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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
183/191

屠殺島攻略戦 完

 木々に隠れて移動している目標に20㎜弾が降り注ぎ、人の形をしたものがボロ切れとなり、簡易塹壕に潜り込んだ者には35㎜弾が撃ち込まれ、塹壕自体が墓地と化す。頑強なはずのトーチカには105㎜砲弾が天井を貫通して内部で炸裂する。

 対空兵器を持たない地上部隊にとって、ガンシップは天敵以外の何者でもなかった。


「はい、掃除終わり。」

「こっちでも妖怪は確認できないわ。」

「トリプルチェックよし。問題なく救助できるって、軍へ連絡入れといて。」


 付近一帯の敵を文字どおり駆逐したナギは、機長へ進捗を伝える。


「作戦本部から次の目標が指定されました。残弾に余裕があるので向かいます。」


 ガンシップは作戦本部とデータリンクされており、アスラ警備保障には新たな攻撃目標が指示された。

 このガンシップは警備会社が完全に運用しているため、整備員を含め乗員は全て鴉天狗の構成員である。機長は最高責任者であり、次の指示も問題ないと判断したが、攻撃と防御の要であるナギに意見を伺う必要があった。


「待った! 私達は十分に働いたでしょ。」


「しかし、これは友軍からの支援要請です。我々が行かなければ地上部隊の被害が増えます。」

「燃料、弾薬共に余裕があります。行かない理由はありません。」


 気難しいナギを説得するように機長や給弾員は説明する。


「いいえ、一旦引きましょう。私達は地上からヘイトを買いすぎている。」

「軍の二の舞になるわ。」


・・・


「ミトラからHQ。これ以上の支援はできない、帰投する。」


 制空権を確保して敵が対空兵器を保有していない場合、ガンシップが引く必要は無い。

 ナギの判断は航空機へ有効な攻撃となる妖術が確認されている事から、万が一を考慮していた。ただ、実際には大妖怪が多くいる妖怪島から「一刻も早く遠ざかりたい」というのが彼女たちの本音だった。



同時刻、侵攻部隊右翼

 ユース率いる偵察部隊は猛攻撃を受けていた。トーチカに部隊を移動する前に攻撃を受けたため、ユース達は少人数で籠り、フルブライト率いる本隊が彼等を援護しているものの、状況はかなり悪い。大口径弾が引っ切り無しに着弾し、妖術による爆炎も起きているが、ユース達は強固な建物内で何とか持ちこたえていた。


「くそが! 」

「やめろ! 」


 耐えかねた仲間が窓から射撃しようとした瞬間、ヘッドショットが決まる。ここまで包囲されている状況で姿を晒すのは自殺行為だった。仲間が銃だけ出して反撃する中、ユースは無線でフルブライトに状況を確認する。


「フルブライト! 人機はどうなった? 」


「全部破壊した。」


 試作人機「武神」。ジロ戦争の混乱で入手した人機1型を基に開発された倭国産人機である。ほぼ全てのパーツを自国生産可能とし、独自の改良を施した武神の性能は、補助動力機関無しの改1型に匹敵する。しかし、複合魔法兵器のコピーと開発に失敗したため、武装は専用の剣か弩しかなく、ランドスケーター機能も無いので、未だに試作機の域を出ていない。また、使い道を見いだせなかった事から、開発計画は大幅に縮小されていた。


 トーチカ付近には攻撃を受けた人機が3機擱座している。鈍足、防御スクリーン無し、クリード系兵器や追尾光子弾を装備していない人機など、小銃擲弾と迫撃砲の的だった。


「支援要請したから、もう少し持ちこたえて! 」


 フルブライトは小電力無線機でユース達に無線を送るが、肝心な箇所は話していない。


「支援は何時来る? 」

「次になるそうです。」

「・・・間に合わない。」


 偵察小隊は敵の襲撃を本隊へ報告して直ぐに支援攻撃を要請したのだが、来るはずのガンシップは引き返してしまい、他の支援部隊は自衛隊を優先していたため、後回しにされていた。

 「ユース達を見捨てる? それはまだ早い。やれるだけの事をするべきだ。」フルブライトは思考を巡らせるが、そこへ無線が入った。


 一際激しくトーチカの開口部に攻撃が加えられる。妖怪達は援護射撃を受け、偵察小隊の死角からトーチカへ突撃を行った。妖術を封じられている彼等は距離を詰めて手榴弾を投げ込もうとしていたのだ。


「11時に敵! 」


 頭を出さずに手鏡で外を見ていた仲間の一声に、各々は開口部から銃だけを出して攻撃を開始する。投擲体制に入っていた妖怪は次々被弾し、落とした手榴弾が炸裂した。


「弾切れだ!」「これで最後だぞ。」


 補給が無く、闇雲に周囲へ攻撃を行っているユース達は、確実に追い詰められていた。


「ユース、このままだと死ぬ。」

「もう少しだ。支援が来るまで持ちこたえろ! 」


 ユースは仲間に指示を出すが、立て籠もる全員が支援が遅れる事に感づいている。支援攻撃が始まるのならば、何かしらの連絡があるのだ。それが無いという事は・・・

 「敵は追い詰められている中で攻撃に出た。だったら、ここで奴等を出来るだけ食い止めて損害を与えてやる。」ユースは無線機に手を伸ばす。


「フルブライト、奴等がトーチカまで来たら、俺達に構わず吹っ飛ばせ。」


 ユースに逃げるという考えはない。できる限りのダメージを与えるために、ユースは無線を入れた。


「その命令は受け付けない。ユース、援軍が到着したぞ。」


! フルブライトの返事が届いた時、トーチカ周辺に激しい攻撃が開始された。森中の至る所で小規模な爆発が起き、大口径弾によって木々がなぎ倒され、妖怪達の激しい攻撃は目に見えて減っていく。


「後は俺達に任せろ。」


 シャイアンの無線と共に木々の間から89式装甲戦闘車が攻撃しながら現れる。


「ジャンは北、エレーナはトーチカの友軍を救出。」

「「了解」」


 シャイアン率いる小隊は敵の排除と牽制、友軍の救出を同時に行いながら前線を一気に押し上げて行った。

 重厚な発砲音を響かせながら、エレーナは敵とトーチカの間に車両を止めて部隊を降車させる。


「動けるか? 」

「問題ありません。これより、我が隊も追撃に参加します。」


 救出に来た部隊と合流したユース達は、援軍と共に屠殺島最後の拠点へ攻撃を仕掛けるのだった。



地下指揮所

 撤収の準備を進めている臨時司令部内で、レンブの元に部下が駆け寄って来て耳元で囁く。


「レンブ様、地下港への入り口が開きました。」

「よし、準備が済み次第・・」

「至急、見て頂きたい事があるのです。港へ来てください。」


 鬼気迫る部下の態度に、レンブは各所へ指示を出しつつ地下港へ向かった。


「何をしている! 私は最後に脱出する。負傷者を優先して港へ運べ。」


 負傷者で溢れかえっている地下通路を移動しながら、レンブは港へ負傷者の搬送を指示するが、港に到着して現実を知ることとなる。


「レンブ様。我々は・・・見捨てられました。」


 港には、唯一の脱出手段である大王ホタテが1隻もなかった。



屠殺島北西海域の海中

 1隻の大王ホタテが倭国本島を目指して海中を移動していた。

 大王ホタテは機械動力が一切ないため、推進音が少なく、魔力波も発生し辛いステルス性の高い乗り物である。


「レンブには悪いが、これも同心会の意志だ。」


 最初から攻撃を知らされていた所長は予め準備を済ませてあり、一部の幹部と部下を引き連れて一早く脱出していた。地下港は非常時において全職員を避難させる能力を有しているが、相手が日本ということもあって戦闘のどさくさに紛れる方が確実に逃げられるとの判断から内部工作を行っていたのだ。


 日本国の科学兵器と言えど、海中を移動する物体は見つけられないだろう。乗員の誰もが倭国の誇る生物船に自信を持っていた。


「ん? 何の音だ。」


・・・コーン・・・コーン・・コーン


 聞いたことのない音が聞こえた時、彼等はまだ自分達の置かれた状況を呑み込めていなかった。次の瞬間、海上に複数の魚雷が投下され、パッシブソナーで探知された目標へ一直線に突き進んだのである。


「音が近づいてきます! 」

「なっ! 見つかったのか!? 」


 所長を含め彼等自身、とある妖狐の手のひらで動いていただけだった。屠殺島は施設と人員の情報だけでなく、緊急時の避難経路まで日本側に漏れていたのだ。

 島を脱出した大王ホタテは、複数の魚雷を同時に被雷したことで木端微塵になるのだった。


 海上自衛隊が島から脱出した大王ホタテの全てを撃沈した頃、屠殺島の防衛隊は降伏した・・・

同心会側はあっさり降伏しました

威嚇や圧倒的な力でねじ伏せようとしても徹底抗戦する側は燃えるだけで、心は折れません


ただ、仲間に裏切られたとなれば別です

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