表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
160/191

とある護送任務の裏側

倭国、静京

 魔法科学院、静京第零出張所では、セシリア達が退所の準備を進めていた。元々セシリア用に提供された建物だったので、大学へ戻る前に魔法科学院へ返却しなければならなかった。

 帰国予定が明日に迫り、利子と小百合は荷物をまとめていたが、セシリアが魔法科学院へ最後のあいさつに出かけた頃、第零出張所にある人物が訪れる。


「赤羽さんの出発が1日ズレそうです。」


「えっ! 一緒に帰れないの? 」


 突然研究所を訪れた国崎から、小百合とは一緒に帰れない事を伝えられて利子は驚く。


「その姿のまま空港に行く気だったの? 」


 通常どおり帰国する気満々の利子に、小百合だけでなく国崎も呆れ気味である。利子の姿はヒトの形を保っているものの、体に新しくできた口と目、触手は国崎達でも隠しきれるものではなかった。きちんとした事前手続きなしでは、間違いなく空港で足止めをくらってしまう。何より、名も無き組織と鴉天狗は利子の目撃者を増やすわけにはいかなかった。


「赤羽さんには、研究用の魔物として航空貨物扱いで帰国して頂きます。倭国にいる事になりますので、帰国の手続きは必要ありません。到着後、我々の方で済ませます。」


「そんな~」


「へぇ、本番前の実戦に近い訓練ってところかしら。」


 利子の帰国は、パンガイア大陸への不法入国における実戦的な訓練となるのであった。



「フフフッ、どう? 小百合さん。私を見ても国崎さんの反応は何時ものままだったでしょ。」


 国の職員が帰った後、利子が何やら私に聞いてくる。それは彼女の「服」に関するもので、今の利子は服を着ていない。

 変態完了後から利子にはゆったり目の服を着せていたものの、触手などから分泌される粘液で直ぐに服がダメになっていた。彼女曰く、練習すれば粘液を止められるし、皮膚を服のように変える事も出来るそうだ。そんな事を言いつつ、新しい服を着ようとした利子から速攻で服を取り上げたのは言うまでもない。

 結局、2、3日で如何こう出来るようなものじゃないみたいで、利子は苦肉の策として、長く伸ばした触手を巻くことで、上と下をガードする方法に行き着いた。

 人の形を止めて地面に広がっていれば、服の心配はいらないように思えるが、彼女は「自分の形を忘れるのが怖い」と言って人の形を維持し続けている。まぁ、わからなくはない。わからなくはないが、国の職員が利子を見て何も感じないのは、女性として見ていないどころか、人間として見ていないからの方が大きいように感じる。



 倭国出発の日、セシリアと小百合は西部に建設された国際空港で出発までの時間をつぶしていた。この国際空港は、南海大島攻略戦のために作られた自衛隊基地の一部を民間に開放しているもので、民間区画の空港職員も自衛隊員である。


「教授? どうかされましたか? 」


「どうしても、あれに乗らなければならないのかね? 」


 セシリアの視線の先には旅客機があり、小百合は色々と察してしまう。


「またですか、諦めてください。空飛ぶ畳では日本と倭国を往復できないんですよ。それに、台風が来る前に戻らないと。」


「しかしだね、ジェットエンジンというものは、飛行中に止まったり爆発すると聞く。」


「その時は諦めるしかないですね。」


 民間人と自衛隊員が行きかうロビーでセシリアと小百合が話している頃、外務省専用ターミナルに到着した便からは、外務省の職員が続々と降りてきていた。空港自体は防衛省が管轄しているが、このターミナルは外務省専用の施設であり、大臣や職員を優先的かつ手続きを簡略化して効率よく空輸するための施設である。


「今回は多いな。」


 航空自衛隊員兼入国審査官兼検疫官の渡辺は、専用機から続々と降りてくる人波と荷物の山に気が滅入りそうになっていた。

 ゲート勤務の者は入国の理由を聞き、生体情報を確認する。検疫では荷物をエックス線検査と探知犬を使って一つ一つ調べてゆく・・・何故俺達がこんな事をしているんだ? 渡辺は自問するが、これは防衛省が外務省に嵌められたことが原因である。

 仕事量の増加によって、外務省は倭国との間に出入国を簡略化した専用線を設けて効率化を計っていた。しかし、倭国諜報機関の破壊工作や密入国などを警戒した防衛省が難色を示したため、外務省は関係省庁と協議して、空港を管理している防衛省に警備から入国審査、検疫など全ての業務を任せる事で「防衛省が納得できる」安全対策としたのであった。


 一番大きな集団を捌き切った渡辺は一息つきつつ、何事もなかったことに安堵していた。ゲート内には小銃が置かれており、不測の事態が発生した場合は即座に対応しなければならないからだ。はっきり言って荷が重い。


 検疫にいた頃、検査で開けた旅行ケースに女性の下着が詰まっていたことがあった。その時は仲間内で盛り上がったが、今はそれが懐かしい。


「あいつらはケバいんだよ。」


 倭国に来る外務省の女性職員は目つきが鋭く、何時もピリピリした雰囲気を漂わせている。入国審査などが遅れればクレームをバンバン出してくるし、人を無能扱いする。腹いせに審査を「じっくり」したことがあったが、その後に俺の人事評価が下がったのは恐怖でしかない。外務省の女性職員は俺の天敵だった。しかし、何処にも天使はいるものだ。


「よろしくお願いします。」


 渡辺の前に、和やかな雰囲気の女性が現れる。彼女は外務省の職員でありながらピリピリした雰囲気は無く、誰に対しても笑顔で対応する例外中の例外であった。


「確認できました。どうぞ・・」


 渡辺がパスポートを返すと、笑顔でお辞儀して去っていく。

 稲飯聖那いない せいな、彼女との出会いは外務省の女性に絶望してから半年たったくらいだったか? 初めて会った時から彼女は笑顔でクレームなどは一切言わずに審査を受けていた。もう、この時点で特異な存在だ。そして、俺は最初の確認で彼女の秘密を知ってしまう。


「稲飯さん、宜しいですか? データと会わない箇所があるのですが、理由をお聞かせください。」


 審査官の俺は国民データベースにアクセスできる。ここには日本国民全てのデータが記載されていて、直近で測定された身体データも入っていた。

 身体データの不一致を告げられた彼女は見る見る顔を赤くし、渡辺に事情を説明する。


「すみません! パッドの事は、どうか、周りの人に聞こえないようにお願いします。」


 最初、彼女を見た時にデカい胸だと思っていたが、データ上はAかAに近いBであった。盛り過ぎはいけないね。うん。

 その日から、稲飯は渡辺の心の天使となる。



 セシリアと小百合が帰国の途に就いてから2日後、利子は久しぶりに日本へ帰国する。


「できれば、人として戻ってきたかったな・・・」


 貨物としてでなければ帰国することも出来なくなった自分は、既に引き返せない所まで来ていた。コンテナが運ばれるのを感じながら、研究所での健康診断がどんなものになるか考えていた時、携帯端末のバイブレーション機能が作動する。


「小百合さんから? 」


 利子は端末を操作して電話にでる。


「利子、体調はどう? ・・・ってことで千歳空港が使えなくなったから、貴女がいるのは釧路空港よ。」


「えぇぇ、車に酔ったらどうしよう。」


 利子は長距離移動の車酔いを心配しているようだが、小百合はもっと心配するべき点を伝える。


「貴女の護送は自衛隊がしているから、間違っても外に出てはダメ。出たらハチの巣にされるわよ。」


「何それ! 」


 護送の自衛隊員には「魔物を輸送」と伝えてあるため、コンテナの外に出る事は魔物が脱走することと同義だ。北海道の自衛隊が上陸してくる怪物相手にどれだけ苦労しているかニュースで見ていたため、どんくさい利子でも出れば何が起きるか容易に想像できる。


「貴女が出ようとするか、事故でも起きない限り問題ないわ。それじゃ、大学で会いましょう。」


 小百合は分かり易いフラグを起ち上げて利子との通話を切り、見事にフラグを回収するのだった。



「 痛い~ 」


 横倒しになったコンテナ内で利子は起き上がり、体に怪我が無いか確認する。


「怪我はして、、うわぁ・・・」


 運が悪かったのか、横転の衝撃で裂けたコンテナの一部が、利子の腹部を引き裂いていた。他にも右腕と右足の複雑骨折、肋骨骨折に右肺の損傷など、人間だったら死亡していてもおかしくない怪我を負っていた。だが、確認作業が終わる頃には完全に治ってしまう。


「ツイてないなぁ、外は曇りかぁ。」


 コンテナの裂け目から空を見て更に憂鬱な気分になるが、直ぐに大事なことを思い出す。


「はっ! 外! 」


 利子は外を確認しようとして顔を出すのを寸でのところでやめ、代わりに体の中で一番大きな目だけを裂け目から覗かせた。外では自衛隊員が慌ただしく動いていたが、後ろから防護服に身を包んだ一団が現れる。


「コンテナに近づくな! すぐ離れろ! 」


「鉄砲を持った人があんなに・・・あれって、火炎放射器! 」


 コンテナに銃を向けられ、利子は恐怖のあまり亀裂を出来るだけ塞ごうとしてしまう。


「中に来ませんように、中に来ませんように・・・」


「うわ! 」


「何だあれっ! 」


「撃つな! 下がれ! 」


 利子の思いが通じたのか、自衛隊員達は後ろに下がり始め、少しして携帯端末に小百合から着信が来る。


「小百合さん! 私! 鉄砲向けられてる! 」


「落ち着きなさい! 今、教授とそっちに向かっているから、絶対外に出てはダメ。」


 その後、利子は小百合達が到着するまでの間、自衛隊に監視され続ける恐怖を味わうこととなる。しかし、


「小百合さん遅いな。」


 利子は偶然にもコンテナの下で潰れていた大きなカニを見つけ、カニに噛り付きながら小百合達の到着を待つのだった。

カクヨムにも「日本国の決断」を投稿し始めました。第1章を毎日1話づつ投稿する予定です。


「日本国の決断」の外伝 その2 にあたる話を書き始めました。プロローグと本編1話が完成次第、1日1話のペースで「ノクターン」に投下します。題名は敢て書きません。

現在は「プロローグ4」まで書いたので、投稿は来月になりそうです。


新キャラ?が出てきましたが・・・

彼女こそ、リュクスが警戒するべき「死者の国の魔女」になります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ