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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
179/191

魔族国家の歪み

 郷土防衛隊第66歩兵連隊・・・主にキド達孤児院上がりの訓練生で構成される新規部隊へ、島中央部に存在する重要目標の確保が命じられた。島の中央部には魔物の発生源があり、その危険性を排除することが任務である。部隊は住人への威圧になりづらいという理由で選ばれたものの、実際には正規部隊の投入を控えなければならない理由が伏せられている事は、誰もが薄々感づいていた。

「あれが封印の祠だ。」


 ブラムが指さした場所には、禍々しい雰囲気を放つ祠が建っていた。島の中央は大昔に神の使いが強力な魔物を封印したと伝えられている場所であり、島民達は近づくだけで災いが起きると信じている。ただ、中身を知っているキド達は、怯えるブラム達を気にすることなくカールグスタフを祠へ向けた。


「やめろ! 」

「大人しく見てろ。あれは、そんなに恐ろしいものじゃない。」


 プラムは案内人で唯一止めようとして、他の案内人に押さえつけられて諭される。

 島の住民は大きな災いが起こると不安を隠せなかったが、圧倒的な武力の前にはどうすることも出来ず、ただ、祠が破壊されるのを見る事しかできなかった。


「あぁぁ・・・」

「何が起きても知らないぞ。」


 祠は一瞬で粉粉になり案内人達は狼狽するが、キドは構わず日倭の専門家と共に中の確認へ進んだ。


「ありました。」

「これは、凄いですね。」


 破壊された祠の先には、先ほどの爆発をものともせず、禍々しい光を発する紅魔石が鎮座していた。これが魔物の発生源であり、同心会が家畜を手なずけ、品種改良するために仕込んだ装置の本体である。

 紅魔石の魔力波によって周囲の生物が魔物化し、それらの魔物から住民を守る事で妖怪達は信用を得ていたのだ。また、魔力波は人体への影響もあり、変異体が誕生しやすくなる。変異体は高い魔力保持者が多く、食人妖怪に好まれていた。この施設は、生物工学が発展している倭国ならではの品種改良施設であり、地球のガンマフィールドに近い。



一方、養殖島の西方に位置する屠殺島

 養殖島の半分にも満たない小さな島に対して、圧倒的な物量での攻撃が行われていた。

 同心会への同時攻撃が開始されると同時に、島の各地に存在する拠点に対して巡航ミサイルが降り注ぎ、通信施設、居住地、武器庫を優先とした各種倉庫が攻撃を受け、間髪入れずに倭国本土から飛来したF-2、C-2、P-3Cによる空爆が行われる。その被害は深刻で、同心会側は攻撃開始から30分で島に配備されている人員の3割を失い、防御施設の6割が破壊されてしまう。

 突然のミサイル攻撃を受け、島の職員達は大混乱に陥った。何とか状況を把握し、体制を整えようとしたところに空爆を受け、日本国からの攻撃と判断した時には、抵抗する術がほぼ失われていた。

 最近になって完成した地下指揮所には、各地から絶望的な状況が送られてくる。


「退魔結界が張られました! 」

「本国との通信途絶! 」

「各地の責任者へ緊急時対応を徹底させろ。レンブ、ここを少し任せる。」

「かしこまりました。所長は何処へ行かれるのですか? 」

「書類を破棄する。」


 所長は指揮をレンブ副所長に任せて指揮所を出て行った。



 上陸地点の浜を見渡すことができる監視塔は、混乱から立ち直って急ピッチで人員の配備が進められていた。


「敵襲! 監視を厳にしろ! 」

「敵は日本だ! 」

「くそっ! ここは安全じゃなかったのかよ。」


 塔に上った監視員は狼狽えながらも小銃に13㎜弾を込めて海と空の警戒にあたるが、彼方を飛行する攻撃ヘリから発射されたミサイルを視認することはできなかった・・・AH-3から発射されたヘルファイアミサイルは目標に直撃し、監視員は何が起こったのかもわからず監視塔と共に消滅する。更に、付近のトーチカにもミサイルが次々命中していった。

 ヘルファイアミサイルは名前の通り撃ちっぱなしのミサイルで、命中するまで誘導しなければならないミサイルと比べて、目標の殲滅速度に雲泥の差がある。大目標を巡航ミサイルと空爆で破壊したものの、中小目標は無数にあるため、目標の素早い破壊が鍵となる上陸作戦では、大量のヘルファイアミサイルが使用されていた。


「上陸部隊、目標到達まで5分。」

「航空支援開始」


 一方、目標上空に到達したAH-2の群れは、ハイドラロケット弾の雨を周囲の山と森に対して降らせ、素早く母艦へ戻って行く。航続距離の短いAH-2は、準備攻撃と地上支援に使われ、AH-3は高い戦闘能力を有する妖怪1人1人を目標として殲滅することが主任務である。

 この作戦ではヘリボーンを行う予定はない。同心会の兵は精強であり、倭国軍と同等以上の武装を有しているためである。倭国軍には、とにかく威力と射程のある銃が配備されており、地球基準では対物ライフルを多く装備しているため、ヘリボーンは失敗する可能性が高かった。

 幸いにして、攻略は時間的猶予があるため、余裕を持った堅実な攻撃方法がとられている。自衛隊は、この手の敵と戦うのは初めてだが、基本は射程外から一方的に叩くことに変わりはない。上陸地点周囲に準備攻撃を行い、驚いて姿を現した者を1人1人、AH-3の30㎜チェーンガンで排除してゆくだけである。


タタタタタタ・・・


 独特な発砲音と共に発射された30㎜弾が飛翔し、着弾した付近の目標が吹き飛ばされていく。目標が森の中にいても問題ない。人は画像にくっきり映るため発見しやすく、攻撃の効果確認も行いやすかった。

 目標の中には大妖怪もいるのだろう。人間では有り得ない速度で島の奥地へ移動する目標を確認するが、ガンナーは淡々とトリガーを引く。着弾の土煙が引いた後には動く者は誰もいなくなっていた。カメラをズームアウトすると、まだまだ多くの目標が各地に点在しており、陸上部隊の脅威となりうる目標を優先して攻撃をしなければならない。効率よく目標を排除するため、ガンナーは人が密集している場所に狙いを定めたが、直後にその集団が吹き飛ばされてしまう。

 攻撃を行ったのは海上自衛隊の哨戒ヘリである。ヘルファイアミサイルを運用できる哨戒ヘリは、攻撃の手数稼ぎにフル投入されていた。ただ、SH-60kはミサイルキャリアとして運用されているため、ミサイルを討ち尽くしたら直ぐに補給しなければならない。

 気を取り直したAH-3のガンナーは一言も喋ることなく、目標を1人1人確実に葬っていくのだった。



護衛艦「ながと」作戦司令部


「上陸成功、地上部隊は予定通り移動開始。」

「地上部隊の被害は軽微です。」

「上陸地点北部の高地を制圧完了。敵の守備隊は降伏しました。」

「そうか、現場に再度徹底するよう伝えてくれ。妖怪の排除を最優先とする。可能な限り捕虜はとるな。」


 屠殺島攻略戦における陸自の指揮官、門倉は順調に進む作戦報告を受けて、自身の命令を徹底するよう指示した。今回の作戦で、門倉に慈悲という言葉は一切ない。

 同心会は各国で諜報活動を行っており、日本での活動は特に力を入れている事が判明している。相手が妖怪の諜報組織ということで公安と鴉天狗が対応しているものの、「なりすまし」によって複数の国民に被害が出ていたため、門倉は同心会そのものへの攻撃を以前から準備していた。

 同心会は非合法組織だが、倭国ができる遥か前から存在していた組織であり、実質的には倭国最大の野党勢力である。倭国政府との間で紛争に発展する危険があるため、公安も鴉天狗も防戦に徹するしかなかったが、日本国政府と倭国政府が紛争覚悟で行動を起こしたことで、大規模な攻撃が実現していた。


 当初、防衛省の現場組が提出した作戦計画は、攻撃を最小限にして全面降伏を迫る案だった。しかし、相手が妖怪という考えが抜けている自己満足に近い考えであり、門倉を中心とした名も無き組織は、現在進行中の殲滅作戦へ計画変更を行っていた。

 門倉以外の名も無き組織の構成員は戦闘の素人である内部部局の者だが、この組織は防衛省内でかなりの発言力があり、予算だけでなく、プロの立案した作戦計画ですら変更させることが可能である。以前は「国防の足枷」とまで言われていた内部部局は、今では全員が名も無き組織の構成員に入れ替えられていた。

 妖怪を裁判にかけて何の意味がある? 既に倭国政府とは同意がなされており、同心会の大妖怪は倭国で裁判を行うこととなっている。身内に甘い倭国では極めて軽い罪となるだろう。日本ではどうだ? 殺人罪で懲役刑を言い渡されたとしても、終身刑の無い日本では40年もあれば出てきてしまう。奴等の寿命から考えれば一瞬だ。

 法に委ねられる前に、できうる限り排除して大妖怪への圧力とするのが、名も無き組織の方針である。


 作戦司令部のモニターには、無人機とドローンによってリアルタイムに映像が送られてきており、破壊された防御施設を丁寧に制圧する地上部隊の姿が映し出されていた。



倭国首都、静京

 霧雨連山にそびえる静城は厳戒態勢がとられていた。同心会との対決が明るみになると、静京の同心会支持者達が大規模な抗議活動に出たのである。また、静京の外では暴動が発生している地域があり、一部の自治体が同心会側に寝返るなどして有力者同士の戦闘も勃発していたのだ。


 慌ただしい静城の中にあって、重苦しくも厳かな雰囲気の漂う部屋があった。


「現時刻を以って、全ての役職を剥奪する。」

「謹んで、お受けいたします。」


 コクコはオウマから言い渡された内容を全て受け、身の安全と引き換えに今までの地位と役職を全て失った。外務局長としての仕事に区切りを付け、必要な情報を全てオウマに伝えたコクコは、最早存在価値のない裏切り者である。オウマはコクコを裁判で裁く事を大きな目標としていたが、この取引によって叶わなくなってしまった。

 世界情勢が激変するまでに決着をつけられなかったオウマの敗北である。


「事が終わるまで、この部屋を出なければ貴様の安全を保障する。」

「ご配慮いただき、感謝いたします。」


 オウマは上級大妖怪の衛兵を扉に残して部屋を出て行った。

 この部屋から出なければコクコは生き残れるだろう。だが・・・


「後は手筈通り、よろしくお願いします。」


 コクコは予め部屋に隠していた携帯端末で指示を出す。

 オウマがフタラと共に霧氷連山へ出発したのを見計らって、コクコは行動を開始した。


 全ては、この時のために準備してきたのだ。




倭国国際空港

 同心会への攻撃開始と同時に自衛隊が閉鎖した空港は、民間人の避難施設としても機能している。事前情報の無い民間人にとって、突然の軍事行動は寝耳に水であり、多くの日本人が取り残されたものの、準備の整っている空港は難なく受け入れができていた。

 空港を管理する自衛隊員達は施設の防衛と避難民の対応に追われていたが、渡辺は出入国審査の業務を継続していた。


「荷物は最小限に! 小物は予め見えるようにしてください。」

「液体は持ち込めません! 」


 民間機の飛行が制限される中、人員の増強された出国審査場には外務省の職員が殺到していた。これは倭国に出向している職員全員に帰国指示が出たからである。


「あの人が最終ですが、まだ来ていない人がいますよ。」

「遅れている職員用に臨時便を出すそうだ。気を抜くなよ、慎重かつ素早くだ。」


 審査が遅れれば、それだけ危険に晒される時間が増える。しかし、正規の審査を行わなければ危険物が持ち込まれる可能性がある。自衛隊員ながら、渡辺達審査を行う隊員には素早さと正確さが求められていた。


「早く、早く・・・まだか・・・ん? 来た! 」


 臨時便の出発ギリギリになって、渡辺が最後まで待っていた外務省の職員が到着する。


「すみません! 検査をお願いします。」


 息を切らせながら大荷物を持って走ってくる職員は稲飯聖那だった。

 審査官達は緊急で外務省の職員を複数人で捌いていたが、渡辺は聖那がゲートを通過していないことを把握していて、最悪の事態まで考えていた。遠くから彼女の姿を確認した時は安堵したが、臨時便の出発まで後僅かしかなく、彼女は多くの荷物を持っている。臨時便は時間どおりに出発するため、普段かける時間の半分以下で審査を終わらせなければならないだろう。

 渡辺は聖那の荷物を素早くエックス線検査に通し、ノートパソコンを爆発物探知にかけつつ・・・


「このゲートは日本国、外務省職員の日本人専用となります。身分証を確認します。」

「・・・身分証です。」


 決まり文句を伝えてから彼女の身分を確認する。問題なし。


「荷物の中身は? 」

「・・・書類です。」


 機器での検査結果問題なし。更に一番早くできる身体検査を行い、完全に本人と確認した。


「ありがと・・・」

「早く行ってください! 飛行機が飛び立ってしまいます! 」


 彼女が何時ものようにお礼を言おうとしたが、彼女を一刻も早く安全な場所へ送り届けたい渡辺は、飛行機に向かうよう、強い口調で彼女に対応する。聖那は渡辺に一礼してから飛行機へ向かい、渡辺は彼女が機内に入るまで見届けるのだった。



倭国首都、静京、静城

 慌ただしい城内において、早歩きでコクコのいる部屋に向かう1人の妖狐がいた。


「私への挨拶が無いなんて・・・」


 次期外務局長のギンコは、仕事の申し送りを聞くためにコクコの元へ向かっていた。ただ、ギンコの真の目的は申し送りを聞くために会うのではなく、あくまで面会の口実でしかなかった。


「お前の罪は万死に値する。」


 オウマがコクコの身の安全を保障した今となっては、如何にギンコと言えどコクコを始末できないが・・・


「尻尾の半数を引き抜く程度で許してあげましょう。」


 ギンコは、可能な限りの制裁を加えるために、コクコのいる部屋へ到着した。


「これはギンコ様。コクコの始末は終わったのですか? 」

「最後に何と言っていました? 奴の命乞いを教えてください。」

「何を、言っている? 」

「コクコを始末すると言って、連れ出したではないですか。」


 !? 衛兵の発した言葉を聞いた瞬間、ギンコは扉を開けて部屋の確認をするが、部屋はもぬけの殻だった・・・


「~っ! コクコーーー! 」



 倭国国際空港を飛び立った臨時便は、順調に高度を上げ、シートベルトのランプが消える。

 稲飯聖那は直ぐにノートパソコンを開いて書類の作成作業を再開した。彼女には処理しなければならない書類が山ほどあるのだ。

 ビジネスクラスの座席を2人分使って作業している聖那の元に、3人の男性が近づいてくる。


「ありがとうございます。おかげで助かりました。」

「えぇ、上手く事が進んで何よりです。」


 聖那が何時もの笑顔で対応する人物は、外務省の幹部と公安職員、そして上杉だった。


「我が国は、貴女の亡命と帰化を認めました。これが身分証です。」


 聖那は紅色の国民番号カードを受け取ると、深々と頭を下げる。


「お約束通り、最高の席を用意していますよ。黒狐(コクコ)さん。」

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