表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
32/191

南海大島攻略作戦 その2

キーワードの通りです。読む前に確認し、自己判断で読んで下さい。

南海大島、ナガリ山総司令部


「第1軍団司令部と通信途絶! 」


「東部海域を航行していた艦隊が消滅しました。」


「西部へ敵の大攻勢が開始された模様! 第3軍団司令部との通信も途絶! 」


 戦闘開始以降、総司令部へは信じられない内容の通信が入ってきていた。ナブラは通信内容を確認しながら次々に指示を出していく。


「まず、島全体の被害状況と敵勢力を把握せよ。第1第3軍団との通信復旧を急がせろ。第2軍団は鼠人王が指揮を執る、現地指揮官へ連絡、造船作業を中止、全員武装して戦闘に備えよ。兵の半数を中央へ向かわせろ・・・外の被害は分かったか? 」


 ナブラは指示を出しつつ、ナガリ山要塞の外の被害を聞く。F-2による第1軍団司令部への爆撃を皮切りに連合軍の一斉攻撃が始まり、間髪入れずにP-3Cによる爆撃も行われており、ナガリ山へも燃料気化爆弾が投下され、地上の施設は甚大な被害を受けていた。


「地上は壊滅です。洞窟内でも入口付近にいた者の多くが死亡しました。あのような状態の死者は初めてみます。敵は爆発以外の攻撃も行った可能性があります。」


 報告した兵士は、入り口付近等で死亡していた損傷のない死者を見て未知の攻撃方法を疑う。


「負傷者の治療は外でするな。全員内部へ避難させよ。監視員は最低限の数とし、外へは極力出るな。」


 ナブラは未知の攻撃を前にできるだけの対応策を出す。その時、通信士がある通信を受け、ナブラに報告する。


「第1軍団司令部の被害状況が判明しました。司令部は、全滅しました。生存者は無し、です。」


「わかった、今後、第1軍団もワシが指揮を執る。現地指揮官に連絡せよ、周囲の部隊を集め、この箇所に防衛線を張るのだ。」


地図を指さしながらナブラは的確に指示を出す。


「流石は鼠人王だ。こんな状態でも一切迷いがない。」


 皆が信じられず、受け入れがたい報告であったが、ナブラは混乱することなく指揮する。その姿は周囲の人物を驚嘆させる。

 この時、ナブラは久しく感じたことのなかった高揚感を感じていた。昔、まだ妖怪を倒すのに大量の死者が出ていた時と同じ状況だったのだ。ナブラが若かりし頃、侵攻してきた倭国軍は次々に鼠人部隊を殲滅してゆき、あっという間に自分達の部隊まで到達した。部隊の戦友たちが次々に死亡する中で、自分だけは驚くほど冷静でいられた。その時のナブラには自分がやるべきこと、進むべき道が見えており、その手順で移動し、隠れ、銃撃し、気付くと戦闘は終わっていた。これは鼠人特有のスキル、高度な危険察知能力と逃げ足をナブラが人生の中で昇華させた彼固有のスキルであった。幾度となく使われたこのスキルは、使用中に大量のアドレナリンが放出され、独特の高揚感と集中力を得られる。肉体が衰えた現在でもこのスキルは有効に機能していた。

 一瞬にして息子達が死亡し、軍が壊滅した。ナブラは驚き、悲しんだがすぐに立ち直る。「だからなんだというのだ? 家族が殺されるのは以前にも経験した。軍が追い詰められることは何度もあった。その都度自分は最善の行動を行って生き残ってきた。」そう自分に言い聞かせ、ナブラは自身を操る。


「第3軍団司令部との通信が回復しました! 第3軍団司令部は・・・壊滅したとのことです。」


 ナブラは自身の判断ミスを悔いる。トライデントとシヴァには「攻撃が始まったら避難せよ」と命令していたのだ。最初の攻撃でここまでやられるとは考えてもいなかった。二人を失ったからには自分が西部の防衛も避難も指示しなければならないため、ナブラは心を切り替え指示を出す。


「既に第3軍団はワシが指揮を執っている。司令部壊滅の影響はない。西部の民はナバホ要塞へ避難させよ。西部に上陸した敵戦力の把握はまだか。 」


ナブラは全身全霊で南海鼠人を指揮する。



南海大島西部、ポロ村

 ポロ村は自衛隊によって制圧されていた。付近の集落から避難のために集まってきた住人達は一ヶ所に集められ、順番にヘリで西部の収容施設へ運ばれていく。集められた住人達の中にはカタリナと妹のサラの姿があった。


「お姉ちゃん、私達どこへ連れて行かれるの? 食べられちゃうの? 」


「そんなこと無いわ、相手は妖怪じゃないみたい。安心して、サラは私が守るわ。」


 サラの問いにカタリナは精一杯強がるが、サラの不安は消えず、兵士が通りかかる度に震えていた。

 カタリナは落ち着きを取り戻し、兵士の特徴を少しずつ捉えることができてきた。背の高い兵士はヒトだろう。倭国や蜀に住んでいるらしいが、見るのは初めてである。デカイ・・・

 また、カタリナは着陸している空飛ぶ機械の怪物を見る。怪物には見たことのない文字が書いてあり、白地に赤丸が描かれている。カタリナは以前に集落へ撒かれたビラに同じ絵が記載されていたのを思い出す。それは日本国という瘴気の中から新しく現れた国であった。未知の国だが、倭国の同盟国なのでカタリナは警戒を続ける。


「何を見ている! 」


 突然声をかけられ、カタリナの緊張は頂点に達する。ヘリを見つめているカタリナを不審に感じた鼠人の隊員が、カタリナの気付かない間に近くへ来ていたのだ。


「あっ・・・そのっ・・・わたしは・・・」


カタリナは緊張のあまり声が出せない。


「おいっ、その辺にしとけ。その集団は既に武装解除済みだ。」


「しかし、こいつはずっとヘリを見ていた。何かするかもしれない。」


 鼠人の兵士をヒトの兵士が止めにかかるが、カタリナには敵に鼠人がいるのがわからなかった。


「鼠人でありながら敵につくとは、お前たちは何者だ! 」


 皆が疑問に思っていたことだが、勇気ある住人が声を出す。


「我々は本島鼠人、お前たちと同類に見られること自体不愉快だ。黙れ! 」


 驚愕の事実に周囲はざわつく。鼠人は捕まると妖怪に食べられると教育されてきたため、本島に鼠人が住んでいるとは誰も思っていなかった。また、倭国は誤射などを恐れて戦地に鼠人を派遣せず、南海鼠人側も倭国への攻撃に参加した鼠人は殆ど生存者がいなかったため、本島に鼠人が暮らしていることを知る南海鼠人はごく僅かしかいなかったのだ。

 住人は次々にヘリへ乗せられ、何処かへ運ばれてゆく。カタリナ達の番は最後だったこともあり、彼女は勇気を出して近くの鼠人兵士に話しかける。


「皆をどこへ連れて行くつもりなの。私達は妖怪に食べられるの? 」


鼠人の兵士は一瞬驚いた後に回答する。


「我々は貴方達を西にある施設で保護します。戦争が終わるまで集落の人々と共に、そこで過ごしてもらうだけです。」


兵士の話は到底信じられなかったが、カタリナは緊張がほぐれるのを感じた。


「それと、大昔の盟約で妖怪は人間を食べなくなりましたよ。」


「えっ? 」


カタリナ達は驚愕の事実を知ることになる。



 第1軍団第55部隊は横断道路を西へ向かって移動していた。現在の目標は山脈の手前にある町「テル」である。部隊が西に向かって移動し、テルの町が見えたところでP-3Cによる爆撃が開始された。

 たった4発の爆弾でテルは壊滅し、それを目撃した部隊は急いで救援に向かったのだった。


「誰か生きている奴はいるか! 返事をしろ! 」


「こいつはひでぇ、みんな死んじまってる。」


 テルの町は凄惨な状態であった。爆風で建物は倒壊し、工場や弾薬庫は燃えていた。いたるところに住人の遺体が散乱し、周辺を警戒していた部隊や、外仕事で難を逃れた住民が駆け付けて救出作業をしていたが、何処から手をつければいいかすらも分からない状況だった。第55部隊は到着すると小隊に分かれ、各小隊の判断で救助作業に入る。

 ポールの小隊も人がいそうな建物を捜索し人々を救出したが、全員が既に死亡していた。瓦礫に佇む小隊長のエドウィンを見つけたポールは駆け寄り、ポールに気付いたエドウィンは話し始める。


「見てみろよ。きれいな顔してるだろう? 」


 エドウィンの足元には同年代と思われる女性兵士が横たわっていた。目立った損傷はないが息をしていない。


「僕は生存者を捜索します。」


 ポールはエドウィンに生存者の捜索をすると伝え、この場を移動した。ポールには心配な人物がいた。アレクセイである。部隊がテルの街に到着してから彼は姿を消していた。

 ポールがしばらく瓦礫の街を歩いていると、アレクセイの後姿を発見する。アレクセイは倒壊した建物の前で膝をついていた。彼の目の前には布を被せられた住人達が並べられている・・・


「アレクセイ・・・」


ポールの声にアレクセイは答えなかった。




倭国静京、軍総司令部

 ここには各国が司令部を置き、戦地から送られてくる情報を共有しながら現地の連合軍へ指示を出していた。


「F-2全機帰還。」


「P-3C爆撃成功、損失無し。」


「東部海域の敵艦隊、排除完了。」


初戦での大戦果に自衛隊幹部達は胸をなでおろす。


「前段作戦は順調だ、これで敵は人員を増強し辛くなった。北部はどうなっている? 」


 幹部が北部で倭国軍を支援する部隊の状況を尋ねた時、隣の倭国軍司令部が沸き立つ。


「最新情報が入りました。特科の支援砲撃後に倭国軍が前進し、防衛線を突破しました。倭国軍の被害は軽微とのことで、作戦通りです。」


「作戦通りか、順調だな。問題は西部か・・・」


 始まってしまったものは、もう誰にも止められない。しかし、物事には必ず終わりがある。それぞれの人物が行き着く先はまだわからないが、この戦争の終着は直ぐそこまで迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ