南海大島攻略作戦 準備 その2
南海大島中央部、ナガリ山の北約80㎞に山全体を砦として利用している場所がある。内部に洞窟などは無く、周囲を見通せる場所に建設された巨大な砦には第1軍団の司令部が置かれていた。また、兵器の製造、研究拠点にもなっており、最前線へ兵士と兵器を供給する最大の拠点となっている。
第1軍団長のガントレッドは工場から吐き出される兵器群を眺めていた。
「これほどの兵器があれば倭国など恐れるに足らん。倭国を下した後は蜀を征服し、転移国家の日本国も支配してやる。瘴気内の覇者となり、先進国に肩を並べるぞ。」
ガントレッドは壮大な構想をもっている。彼は父であるナブラが第一線から退いた際に第1軍団の長を任された。勇猛果敢に倭国軍と戦う姿は、ナブラとは違った英雄像を南海鼠人達の心に刻み、父に負けず劣らずのカリスマと支持を得ていた。
当時のナブラはこの人事に絶対の自信を持っており、南海大島が国として独立できた暁には引退し、ガントレッドを新しい王とする予定であった。しかし、ガントレッドは兵器の進歩に慢心し、外交を全く考えない暴挙に出る。他国を上回る強力な兵器を手にしたことで、他国を助けを求める存在から支配する存在へと見るようになってしまった。蜀の外交団や日本国の調査団をナガリ山へ連れてくる命令を途中で殲滅に変えたのは彼である。
ガントレッドは階段を下りていき、兵器研究所に到着する。そこには銃身がいくつも付いた異様な兵器が置いてあった。
「軍団長、新兵器が完成しました。」
眼鏡をかけた初老の人物がガントレッドに声をかける。
「エクセル技長、楽しみにしていたぞ。これがその新兵器か、これほどの銃身から一斉射撃されたら敵はひとたまりもないな。」
エクセル技長と呼ばれた人物は、南海鼠人の中で神の手を持つ男と言われる技術者兼発明家であった。現在56歳、ナブラと共に戦場を戦い、ナブラ達が持ち帰る戦闘情報から兵器の改造や新兵器作成を続けてきた生きる伝説である。その発明品は兵器にとどまらず、魔法具や自身の眼鏡、負傷兵のために開発した義手や義足などもあり、多くの鼠人がエクセルの元で働きながら知識と技術を身につけ、各地へ散っていった。
「これは一斉に射撃する兵器ではありません。射撃をお見せしましょう。」
エクセルは部下に合図を送り、部下は兵器の横につけられたクランクを回す。すると、新兵器は銃身が回転し、見たこともないほどの連続射撃を行った。一瞬にして30発の弾倉が空になり、部下は素早く弾倉を交換してまた射撃を始める。
「防衛戦において、この兵器が複数あれば多数の敵兵にも対応できるでしょう。」
エクセルは使用方法や問題点を説明するがガントレッドの耳には入っていなかった。
「素晴らしい、すぐに量産したまえ。この兵器が量産された暁には倭国など一瞬で滅ぼせよう。」
エクセルはうんざりした様子でガントレッドに先日の話をする。
「軍団長は、先日の高速飛行物体を確認されましたか? 」
それは航空自衛隊の偵察機であり、滑走路だけ完成した本島の飛行場から飛ばして南海大島の偵察を行っていた。この時使用されたRF-15は南海大島の周囲に展開していた護衛艦の支援を得て夜間偵察を行い、試作無人機にもかかわらず無事帰還している。
「音は聞いたが、夜で何も見えなかったぞ。技長は何かつかんだのか? 」
「夜目の効くものに聞き取り調査と形を絵にしてもらい、それらを元に書物を漁って調べたのですが、大陸から伝播した「中道記」に該当するものがありました。あれは古代文明の鳥型戦闘機に酷似した航空機です。」
エクセルの推測にガントレッドは思考する。古代文明は瘴気内には無い、瘴気は健在で鳥機を保有する大陸国であっても、ここまで飛ばすことはできないだろう。そんなものが飛び回るのはありえないことだった。
「技長、いくらなんでも話が飛躍しすぎだ。鳥機だとして、いったいどこから飛んできたというのだ? 」
「日本国が高度な科学文明国という情報は軍団長も耳にしているはずですが・・・」
ガントレッドは全滅させた日本の調査団から手に入れた装備を解析させていた。しかし、あまりに複雑な構造のため解析すらできず、担当した技術者は「こんな難解なものは解析するだけでも百年かかる」と言い、匙を投げられていた。
「いくらなんでも科学文明だぞ。ジアゾ国ですら、そんな航空機はもっていないと文献にある。」
「近日中に日本国は動くでしょう。その時に判断してください。」
エクセルは話をすること自体が嫌になっていた。ここまで言っても軍団長は事態を理解していないし、理解しようとしていない。これ以上の話は無駄と判断し、話を切り上げる。
日本国調査団の装備は担当の技術者が「手に負えない」とエクセルの元にも送られてきており、調べた結果、魔法を一切使用しない機械ということだけは判明した。
未知の物質、未知の部品、未知の回路、その全てがエクセルの知識と技術を凌駕するものであり、その時点で彼は国の行く末を予想できてしまった。自分にできることを探してみたが全てが手遅れである。
エクセルは技術者としてできることを最後の瞬間までやろうと考え、新兵器の製造に取り掛かる。
日本国某所
広大な倉庫内に大きな物体が多数保管されていた。倭国本島行きの積荷の名は、特殊爆弾と書かれた燃料気化爆弾であった。




