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とある転移国家日本国の決断  作者:
硝煙と破壊の彼方 序
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ナギの井戸端会議 その2

「・・・反応薄くない? 」

「今更驚きはしないわ。」


 関東本部が国の傘下に加わることに衝撃を受けると思っていた依瑠は、楓の様子に拍子抜けするが、楓としては薄々予想していたことだし、既に自分は国に飼われているため今更感があった。


「流石、月夜野のナギと言ったところかしら。」


 問題なしと判断した依瑠は端末を操作し、楓は依瑠から送られてきた聖女の重点調査項目を確認する。そこには完全に人間世界に溶け込んでいる聖女の情報があり、信じられない事に、日光、銀、ニンニクを克服し、吸血も必要としないことが記載されてあった。恐らく、本人とナギ以外、聖女は完全に人間として認識されている・・・というよりも、最早人間である。


「妖怪のヒト化、或いは吸血衝動を抑える術があるはず。」

「結構気にしているじゃない! 」


 さっきは半妖として生きると言っていたのに・・・まだまだ未練が残っているにもかかわらず、根本的な原因を見逃している依瑠へ、楓は自身の研究と経験をもとにした持論を話すことにした。


「あの時、依瑠が言っていたナギだけど、人を襲うようになったのは妖怪化だけじゃない! 鴉天狗自身に問題があったのが分からないの? 」

「1000年以上前で文献もろくに残っていないのに、何を根拠に言っているの? 」


 依瑠は自身が妖怪ではないかと疑念を持った時から今まで全国の文献を読み漁り、実家の書庫を調べ、先代のナギである祖母に聞いても原因と解決策は見つからなかった。にもかかわらず、楓が意味不明なことを言い出したことで語気に力が入ってしまう。

 一方、依瑠の鋭い視線が襲うものの、大妖怪の視線に比べれば子猫の甘噛みみたいなものなので、楓は全く動じない。


「単純なこと。そのナギに男がいなかったことが原因。」


 生まれたその日に有力妖怪への生贄として選ばれ、極一部の人間以外との接触も許されず、友人も恋人もいないまま成長すれば、妖怪でなくとも気が狂うだろう。楓は「そういうところが疎い」依瑠へ直球をぶつける。


「貴女にははじめがいるから、深く考え込む必要は無いと思うけどね。」

「言ってくれるわね。」

「言うわよ。友人として当然でしょ。」


 楓は皮肉を交えて過剰に心配する依瑠にアドバイスを行った。色々あったものの、南海大島と倭国での経験が大きく活かせている。


「先ずははじめの負担にならないように、薬の量を減らしたら? 」


 依瑠がはじめを逃した場合、大昔のナギと同じ運命を辿りそうな雰囲気があるため、楓は重ね重ね注意を促す。


「無理ね。今、副業が忙しいの。」

「副業って、そこまでする必要は無いでしょ! 」


 依瑠の副業は権力者相手に行う確実に当たる占いで、関東の鴉天狗は大きな恩恵を得ていた。だからと言って江崎家のナギを薬漬けにしてまで行う必要は無い。


「勘違いしないで。薬は本当に治療目的で使っているの・・・だから私は楓を襲わずに済んでいるのよ。」


 依瑠は上層部が極秘としていたことを楓に話しはじめる。

 依瑠の吸血衝動は深刻で、国からは麻薬の使用の他、輸血用の血液も支給されており、我慢できなければはじめの血を飲んで凌いでいた。しかし、依瑠にとってナギの血を超える血などなく、ナギの来客がある際には麻薬で衝動を抑えていたのだ。


「だから、私達の前では何時も薬を使っていたのね・・・」


 楓は依瑠が外国の聖女まで調べていることに納得する。依瑠にとっては藁にも縋る思いだったのだろう。


「心配しなくても適量を守っているわ。それに、政府の傘下に入ったと言ったでしょ。」

「 ? 」

「一部の客には未来視を使っていないの。」

「それってどういう・・・まさか。」

「そう、私も政府の駒。」


 ここで、楓は政府内で過激なろくでなし共が台頭している事を思い出す。鴉天狗は私や南海大島の件で政府に恩を売ったはずだが、いつの間にか大きな借りを作ってしまっていたようだ。


「いいの? いい加減な占いなんかして。」

「未来は決まっているの。私はアドバイスしているに過ぎない。後は個人がどう動くかだけ。」


 依瑠は「名も無き組織」の指示で、顧客の議員や官僚、企業の上層部には「戦わずに降伏することは戦うよりも悲惨な結果を招く」として戦争への備えを助言していた。


「ろくでもない法律が次から次にできたと思ったら。片棒を担いでいたとはね。」

「失望した? 」


 不敵な笑みを浮かべながら、依瑠は楓の出方を待っていた。

 自分のしている事は人間社会への干渉であり、多くの人間を死に至らせる決定を促している。鴉天狗において、その様な妖怪は最上位の討伐目標に該当するため、楓の反応次第では今後の行動を大きく変更しなければならない。


「・・・本当に今日はらしくないわね。依瑠のやりたいことを好きにやればいいでしょ。」


 鴉天狗において楓以上の理解者はいない。これで彼女に否定されてしまったら、鴉天狗に自分の居場所はもうないだろう。


「楓なら、そう言うと思っていたわ。」

「そうね。友人として1つ言っておくけど・・・」


 微笑む依瑠に対して、楓は忠告する。


「あの2人に手を出したら殺す。」

「・・・肝に銘じておくわ。」


 楓は倭国で身に付けた大妖怪への対応を依瑠に対しても行った。

「2人ともどうしたの? 喧嘩はだめだよ。」

「私達に隠し事? 」


 依瑠と楓が戻ってくると、2人の気配を感じ取っていた紅葉と桔梗が話しかけてくる。聞かれたくない内容を話すために庭へ行っていたが、幼馴染には隠し事はできないようだ。

 ナギは妖怪を探知できる他、妖気とは異なるものの、殺気と呼ばれるものまで察知できる。彼女達の能力は日増しに強力になっており、今ではナギの位置まで探知できるようになっていた。


「楓が留学するでしょう? 少し頼みごとをしたの。」

「へぇ。楓は殺気たててまで何を頼まれたの? 」

「現地の妖怪調査よ。」

「・・・」


 依瑠と楓ははぐらかすが、桔梗は2人が一触即発だったことを知っていたため、揺さぶりをかける。


「依瑠に聞きたいことがあるのだけど、私達を集めた理由は他にあるでしょ? 」

「みんなには隠し事できないわね。」

「関東中のナギを東京に集めて、何を始める気? 」


 桔梗は自身が持つ情報網から大規模な作戦行動を察知していた。鴉天狗は厳しい箝口令かんこうれいを敷いていたが、ナギのネットワークにはあまり効果が無かったようだ。

 ちょうど頃合いでもあり、依瑠は同心会への総攻撃作戦を話し始める。

 同心会への総攻撃作戦は日倭両国が行う文字通りの総攻撃であり、鴉天狗には関東を拠点とする工作員の一掃が要請されていた。そして、作戦は無事終了したことを伝える。


「私達はバックアップねぇ・・・大きな作戦の場合、赤石家が指揮を執る取り決めは、忘れていないよね? 」

「そこは込み入った事情があるの。最後に話すわ。」

「あの・・・妖狐が寝返ったって本当? 」


 依瑠と桔梗の話に区切りが付いたところで、すかさず紅葉が話しかける。紅葉の話す妖狐とはコクコの事であり、紅葉は現代のナギとして初めて大妖怪を解析し、一目見た瞬間、精神に異常をきたして長期療養を余儀なくされていた。紅葉にとっては恐怖の対象である。


「日本に帰化したそうよ。」

「そんな・・・」

「ちょっと待って! 国賓だか何だか言っても、奴の討伐計画が進んでいたはず。どうなったの! 」


 国賓待遇とはいえコクコは鴉天狗の上位ターゲットであり、多方面から討伐の方法が検討されていた。楓は震える紅葉の体を抱き寄せて依瑠に妖狐討伐計画の進捗を尋ねる。


「今回の作戦は妖狐と共闘しているの。でも安心して、妖狐が紅葉の前に現れる事はないわ。」

「落ちるところまで落ちたな。」


 あきれ顔で桔梗が呟く。妖狐との共闘など、赤石家が認めるわけがなかった。


「これも時代の流れ、妖怪との共存なくして私達の生きる道はないわ。」


 依瑠は分かりやすい害のある妖怪のみを駆除し、コクコのような妖怪は人間社会のルールに則って追い出すか押さえ込む方向に組織が方針転換したことを伝えるが・・・


「それが依瑠のやりたいことなわけね。」


 庭でのやり取りから楓は薄々感付いていたが、依瑠は妖怪の存在を組織に認めさせようとしていた。妖怪である自身の居場所を組織内に作ろうとしているのだろう。

 どこまでも身勝手な女だ。まぁ、これこそ江崎依瑠と言ったところかしら?


「そうよ。だから、大妖怪の友人がいる楓は私達のモデルケースなの。」

「!!」

「友人!? あの日本人大妖怪と? 」


 依瑠の発言に紅葉と桔梗が衝撃を受ける。それもそのはずで、楓は赤羽利子との関係を3人には「調査対象」としか伝えていなかった。


「依瑠、いい加減なこと言わないで! 」

「まだ話していなかったけど、私、彼女に会いに行ったのよ。」

「 はぁ? 」


 まさか依瑠が利子に会っていたなんて思ってもいなかった楓は、何とか取り繕うものの、最早意味はない。依瑠におだてられた利子が、いらない事までペラペラ喋る光景しか浮かばなかった。


「ねぇ紅葉、私達が遅れているのかな? 」

「2人が特殊なだけだと思う。」


 桔梗と紅葉は幼馴染だからこそ楓を「そういう人物」と捉えてしまう。だからこそ、2人は依瑠を「特殊なナギ」と認識しており、紅葉ですら妖怪として判断していなかった。

ストーリーは東京での暴動と政治に入ります

倭国は同心会を殲滅したので、今度は日本が反戦派を始末する番です

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