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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
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閑話8

 政治、経済、治安・・・国内の安定化は全ての国家で行われている。この要素が1つでも崩れてしまうと、そこから全体に波及してしまうため、日本国は与野党が協力する事で政治の安定化をはかり、従来の経済構造を維持しつつ計画経済を採用する事で、経済を首の皮一枚でもたせている。そして、大規模暴動を受けたことで治安は強硬策を以って維持されていた。


「全員動かないように! 」

「手を見える位置へ! 」


「 確保! 」


 裁判所の令状無しに反政府組織の家へなだれ込んだ警察官達は証拠を押さえ、指名手配犯の逮捕に成功する。

 大規模暴動を未然に防げなかった警察組織は国民の監視に本腰を入れ、このような令状無しの家宅捜索を全国で行っていた。あの暴動による被害は甚大であり、組織には再発防止の徹底が下され、また、過激派による自衛隊施設や要人への攻撃を絶対に阻止するという、強い意志を表明している。


 警察組織は犯罪撲滅のために法改正を働きかけ、犯罪が差し迫ったと判断される時は令状無しの家宅捜索が実現する・・・


・・・などということはなく、法改正は最小限で従来通りの方法で犯罪を取り締まっていた。法改正は多大な労力と時間が必要となるため、優先度の高いものから順に行われているのである。そもそも、裁判所の令状が無い状態で警察組織が家宅捜索を行える法案は国会を通過しない可能性が高い。

 では、令状無しの家宅捜索をどのように実現したのか? それは家宅捜索名目で行かなければいいのである。

 公務員の中には令状すら必要なく立入検査を行える者達がいた。警察は彼等に同行することで「偶然」にも過激派のアジトを見つけたり、指名手配犯を見つけただけである。

 警察は「火災の危険がある」と消防署が判断した建物の立ち入り検査に同行する事で国内の不穏分子を摘発していた。勿論、火災の危険があるという情報は警察が消防署へ情報提供している。

 消防による立ち入り検査の結果、過激派が火薬を製造していたり、火炎瓶を準備していたところを摘発できたため、本来の「火災予防」に十分貢献しているのだが、中には警察と過激派が銃撃戦に発展するところもあり、消防署が防弾チョッキを配備する事態となっていた。


都内某所

 ある民家へ東京消防庁による立ち入り検査が行われようとしていた。消防職員2人に対して、警察官は6人。休暇を一人でゆったり過ごしていた白石小百合にとって、突然のガサ入れは不愉快極まりないことだった。

 警察組織にとって鴉天狗はテロ組織や過激派と同一視されており、家宅捜索染みた事が不定期に行われていた。


「いい加減にしてください! これ以上プライベートに踏み込まないで。」

「住宅用火災警報器が故障していますので、交換してください。」

「 っ! 」


 消防がのらりくらりと対応している傍らで、警察に家を隅々まで調べられるのは屈辱でしかない。一人の時を見計らって来たのも性格が悪すぎる。何より、小百合は思い出の品を乱雑に扱われるのが我慢できなかった。

 小百合にとって父役の涼と兄役の零は、実の家族よりも遥かに長く家族として過ごしきた。しかし、偽装家族で民間人に紛れ込んでいる情報しか持たない者にとっては、彼女の思い出の品など無価値に等しい。


 涼が帰って来たのは検査が終わって直ぐであり、へそを曲げた小百合の機嫌を直すのに苦労することとなる。こんな時に零が居れば良かったのだが、南海大島での任務が継続されたため、帰国していなかった。


 次の日、小百合は父から貰った配給券をケーキと交換し、一人で黙々と食べていた。涼は小百合の機嫌取りで贅沢品配給券を使う事は無かったので、昨日の一件は彼にも思う所があったのだろう。


「厄介な国の仕事をしているんだから、もっと良い生活できるのに・・・」


 小百合は仕事内容の割に少ない報酬を不満に思っていた。妖怪の国にナギが長期間滞在して調査を行った事で、組織と国は多くの情報を得ていて、歩合制でも危険手当でもかなりの報酬になるはずだった。しかし、国は支援部分を差し引いて鴉天狗へ支給し、鴉天狗は報酬の大部分を引き抜いたことで、小百合には一般職業と同じ配給券しか支払われていなかった。世の中は不公平である。


「利子ばっかり良い思いして・・・」




 南海大島から帰省した時、利子に誘われて焼肉を食べに行ったことがあった。

 妖怪の誘いにナギが乗るわけがない・・・しかし、調査の一環として特例的に利子の誘いを受ける事にした。決して滅多に食べられない焼き肉が目当てではない。


 そして当日、私は世の中の不条理を思い知ることとなる。


 何を勘違いしたのか、利子からはドレスコードを指定されたが・・・まさか日本屈指の高級店だとは思わなかった。間違っても利子や私のような小娘が行ける場所ではないため、私は本心から理由を聞いてしまう。

 理由は単純で、彼女の両親が国家の存亡にかかわる重要企業に勤めていたからである。利子の両親は2人共、宇宙開発と軍事に関わる企業に勤めている係長と課長級のため、それに見合った配給券が配られているのだ。

 対する私は通常職の父親のみで通常の配給券しか配られず、実の母が国の要職についているといっても、戸籍上は家族ではないため全く恩恵がない。


 通常の焼き肉はカルビ系が2、3切れ、ホルモン少量、野菜と白米が基本の贅沢料理である。しかし、この店ではコース料理となっていて、見たことも聞いたことも無い肉が次々に出されてくる。「ザブトン」ってなに?

 国全体でカロリー制限が行われている中、大食い妖怪が高級肉を食べまくる? 個室で情報が漏れないからいいものの、世間に知られたら強烈なヘイトを買うだろう。しかし、私は利子の食に関する情熱を過小評価していた。


「各種、内臓盛りです。こちらは刺身になります。」


 店員が持ってきたのは牛、豚、羊、鶏の内臓であり、料理名からして利子が特注した品であることが分かる。この世界には様々な種族がいて、中には生肉を食べる習慣があるため、法改正で生食のハードルが下がったことは聞いたことがあった。利子に対応してくるとか、流石高級店だ。

 私は利子と話しながら次々に出される料理を堪能していく。それにしても、幸せそうに食べる利子は見ていて飽きない。大昔のナギ達はこんな風に食べられていたのだろう。


「ありがとう。」


 料理を食べ終えた私は利子に本心からの感謝を伝えていた。利子も満足したようで、次に行く事となる倭国の話で盛り上がりながら店を後にした。


「静京の食べ物は美味しいらしいよ。」

「私にとっては地獄ね・・・」


 駅が直ぐ近くだったため、私達は歩いて駅へ向かっていたのだけど、判断を誤ってしまったようだ。

 駅前通りまで来た時、ガラの悪い男に絡まれてしまった。


「こんな平日から良いご身分だなぁ。上級国民さんはよぉ! 」


「 えっ? 」

「気にしないで行くよ。」


 巷で勢力を伸ばしている「無職」の派閥の支持者だろう。根拠のない戦争反対、無理な生活水準の向上、他人の足を引っ張る格差是正を訴える夢想家の集まりで、この手の輩は無視が一番だ。

 私達に敢えて絡んできたと言う事は、絡みやすいと判断しての事だろう。クズが・・・私に言わせれば、平日に働きもせず世の中に文句を垂れるとは良い身分だ。労働が何たるかを説教してやりたいが、クズには理解できないだろう。

 労働は神からの指示であり、働かなければ死ぬから働くのであって、私は妖怪退治に紐づけているに過ぎない。そして、無職の奴等が叫ぶ格差是正や平等という言葉にも語弊がある。あくまでも神の前では平等なだけで、人間同士の関係で平等などなく、平等であるべきでもない。それは神が多種多様な人間を創造した事からもわかる。


「 おいっ! 」

「 あっ 」


 クズ男は私達2人の中で更に意気れると判断した利子をターゲットにする。私が上級国民に見える程度の判断力しか待たないから、日本で一番喧嘩を売ってはいけない人物に意気ってしまうのだろう。

 男は利子に罵声を浴びせようとして違和感に気付き、見る見るうちに威勢を失っていく。そして、付近を警戒中の警察官が私達を見つけたことで、逃げて行った。利子と頻繁に会っている私は気付かなかったけど、利子は着実に妖怪の雰囲気を纏っていたようだ。

 私達は警察に助けられた形になったものの、利子のせいで職務質問が長引いてしまった。紅色の国民カードはレア中のレアで、確認に手間取っているのが分かる。私も、国籍が2つあることを聞かれたけど、利子に比べれば取られた時間は誤差といえる。

 私達は警察官から「移動は車を利用するように」と注意を受けて解放されるのだった。




「利子ばっかり・・・」


 小百合の不満は利子へ向けられていた。こういう時は利子をからかって発散するに限るが、彼女は北海道の研究所に缶詰め状態となっているため、気軽に会えない。「友人に会いに行く」では移動配給券は出ないが、「大妖怪の経過観察」名目なら配給券どころか立ち入り禁止区域にも簡単に入れるだろう。

 休暇中の小百合は、自らの意志で大妖怪の元へ行く事を考えるのだった。

レバニラで思い出したのですが、書こうと思って書き忘れていた焼肉回を書いてみました


利子は魅了の魔法を暴発させましたが、直撃を受けていた小百合はもうダメそうです

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