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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
178/191

養殖島攻略戦

戦闘は一切ありません

 世界から隔絶された絶海の孤島。

 この島は四国とほぼ同じ大きさがあり、外周に沿って亜人、獣人、エルフの居住地がある。それぞれの居住地は住人が管理しており、住人は自分達に合った環境を整えていた。居住地の分布から、島の中央が交流の盛んな地域となるはずだが、島の中央部には魔物の発生地点があり、交流は隣接する居住地同士が主となっている。

 資源が少なく、天敵も少ない島で、人々は昔ながらの生活を行いながら長閑に暮らしていた。

 多くの島民は「天国に一番近い島」に暮らし、代々言い伝えられている神の世界に行く事を夢見て日々を過ごしているのである。


 鼠人居住地の島中央部。鼠人のブラムは幼馴染のグルーブと共に、中央部の森まで採集に来ていた。近年の不作によって食料が足りなくなってきていたため、少し無理してでも食料を探しに来たのである。2人は集合場所を決めて分かれて、それぞれが採集を行っていたが、ブラムはグルーブが一向に戻らないため、彼の採集場所まで迎えに行っていた。


「全く、いつまで待たせるのよ。」


 持てる限りの食料を持ったブラムは、持ち切れない食料で動けなくなっているグルーブを想像して気が滅入る。ただ、これだけの食料があれば当分持つので、嬉しい悲鳴だ。しかし、グルーブの採集場所に近づいた時、彼の叫び声を聞いたことで、異常事態に巻き込まれている事を知るのであった。


「来るな! 来るなよぅ。」


 岩の裂け目に逃げ込んだブラムは、捕食者の攻撃がギリギリ届かない場所で動けなくなっていた。


「ニクニクニクニクニクニク・・・・」


 1mを超すカマドウマは執拗に獲物を掻き出そうとしている。その見た目は虫嫌いな者が見たら卒倒しかねないが、醜悪な事に、このカマドウマは魔物であり、頭部は人間の形をしていて意味不明な人語を発していた。


ヒュッ


 風切り音と共に、カマドウマの胴体へ1本の弓矢が命中する。更に1本の弓矢が命中してカマドウマはやっと攻撃に気付く。


「グルーブから離れなさい! 」

「えっ? ブラム! 来ちゃだめだ、逃げろ! 」


 ブラムは3本目の矢を取り出そうとしたところで、カマドウマが自分に狙いをつけたことを感じ、一気に来た道を引き返していった。人面カマドウマは弓でどうにかなる相手ではなく、移動速度も高い危険な魔物である。ブラムは人面カマドウマの注意を自分に向けさせてグルーブから引き離し、自分は安全地帯まで逃げ込む算段をしていた。


「ニク、ニク、にくぅ」


「えっ! もうこんなに。」


 ブラムは足に自信があった。小さい体を活かすことで木々をすり抜けて逃げ切れるはずだった・・・しかし、人面カマドウマは巨体に似合わず、木々の中を進んで一気に距離を詰めていた。

 マズイ! 全然逃げ切れない。


「誰か助けて~! 」


 ブラムは渾身の力で叫ぶが、防人のいる場所まで遠すぎた。彼等が聞こえたとしても間に合わないだろう。でも、森に入っている人がいたら助かる可能はある。


「どこだ! 」


 奇跡は起きた。森の奥から人の声が聞こえたことで、ブラムは生い茂る笹を突きぬけて行った。そして、笹を抜けた先にある僅かな希望に向かい、最後の力を振り絞って開けた場所に出ると・・・


「どこた、どこだ、ドコダ」

「ここだ、ココダ、ここだ」


 ブラムの前に3匹の人面カマドウマが待ち構えていた。後ろからは2匹に増えたカマドウマが追いつく。


「グルーブごめん。私、ここまでだ。」


 ブラムは全身の力が抜けて、その場に座り込む。

 10年間、短い人生だった。やり残したことは沢山あるし、12歳になって神の国へ行けなかったらグルーブと結婚して・・・

 ソウマトウを見る彼女に対し、カマドウマは口を大きく広げてブラムの頭に噛り付こうとした。ブラムは恐怖のあまりソウマトウから現実に引き戻され、目に涙を浮かべて体を震わせる。


ゾブッ


 形容し難い音が聞こえ・・・

 人面カマドウマの頭部が粉砕された・・・


「ぁぁ、えっ? 」


 ブラムが現状を把握する前に、目の前にいるカマドウマ2匹も同じ運命をたどり、後ろからは1匹のカマドウマが宙を舞って岩に激突し、即死した。恐る恐る後ろを見ると・・・


「にく! にく! にブシャ 」


 ブラムは長身の女性が放った回し蹴りによって、カマドウマの頭部と胴体の一部が消滅する一部始終を目撃することとなる。

 180㎝を越える長身、頭部には1本の角が生えており、服装は半そでハーフパンツタイプの巫女服を纏った女性は、周囲を確認してからブラムの元に向かってくる。


「怪我は無いか? 」

「み、ミキ様? 何で・・・」


 神の使いミキ。この島を管理する巫女であり、選別によって決められた年齢に達した島民を神の国に送り届ける仕事をしている。強力な魔物が出現した場合は率先して駆除に向かう等、島民の守護者でもあった。


「間に合って良かったよ。まだ発生時期ではないのだが、先に起きた魔力嵐で魔物が活発になっていたようだ・・・グルーブも助けた、安心するがいい。」


 ミキはかなりのハスキーボイスだが、その声がブラムにとっては救いの声だった。神の使いは島で最強の存在であり、頼れる存在なのだ。



「ありがとうございました・・・」

「・・・どうした? 毒にやられたか? 」


 帰り道、感謝を伝えたものの、神妙な面持ちで後ろを歩くブラムに、ミキは理由を尋ねる。


「・・・あの、私とグルーブを選別から外してもらえないでしょうか。」

「何故だ? 神の国へ行けなくなるのだぞ。」

「グルーブは、私がいないと何もできなくて、そんな人を神の国には行かせられません。」

「知っての通り、選別は長老達が行っている。私に、その権限はない。」

「そうですか・・・」


 ブラムはうつむいて喋らなくなってしまった。


「ここまでくれば安心だ。さっきの話だが、長老達に助言しておく。」

「ありがとうございます! 」


 ミキの言葉に、ブラムは何時もの明るさを取り戻し、2人は先に戻っていたグルーブと集落の人々によって盛大に出迎えられるのだった。



 ここは天国に一番近い島「養殖島」。神社に戻ったミキは妖術で作成した書類の修正作業を行う。「選別から外す予定だったが、手間が省けたな。」ミキは最初からブラムを屠殺島へ送る気は無かった。彼女は次世代を作るのに一番適した身体性能を有しているため、繁殖用に残す予定だった。


「ここに務めて100年か・・・あっという間だったな。」


 簡単な仕事に、人肉の報酬付き。赴任した時は仕事一筋だったが、今は出荷のたびに胸が痛む。島民の多くが自分に信頼を寄せ、感謝を述べながら旅立ってゆく。何度も出荷を担当していくうちに胸に違和感を持つようになり、仕事への意欲が低下していった。何時しか仕事を仕事と割り切るようになったが、その影響は無意識に出ていたようで、10年前の祭事で最後に人肉を食してから口にしていない。そんな事だから、昨年行われた同心会による監査で人肉食を止めた理由を答える事ができず、今年度で解任されることになっていた。ブラムの出荷を止めるのは、私が行える最後の仕事だ。


 次の日、鼠人地区で最大を誇る会議場に各地区の長老が集まり、緊急の会議が行われようとしていた。この会議は魔力嵐によって魔物が活性化したため、共同で行える対策を議論する事と、ミキの任期終了を伝えるものである。


「皆にはつらい思いをさせたな。」

「何を仰います。我等は神の国へ人を送る事で生きながらえて来たのです。」

「貴女がいなくなると、皆が寂しがる。」


 対策会議を終え、ミキは自身の任期が残り僅かしかない事を伝えると、鼠人と獣人の長老がすかさず発言する。


「私達はここの環境に永く居すぎました。最早、自らを守る術すら失われております。」


 外を知るエルフの長は、既に島民が外の世界で生き抜くことができない事を知っているため、現状の平穏な日々を維持するために「生贄」が必要なのは重々承知していた。


「貴方様も、ここに長く居すぎたのです。手遅れになる前に戻られるべきです。」

「ふっ、あんたがそんなにお喋りだとは思わなかったよ。」


 普段は無口なエルフの長が「この日が来た」とばかりに発言したことで、ミキは地が出てしまう。彼女とは年が近く、実質2人で島の運営を行ってきていた。ミキとしては後腐れなく去りたかったのだが、無理そうだ。

 ミキが次の言葉を発しようとした時、会議室の扉が勢いよく開かれた。


「ミキ様、火急の用でございます。」

「何があった。魔物か? 」


 ミキの部下は、彼女の耳元で長老達に聞こえないように用件を伝える。



 会議場に設置された神の使い専用の部屋にて、ミキは魔信機を使って西部の監視員から状況報告を受けていた。


「良い風なんだが、何か匂う。」

「貴方でも分からないのか。」


 監視員曰く、何かが近づいているようだ。大型の海魔は瘴気を恐れて島には近づかない。この島に来るのはシーワイバーンが大半だが、自分以上に長く島で暮らしている監視員でも判別のつかないことなどあるのか? ミキは疑問に思う。


「ん、あれは? 直ぐに脱出を! にほん・・・」

「おいっ、どうした? 」


 態度が豹変した監視員に突然不通となった無線機、最後の「にほん」という単語。ミキは非常事態と認識したが、同時に「そんな事は有り得ない」と思ってしまう。この島はコクコ外務局長によって日本国に認められた場所のハズ・・・


「これから外来人が来る。皆、それぞれの居住地に彼等を刺激しないようにと伝えよ! 」


 ミキは急いで会議場に戻って、各地の長老へ注意を促した。


「誰かある! 」

「狼煙だ! 狼煙をあげろ。」


 血相を変えて戻ってきたミキの指示に、長老達は狼狽しながらも部下への指示を優先する。


「お前達は出なくてもいい。事が終わるまで安全な場所に避難しなさい。」

「わしゃ残る。」

「隠れるのは、性にあわないのでな。」

「逃げる場所などありませんから。」


 今までの暮らしは何時か終わる。長老達は遥か昔から覚悟はできていた。



 遥か彼方に見える黒霧へだんだん近づく中、ただ一点を目指して10機のヘリが大海原上空を飛びぬけていく。黒霧は目視で確認できない大きさの物もあり、危険距離内での飛行はパイロットの大きな負担となる。そのため、攻略部隊は島の西部から侵入して南東部の目標地点へ向かい、ヘリボーンを実施する作戦が立てられていた。

 輸送ヘリは衛星と事前情報で得ていた着陸地点で地上部隊を降ろし、直ぐに後詰めを搭載するため飛び立ってゆき、大型輸送ヘリ「チヌーク」は地上部隊が確保した広場に着陸する。


「行け! 行け! 行け!」


 ダウンウォッシュによって周辺の建物が倒壊する中、キドの部隊は現地住民に構わず目標の確保へ向かった。既に現地住民に被害は出ているが、最優先は管理者である大妖怪の無力化である。


「ミキ様! 長老! 奴等が来ます! 」

「ここは我らで止める故、お早く! 」

「武器をおさめろ! あの者達を私達の所まで通せ。」


 連絡が行き届いていない警備は、槍を持って密集陣を作って迎え撃とうとしていたが、そんなものでは時間稼ぎにすらならない。ミキは自ら会議場を出て制圧部隊の前に姿を現すのだった。


「お前達、手は出すなよ。」

「分かっております。攻撃されれば防御に徹しますが・・・」

「長くは持ちませんよ。」


 ミキは駆け付けた2人の同僚と共に、制圧部隊に包囲されていた。3人は大妖怪であり、妖術、体術で人間に負けることなどあり得ない。しかし・・・

 ミキは自分達に向けられる銃口のほか、上空に意識を向け、数キロ先の空に重厚な音を立てて飛行するAH-64Dの姿を確認する。あの航空機は同心会の情報にあった要警戒兵器だ。たった1発で蜀の精霊を滅ぼしたとされていて、その時に使用された「獄炎」と呼ばれる武器を撃ち込まれた場合、大妖怪でもひとたまりもない。


「お前達は何者だ! 何のつもりだ! 」


 混乱の最中、突然現れた集団に囲まれているミキを見つけたブラムは、両者の間に割り込んで弓を構える。


「ブラム、止めなさい! この者達の目当ては私だ。」


 ミキがブラムを説得していると、1人の兵士がゆっくりと前に出てくる。


「そのとおり。君達に危害を加えるつもりはない。僕たちは、そこにいる人食い妖怪を逮捕しに来た。」

「? 人食い・・・」


 キドの言葉をブラムは理解できていないが、キドは自分達に訪れた千載一遇のチャンスに心を震わせていた。

 何という運命のめぐりあわせだろうか? 正規軍部隊が会議場に突入したことで目標と入れ違いになり、後詰めの新兵部隊が管理者の大妖怪と接触してしまったのだ。


「君の後ろにいるのは、神でも何でもない。人食いの化け物だ。」

「嘘を言うな! ミキ様達はずっと私達を守っていたんだ! お前達こそ化け物じゃないか。」


 あぁ、これは重症だな。キドはゆっくりとヘルメットとゴーグル、3型防弾チョッキを脱ぐ。


「お前・・・」

「僕達も鼠人だよ。」


 ブラムの構えた弓がゆっくりと下がったことで、ミキは優しくブラムから弓を取り上げる。


「抵抗はしない。私たち以外の者に危害を加えないでほしい。」


 キドはゆっくりとミキの手首に手錠をかけ、首に対魔族用の首輪を装着する。他の2人も同様に捕縛して、新兵部隊は大妖怪を無力化することに成功するのであった。


 銃で脅され、家に押し込められる住人、抵抗したことで手足に銃撃を受けて無力化された怪我人たちが一ヶ所に集められている・・・一瞬にして制圧された集落を片目に、ミキは輸送地点に到着する。そこには意外な人物が待ち受けていた。


「にぃ、様・・・」

「ゴウキ様、これは一体? 」


 ミキ達の前には倭国軍兵士に護衛されたゴウキ将軍の姿があった。


「無血開城とは、流石だな。」

「兄様、何故この様な所に、これは一体・・・」

「詳しくは静京で話す。お前達も良くやってくれた。」


 そう言って、ゴウキは管理者を別々の機体に振り分け、ミキは自分と同じ機体に移動させる。


「心配することはない。死者を出さなかったお前の手腕は裁判で十分考慮される。」


 更に、ゴウキは方々に働きかけているため、裁判は極めて軽い刑が言い渡されるだろう。


「何故、この様な事を・・・」

「時代が変わったのだ。」


 世界は変わってしまった。

 その変化に、同心会は付いていけなくなっていたのだ。


「!? あの者達も連れていくのですか。 」


 ミキが機体の外に視線をやると、長老達も別の機体に載せられていた。


「そうだ、あれらは日本国が裁く。」


 ゴウキは言葉に出さないが、今回の件は長老達に全ての責任をとらせようとしていた。裁判は日本が行うものの、日本本土は裁判所がパンクしているため南海大島で実施されることとなる。実質、南海鼠人による裁判となり、長老達は大量虐殺の「主犯」扱いで死刑になるだろう。


「なっ、あの者達は長年、我等の指示に従っていただけです。」

「ミキ、もう家畜の心配をする必要はないのだ。」

「そんなっ・・・」


 ミキの視線を感じたのか、エルフの長老が気付いて頭を下げる。ただ、移動中に立ち止まったため、鼠人の兵士に銃床で殴られてしまう。


「あああぁぁぁぁぁ・・・」


 ヘリの中にミキの狼狽した声が響き渡った。




「グスッ うぅぅ。」

「落ち着いた? 」


 ミキがヘリに載せられたところで、ブラムの感情は大決壊を起こしてしまい、彼女はずっと泣き続けていた。扱いに困った部隊は、原因となったキドに面倒を丸投げしたのだが、キドにとっては良い迷惑である。


「何で来たのよ。私達はこのままで良かったのに・・・」

「はぁ。」


 ブラムはやっと状況を理解したものの、その上で前の暮らしが良いと言う。キドは溜息をつきつつ、彼女がもう少し落ち着くのを待つつもりだ。


 前の暮らしが良かった? 何時までも子供みたいなことを言うなよ。でも、仕方ないか・・・


 ようこそ、人間社会(自然界)へ! 僕は君達を歓迎するよ。

家畜の解放は正しかったのでしょうか?




まぁ、もう終わった事です。

これから家畜の辿る運命は2つ

1、日本国が美味しくいただく

2、島に住める最大人数を越えた場合は生贄の替わりにMチームに入隊

3、1と2の両方


つまり死ぬ


Mチームは愉快な部隊になりそうです

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