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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
182/191

屠殺島攻略戦 その3

 屠殺島侵攻部隊は最終防衛線を突破し、最後の拠点を目指して盆地を進んでいた。

 作戦は順調に進み、侵攻部隊の右翼を担当する新兵部隊はユース隊の突進もあって全軍で最も進んだ部隊となっている。


「あの陣地を落として固めたら一段落だ。」


 部隊の前には、ちょっとした丘に建てられた監視所がある。監視所と言っても石積の小さな建物で、配備されている妖怪も4人しかいない簡単な攻略目標だ。ここから先は支援が薄くなり敵の防備も厚くなるため、流石のユースも小隊が進撃できる限界と判断していた。


「・・・人選はこれで十分だ。後は攻撃隊を支援してくれ。」

「了解。」


 ユースは少数を選抜し、フルブライトに小隊の指揮を任せる。

 作戦はシンプルで、小隊の持つ40㎜迫撃砲弾と小銃擲弾を陣地に降らせつつ、少数精鋭が制圧する予定だ。妖怪の銃撃は恐ろしく正確だが、直線にしか攻撃できないため、間接射撃で砲弾と擲弾を雨あられと撃ち込んで、敵を抑え込んでいる間に突撃隊が制圧する。


「ユーズ、おでも行く。」


 ユースが皆に作戦を伝えると、部隊の中から一際大きな隊員が名乗りを上げた。


「ガープは後方。お前はデカすぎて良い的だ。」


 ガープは180㎝を越える巨躯の持ち主で、南海鼠人の間では「巨人症」に該当する。大昔にヒトと混血した説や遺伝子異常などがあるものの、はっきりした原因は不明であり、ほぼ全てで発達障害が見られる特徴がある。この様な障害があることから、巨人症の者は実戦投入に向いていないと思われがちだが、圧倒的に不得意な分野がある一方、健常者を遥かに上回る得意分野があるため、適材適所に配置する事で大いに活躍していた。

 ガープは対人関係構築に難があるものの、優しい性格で、どんなにキツイ訓練でも弱音を吐かずにこなし、力と体力は日本軍人を上回る。また、細かい部品を扱うことにのめり込み、日本から供給されたあらゆる装備を完璧に分解整備できるようになっていた。小隊内では荷物運びや整備に大活躍で、戦闘では重装備を軽々扱えるため、攻撃と支援の両方で要となっている。

 ただ、彼は通信兵を志願しているようだが、その体で通信兵は無いだろう。そもそも、訛が酷くて絶望的に向いていない。


「あそこは落とせても守りには向いていなくないか? 攻撃の必要はないように見えるけど。」

「戦果は稼げるときに稼げって言ったのはお前だろ? もしかして、今までの被害が想定以上だったか? 」

「違う。何か分からないけど、嫌な予感がするんだ。」


 何時も成果を出すフルブライトが、珍しく勝てる相手への攻撃中止を進言してきた。鼠人のカンという奴だろうか? それは皆が感じていることだが、今は先輩達と違って日本軍が味方だ。必要以上に恐れる心配はないだろう。

 ユースはフルブライトに「手薄な陣地を落として本隊が到着するまで確保する簡単な仕事」と説明し、攻撃を開始した小隊は難なく陣地の攻略に成功するのだった。



 戦略機動隊、通称「戦機」の突撃部隊は、同心会側が土壇場で構築した最後の防衛線目がけて盆地に突入していく。10式戦車3両、89式FV3両が突入し、それを後方から10式戦車6両と89式FV8両が支援しており、後方には96式自走迫撃砲を配置して万全の支援体制を整えていた。

 戦機の部隊は敵位置をドローンで割り出し、戦車が敵を射程に入れる前に迫撃砲が砲撃を行うことで、最前線の部隊が敵陣地に到着する頃には掃討戦の状況にしながら前進している一方、同心会側は頭上を飛び回るドローンに悩まされ続け、ドローンを見つけ次第に撃ち落としていたものの、攻撃位置を悟られてしまい、結局砲撃を受けるなどして防衛線は次々に崩されていた。


「敵軍両翼へ牽制攻撃が始まりました。」

「わかった・・・始めるぞ。」

「やっとアタイの出番かい。」


 報告を受けた土竜が水黽に指示を出す。彼は戦場を観察し、攻撃を行う最適の機会を伺っていた。

 敵は小型の使い魔を多数飛ばして入念に偵察活動をしているだけでなく、その遥か上空には大型機が左旋回しながら地上を監視している。濃密な偵察網の中、守りに徹するだけでは時間稼ぎにすらならない。残存戦力が敵の両翼へ攻撃を仕掛け、支援攻撃を分散させた今が最後の好機だろう。


「散々暴れやがって! 水遁の術! 」


 水黽は陣地から出ると、予め準備していた妖術を発動させた。



 戦車が砲撃し、その強烈な一撃が堅固な建物に直撃する。


「まだだ! 榴弾もう一発。」


 モニターには、妖怪達が逃げ込んだ建物が映し出されているが、主砲を撃ち込んでも完全破壊に至らないことで、車長は更なる砲撃の指示を出した。

 次に発射された砲弾は堅固な建物の内部で炸裂し、半壊させる。


「こちらからでは攻撃が当たらない。そっちで・・・何だあれは! 」


 車長が他の戦車と交信していると、何処からともなく突然大量の水が流れてくるのを目視して声をあげた。


「後退だ! 後退しろ! 」


 突然流れて来た大量の水に、突撃部隊は一気に後退するが・・・


「遅ぇんだよ! 土竜ぁ、やっちまえ! 」

「土遁の術。」


 土竜が術を発動すると、水に濡れた地面は見る見るうちに泥濘となり、底なしの沼と化す。

 一通りの術が収まると、沼と化した盆地に3両の10式戦車が沈んでいた。


「敵部隊撤退! 撃退成功です。」

「やったぜ! ざまぁみろ。」


 戦闘開始後、初の撃退報告に水黽を含めた全員が湧きたった。


「中から引きずり出してぶっ殺してやる! 」

「そこまでだ。お前達、捕虜を捕えたら引くぞ。水黽は先に戻れ。」


 先走る水黽を鎮めて土竜は部下に指示を出す。手元にある戦力は少なく、退魔結界が張られている事で大規模な妖術はもう使えない。捕虜をとって最後の拠点に立て籠る以外、最早術がないのだ。


「ちっ、しゃーねーな。土竜も・・・」


!!

 水黽が土竜に喋りかけた時、土竜は彼女の後ろから超高速で迫る物体を目にする。


「直撃確認。」

「障壁を出されたかもしれない。」

「まだ生きているみたいね。今度は私がやる。」


 上空を飛行するXAC-130内では、105㎜砲と35㎜砲の直撃を受けた大妖怪2人に対する効果判定が行われていた。


「全く、軍は出過ぎるからヘマするのよ。」

「ナギがいないから仕方ないんじゃない? 」

「無駄口は叩かない。1人は確実に仕留めたけど、もう一人は生きてるわ。止めをお願い。」


 アスラ警備保障のマークが描かれたガンシップは、無慈悲な旋回を続ける。



 何が起きたか分からない。

 水黽が意識を取り戻すと、あれだけ湧いていた陣地は静まり返っていた。


「ははっ。なにこれ? 」


 体が動かせず、彼女は自身の体を確認したが、腹部から下が形容し難いほど損傷していたため、乾いた笑いが出てしまう。そして、瓦礫の向こう側に土竜の服が見えたことで、両手を使って移動していった。


「もぐらぁ、アタイ、死ぬのかな? 」


 返事はない。それもそのはずで、土竜は彼女を庇って105㎜の直撃を受け、木端微塵になっていた。彼女は、その事を知る前に死ぬことができたのは幸いだったのかもしれない・・・


 XAC-130から放たれた無数の20㎜弾が水黽に降り注ぎ、最終防衛線はあっけなく崩れ去った。



侵攻部隊右翼

 中央部への牽制として行われた同心会側の大攻勢によって、ユース達攻撃部隊は小隊から引き離され、包囲殲滅されようとしていた。

土竜と水黽は本編で書いていませんが、小百合が倭国で出会っている設定で、場面としては閑話6で小百合が受けた取材の中です。兎人と出会って、なんやかんやで意気投合したあと、帰る際に2人に囲まれて・・・って感じのストーリーだったのですが、余力があれば本編か外伝で書く予定です。

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