表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
33/191

南海大島攻略作戦 その3

南海大島西部、ナバホ大洞窟

 西部の広大な密林の地下には、複雑に入り組んだ大規模洞窟が広がっている。ここは身を隠すのには最適の場所で、昔から妖怪の襲撃時に避難所として使用されており、ナブラのような年長者はナバホを一種の聖地のように扱っていた。

 現在はナガリ山に総司令部が置かれているが、以前はナバホ洞窟最奥に設置されており、まだ南海鼠人が力を持っていなかった時代から不落の名を馳せていた秘密基地である。しかし、南海鼠人と妖怪の力関係が逆転し、地上でも安全に暮らせるようになると人々は次々に出ていき、司令部が移されてからは利用する者はいなくなっていた。


「トライデント様、これは明確な命令違反です。鼠人王は連合軍の攻撃開始後にナバホ要塞への移動を命じたはず。」

「ナブラの命令は変更だ。あいつは何もわかっちゃいない、俺たちの兵士数や広大な国土は、先進国に対抗する上で何も意味を持たない。俺は空から見える拠点に長居したくはないね。それに・・・」


 トライデントが途中で会話を止める。目の前に巨大なサソリモドキが現れたのだ。長い腕で獲物を捕獲しようとする次の瞬間、サソリモドキは数十発もの弾丸を受け絶命する。


「ナブラの現役時代とは訳が違う。長年放置されていたおかげでモンスター共の巣になっていやがる。ここには十万単位の避難民を収容するんだ。早めに確保しなければ、とても間に合わない。第3軍団司令部には影武者を置いてきたから、それでいいだろう? 」

「この件に関しては鼠人王の判断に任せます。早く司令部に到達して通信を再開設しましょう。」


 シヴァはそう言いながら、先ほど発砲した分の弾丸を銃に込め、戦闘に備えた。


「ナブラめ、とんでもない女を寄越しやがって・・・」


 トライデントは誰にもわからないように小声で愚痴る。


「何か言いましたか? 」

「いや何も・・・一個小隊はここの空間を確保しろ。後は俺に続け。」


 まったく気の抜けない状況だが、トライデントはナバホ要塞司令部へ向け洞窟を進んでいく。



 西部海岸に構築された橋頭堡では、自衛隊と蜀軍が大規模な物資揚陸作業を行っていたが、物資の揚陸量は当初の予定を大幅に下回っていた。日本は西部の戦闘規模を予想して必要な物資量を計算、一日に必要な揚陸量を確保するため、国内で専用の桟橋を建造して南海大島まで曳航し、現地の浜に設置して運用する予定だった。しかし、曳航中に桟橋が破損したり、説明書通りに作業しても設置できないという不具合が発生し、作業の遅延が生じていた。現在は施設部隊が無理やり設置して運用している状態だが、桟橋は予定通りに設置できておらず、荷揚げの渋滞によって海上には積荷を満載した船が多数待機している状況である。


「物資不足で進撃が大幅に遅れています。施設部隊によると、当初予定の桟橋が設置できるまで後3日かかるとのことです。」

「戦力を投入できずに膠着状態となっている場所もある、急がせてくれ。こちらは攻撃目標を選別してできることをするしかない。」


 自衛隊は前線に物資を送れず、西部攻略作戦は当初の予定を達成できずにいた。敵を態勢が整う前に倒す作戦は失敗し、この遅延によって第3軍団は防衛線を構築、迎撃態勢を整えることに成功する。



西部の連合軍上陸地点から東に約70㎞、密林に囲まれた町「ケア」

 この地は現在、日本と蜀の連合軍と第3軍団が衝突する最前線の一つとなっていた。町の隣には固い岩石でできた標高300mのケア山がそびえ立っており、山中には広大な天然洞窟がある。鼠人達はこの洞窟を拡張することで天然の要塞を構築していた。

 ケア要塞と呼ばれるこの拠点は、上部を頑丈な岩石によって守られており、自衛隊の砲爆撃に耐えていた。更に、ケア要塞は第3軍団の中でも精強な第4部隊が拠点としている事もあって、連合軍の侵攻を止めていた。


「支援砲撃効果なし! 敵の砲陣地とガトリングガンは健在! 繰り返す・・・」

「現在、蜀軍がケア要塞まで塹壕を掘っていますが、要塞からの砲撃を受け、負傷者多数! 」

「気化爆弾は要請できないのか? 」

「飛行場の備蓄を使い切ったそうです。通常爆弾なら可能とのこと。」

「通常爆弾の効果は無い! 攻撃ヘリはまだ要請できないのか? 」

「攻撃ヘリは北部のピドール大要塞と山岳要塞群に投入されており、こちらには回せないとのことです。」

「戦車はまだ来ないのか! 多目的誘導弾は? 」

「ケアに続く道路は木や岩で封鎖されています。除去作業は難航中! 多目的誘導弾に残弾なし、補給の目途は立っていません。」


 支援攻撃は効果なく、ヘリや戦車を投入できない。そして、補給も遅れている状況に連合軍は苦戦を強いられていた。しかし、自衛隊と蜀軍が攻めあぐねている中で、前進して行く部隊があった。


「本島鼠人の部隊が前進しています。」

「鼠人指揮官が言っていた突破口を作る作戦か? 無謀だ、小銃と手榴弾でどうにかできる相手じゃない。」


 攻略作戦開始前、本島では自衛隊と倭国軍鼠人部隊が合同訓練を行っていた。

 敵は砦や塹壕を島中に造っており、支援の空爆や砲撃が間に合わないことが予想された。内陸部は密林地帯が広がっており、戦車を投入し辛いと判断され、空輸可能な戦力のみで要塞を攻略する訓練を行っていたのだ。

 ケア要塞級の拠点攻略訓練も行われ、普通科のみでも攻略可能と判断されていたのだが、自衛隊は大きな情報を見逃していた。ガトリングガンである。最新鋭の兵器というものの、山砲のパーツを流用して作られていたため、航空偵察の情報では山砲と判断されてしまっていたのだ。訓練通り要塞への支援砲撃後に蜀軍が突撃し、その時にガトリングガンと判明したため、蜀軍に多くの死者が発生して突撃は失敗。多目的誘導弾でいくつか破壊できたものの、連合軍を食い止めるのには十分な数が設置され、また備蓄されていた。


 現在、連合軍の塹壕はケアの町まで延び、町に侵入した蜀軍と南海鼠人の間で市街戦が行われている。今回の戦争では槍や弓では戦闘に付いていけなくなる可能性があったため、蜀軍はマスケット銃と弩で武装して南海鼠人に対応していたが、地の利が無く、武器性能の劣る蜀軍は劣勢だった。

 ケアに到着した倭国鼠人部隊は蜀軍の支援を受けて前進し、3時間かけてケア要塞の入り口付近に到着する。


「おいっ、あそこに到達できればガトリング陣地を潰せるんじゃないか? 」


 倭国鼠人部隊のヒロタが敵陣地を確認し、仲間に話す。倒壊しかけた建物には鼠人部隊30名が待機していた。


「迫撃砲の支援があれば陣地の真下まで行けそうだ。自衛隊に支援要請する。」

「砲弾が着弾し始めたら三人一組で障壁を展開して突撃だ。陣地の下に到達したら各自の判断で破壊しろ! 」


 シュウイチは無線機で自衛隊に砲撃支援を要請し、部隊長のカガリは漠然とした作戦を伝える。



 自衛隊陣地では倭国鼠人部隊の進撃速度に驚きの声があがっていた。


「彼等がこのまま行けば、陣地を突破して内部に突撃できるのではないか? 」

「鼠人部隊から迫撃砲の支援要請がきました。」

「迫撃砲弾は残り僅かです。」

「現状でケア要塞攻略が可能なのは彼等以外いないだろう。砲弾は今回の砲撃支援で使い切って構わない。彼等が失敗した場合、我々は後方に下がることになる、その準備もしておけ。」


 最前線では倭国鼠人部隊が支援砲撃を待っていた。


「おいっシューイチ、これ見てみろよ。」


 シュウイチの同期、タケがバック一杯に詰められた手榴弾を見せる。


「俺は陣地破壊係に任命された。そして、お前は俺の盾と言うことだ。しっかり守ってくれよ。」

「は? お前と組むのかよ、ついてないな。お前と一緒に死ぬのはごめんだからな! 誤爆なんてさせるなよ。それと、俺の名はシュウイチだ。」


 あえて名前を間違うタケは、シュウイチの苦手な同期であった。


「何揉めてるのよ。もうすぐ砲撃が始まるんだから、いつでも出れるようにしなさい。シューイチはタケの左、私は右を守るわ。」


「・・・了解! 」


 同期のチヨが二人の間に割って入り気合を入れた。シュウイチはMINIMIを肩に下げ、チヨは89式小銃を簡単に点検する。そして、タケは手榴弾に雷魔法除けの護符が施されているのを1個1個確認した。


 三人が準備を終えた頃、迫撃砲弾がケア要塞入口に撃ち込まれる。敵の陣地には山が邪魔をして一切当っていないが、目くらましには十分だった。


「突撃~開始! 」


 部隊長の合図で全員が一斉に突撃する。要塞には砲弾が降り注ぎ、倭国鼠人部隊の突撃を察知できた者はいない。しかし、爆発や土煙で見えないながらも南海鼠人達は射撃を行っていた。流れ弾に被弾する者が出たが、銃弾の一発や二発で障壁は破れず、皆被弾を気にせずに突撃して行く。運悪く山砲の直撃を受けた者達が派手に吹き飛んだが、部隊の大半がガトリングガンの設置されている陣地の真下に到達することに成功した。

 爆炎と土煙の中から突如現れた敵に陣地内の南海鼠人達は慌てて迎撃する。ガトリングガンは射角がとれず使用できないため、兵士達は小銃で狙いをつけて必中の弾丸を発射するが、敵の障壁によって弾丸がはじかれてしまう。


「なにっ! 」


 今まで相手にしてきた蜀軍では考えられないほど強力な防護障壁を敵が展開していることに兵士達は驚愕する。


「くそ! 奴等妖怪かよ! 」


 陣地内では兵士がダイナマイトの導火線に火をつけようとしていた。どんなに強力な障壁を張れても、ダイナマイトで倒せない奴はいない。

 兵士が火をつけるのを手こずっていると、目の前に黒い物体が転がってくる。それはM26と呼ばれる手榴弾だった。倭国鼠人部隊が投げ込んだ手榴弾によって陣地の多くが爆発し、設置されていたガトリングガンの大半が破壊される。


「陣地がやられた! 予備のガトリングガンを出せ! 」


 後方に待機していた予備部隊がガトリングガンを押してくる。精鋭である第4部隊は自衛隊の多目的誘導弾で破壊された時も素早くガトリングガンを運び、短期間で陣地を復旧していた。


「敵はすぐ下に来ている、はy・・」


 ガトリングガンを運んでいる部隊をシュウイチがMINIMIで掃射する。


「ここから要塞内部へ行けるぞ! 援護頼む! 」

「了解! 」

「おうっ! 」


 チヨとタケの援護を受けてシュウイチは要塞内へ突入していった。




 自衛隊陣地には要塞へ突入成功の無線が入っていた。


「よしっ! 我々も行動開始だ、蜀軍へ連絡! 」


 ケア要塞攻防戦は終局に差し掛かろうとしていた。




 シュウイチとチヨとタケの三人は凄まじい速度で要塞内を制圧していく。自衛隊から供与された兵器は高い殺傷力を持ち、シュウイチの目の前に6人の敵兵が現れても、難なくなぎ倒せた。シュウイチが通路の敵を倒し、チヨが部屋のドアを破って狙いをつけることなく銃を連射、タケがその部屋に手榴弾を投げ込んで走り去っていく。倭国軍鼠人部隊はケア要塞を瞬く間に制圧していった・・・


ケア要塞司令部


「コリンズ様、町方面の入り口が突破されました。敵が要塞内に侵入し、激しい戦闘が行われています。」


 第4部隊の長、コリンズは思いの外早く崩れた自軍に疑問を持つ。敵の攻撃は凄まじかったが、天然の要塞は初戦の攻撃を耐え抜いた。敵は補給が苦しくなったのか、時間が経つにつれ攻撃が弱くなっていったため、このまま耐え抜けば敵は後退を余儀なくされるはずだった。


「侵入した敵の詳細を送れ。」

「敵は斑模様の戦闘服を装備しています。兵装から日本国の兵器を使用していると考えられます。」


 報告を聞きコリンズは日本製の兵器を装備した倭国軍と判断した。これほどの侵攻速度は、ただの人間には無理だからだ。コリンズが指示を出そうとした時、部屋の外で爆発が起きる。

 司令部に煙が充満して司令部内は混乱するが、間髪入れずに司令部の破壊されたドアから斑模様の服を着た兵士達が侵入してきて、中にいる者達に銃を突きつける。やがて、奥から一人の男が前に出てきた。


「私は倭国陸軍所属、カガリである。貴方がここの指揮官とお見受けする。勝負は決した。降伏せよ。」

「私はこのケア要塞を拠点とする第4部隊の長、コリンズだ。部下と民の生命を保障するのであれば、投降しよう。」

「ご英断感謝いたします。」


「通信士、ケアを守る全部隊に連絡せよ、武装解除し連合軍へ投降するのだ。」


 とんとん拍子に進む降伏受諾に、両サイドの兵士達から驚きの声があがる。戦闘は急速に終息し、後方から到着した蜀軍と自衛隊によってケア要塞は占領された。


 ケア要塞から外へ出てくる途中でコリンズの部下達が口を開く。


「敵に寝返ったのは一体どこの部隊だ。」

「奴らは我々を殺すのに躊躇すらしていない。一体何者だ? 」


 部下は殺気立っていた。敵の鼠人部隊によって優勢だったケア防衛線が崩れたのだ。


「敵に寝返った者など、誰一人としておらんよ。」


 コリンズが若い部下に答える。


「コリンズ様、要塞を攻撃したあの者達は鼠人です。」

「あぁ、あれらは鼠人の形をした妖怪だよ・・・」

「は? 」


 コリンズの独り言のような言葉の意味を若い部下達は理解できなかった。



南海大島南東海岸

 海岸は海上自衛隊によって常時監視されており、武器を持った鼠人が確認されれば護衛艦から容赦なく砲撃されていたため、人影はない。

 深夜2時、危険な海岸に一人の南海鼠人が海を見ながら座っていた。上空には護衛艦から発艦したドローンが周囲を監視しており、海岸の北側にはゴムボート3艘から降りた黒い影達が上陸した痕跡を消している。


 ノロは月や星の明かりが美しい海岸にいた。日本人がこの光景を見れば、幻想的な光景に時間が経つのを忘れるだろう。しかし、戦地であるこの地では、そういった感情はわかない。ノロは自分の後ろから近づく存在に気付く。


「お待ちしておりました。」


「動くな。」


 ノロが振り向こうとした時、凄まじい殺気で黒い影が言葉を発する。


「倭国諜報局所属、潜入工作員、ノロです。」


 ノロは影達に所属を口に出す。と言っても、「ノロ」自体、自身の名ではなくコードネームだ。


「お前が協力者という証拠はない。」


 黒い影の殺気は依然消えず、ノロは自身の生命の危機を感じて倭国の者である証拠を見せる。

 突如、ノロと名乗った南海鼠人の口から黒い液体のようなものが出てきて、やがてその液体は口のようなものを形成して喋りだす。


「私は液状妖怪、または寄生妖怪と呼ばれる倭国の妖怪です。」


 黒い影達はノロが妖怪と判明し、殺気を一段緩める。


「では、渡してもらおう。」

「これがナガリ大要塞の図面です。この部分が・・・」


 どの組織にも影となる部分は存在し、組織が大きくなるほど、輝くほどその影は濃くなり、やがて影は闇となる。

 幻想的な自然の光景の中、影と闇の取引が行われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ