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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
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戦場のひよこ達 その7

 僕たちは未憎悪の大災害で故郷を失った・・・

 生き残った人々は助け合い、新天地を求めて大海へと旅立っていった。襲い来る海魔、残留瘴気、飢えと病・・・旅は過酷を極め、旅路の先に新天地が見つかる保証もなかった。

 多くの仲間が消えていき、全滅する一団もある中、僕たちは遂に新天地へ辿り着く。

 豊かな海と土地、波を遮る湾。新天地は理想郷ともいえる恵まれた地であり、僕等は周辺の仲間達を呼んで新しい故郷を作ろうとした。


 僕たちは知らなかった。

 辿り着いた理想郷には、先住民がいたのだ。


 確かに僕たちは先住民の土地を荒らしてしまった。でも、あんなことになるなんて誰が予想できただろう。

 先住民の強烈な敵意の前に、僕たちは逃げ出す外なかったが、警戒体制に入った先住民の元へ呼び寄せた他の仲間たちが続々と到着してしまったのだ。

 先住民の敵意は底なしであり、自らの住処ごと僕たちを焼き払い、子供にすら容赦はなかった。両者の不幸な遭遇は、先住民が僕たちの住処を用意する事で終息へ向かったが、それまでに多くの、数えきれないくらい大勢の仲間を失ってしまった。


 僕たちは安住の地に、ようやく住むことを許されたのだ。しかし、ただで住めるわけではなかった。


「終わった。」


 僕は「船」と呼ばれる乗り物の甲板で、ペンキ塗りを終えて逃げるように船内へ戻り、海水の入った浴槽へ飛び込む。水棲生物の僕たちにとって、灼熱の甲板での作業は命に係わる。


「この船は何処へ行くんだろう? 」


 僕の問いに誰も答えない。仲間達は誰も行き先を知らされていなかった。唯一行き先を知っているのは「船」だけだが、意思疎通はできない。

 船はそれぞれが意志を持ち、一団を組んで「狩りの練習」をしていた。僕らに与えられた仕事は、船で暮らしながら船を世話する事である。


「何時、帰れるかな? 」


 離れ離れになっている仲間と会うのが待ち遠しい。それと、仲良くなった先住民と会えるのが楽しみだ。




南海大島、中央部

 郷土防衛隊の主力が駐留する基地では、毎日のように厳しい訓練が行われていた。

 隊員達は日本から送られてくる高度な機械、兵器、医薬品など戦術面以外でも技術と知識を身に着けなければならないためである。


「お前ら、何処でそんな知識を習った。」


 教官は本格的に日本の装備を取り入れた訓練において、新兵達がいとも簡単に装備を扱い、互いに連携していた事に、訓練後の反省会で理由を聞いていた。


「孤児院で習いました。」「携帯端末は、一人一台渡されていたので、使い方は皆知っています。」


 新兵は孤児が多い。孤児達は日本が作った孤児院で教育を受けている事は知っていたが、教官はここまで高度な教育を受けていたとは思ってもいなかった。各種高度な機器、車両、銃器、どれも直ぐに使い方を覚えてしまい、連携訓練も息の合った動きを見せつけられてしまう。


「本島鼠人の先生が訓練場と同じような設備を作ってくれて、そこで体育の授業を受けました。」


 どうりで動きが良いわけだ。それにバテる奴もいない。

 新兵の基礎能力を知った教官は訓練メニューの見直しに苦労するのであった。



新兵の基礎訓練期間が半分終わった頃

 訓練が終わり、夜の自由時間にユースとキドの兄弟は仲間と共に兵舎で唯一のテレビを見ていた。この兵舎には日本から取り寄せた娯楽作品があり、今見ている作品の内容はベトナム戦争帰りの兵士達が人々の依頼で悪と戦ってゆくもので、各々の技術を活かしたアクションが面白い名作ドラマだ。


「やっぱかっこいいよな~。」

「民間の車を装甲車に改造するのはしびれました。」


 ユースは登場人物がそれぞれの長所を生かして巨大な悪と戦うストーリーにハマり、キドは日用品を使って強力な相手と渡り合うストーリーにハマっていた。


「なぁ、ユース。俺達の部隊名も特攻野郎にしないか? 」

「女性も来るから無理なんじゃない? 」


 ドラマは仲間たちにも受けていて、正規となった時の部隊名をドラマの題名からとろうと考える者もいる。


「性別は関係ない。うちの部隊に入ればみんな特攻野郎だ! 」

「いいですねぇ。何チームにします? 」


 勿論、兄弟も賛成だ。郷土防衛隊は初期訓練生の塊をそのまま外人部隊としているため、孤児院卒の同級生が同じ部隊となる場合がほとんどである。


「鼠チーム! 」

「え? ネチームだろ。」


 肝心のチーム名でしっくりくる名が出てこない。皆、それぞれが考えているようで、あまり考えていなかった。


「う~ん。意外と出てこないな。」

「皆さん、これはどうでしょう? 」


 打開案を見つけたのはキドだった。


「ねずみはアメリカ語でマウスと言います。単語だとMouseですね。「Mチーム」なんてどうでしょう? 」


 一瞬の静寂の後、その場にいる全員が納得する。キドの案は発言しやすく、自分達をドラマの主人公と重ね合わせるには十分だった。


「よっしゃ! これで決定だ! 」



「「「 俺達、特攻野郎Mチーム 」」」


 鼠人は弱く、その歴史は逃亡と搾取である。しかし、南海大島の鼠人は弱さを補うように数の暴力と創意工夫で歴史を生き抜き、後世に知識と技術、民族の誇りを残してきた。どうすれば生き残れるか? は、どうすれば捕食者を倒せるか? に変わり、今はより強力な存在と戦えるまでに種は強化されていた。



一週間後

 実戦部隊への配備が待ち遠しい訓練生たちは、どの部隊に配属されるかで段々落ち着きが無くなってきていた。


「やっぱ機械化歩兵だよなぁ。」

「戦車じゃ森の奥までは入れないだろ。男は黙って歩兵だ。」

「おで、通信兵がいい。」

「お前は訛が酷いから勘弁してくれ。」


 各々の配属希望は歩兵が多い。元々旧軍が歩兵で構成されていた事もあるが、郷土防衛隊は倭国や蜀と異なり、最近まで日本と敵対していたため、早い段階でヘリなどの航空機運用能力を提供されておらず、現在はごく一部でヘリパイロットの育成が行われている。そのため、兵科はほぼ歩兵しかない。


「今一番熱いのはシャイアン先輩たちの部隊だよ。」

「防衛隊唯一の重装甲部隊かぁ、いいねぇ。」


 郷土防衛隊には戦車の配備はされていないが、歩兵戦闘車が配備されている。日本では蜀の巨大需要を満たすべく、近代化した89式装甲戦闘車が6千両も発注されていた。しかし、銃眼を廃止するか維持するかなど、細かい箇所で仕様が定まっておらず、様々なバージョンが作られており、生産しつつ手探りで開発が進められている。

 郷土防衛隊には全仕様の車両が急遽配備され、鼠人達は装備の近代化に喜んだのだが、真の意図を知る者はいない。


「歩兵が基本だよ。基本。」


 ユースは歩兵を軍における最も重要なポジションと捉えており、歩兵として活躍する事こそが英雄の条件と考えていた。日本からは想像も出来ない強力な兵器が供給されていたが、それらは最終的に歩兵を支援する装備であることを見抜いていたのだ。

 確かに兵器の優劣は勝敗に関わるが、強力な空爆や砲撃、堅牢な陣地を容易く突破できる兵器を持っていたとしても、最終的に歩兵が場を確保しなければ戦闘も戦争も終わらないのである。


カンカンカン


 新兵達の話が盛り上がっていると、訓練場の鐘が鳴り響き始めた。


「 非常招集! 」

「 グランドへ集合! 」


 多くの者が訓練だと思いつつ、素早く装備を整えて部隊毎に集結する。

 訓練生部隊の集結が完了したと同時に、訓練場のトップ、ラドムが姿を現す。


「防衛隊本部より、諸君等へ出撃命令が出た。」


 ラドム司令は発言に、訓練生は整列を崩すことなく驚愕する。


「明朝、グレートカーレへ向かい、正規軍と合流せよ。」


 一体、何処と戦うのだろうか? 訓練生は、「霧が晴れて大陸が攻めて来た」と勘違いし始めたが、続くラドムの発言に耳を疑う。


「我々は日本軍と共に、倭国への上陸作戦を行う! 」


 訓練生全員の時間が止まった・・・

最後のひよこが登場しました

ひよこ達には活躍の場を与えていますので、それぞれのひよこ達が活躍し、死んでいく姿が見れると思います


特攻野郎Мチーム・・・もはや隠す事はないですね。南海大島の種族が鼠人になったのは作者がMチームを出したかったからです。



次回は利子の話を挟んでから上陸作戦となります

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