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とある転移国家日本国の決断  作者:
栄光と破滅への道
153/191

妖狐コクコの暗躍

日本国某所

 この日、名も無き組織における防衛部門の主要メンバーは重要な会議を開いていた。

 コンクリートむき出しの重厚な部屋には既に参加者が集まっていて、時間より早く会議は始まる。


「懸念されていた巡航ミサイルの精度ですが、目標値まで向上できました。まだ試製はとれませんが作戦に投入できます。」

「弾頭の小型化はメインネスト破壊時に良好を確認できていますので、支障はありません。」


 防衛省職員の報告に続き、文科省の職員が報告する。


「予定どおりで何よりです。さて、本題に入りましょう。お手元の資料Bを開いてください。ここからは彼女が説明いたします。」


 司会者は会議を進めるため、部屋に設置されている大型モニターのスイッチを入れる。今回の会議は2つの部屋で同時に行われ、名も無き組織とは別の部屋に外部の人間を招いていた。


「本日はこの様な場に招待して頂き、光栄です。倭国内の状況ですが・・・」


 モニターに現れたのはコクコだった。彼女は表向き、外務局長としてパンガイアとの外交交渉における日本側との協議に来日しており、裏としては同心会の指示で兵器の売却許可と、ナギを取引できないか交渉に来ていた。しかし、一番大きな目的は同心会攻撃への事前説明である。


「・・・以上が養殖島の概要です。ここは交渉によって降伏させる予定なので、派遣部隊は最小限で構いません。」


 コクコは名も無き組織の参加者がいる部屋から離れた別の部屋に1人で参加していた。この建物は妖怪を収監するために設計された施設であり、鉄筋コンクリート造の部屋には人機の装甲に用いられる特殊セラミック板も使用されているため、一度収監されてしまえば大妖怪ですら脱出は出来ない。また、コクコのいる部屋から組織の参加者がいる部屋までは自衛隊の特殊作戦群を配備していた。

 この対応には理由があり、名も無き組織がコクコの考えを読めていなかったからである。万が一、コクコが同心会のために動いていた場合、参加者の保護と、ある程度の脅しが必要だった。


「島民の反発はどれ程予想されますか? 」


 この会議に参加している門倉はコクコへ質問する。説明どおりなら島民にとって大妖怪は守り神のような存在であり、少数の人間と引き換えに安全を得る共存関係にある。島への攻撃はその関係を根底から覆してしまうため、大妖怪を排除しても島民の反発が予想された。


「降伏を受け入れず、徹底抗戦された場合でも、完全武装の兵士が300人もいれば容易に制圧できるでしょう。家畜の扱いは好きにしてください。言う事を聞かなければ全て処分しても構いません。」


 コクコの言葉を少なくない参加者は不快に感じていたが、顔と口には決して出さない。これが人間と魔族の文化、価値観の違いであり、「まだ価値観を共有できる」内容である。

 彼女は表面上、名も無き組織に寝返った食人妖怪を演じているが、門倉達はコクコとトライデントに話し合いの場が設けられていた事を知っていた。島の管理や家畜(島民)等の厄介ごとは、南海鼠人に押し付ける魂胆なのだろう。コクコは養殖島がどうなろうと無関心なのだ。


「ありがとうございます。これで倭国における主戦場は2箇所に絞られました。最大の抵抗が予想される屠殺島ですが・・・」


 進行役は上陸戦の説明を行う。

 屠殺島は島民全てが同心会のメンバーであり、大妖怪も相当数いるため、数は少ないものの倭国正規軍を圧倒できる戦力を有している。幸いにして古代兵器を保有しておらず、「人質」がいるわけではないため、持てる火力を全て投入できてストレスが少ないのが救いである。


「揚陸艦は「しもきた」と「くにさき」を投入する予定でしたが、戦力不足と判断されたため、「ながと」を投入する方向で進んでいます。」


 進行役は作戦の修正事項を説明する。ながと級揚陸艦「ながと」は米国のアメリカ級強襲揚陸艦の発展型相当を目標に開発された艦型であり、転移世界で運用するための各種装備がかさみ、満載排水量は5万トンを優に超える。


「搭載する地上部隊は追加の外人部隊を予定している他、現在改装中の「いずも」から一部の航空隊を搭載します。また、養殖島への投入戦力に変更はありません。「ひゅうが」によるヘリボーンで一気に攻略します。」


「現在、倭国と南海大島へ自衛隊が保有する攻勢可能戦力の大半を移動中です。」


 司会進行に伴って門倉は捕捉を入れる。防衛省は倭国での作戦準備を進めており、地上戦力を本島へ送り込んでいた。この部隊は同心会への圧力と重要インフラの防衛用に派遣しているが、もう一つ大きな役割を持っている。


「もう一つの主戦場、霧氷連山ですが・・・第一艦隊の派遣が何とか間に合いました。」


 アカギの居城、霧氷連山攻撃には海上自衛隊の第一艦隊を投入する予定で進められていたが、作戦目的が伏せられていたため、「核を搭載した艦隊が何の訓練をするのか?」を各所へ説明するのに時間がかかり、遅れが出ていた。


「アカギがその気になれば、巡航ミサイルは迎撃されてしまいます。」


 アカギの妖術には高出力レーザーに匹敵するものがあり、彼女を兵器として見た場合、地球で実用化されている弾道ミサイル迎撃レーザー砲台を凌駕する能力を有しているため、門倉は部下と組織共同でアカギ攻略作戦をたてていた。

 門倉達はコクコを始めとした情報元から得られたアカギの人物像を分析し、屋敷から出てくる可能性は限りなく低いと判断し、古代兵器の使用に踏み切る。


「本作戦は古代兵器フェンリルを使用するため、JAXAとの共同作戦となります。」


 作戦は地上と海上からアカギに圧力をかけ、意識を引き付けている所にフェンリルの砲撃を最大出力で撃ちこむというものである。


「アカギの位置ですが・・・」

「ご心配なく、座標は以前お伝えしたとおりです。また、作戦開始時には屋敷の真上にビーコンも設置します。」


 門倉の説明にコクコが捕捉を入れる。何としてでもアカギを葬りたいコクコは、近年稀に見る熱意を以て事に挑んでいた。既にアカギの屋敷は緯度経度が判明しており、作戦当日には専用ビーコンも設置される徹底ぶりである。アカギ討伐は、後に控えるパンガイア戦の前座でしかないが、この作戦の成功が絶対条件であるため失敗は許されない。

 ターゲットが山脈深くにあるとはいえ、フェンリルの砲撃ならば十分に届く深さであり、意識外から強烈な一撃を浴びれば、魔王とてひとたまりもないだろう。万が一生きていたとしても、その後に核ミサイルがフェンリルの開けた穴に撃ち込まれるため、確実に仕留められる。予想に反して陽動や巡航ミサイルに食いついて地上に顔を出そうものなら、フェンリルの砲撃が直撃する・・・失敗する余地はない。


「予定どおり、ということですね。では、次に国内の主戦場ですが・・・」


 会議はスムーズに進んでゆき、日本国内の反戦派一掃に移る。



数日後、倭国霧氷連山、同心会本部

 コクコは日本での活動内容を同心会の幹部へ報告に来ていた。今回の報告では、この場で判断を仰がなければならない最重要事項が伝えられる事になっていたため、アカギを除く大幹部達が急遽集められ、事前情報の無い参加者達は各々が持つ情報を交換しながら雑談していた。


「緊急会議を始めます。先ずはコクコの報告からです。」


 重苦しい雰囲気の中、コクコの報告が始まる・・・


「急遽集まっていただき、感謝いたします。此度の会議は、皆様へ火急の知らせを正確に伝え、判断していただくためのものです。」


 普段の雰囲気とは明らかに異なるコクコに、参加者は事の重大性を認識し始める。


「日本国が、我が国への侵攻を準備中です。」


 参加者は皆大妖怪の中でも高位の者達だが、コクコの言葉を一瞬理解できなかった。


「でたらめを言うな! 日本側にその様な動きは無い! 」

「軍部は日本軍と良好な関係を維持している。今も合同訓練を・・・」


 コクコへ多くの罵声が浴びせられる中、反論する幹部の内数人が結論に行き着く。


「日本の狙いは同心会とアカギ様です。早ければ、半年以内に攻撃が始まると予想しています。これをご覧ください。」


 コクコは魔導プロジェクターを使用して、独自の情報源である名も無き組織を紹介し、日本の裏事情を説明してゆく。現在、日本国ではパンガイア戦に向けての準備が進められているが、戦争の絶対反対を掲げた政党「無職の派閥」が「日本が戦争に巻き込まれないために、如何なる措置も講じる」をマニュフェストに載せて支持を伸ばしていた。しかも、養殖島と屠殺島を容認し、同心会の中でも倭国の理解者とされている外務省の福島が無職の派閥と深い関係にあると判明し、「パンガイアとの戦争回避のためなら倭国を売り渡す」ことも厭わない可能性があることを説明する。

 そして、国会議長のオウマが日本政府と深く関わっていることを付け加えた。


「我等を大陸に売るつもりか・・・愚かなり。」

「その考えを持つ日本人は極一部でしかありません。先ほど説明した名も無き組織こそ、妖怪の理解者と言えるでしょう。」

「その者達が我らに味方するとして、どう守る? 日本軍と真面に戦えば我等は全滅だ。」

「策はあるのだろうな? 」


 攻撃が始まってしまえば、如何に大妖怪の集団といえども為す術はない。同心会が総力戦を挑んだところで政府軍と日本軍に捻り潰され、霧氷連山に立て籠れば本部ごと焼き尽くされる。どんな難題でも幾つもの策を用意して解決に導いてきたコクコに、大幹部達は考えを問う。


「名も無き組織は、倭国への侵攻に乗じて日本国の首都「東京」で謀反を起こします。我等もその機に乗じて東京に攻め入り、国会議事堂を制圧できれば、日本軍を止められます。」


 コクコの策は日本国の意思決定機関自体の掌握であった。外務局長としての権限と同心会の協力によって、日本国内には活動拠点が幾つも稼働しており、これらの拠点と1年前に日本から譲り受けた中型コンテナ船を活用すれば、成功の可能性が高まる事を説明する。そして、本部の守りを固めつつ、攻撃目標となっている養殖島と屠殺島を陽動に使う事を提案した。


「成程、精肉の輸送を装って精鋭と魔獣部隊を送り込むか・・・魔獣は直ぐに用意しよう。」

「屠殺島から戦力を引き抜く。この際、背に腹は代えられぬ。」

「我らの動きを悟られては不味い。会議の情報は極秘とする。」


 幹部達は相談し、守りの強化と、日本へ投入する部隊の選定に入る。

 政府非公認とは言え、日本を魔素が無い死の世界と見なしていた同心会の幹部達は、積極的に日本の要人とパイプを作っていなかった。送り込んだ構成員も鴉天狗に狩られ、重要情報はコクコ頼みである。この状況が意味することは一つしかない・・・


「最後に、私からお願いがございます。オウマ議長より・・・」



数日後、静城、白蛇の間

 コクコは外務局長として、フタラへ日本国による同心会への攻撃が近い事を報告に来ていた。そして、同心会構成員として、同心会が徹底抗戦する旨を伝える。


「戦は避けられない状況です。」

「何かの間違いです・・・アカギは、日本国へ直接手を出してはいない。日本国への工作は、同心会の者達が行っていただけでしょう! お前は一体何をしていた! 」


 緊急の報告があると聞かされたフタラは、地脈確認の予定を変更して静城に戻ってきていた。そこで受けた報告は寝耳に水であり、この状況を招いた外務局長を叱責する。


「日本人はむやみに戦を起こさない。話せばわかる者達です。コクコ、直ぐに日本国の総理大臣と会談の場を用意をしなさい。」


 どうやら、フタラは日本へ直談判に行く気らしい。自身の立場を全く理解していないフタラの振る舞いに、哀れみすら感じてしまう。


「なりません! この状況で会談を行おうものなら、フタラ様は同心会から売国奴と見られてしまいます。」


 日本が同心会のみを狙っている状況で、倭国の最高権力者が日本の総理大臣と会えば、どう思われるかくらいわかるはずだ。そんなにアカギが大事か?


「では、正式にアカギと会います。」

「非力ながら同心会を説得し、アカギ様と会談の場を用意いたしました。」


 ここまでは予定どおりである。日本との会談を潰せばアカギへ行くのは確実だ。


「貴女の指図は受けません。私は一神官としてアカギに会います。」


 フタラは政治に疎いため、予め道を用意していたのだが、やはりやり過ぎたようだ。

 日本国の侵攻準備、同心会の徹底抗戦、アカギとの会談・・・フタラの疑念は確信に変わっていた。これ以上時間を無駄にできないフタラは、コクコの報告を途中で終わらせて部屋を出ようとする。だが、フタラが扉の前まで来たところで意外な人物が扉を開き、立ちはだかった。


「オウマ、何のつもりです。そこをどきなさい。」

「アカギの元へ行かれるのでしたら、フタラ様の命といえど退けません。同心会は貴方の命を狙っているのです。」


 意外な人物の登場で、フタラは自分が最初から嵌められていたことを悟る。

 コクコが日本国による侵攻準備の情報を最初に話したのは同心会ではなく、オウマだった。日本国の極秘情報と同心会の壊滅を司法取引の材料として、戦後に役職を全て失う代わりに保護の約束を取り付けていたのだ。


「今アカギと会わせるわけにはいかないのですよ。フタラ様。」コクコは心の中でほくそ笑む・・・

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