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とある転移国家日本国の決断  作者:
硝煙と破壊の彼方 序
185/191

プロローグ

日本国南東海域

 1隻の貨物船が荒天の中、荒波をかき分けながら東京湾を目指して進んでいた。この貨物船は黒霧に囲まれる前に、スクラップとして購入したものを整備した船で、今は倭国に譲渡されて日本との交易に使用されていた。


「船長、陸から通信がありました。受け入れ可能との事です。」

「分かった。航海は順調と伝えてくれ。」


 大波に揺れる船内で、船長は全てが予定通りに進んでいる事を確認し、船内放送を入れる。


「皆、良く聞け。東京湾に入れば水先案内人が乗船してくる。その人間は現地協力者故、対応の者以外は接触を禁ずる。」


 貨物室に船長の声が響く。


「ようやく到着か。」

「本気を出すのは500年ぶりか? 速く暴れてぇゼ。」


 薄暗闇の中、所々から声が聞こえてくる。

 食糧があるはずの貨物室には、各々が得意とする武器を持った50人もの大妖怪が一大決戦の準備を整えてその時を待っていた。


「そろそろ、こいつらを起こすか。」


 魔獣使いが小さな笛を取り出して吹くとコンテナの中から複数の気配が感じられるようになり、魔獣使いはコンテナの扉を開ける。コンテナ内には檻が設置してあり、その中にはおぞましい生物がひしめいていた。


 邪鬼・・・鼠人程の大きさの低級妖魔であり、大陸では「家畜」を襲う害獣として人魔大戦のはるか前に魔族によって根絶させられた種族である。倭国では人魔大戦で研究用に残されていた個体が流れ着いており、品種改良を加えることで、偵察、攻撃、盾、殿などの用途が期待されていたが、どんなに生殖機能を無くしても自己繁殖するデメリットがあり、環境への影響から研究所の外には出されていなかった。


「邪鬼共か、こんなものが役に立つのか? 」

「当時の魔族は家畜を襲って大繁殖した邪鬼にかなり手を焼いたらしいな。」

「大陸ではゴブリンと呼ばれていた害獣だ。人間相手なら活躍してくれるだろう。」


「魔獣使い、牛鬼は起こさないのか? 」

「船で暴れられるとまずい。そいつは陸に上がってからだ。」


 邪鬼用コンテナの隣には堅固な結界が施されたコンテナがあり、防音加工がされているものの微かに重厚な寝息が聞こえてくる。


 牛鬼・・・倭国で一番多く育てられている家畜の改良種である。戦闘に特化した改良が施されており、10トン近い体重に分厚い皮膚、強靭な筋肉が加わる事で装甲車を以てしても止められない凄まじい突進力を誇る。


「東京と言ったか? 暴動が毎日発生しているとかで至る所にバリケードが築かれているそうだが、牛鬼なら容易に突破できるだろう。」

「陽動は俺達に任せておけ。上手くやれよ。」


 船内で着々と準備が進められる中、ブリッジでは東京湾への進入ルートが決定されていた。


「なんて数の軍船だ・・・」

「攻撃されたら一瞬で海の底だな。」


 ブリッジ要員は、陸から送られてくる艦船の航行データをもとに東京湾への進入ルートを選んでいたが、レーダーと目視で確認できる無人護衛艦の群れに固唾を呑む。


「船長、秘匿通信です。」

「繋げ。」


「丁です。陸の受け入れ準備は整いました。」

「湾の状態はどうだ? 」

「こちらは外海ほど荒れていません。荷揚げは問題なく行えます。」

「分かった。よろしく頼む。」


 襲撃の責任者である船長は、陸からの連絡を受けて最終判断を下すが、東京湾が荒れていたところで作戦の中止は無い。覚悟は遥か昔にできていた。



3時間前、東京湾のとある埠頭

 同心会が拠点を置く建物には多くの妖怪が集結し、攻撃部隊の到着を待っていた。貨物船が到着次第、素早く荷降ろしを行い、現地の最新状況を伝え、攻撃開始地点まで輸送するのが彼等の任務である。

 コンテナ輸送用の大型トレーラーが次々に到着する一方、同心会の妖怪達が好んで利用している商用車のバンが一団を組んで埠頭に到着する。


「3班の奴等か、連絡もなしに遅れやがって。」

「装備を降ろしに行くぞ。」


 手の空いた妖怪達は、到着したバンに集まっていく・・・



そして現在


「丁です。陸の受け入れ準備は整いました。」


 7尾の妖狐ツヨシは、攻撃部隊に通信を入れていた。そこへ、部下の妖狐が報告に現れる。


「終了しました。日本の担当者は間もなく到着します。」

「そうか・・・」


 ツヨシが通信室から出ると、強烈な匂いが鼻を突く。血と硝煙の匂い・・・床は、妖怪達の死体で溢れていた。そして、


ザザザザッ


 完全武装の兵士に囲まれ、無数の銃口が向けられる。武装兵の装備は特殊であり「蹴爪」と呼ばれるサブマシンガンには、試作段階の対大妖怪用浸食弾が装填されていた。


「ご協力、感謝いたします。」

「感謝など・・・おかげで国内の不穏分子を一掃できました。」


 武装兵の間を歩いてきた名も無き組織の構成員に対し、ツヨシは逆に感謝を述べる。

 同心会が国の不穏分子とはいえ、国内を2分する勢力だったからこそ倭国は絶妙なバランスがとれていた。同心会は既に回復不能なまでの損失を被っており、今までの国家運営は最早通用しなくなるのは確実。バランスを崩したことによって、倭国は国家運営を新たな段階へ進めざるを得ないだろう。

 全て「彼女」の目論見どおりだ。


黒狐(こくこ)さんがお待ちです。」


 名も無き組織の構成員に案内された妖狐に対し、鴉天狗の武装兵は凄まじい殺気を放っているものの、攻撃の気配は全くしない。


 今にも引き金を引きそうな彼等に対して、名も無き組織は何重もの安全策を講じていた。鴉天狗はナギが探知した妖怪を武装兵が奇襲で仕留める戦法を多用している。最前線には「ヘビィ」と呼ばれる戦闘部隊が展開し、後方にはナギと護衛がいるのだが、名も無き組織は妖怪の逃げ道を完全に塞ぐ名目でナギの周辺に陸上自衛隊の普通科部隊を展開させることで、「重要人物」が攻撃されないように目を光らせていた。


「撃つなよ・・・」


 指揮官は声ではなくハンドサインで合図を送る。

 新兵器の侵食弾頭は対大妖怪用の決戦兵器であり、着弾さえすれば上位の大妖怪すら葬ることが可能だ。しかし、ここで攻撃したら全てが終わる。

 鴉天狗は包囲した大妖怪を見送る事しかできなかった。


「私のフォローもして欲しかったな・・・」


 ツヨシから場を引き継いだ妖狐は、鴉天狗の重圧を受けながら任務を全うするのだった。



房総半島沖

 同心会の攻撃部隊を乗せた貨物船は強風と荒波の中を進んでいく。周囲の軍艦は何事もなく通過していくため、船長を始めとした船員全てが問題は何も発生していないように見えたが、彼等は既に狙われていた・・・

 暗い海の底、海底にはケーブルに繋がれた筒が幾つもそびえており、その内の2本が作動して魚雷が放たれる。

 魚雷は海中を高速で進みながら軌道を修正し、貨物船の船底に着弾した。


 貨物船に命中した魚雷は機雷として開発された秘匿兵器であり、その詳細は公にされていない。判明しているのは対中国を念頭に開発され、1本で戦略原潜や原子力空母を沈めるために大型の魚雷となっていることくらいだ。


 大型魚雷が2本同時に命中したことで、貨物船全体に大きな衝撃が走り抜ける。船員の中には浅瀬に乗り上げたと勘違いした者もいたが、直後に船内各所で発生した爆発によって攻撃と認識して行動を起こすものの、もはや手の施しようがなかった。

 貨物船内には出港前の段階でいくつもの指向性爆弾が設置されており、爆発後には各所の隔壁に穴が開いていた。

 爆発によって多くの死傷者が出る中、海水が物凄い勢いで貨物室へ流れ込み、人や魔獣の入ったコンテナを飲み込んでいく・・・船内は地獄絵図が広がっていたが、そこへ止めとばかりに対艦ミサイルが甲板に命中する。


 貨物船は対艦ミサイルの飽和攻撃を受けても中々沈まない構造をしており、速やかに貨物船を沈めるのであれば、喫水線下と甲板、船内の隔壁に穴をあけ、水の入り口と空気の出口を作れば比較的早く沈める事が出来る。


「何が起きた! 被害の報告をしろ! 」


「分かりません! 」

「船内との連絡ができません! 」


 ブリッジでは船長以下全員が被害と現状の把握に全力を出すが・・・


「3時方向光弾! 」

「なっ・・・」


 船長が3時方向に視線を移すと、127㎜砲弾が目の前まで迫っていた。彼等は対応する間もなく、消滅することとなる。



「主砲、全弾命中。目標キル。」


「当艦は距離を維持し、引き続き監視を行う。」


 有人護衛艦内では、攻撃の結果が報告され、次の行動が指示される。


 陸空の自衛隊が完全包囲する中、同心会が派遣した貨物船は短時間で海中へと消えていった。

12月に入って恐ろしく忙しかったのですが、今年最後の投稿ができました。

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