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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
163/191

ミッドナイトアイ

パンガイア大陸極東

 サマサ市の東部空域で1機の鳥機が哨戒活動を行っていた。

 背中に装備されている球状の物体や2つの特徴的な尾翼、並列座席等、鳥型戦闘機としては異質な形状をしているこの機体は、「夜目」と呼ばれる偵察機である。地球側の機体だとE-2に近いが最高速度は1800㎞/h以上も出せ、戦闘機と遜色のない機動が行える他、超兵器級の通信、探知能力を有する準超兵器である。

 東部派遣軍団南方予備群、第1戦闘団第1偵察隊、通称「ウィザードアイ」所属の夜目は、瘴気に沿って偵察飛行を行い基地に戻る予定だった。


「前方にゲートを確認。でかいな。」


 基地へ報告したゲートとは瘴気にできた巨大な「穴」の事であり、半日から数日は行き来が出来る程瘴気が弱まった箇所である。


「昨日の報告にはない所です・・・瘴気内を偵察する良い機会ですよ。」


 パイロットのビグスとウェッジは巨大なゲートを前にして、ある行動に移ろうとしていた。

 サマサの東には、死者の国と呼ばれる島があるらしい。瘴気内国家の蜀と倭国と共に日本国を名乗る外交団が到着したことで様々な方面を賑わせているが、誰も正確な形を見た者はいない。

 外交団が持ち込んだ資料によるとサマサの東、約3,000㎞先に日本国があり、大小様々な島がある島国とのことだ。夜目の航続距離は10,000㎞、地形探査装置を使用すれば、大陸でもない限り数回の飛行で地形の把握はできるだろう。


「こちらウィザードアイ。サマサ東南東空域にゲートを確認、偵察のため、これより突入する。」


「サマサHQからウィザード、偵察は許可できない。繰り返す・・・」


「無線が聞き取れません。瘴気の影響かと思われます。」


 ビグスとウェッジは基地の無線を無視してゲートに突入する。

 瘴気警報が鳴る中、飛行し続けて10分。彼等の目の前に未知の空間が広がった。


「周辺を重探知、記録開始。」


 複座型の夜目は2人のパイロットがそれぞれ異なる作業に専念する事で能力を発揮する。1人は機体の進路を維持し、もう1人は情報収集に専念していた。

 彼等が命令違反を犯してまで瘴気内の偵察を行うには理由がある。彼等は自前の鳥機を持つ有力な貴族の家系だったが、現在は貴族としての身分を失い、大切な鳥機も手放さざるを得ない程、家は没落していた。しかし、彼等は貴族としての血筋と鳥機乗りとしての誇りを忘れておらず、家の復興を目指して軍でパイロットを続けていた。そんな彼等を、貴族連合は「お家復興」を匂わせて懐柔していたのだ。


「魔素がほとんどない・・・」


「ゲート付近でこれだ。魔法が無い世界は本当にあったのだな。」


 空間魔素濃度計がゼロに近い事で、この空間全体が転移して来たものと推測できる。


「航続距離が2000は減ります。」


 ウェッジは空間魔素が少なすぎるため、魔素を利用する機能が働かないと判断して航続距離の再計算を行う。


「了解。今回は挨拶代わりだ。高度を取って堂々と行こうじゃないか。」


 ビグスは高度を取ることで燃費の改善をはかる。

 今回の偵察は威力偵察などという物騒なものではなく、ファーストコンタクト的なものであり、こちらは周辺情報を得る代わり、相手には夜目の性能を見せてやろうといったものだ。


「外縁レーダーに感あり、距離400これは・・・艦隊? 」


 ウェッジはレーダーに映る光点の数から艦隊と判断するが、その数はどんどん増えてゆく。


「大型艦1、中型艦4、小型艦44! 」


「ウェッジ! 電波探知モードを起動しろ! 」


 ビグスに言われてウェッジは直ぐに電波探知を起動させる。まさか、こんな近くに艦隊がいるとは思っていなかったため、魔力温存で余計な機能をオフにしていた。

 起動後すぐに注意音が鳴り響く。


「うおっ、なんだこれ! 電波の嵐じゃないか。」


「すげぇ、ジアゾ艦隊の比じゃないな。」


 電波探知モードはアクティブとパッシブ両方の機能を有する高度な探知モードだが、ジアゾが電波探知機を開発するまでは不要な機能として使われていなかった。現在は急ピッチで運用方法を確立させていた比較的新しい機能である。


「確実に探知されましたね。」


「予定の内だ。死者の国本土へ向かうぞ! 」


 夜目は探知した艦隊の詳細を調べず、本来の目標である死者の国本土の調査を続行する。

 彼等が出会った艦隊こそ、再編成中の海上自衛隊第1艦隊であり、開戦時に先行投入されたハデスと激戦を繰り広げる日本国の防波堤であった。



巡航速度で飛行して約3時間


「距離100、3時と9時方向に2機、6時に2機。」


 陸地を捉えた夜目は、スクランブルに出た航空自衛隊の戦闘機に3方を塞がれていた。


「警戒は任せろ。情報収集は任せた。」


 ビグスはウェッジに情報収集を任せて慎重に飛行ルートを選んでいた。相手を必要以上に刺激せず、ギリギリまで偵察活動を行うためである。しかし・・・

「何故、警告を発しない?」

 領空に近づけば必ず相手からアクションがあり、その為の返答も用意していたが、この状態になっても沈黙を続ける相手に、ビグスは不気味な不安を感じていた。

 最初は魔法の無い世界から来たから、この世界の無線が使えないのかと思っていたが、電波受信器には民間と思しき通信が入っている事から、意図的に沈黙している事は確実だ。


「こちらは日本空軍機である。貴機は日本国の領空に接近している。飛行目的を告げ、速やかに進路を変更せよ。」


 来た! 丁寧に魔法通信で送って来た。


「こちらは・・・」


 ビグスは所属と飛行目的、領空侵犯する意図が無いこと、非武装であることを告げる。サマサに来た外交団から日本国の領空範囲を伝えられているため、安全を考慮して領空からかなり離れた箇所を飛行していた。


「警告。貴機は日本国領空を侵犯している。我の指示に従え。」


「 !? 我機体は貴国領空に侵入していない。繰り返す・・・」


 事態の急展開にビグスは無線で相手に位置を伝えるが・・・


「これ以上返答なき場合、実力を行使する。」


「ウェッジ! 脅威分析! 撤退だ! 」


 ビグスは機体を急旋回させ、最大出力で離脱をはかると同時に、全ての通信手段を講じて相手へ意思を伝えようとする。

「聞こえていないはずがない。」

 相手は最初から通話する気などなかった。


 夜目はどんどん加速してゆき、最高速度に近づく。

 ジアゾの機体だったら巡航速度でも追いつくことはできない。


「警告。貴機は日本国領空を侵犯している。我の指示に従え。」


 それが科学文明の限界と思っていた。ビグスは、夜目の速度に難なくついてくる機体に恐怖を抱く。


「合成音声です。これは人の声ではありません! 」


 ウェッジは相手の機体を夜目の分析装置で調べていた。魔力波は一切検出せず、飛行速度は夜目と同等以上、そして武装は・・・


「攻撃! 」


 ビグスの声にウェッジは身構えてコクピットの外を見ると、一筋の光が通り過ぎて行く。


「警告射撃だ、奴等の機体をスキャンしろ! 」


 攻撃したのはF-15GJであり、夜目を機銃の射程内に捉え続けていた。




「くそっ! 引き離せない。」


 ビグスは戦闘機動を行っているにもかかわらず、後ろをぴったりと付いてくる機体に手をこまねいていた。最初に追って来た機体は燃料切れなのか離脱したが、同型の新手に追われている。正直、ゲート付近まで戦闘機が追ってくるとは考えてもいなかった。


「もう直ぐゲート! 進路維持! 」


「わかってる! 」


 ビグスとウェッジはゲートに入るために安定飛行へ移行する。こんな所を狙われたらひとたまりもないだろう。しかし、夜目を執拗に追跡していた機体は、瘴気付近で反転して引き返していった。


「助かった・・・」


「まだだ! 瘴気警戒! 」


 ウィザードアイの夜目は基地に帰投するが、無理な戦闘機動を行った事で修理に半年以上費やすこととなる。ビグスとウェッジの両パイロットには重い処分が言い渡されるものの、持ち帰った情報の重要性から処分取り消しとなった。勿論、この判断に貴族連合が絡んでいたのは言うまでもない。

一番厄介な機体「夜目」の登場です


次話は「不祥事」となります

外伝とノクターン版を進めるので投稿は来月予定です

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