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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
164/191

不祥事

長くなりそうなので前半部分を投稿します

日本国、東京都内某所

 名も無き組織は空きオフィスを貸し切って極秘の会議を行っていた。会議は各省庁で行えばいいのだが、組織の規模が拡大したことによる弊害対策として、外部へ漏れてはいけない情報を扱う場合は、密会のような会議を開いている。

 今回は会議と言うよりも報告に近く、先日発生したパンガイア側の強行偵察や、意図せず発生した不祥事に関する報告が行われる予定だった。

 最初はパンガイア側が行った偵察についての対応であり、無人戦闘機での対応結果が伝えられる。


「これで、パンガイア側は我が国の能力を正しく評価するでしょう。また、無人戦闘機の性能試験としては成功と言える成果が得られました。」


 パンガイア側への初となる対応は事前に決められており、結果は概ね組織の想定内であった。


「右と左、両方の先生方から苦情が来ています。」


 右側の政治家からは高性能偵察機に日本の情報を根こそぎ盗まれたと非難され、左側の政治家からは非武装の相手に過剰対応したと非難されている。いつもは総理や大臣を非難の矢面に立たせているが、最近は組織の認知度が上がったのか、名も無き組織へ直接抗議が来るようになっていた。

 相手の能力から、開戦までに日本の地形、重要拠点の位置などは全て把握されるで、それ程気にすることではない。右寄りの政治家は声を荒げる事で国民の支持を得ようと、分かり易い自己アピールをしているのだろう。

 左寄りの政治家は平常運転だ。相手の言葉を鵜呑みにして、「非武装を装っている」と、疑いすら抱いていない。そして、何かあれば現場に責任を押し付ける。

 何時もの事だ。


「民間からも苦情が来ています。ジャミングは事前に発表した方が良いでしょう。」


「仕方のない事です。不必要な情報を「敵」に与えてはなりませんから。」


 名も無き組織は夜目が接近するにあたり、強力なジャミングを行っていた。これは民間通信から情報が漏れるのを防ぐ処置であり、夜目の電波通信圏内の民間通信は遮断されていた。


「何時もの政治家と国民が騒いるだけですので、何ら気にすることではありませんね。」


「見当違いの批判をさせておくのが良いでしょう。」


 何も知らない政治家は不祥事と非難し、マスコミも世論を誘導しようとしているが、実質的に戦時体制へ移行している国内雰囲気的にパンチ力は無い。

 偵察機への威嚇射撃と追跡は、現在交渉中の和平会談において「決して油断のならない相手」と判断させるために行ったものであり、パンガイア連合軍の目を瘴気内に向けさせる目的がある。これでジアゾへの侵攻部隊を一部でもこちら側へまわしてくれれば、それだけジアゾ戦を長引かせることが出来るのだ。


「次ですが、これは組織内でも問題と捉える者と、問題ではないと捉える者で意見が合わない、兵器輸出に関する件です。」


 発表者は蜀への兵器輸出において、想定されていない兵器が輸出されようとしている事を伝える。


「ヘリ納入による企業との意見の不一致が原因ですが、選定で敗れた機体を蜀が購入するために企業と交渉を始めています。」


 次期戦闘ヘリの選定で敗れたAH-3と、パイロットや整備士の育成が間に合わないと判断されたオスプレイは極少数の発注となっており、企業は大きな損出を出していた。

 兵器調達に関しては、国内企業の育成を怠っていたシワ寄せが表面化してる。また、ヘリ関連の兵器企業は統廃合が進んでいたものの、防衛省の裏切りともとれる行いを忘れていなかったようだ。


「政府監査院は仕事をし過ぎじゃないか? 」


「受注予測が外れた企業が損失を被るのは仕方ない事・・・とは言っていられません。ここは蜀に補填してもらった方が良いのでは? 」


 政府監査院は政府の無駄遣いを監視するために新たに組織されたのだが、戦時体制に移行した日本国の防衛予算を厳しく調べ上げ、その強大な発言力によって無駄を省いていた。

 AH-3とオスプレイの予算大幅削減、F-2無人機化廃止、原子力空母の開発予算を却下、イージス護衛艦の建造数大幅削減、蜀供与品の見直し等、多岐にわたる。


「当り前です。監査院には我々の精鋭がいるのですから、もっと働いてもらわねばなりません。」


「蜀の行動は、むしろ歓迎するべきでしょう。」


 政府監査院には名も無き組織の実力者が送り込まれており、戦時に日本国が最も国力を発揮できるように予算面でのサポートが行われていた。


「我が国の技術流出が問題視されていますが、予測されている問題は「戦争の勝利後」に発生するものです。」


 話題が逸れたため、司会が話題を元に戻す。


「黒霧内全体を強化しなければならない時に、戦後の議論を行って足を引っ張るわけにはいきません。蜀の積極的な強化はプラスの方が大きい。」


「戦後にテロや紛争が頻発するのは避けようのない事です。予め方針を決めておくのが良いでしょう。」


 先ずは戦争を乗り切ることが重要であり、日本国を保ったまま戦後を迎えられることが最優先であった。



「次は・・・もう、実態はご存知でしょうが、ヴィクターランドの駐日大使が更迭されました。」


 一番大きな議題が終わり、次は報告を兼ねた大使更迭の議題へ移る。今回は日本側に過失は無く、完全にヴィクターランド側の不祥事である。


 駐日大使は亜竜人族の男性であり、見た目は人間の青年に見えるが、角と尻尾が生えており、一部の皮膚はうろこ状になっている等、ヒトと竜人の特徴を持っている。

 ヴィクターランドは行動力ある若い職員を派遣して日本の対応をさせていたが、癖の強い人物で日本側は苦労していた。

 日本側は人種の特性把握を行っているが、竜人族と亜竜人族に関しては一定のレベルまで理解が進んでいる。

 竜人族はプライドが高く、己に絶対の自信を持っている。天に与えられ、自ら鍛えた肉体は生物的にも上位に位置し、竜人族にとって自分に自信が無い者は半人前以下と扱われる。

 亜竜人族も高いプライドを持つが、竜人族とはベクトルの異なるものとなっていた。これは弱い人間部分を持つことで、竜人族から「竜人」と認められていないと思い込んでいる事にある。そもそも、竜人族は自分たち以外を竜人と認めていないため、彼等を亜竜人族と呼ぶこと自体、大きな譲歩をしていたが、自らに劣等感持ち、竜人族に憧れる亜竜人族は、竜人族に認められることは決してない・・・


 プライドの高い大使は、国会での発言や報道で不適切な表現があれば直ちに抗議を行っていたが、日本人に対して「死者」と発言するなど、あからさまに見下した態度をとっていた。

 日本側は大使の機嫌に注意しつつ様々な協定を結び、水産庁の調査で犠牲になった人々の慰霊碑を建てられるまで両国の関係は回復したのだが・・・


「彼女の意志は? 」


「変わりません。このまま育てるそうです。」

 

 日本側はヴィクターランド人向けに大使館へサポートチームを派遣していたが、その女性職員と大使との間に子供が出来ていた。

 報告が上がって来た時、名も無き組織の全メンバーが何かの間違いではないかと考えていたが、胎児の形を見て皆が事実を認識する。


「あの大使は他種族を見下していたのでは? 特に日本人への当たりは酷いものでしたよ。一体何があったのでしょうか? 」


「それは大使のみぞ知る、と言ったところです。」


「この件に関しては、これ以上の調査は必要ありません。」


 全く想定されていなかった事態に、当初は「何処の部署がハニートラップ」を仕掛けたのか真面目に調査が行われたが、当事者の2人は純粋に男女の交流を行った結果だった。ただ・・・問題となっているのは、大使が子供を認知しない事にあった。

 日本とヴィクターランドは深い所で交流は盛んだが、ヴィクターランドの一般国民は日本人を「死者」や「食人族」と認識しており、かなりの偏見を持っている。こんな状況で大使が日本人との間に子供を作ったことが分かれば、何が起きるかは言うまでもない。

 これが竜人族であれば、どんなに批判を受けようとも開き直って自身の器の大きさを示すだろう。しかし、駐日大使は若い亜竜人族であり、事実を認めない事で自身への批判をかわそうとしてしまった。

 2人の仲が急速に冷え切ったのは言うまでもない。

 大使交代の日、空港では「甲斐性無し!」「とかげ!」など、駆け付けた女性職員が罵声を浴びせる中、元大使は一言も発することなく機内へ消えていった。


「彼女は本当に出産する気なのかね? 」


「はい、私の方で準備は進めています。」


 竜人族と亜竜人族は特殊な出産方法をとるが、その方法は日本人には不可能であり、日本の医療技術で出産をサポートする体制が整えられていた。これは、胎児の段階で角や尻尾、柔らかいものの、皮膚の一部にウロコがあり、自然分娩では確実に死ねるので、時期を見極めて帝王切開を行うというものである。


「一人親のサポートは、今以上に必要となりますね・・・」


「そうだな。」


 社会保障無くして、国の運営はできない。兵士やその家族へ国による保証がされない状態で戦争などできるはずもない。

 会議当初は報告程度で終わる予定だった「大使更迭」は、予定を大幅に延長して議論がなされることとなる。

新しい駐日大使は竜人族です

この大使と生まれた子供は戦後シリーズに登場します

どうも戦記物は戦争が終わってモヤモヤした状態で終る物が多い気がするので、「日本国の決断」は世界が安定するまでを書く予定です


次話はノクターン版で書いている鴉天狗の不祥事を書きます

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