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とある転移国家日本国の決断  作者:
硝煙と破壊の彼方 序
189/191

カウントダウン その2

日本国、東京湾

 古くから天然の良港として栄え、現在もその機能を拡張している日本屈指の港湾地区は、転移の影響を受けて中小の企業がひしめく巨大造船基地が建設されていた。

 この巨大造船基地は転移の影響による大量の失業者対策として建設され、ジアゾ合衆国の外交団が到着する前までは瘴気内向けと大陸向けのタンカーが大量に建造されていたが、現在は海上自衛隊の小型無人護衛艦が建造の全てを占めており、進水した艦が毎日のように外海へ向けて移動していた。


 有人護衛艦に率いられた無人護衛艦の群れが今日も外海へ向けて出港してゆく。行き先は倭国とヴィクターランドであり、日本近海での性能検査と初期訓練後、現地で本格的な訓練が行われる。ただ、進水したての艦はAIの学習が必要なため、最低限の人間が乗り込み必要期間操縦しなければならなかった。


「3番艦は直進できないようです。」

「またか。もう一度、距離に気を付けるよう各艦に通達。」


 効率最優先で建造された艦は多くの欠陥があり、進水して直ぐに分かる艦も見受けられる。しかし、航行不能に陥るような欠陥でもない限りはAIが艦の特性を学習して操艦するので許容されていた。

 無人艦を率いる護衛艦内では粗製乱造された艦に嫌悪感を抱く者は少なくないが、そもそも艦寿命を5年程度として建造されている無人艦は、艦隊行動ができ、艦隊の目となり、攻撃を行えて有人艦の弾避けになれれば上出来なので、建造期間最優先の粗製乱造は許容されている。というよりも推奨されていた。


「海底にシャーロットがいます。」

「こんな所でボトムの訓練をしているわけではないのでしょうが、何をしているのやら。」

「事前に通知は受けている。動きを注視し、事故防止にあたれ。」


 ソナーを監視する隊員が米軍艦船を報告し、事情を把握している艦長以外は「余計な仕事を増やすなよ」とばかりに怪訝に扱っていた。

 東京湾は艦船の通行過密地帯のため、訓練はなるべく外海で行うのが通常だが、どんなに邪魔でも米軍の行動まで口を出せないのだ。隊員達は疑問に思いつつも、無人艦を率いて行く・・・



都内某所

 仁科真月(にしなまつき)は警備を担当している商店街に次々進入する暴徒達を現行犯で逮捕し、部下に命じて各地の警察署へ送っていた。


「南西のバリケードが破られそうです。」

「わかりました。」


 真月は無人となった商店街アーケードを行ったり来たり、かなりのハードワークを強いられている。

 暴徒達の目的地である国会議事堂とは関係のないルートにある商店街に何故暴徒が進入してくるのか? それは単純なことで、国会議事堂に繋がる大通りを警視庁の機動隊が固めていたからである。デモ隊の一部は機動隊の二重三重に張られた壁を迂回しようとし、その中の一部が暴徒化して略奪や破壊行為を行っていたのだ。


「やっちまえ! 」

「 うらぁ! 」


 バリケードを抜けて来た暴徒がバールで警備員達に殴り掛かるが、真月は軽くあしらって暴力行為を行う者達に手錠をかけてゆく。ただ、そんな事をしている内に、逮捕者を輸送する車も警備員も無くなってしまった。


「支社は何処も手一杯だそうです。」

「これ以上は不味いですよ。」

「仕方ありません。撤収の準備をしてください。」


 派遣された真月のチームは限界を迎えていた。

 警備を任された地区を放棄するのは後ろ髪を引かれる思いだが、能力を超えて暴徒が進入してきてはどうしようもない。


「その暴徒は? 」

「1人分席が足らないので解放します。」

「略奪を働くような人は絶対に逃がさないでください。私はプランBで戻ります。」


 逮捕者は車の屋根にまで縛り付けている状態のため、真月は単独で帰還する事を伝えた。プランBは都内各地に建設された地下避難所を経由しながらとなるため、時間はかかるものの、地下に潜る事ができれば安全に帰れるルートである。


 警備員達は荷物を車に載せると、真月を残して撤収していった。


「さて、と・・・」


 真月は暴徒に見つからないように廃墟となった建物へ忍び込み、携帯端末で目的地を確認する。最寄りの避難所入り口は大通りの先にあるため、警備会社の服を着ていては危険が大きい。アーケードに侵入してくる暴徒に注意を払いながら真月は私服に着替えて商店街を後にした。通りではデモ隊と機動隊が対峙しているものの、私服ならちょっと離れた所から人混みに紛れて横断する事ができるはずだ。


「うっわ~」


 大通りに出た真月の目の前には、石やコンクリート片、火炎瓶が機動隊に降り注ぐ光景が広がっていた。

 デモ隊の最前面は暴徒と化しており、後方からは続々と暴徒が合流してくるため、その規模は見る見るうちに膨れ上がって行く。そして、真月は機動隊が火炎瓶を投げられても一切行動を起こさないことで、機動隊がとる次の行動を予測する。

 マズイ・・・普段なら火炎瓶の消火と同時に暴徒達の頭を冷やすために放水車で水を浴びせかけるのに、機動隊はずっと機を伺っている素振りをしていた。機動隊が行動を起こす前に通りを抜けなければならない。


 真月は人混みの中に僅かにできた隙間を縫うように移動していく。リュックを背負っているとはいえ、今回ばかりは小柄な体型が役に立った。しかし、真月が人混みに流されながらも通りの中央まで来た時、聞き逃してはいけない音が聞こえてくる。

 !! 直ぐにリュックで頭を守ると、付近に複数の物体が白い煙を立てながら転がってきた。機動隊は真月の予想よりも早く行動に移ったのだ。

 催涙弾の一斉発射と機動隊の突撃によって人の流れが一気に変わり、付近は大混乱に陥る。真月は混乱に乗じて路地に逃げ込むが、そこにも複数の人が逃げ込んで来たため、多くの人が転倒してしまう。


「 きゃっ! 」

「痛ってぇ~・・・」


「「大丈夫ですか?」」


 真月は一緒に倒れ込んだ男性に声をかけたが、男性も同じく声をかけたため声が被ってしまった。そして、聞いたことのある声によって互いに相手を見つめ合う。


「あれ? 兄、さん。」

「ん? 真月!? 何でこんな所に・・・」


 奇跡的に出会った兄妹だったが、直ぐ近くで機動隊と暴徒の衝突が起きているため、真月は兄の腕を掴んで強引に引っ張って避難しようとする。


「真月、どこ行くんだよ。」

「避難所。詳しい説明はそこに着いたら話すね。」


 真月は広域避難所の入り口となる袋小路に到着すると、携帯端末のアプリを起動させ、マイクロチップが埋る皮膚を画面に押し当てた。

 携帯端末と連動する避難所入り口の頑丈なシャッターのロックが解除されると、真月は両手でシャッターを上げて兄を中に入れた後、関係者以外が入らないようにシャッターを下ろしてロックした。


「真月、お前、何で・・・」


 事情が呑み込めていない兄を尻目に、真月は第2ゲートを開け、その先にあるエレベータールームまで到着する。ここには7台のエレベーターが設置してあるが、今は節電で稼働しているのは1台しかない。

 兄妹はエレベーターに入り、地下に降りて行く。


「兄さん、ちょっと向こう向いてて。」


 真月はリュックから警備会社の制服を取り出して着替え始める。


「兄さん、あんな所で何してたの? 暴動発生地区では撮影も取材も禁止でしょ。」

「取材に来た時は暴動は起きてなかったんだ。お前こそ、デモに参加するなんて危ないことはするなよ! 」


 真月は大学に入ってから就職したことは伝えていたものの、警備会社に勤めていることを兄には話していなかった。そして、兄は反対側を向いているため、真月の姿を見ていないことで、何か勘違いしていた。


「兄さんちょっと勘違いしてる。私はデモになんか参加してないよ。今日は仕事でここにいるの。あっ、もうこっち向いていいよ。」

「じゃぁ、なんだっ、て・・・」


 兄は真月の姿を見て固まる。

 妹の服は一度でも見たら忘れられないアスラ警備保障の女性幹部用の制服を着ていた。


「何の冗談だよ。」

「大学生になってから働いてるって言ったでしょ。」


 制服の上にプロテクターを装備し始めた妹を兄は信じられない表情で見つめる。


「通りの近くにある商店街を警備していたけど、暴徒がすごくて撤収してきたの。」

「お前、何時から勤めてるんだ? 」


 大人しい性格の妹があまりにも豹変してしまった。兄は妹に聞きたいことは山ほどあるが、まず「あの軍事会社」の幹部になった理由が聞きたかった。

 真月は兄に烏天狗との接触から、今までの顛末を話した。


「と、言うわけ。兄さんが務める会社の人から取材も受けたよ。」


 意味がわからない。妹が半分妖怪で軍事会社に雇われて、国の仕事をしている? 会社の人って、瀬間さんしかいないよな。


「そんな事信じられるか! からかうのもいい加減にしろ! 」

「兄さん聞いてなかったの? そう言えば、会社の人は記事にしないって言ってたっけ。信じられないかもしれないけど、もうすぐわかるよ。」


 その時、エレベーターが目的地に到着してドアが開いた。兄妹は広域避難所への最後のゲートへ移動し、真月は端末を操作してゲートのロックを解除する。


「封鎖された避難所に入れるなんて、警備会社の特権か? 」

「そうだけど、一部の幹部だけ。あと、この避難所は現役だよ。」


 広域避難所の多くは避難指示が解除されてから封鎖され、ここも封鎖されていた事を知る兄は、内部事情をまだ知らないらしい。


「止まれ! ここは関係者以外立ち入り禁止だ。」

「 !? 」


 突然厳つい男性達が現れたことで兄に緊張が走っているが、関係者である私は前に出て彼等に挨拶する。


「突然すみません、仁科真月です。ちょっと通らせて欲しいのですが。」

「何だ、真月ちゃんか。そっちの男性は? 」

「兄です。」

「へぇ~。初めまして、ここを警備している大槻です。」


 場の雰囲気が和むと、兄は恐る恐る挨拶と自己紹介をしてから小声で妹に事情を聞く。


「日本全国で私みたいに妖怪の血が濃く出た人達がいるんだけど、次々に殺されているの。ここは国が設けた避難所。」


 真月は憲法改正投票と戦争が迫る中で、ほとんど表に出てこない社会問題を兄に話した。

 この避難所は国の指定したシェルターであり、避難者は鴉天狗の強硬派から逃れて来た者達が大半である。全国で半魚人以外の怪物の目撃例や内陸部での殺人事件、行方不明事件が多発していることを把握していた兄は次第に妹の言葉を信じ始める。


「九州で頻発している一家惨殺事件は、まさか・・・」

「九州には危険なグループがいるの、あいつ等は家族の中に1人でも半妖がいれば容赦しない・・・ここには家族で避難してきている人がほとんどだよ。」


 兄は妹の話を聞き、上司である瀬間が何も記事にしていなかったのは自分にあることを薄々感じ始めていた。


「・・・ここの地上は平穏だ。気を付けて行ってこい。」

「ありがとうございました。」


 避難民に送ってもらった兄妹は、地上へのエレベーターに乗って無事、危険地帯を脱出した。真月が重量シャッターのロックを解除すると、今度は兄がシャッターを開けようとするが、頑強なシャッターは重くてビクともしない。


「もう、兄さん無理しないでよ。」


 負けず嫌いで変なプライドを持つ兄を心配しつつ、真月はシャッターを軽々上げる。その光景を見た兄は口を開いた。


「真月、このことを記事に・・・」

「それは絶対しないで。」


 真月はそれ以上何も言わなかった。

 この情報は大勢の人の命に係わることだ。しかし、自分は国が国民に隠している不都合な真実を世間に公表するためにマスコミをしている。瀬間のような「昔のやり方」は好きではない。国民がこれ以上国に騙されないためには、真に自分達の意志で行動するためには、自分が伝えるほかない。しかし・・・



国会議事堂周辺

 機動隊による厳重な警備が敷かれている議事堂周辺では、デモやその他の集会が厳しく監視されており、個人の抗議活動すら迅速に取り締まられていた。物々しい雰囲気だが、付近は安全が確保されているため、真面目に仕事をしている者はこの状況を受け入れている。むしろ、「働きもしないで抗議ばかりしている」無色の支持者にうんざりしている者がほとんどだった。

 国会周辺を守るのは全国から応援に駆け付けた機動隊であり、その威容によって違法デモ活動を行おうとしている者を威圧し、抑止している。また、私服警官が巡回することによって労働者とデモ行為者を区別して早期に対処する事で、機動隊とは別の方法で違法デモ活動を抑止していた。更に、警視庁ではインターネットや様々な無線通信を監視する事で二重三重の対策を施している。


「あれは? 」

「あぁ、米軍だな。」


 私服警官の1人が米国製の民間車両にたむろする集団を見つけるが、直ぐに正体を把握したもう1人の警察官は軍人であることを伝えた。


「国会で証人喚問をしているから、その迎えだろうな。」

「米軍は護送も自前でできますからね。」


 在日米軍は転移直後から多くの国民を守ってくれた頼れる同盟軍であり、私服警察官達は彼等への警戒を下げていた。



横田基地

 東京都多摩地域に広がる巨大なこの航空基地は、黒霧発生前は極東全域の兵站基地として機能しており、「横田空域」と呼ばれる米軍が航空管制を行う空域が首都圏の広範囲に広がっていた。現在は自衛隊との共同管理に変更されており、民間航空機は相変わらず不便な空路を使用しているのは変わらない。

 黒霧によって米軍の大部分が撤退した今では、米軍機に変わり航空自衛隊の輸送機と電子戦機、陸上自衛隊の輸送ヘリが配備されており、転移直後の怪物対策、蜀、倭国、南海大島への輸送拠点となる等、本来の機能を遺憾なく発揮していた。


 基地の一角で、自衛隊に配備されていない独特な形状の輸送ヘリが飛行の準備を進めていた。

 輸送ヘリへは整備員の他、目的地へ送り届ける軍人が乗り込んでいくが、特殊部隊員が扮している事を知る者は極一部である。整備員が整備道具として持ち込んだ道具ケースの中身は武器であり、彼等は銃火器を組み立てて、予め内部に配置していた装備に着替える。


「予定どおり、合図があり次第突入する。」


 特殊部隊としては高齢の隊長が作戦を伝え、年齢層の高くなった隊員達が覚悟を以て作戦を聞く。

 Ⅴ-280ヴァローは完全武装のシールズを乗せて飛び立っていった。

仁科兄妹合流。ベクトルは違えど2人共正義感が強いです。

仁科兄は国家が隠す不都合な事実を大衆に伝えるために活動しているので、典型的なマスコミです。暴動の写真を何枚か撮っていて、後で無断公開して瀬間に怒られます。

仁科妹は自分を囮にして犯罪者を炙り出して捕まえたり、人混みに紛れ込んだり、ちゃんと人狼しています。警備員なので狼というより番犬ですが…


何か、米軍が殺気立っていますが、次回で理由が判明します


V-280ヴァロー

日本はまだコピー出来ていません。ヴァローの生産はオスプレイのコピーで技術力を付けてからになります。大軍拡したにも関わらずオスプレイの生産数がゴミになった原因です。



※近状をXに投稿していますが、忙しくて投稿が大幅に遅れます。失踪するわけではないので、気長にお待ちください。各話の誤字脱字、感想などを投稿していただければ、なるべく対応します。

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