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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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王の苦悩

南海大島、ナガリ山

 王城の最奥にある小さな会議室では、鼠人王が三ヶ国連合軍とどう戦っていくか第3軍団長と協議していた。


「戦略と戦術でお前に勝る者はいない。トライデント、お前の意見が欲しい。」


 トライデントは第3軍団長であり、ナブラと共に戦ってきた戦友である。頭が切れ、数々の戦闘を勝利に導き、また、何度も危機を救ってきたナブラの頭脳である。


「倭国単体なら勝利は固い。しかし、蜀が参戦するとなると、かなり厳しい戦闘になるな。奴らの物量は底なしだ。ただ、戦い方次第で勝機は充分にある。」


「二ヶ国だったら何とかなる。今回の敵はもう一国あるのだ、お前のことだから既に情報は持っているだろう? 」


ナブラは未知の国、日本国について尋ねる。この会談は日本対策がメインであった。


「日本国の情報はほとんどないが、エクセル爺さんは先進国並みの科学文明国と言っている。あの人は勘で物事は言わないからな・・・日本国が先進国だったら俺達に勝機は無い。日本国単体を相手にしたとしても変わらないだろう。」


「頭脳とも言われたお前が、随分とはっきりものを言う。まぁ、昔と変わらないか・・・」


昔と変わらないトライデントにナブラは懐かしさを覚える。


「貴方と二人で話しているからですよ。他の軍団長が同席していたら、会議にならなかった。」


 自らの勝利を信じている他の軍団長に、戦いの勝機が無いなどと言えば場が荒れるのは確実で、そんな状態では有効な対策が出されることなどない。


「しかし、俺には案なんてないぞ。夜間に飛び回っている奴は、恐らく「夜目」と言われる偵察型の鳥機だ。敵は俺達の戦力を全て把握していると考えていい。科学文明だから何とも言えないが、陸戦じゃ人機や獣機に相当する兵器を投入してくるだろう。俺達が持っている大砲も爆弾も効果は期待できないぞ。」


 打つ手なし。ある程度わかっていたがナブラはそれ程悲観していない。彼には今後の対応策と確固たる決意があった。


「頭脳が聞いて呆れるな、そんなお前に我が妙案を教えてやろう。」


ナブラはベルを鳴らして人を呼ぶ。


 トライデントはこれ以上何ができるのかわからなかった。「まさか、神竜ヴィクターと協定でも結べたのだろうか?」ありえないことだが、実現すれば戦争自体が終結するだろう。トライデントが考えていると一人の女性が入室してくる。その人物はナブラが最近お気に入りの側室、シヴァであった。


「トライデントよ、これからシヴァを使うが良い。」


 トライデントはナブラの意図が読めなかった。今は日本対策を考えているのではなかっただろうか?


「シヴァと申します。これより貴方様に全身全霊をもってお仕えします。」


シヴァが挨拶する。


「これの一体どこが妙案なのですか? 詳しく聞かせてもらいたい。」


 トライデントは先が見えず、ナブラに問う。ナブラはおもむろに紙切れを取り出してテーブルに広げる。それは先日、P-3C哨戒機によって撒かれた降伏勧告であった。


「位置関係から日本軍と蜀軍は西部に上陸してくる。連合軍の攻撃が始まったら、お前は民を連れてナバホ要塞に立て籠もり、機を見て日本国に降伏しろ。集落から動員は行わず、志願者のみ軍に参加させ、中央部に集結するようにせよ。この瞬間から第3軍団は鼠人王が指揮を執る。」


トライデントは驚愕する。ナブラの命令は一つの結論に行き着くからだ。


「責任をとって戦争を終わらせる気ですか? そうはいかない、貴方は国に必要な人だ。これからも人々を導いてもらわなければならない。」


「命令に変更はない。トライデントよ、もう時間がないのだ。日本国が本当に先進国ならば、降伏した者を無下に扱わないだろう。シヴァはお前をあらゆる面でサポートするように仕込んである。二人でできるかぎりの民を救ってくれ。ワシは時間を稼ぐ。南海鼠人を、絶やしてはならん。」


 鼠人王の決断は強固なものであった。南海鼠人の運命を左右する命令を受け、トライデントとシヴァは急ぎ第3軍団司令部へ向かう・・・




倭国首都「静京」

 中央議会場の一室で二人の人物が会話をしていた。


「南海鼠人を食していた食人集団が摘発された事件は記憶に新しい。瘴気が消えてもこのような事件が発生すれば、我が国の存続にかかわる。何より、妖怪と人間の盟約に反する行為だ。この件に関して、外務局長の対応をお聞きしたい。」


「このような事件が未だなくならず、私共も対処に追われております。しかし、ご安心をオウマ議長。蜀はこの件に関して理解を示しております。古くから妖怪と人間との関係を知る隣国ですので、これといった対応は必要ないかと・・・日本国に関してですが、既に日本国中枢にいる者は把握しておりました。その上で「波風立てることはしない」との回答を得ております。自国で解決するべき国内問題と見ているようです。」


 オウマ議長はコクコ外務局長を呼び止め、倭国の抱える闇につて話をしていた。この問題は倭国の存続に関わり、国民の間で不信感が広まる根の深い大きな問題であった。

 オウマは妖怪と人間との盟約が結ばれてから今まで食人集団の摘発を進めていた。全ては盟約のため、人間との共存関係を維持するためである。オウマは摘発を進める過程で、事件の背後にある大妖怪が関わっている疑惑を持つようになる。


「今回の件で、同心会が絡んでいない事は分かっている。」


「同心会? そのような組織とは関わった事もありません。」


 それはコクコであった。南海大島が国所有になる以前の所有者はコクコであり、鼠人を好んで食する妖怪でもあった。盟約が結ばれてからは一切食していないとされているが、コクコには黒い噂が絶えない。


「南海大島での戦闘が終われば南海鼠人は日本国が厳重に管理するそうです。このような事件は、もう起こらなくなるでしょう。」


「そうだと良いのだが・・・局長も食人集団の情報を入手したら一報をお願いします。」


 なかなか証拠を掴めない状況にオウマは苛立ちと焦りをつのらせていく。「この女狐め!いつか尻尾を掴んでやる。」そう思いオウマは退室していった。


「オウマ議長、貴方はとても責任感の強いお方だ。そして、誰よりも国を愛している。しかし、思考が単純すぎる。私は貴方のそういった所が好きなのですよ。」


 コクコの闇は深い。全ての人物が自分の駒であり、全ての事象が自身のカードとなる。彼女にとって、この世界は大きな遊び場であった。



日本国東京

 ある政党の建物内では若手議員達がベテラン議員と議論をしていた。


「今、政府がやろうとしていることはジュネーヴ条約違反です。非戦闘員を無差別に攻撃するなど許される事ではありません! 今こそ野党が結束して阻止すべきです。」


 若手議員は国際条約を無視するような政府の対応に憤りを感じていた。なにより、転移以降の人権や憲法を無視したような対応に我慢の限界であった。


「おいおい、体力が有り余っているのはわかるが、勝手に動いたって何も変わらないし、誰も付いてこないぞ。」


「こんなこと黙っていられないですよ。」


ベテラン議員が若手をたしなめるが、若手の怒りは収まらない。


「今の日本には資源も時間もない。政府はこの問題に終わりが見えたから、これほど大規模に動いているんだ。今は与野党協調の時、耐える時期だ。」


「日本が虐殺をしようとしているんですよ。これを阻止できなければ我々も同罪です。そんなこと国民は望まない。」


 後先考えずに全力疾走する若手を、ベテランは過去に犯した失敗を話すことで抑えにかかる。


「国民に寄り添い、国民が望む政策をしていた前政権が、短命だった理由を話せる者はいるか? 」


 この党の党首が総理を務めていた時、政権が長く続かなかった理由をベテラン議員が聞いてきた。


「転移後の怪物襲撃に対応が遅れたからです。しかし、それは想定外の出来事が起きたからです。」


想定通りの回答にベテラン議員はため息をつく。


「歴史上、想定外の出来事は何度も起こっている。政治家は、たとえ想定外でも、ある程度対応できなければならない。我々の判断に国民の生命がかかっているのだからな。前総理は国民の望む政策には力を入れたが、それ以外は殆ど力を入れていなかった。本来は備えなければいけないことまで国民感情を優先してやらなかったから対応が遅れたのさ。」


一人のベテラン議員が話し終わると別のベテラン議員が話し始める。


「転移前に土地を強制収用して農地にする政策や、食糧や燃料が配給制になって国民は強く反発した。配給制の廃止や国民を縛る政策の撤廃を掲げた議員達が、新政党を立ち上げて時の政権と対立した時に何が起きたか忘れた者はいないはずだ。」


「奴らは国民感情に火をつけただけでなく、国民をけしかけやがった。結果、暴動が起きて食糧備蓄庫がいくつも灰になった。混乱が収まって一番馬鹿を見たのは国民だ。お前達は奴らのようにはなってほしくない。」


他の議員も話に参加する。


「今の政府方針は総理のやり方じゃない。転移前の混乱をハードとソフトの両面で鎮めたのは実質的に各省庁だ。これ以上の政治不信は官僚の発言力を高めるだけだ。今は耐える時、着実に支持を集めるんだ。」


 ベテランの昔話に若手達の熱が下がっていく。自分達がこれからやろうとしていることが、一体どのような結果をまねくのか? 日本が行う民間人への攻撃を中止できたとして、はたして平和が訪れるのか? 鼠人が倭国への攻撃を止めることはないし、蜀は倭国救援のため、更に軍を派遣するだろう。死者の数は増えるだけで、黒霧内の情勢は悪化する。そのような状態で日本は他国との貿易ができるはずがない。貿易ができなければ日本は更に追い詰められ、燃料がなくなれば実力を伴った和平介入もできず、怪物退治もできなくなる。今の日本がやらなければならないことは、黒霧内を安定させることであった。



日本国、外務省

 ある一室で、幹部職員が環境省職員である上杉に報告を行っていた。


「ヴィクターランドに職員を派遣したのですが、当初より想定していた問題が発生しました。あの国は、国のトップ以外では外交交渉ができません。倭国や蜀の担当者にも助言を受けていたのですが、ここまでだとは思いませんでした。」


「それは困りましたね、今の総理は多忙で海外へ行くことはできない。それに、国のトップが頻繁に変わるようでは、先方に何を言われるか分かりません。総理には早く問題を解決していただくのは勿論のこと、長期政権になってもらわなければいけませんね。」



総理大臣官邸


「ええ、ご尽力感謝いたします。おかげで、倭国内で自衛隊の活動がし易くなりました。これからも宜しくお願いします。」


 総理は陰で動いてくれた大物に感謝の電話をしていた。しかし、内心は怒りに震え、握りしめた手からは血が滲んでいる。現総理は日本国憲法の改正を反対し続けている護憲派であった。

 国のトップ達の考えとは裏腹に、事態はどんどん進んでゆく・・・

未だに総理の名前が決まっていません!

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