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とある転移国家日本国の決断  作者:
新たな勢力の出現と瘴気内の動乱
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倭国の狼狽

瘴気内各国の共同声明発表から数日後、倭国

 静京の中央議会では、今後の国家運営を決める臨時会議が開催されていた。議題は南海鼠人についてである。

 南海大島の北部は倭国が支配しているが、近年の南海鼠人による攻撃激化により撤退の議論が度々出されていた。結論は先延ばしに先延ばしされていたものの、被害が増える現状に、この会議で撤退か維持か、或いは他の方法が決定されることとなっていた。


「このまま被害が出続ければ、国が傾きかねん。軍務局長、一旦引いて体制を立て直した方が良いのではないか。」


「オウマ議長、現在は軍が南海鼠人を押さえている状況にあります。軍が引けば鼠人共は勢いづき、本島への攻撃を強化するでしょう。」


 議長の問いにゴウキ軍務局長は現状を報告するが、軍は南海鼠人に対して有効な対策を打てずにいた。


「残るも地獄、引くも地獄か・・・このまま瘴気が晴れれば、我が国は諸外国へ弱みを見せることになる。それは避けねばならないことだ。南海鼠人との交渉はできるか? 」


 国の弱みを見せることは他国に政治、外交、交易あらゆる面で足元を見られかねない危険な行為である。瘴気の外では魔族主体の国家自体が宣戦布告の理由になるため、倭国は人間と共存しつつ魔石の取引を行うことで安全な魔族をアピールし、先進国からの宣戦布告を回避してきたのだ。

 オウマは手詰まりの状況を打破する一手を考えていた。鼠人王を国家元首として南海大島の独立を認める代わりに停戦し、その後に和平を締結して地域を安定させる計画である。この計画は以前から考えていたもので、既に一部有力議員や強大な大妖怪の支持を取り付けていた。


バンッ!


 外務局が発言しようとしたところ、急に議会室の扉が開かれ、情報局職員が入室してくる。


「会議中失礼いたします。情報局から、先日入手した最新の情報を報告いたします。南海鼠人が本島への大攻勢を準備中との情報が入りました。早ければ1年、遅くとも2年後には大攻勢が始まるでしょう。」


「なんだと! 」


 情報局の突然の発表に会議室は驚愕の声に包まれる。この情報は数日前にもたらされたが、あまりにも荒唐無稽であったため解析に時間がかかってしまい、会議の当日に「意思決定までに周知されなければならない情報」として緊急で出された。当然、オウマ議長もゴウキ軍務局長も初耳である。


「まとまった軍となれば、今までのように秘密裏に上陸することはできまい。それに、軍を運ぶだけの船を鼠人が造れるとは聞いた事がないぞ。」


 軍の知識がある議員が発言する。


「南海大島の南にある巨大洞窟、フゴク洞窟内に大規模な造船施設を確認しました。フゴク洞窟は南海鼠人の軍団が拠点としている場所であり、近年は鼠人の大砲が射程で海軍の砲を上回ったために近づけずにいた場所でした。」


「洞窟内には最新の大砲を搭載した軍艦3隻を確認。砲の性能と機動性から、この3隻で我が国の海軍を壊滅させることが可能と推定されます。さらに、大型の帆船が建造中であり、1、2年もあれば大艦隊となります。」


 驚愕の情報が次々に出される。この情報が正しければ話し合いが可能な時期はもう過ぎていることになる。戦争に勝てる状態で停戦に合意する指導者はいない。


「軍務局長、南海大島から軍を撤退させるべきです。本島の防衛を強化しなくては。」


「奴らが大人しく撤退を許すとは考えにくい。海軍の総力を挙げて撤退作戦を実行する。」


 倭国にとって南海鼠人は格下の相手ではなくなっており、鼠人問題は国家存亡の危機にまで発展していたのだった。


「みなさん、落ち着いてください。外務局からも情報提供を行います。」


 場違いに落ち着いて発言したのはコクコ局長である。先に発言しようとしていたが、情報局の飛び入り爆弾発言に話す機会を失っていた。


「間もなく蜀と日本国から援軍が派遣されます。南海大島からの撤退はその戦況を見極めてからで良いのではないでしょうか? 」


コクコの発言は意外なものであった。


「外務局長、蜀は木人という内政問題を抱えている。外務局からも形式参戦と伺ったぞ。それに、日本国には海のヌシが連日押し寄せていると聞く。かの国にそのような余裕はないだろう。」


オウマ議長は各国の情勢を把握しているが、その情報は最新ではない。


「日本国は上陸したヌシを半日かからずに駆除しています。また、蜀の木人は日本国によって滅ぼされました。蜀と日本国からは準備でき次第、兵を派遣すると伺っています。」


 オウマは何かが理解できない。日本国は海のヌシの群れを駆除しつつ、蜀の木人を数ヶ月で滅ぼし1000年続く戦争に終止符をうった。そして蜀とともに我が国へ援軍を派遣すると・・・


「コクコ局長、日本国はどれほどの国力を持っているのだ? 」


「現在は大幅に弱体化しているようですが、それでも先進国並みの国力を有していると考えられます。また、古代文明に匹敵する技術をいくつか保有しておりました。」


 議会室は静かになっていた。突然国家存亡の危機が訪れたり、隣国が先進国だったり、多くの者の理解が追いつかなかったのである。この状況に議会はコクコ主導で話が進んでゆき、議会の決定は「南海大島から軍は撤退させず、援軍の到着を待つ」ということに落ち着いたのだった。



南海大島南部、フゴク洞窟、第2軍団長室

 第2軍団長のブリガンテは港を眺めていた。彼の目線の先には小型戦闘艦が停泊しており、その隣には建造中の大型戦闘艦が完成の時を待っている。

 300年前にジアゾ国が派遣した戦列艦と呼ばれる軍艦は倭国の妖怪達を混乱に陥れた。当時の南海鼠人達は戦列艦の形状や性能を書きとめ、いつか造れることを夢見て研究開発に取り組んでいた。妖怪の目を盗み実験を繰り返し、その知識と技術は次世代に受け継がれてゆく。ブリガンテの目に映る艦隊は南海鼠人達が何世代にもわたり磨き上げた技術の結晶なのだ。

 南海鼠人の戦闘艦には大きな特徴がある。大砲の性能を強化することで、大砲の数を大幅に減らして速力を強化し、倭国のフリゲートを遥かに上回る速力を得ていた。また、砲弾は榴弾が使用されており、威力も桁違いである。


「早く戦場で倭国のフリゲートを沈めたいものだ。」


 ブリガンテは視線を造船所から部屋の壁に移す。


「あと1年で準備が終わる。妖怪共め、支配される側の立場をとくと味あわせてやる。」


 部屋には父である鼠人王の肖像画が飾られていた。

政治的な話ばかりで全体が暗くなりすぎました。「日本国の決断」のテーマは「人類の求めるもの」「希望と絶望」「優しい世界」です。次回は明るい話を入れたいと思います。

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