというのですか! 」


「それでも西部を預かる軍団長か! 」


「落ち着け! 」


トライデントが怒鳴り、場は鎮まる。


「良く聞け、住人を避難させようとしているルートは待ち伏せされている。連合軍は一回の砲撃で砦を破壊させる威力の大砲と、空から大量の爆弾を降らせる兵器を持っている。この中を住人が避難すれば全滅だ。連合軍は住人を捕獲し、最西端の町に造られた施設に収容している。住人は抵抗しなければ生き残る可能性があるのだ。」


 トライデントは住人を見捨てる気などない。一人でも多くの住人を助けようとしていた。スタッレーの撤退作戦は変更され、住人を残して軍だけがナバホへ撤退することとなる。これは、後に地獄と呼ばれる撤退戦の始まりであった。



南海大島、ナガリ山総司令部

 総司令部では移動の準備が進められていた。北部から侵攻してくる倭国軍がナガリ山手前まで迫ってきていたのだ。ナガリ山のすぐ南に南ナガリ山がある。南ナガリ山は険しく、山頂へ行くにはナガリ山の稜線を通るルートしかない。そのため、南ナガリ山の山頂には非常時用のシェルターが建設されていた。


「鼠人王、間もなく移動の準備が整います。」


 南ナガリ山へ続くルートへの扉には、ナブラとその一族、国の重要人物たちが待っていた。国の重要人物をシェルターへ避難させ、司令部機能を移動させることで、敵のナガリ山侵攻に対処しようとしていたのだ。

 扉が開き、先導する兵士の後をナブラ達が進む。約100m進んだところが南ナガリ山の山頂であり、シェルターの入り口がある。中に入るとそこそこの広場が広がり、奥が司令部兼避難施設となっている。


 ナブラは不眠不休で指示を出していたため、疲労困憊であった。限界を感じていたため、司令部機能が移設されるまでシェルターのベットで休もうと考えていた。


「思えば、短いものだったな・・・」


 ナブラは自身の過去を振り返る。家族が妖怪に殺害され、4歳で軍に入隊し、必死で生き残ってきた。戦場で長く生き続けていくうちに、南海鼠人の生ける伝説となって国王になった。長い時間をかけ、鼠人の強化を推し進めて、遂に鼠人達は妖怪を上回る力を手にした。絶対的な権力で国民全ての名を大陸人風に改名してトライデントと喧嘩したのは良い思い出だ。家族の中で唯一生き残った時に、この未来を予測できたであろうか? 今のこの状況は、儚い夢なのかもしれない。


 シェルターに避難してきた集団が広場から司令部へ移動しようとした時、聞き練れない連続音が聞こえ、皆、何もわからず次々に倒れていく。妻や子供たち、側近、兵士も糸が切れたように床に倒れていった。そして、ナブラも胸に衝撃を受け、体全体の力が入らなくなり、床に倒れこむ。

 シェルターには先客がいた。


 黒い影達はそれぞれが多くのスキルを保有していた。そのスキルを使い、誰にも気づかれることなくナガリ山へ到達し、下から登頂することは不可能とされていた南ナガリ山を各自の登山スキルとザイル等の装備を駆使して登り、工作員から入手した方法でシェルターに潜んでいた。全てはこの時のために・・・

 黒い影達は息のある者にトドメを刺し、カメラで顔を撮影して情報を送信していく。彼等は皮膚を一切出すことのない黒い布を全身に身につけており、顔は口しか出ていない。目には眼鏡というにはあまりにも不格好な装置を着けていた。その姿を見て、ナブラは死神が迎えに来たのだと悟った。影の一人がナブラに近づき、背中に3発の銃弾を撃ち込んだ後に顔を撮影する。


「目標達成、帰還せよ。」


無線の声を聴いた影達は、一切の言葉を発することなく南ナガリ山を去って行った。



倭国静京、日本国大使館

 その一室では、外務省職員と外務局の職員がモニターを確認していた。


「これが鼠人王です。他にも一族の全てを確認しました。これで、戦争を終わらせることができる。」


 倭国外務局員ツヨシは、鼠人王とその一族の死亡確認をしていた。倭国としては南海大島の独立を考えていたので、戦後の鼠人国家樹立には前向きであった。しかし、外務局は鼠人王の手腕を脅威と見ており、密かに日本国へ殺害を依頼していた。これにはいくつかの理由がある。倭国軍にも特殊任務を行う部隊は存在していたが、ナガリ山は敵の総本山なだけあって魔族避けの結界を何重にも張っていた。いくら強力な妖怪でも、これほどの結界を抜けていくことは不可能であり、潜入工作員も結界の中、命がけで活動していたため多くの死者を出していた。倭国による鼠人王の暗殺は実行できないでいたのである。

 倭国の調査によって、日本人が結界の影響を受けないことに目を付けたコクコは、密かに日本側と接触し、鼠人王暗殺を持ちかけた。日本側は鼠人王暗殺の代わりに中央部の集落で死亡した住民の処理を依頼していた。

 この取り決めは日本国の総理大臣、倭国の国会議長にすら伏せられた極秘のものであった。


 鼠人王殺害の情報は、倭国軍特殊部隊によって行われた決死の作戦が成功したものとして各国の報道機関に伝えられる。

ちなみに、シノヤマの虫達は途中でどんどん弱っていき、死体処理が遅れました。

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