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とある転移国家日本国の決断  作者:
大陸間戦争勃発
148/191

戦争への備え

日本国、首相官邸


 日本国を取り巻く環境が激変したことで首相官邸は主不在の時間が増えており、主のいない期間を活用して新状況に対応した機能が順次強化されていた。そして、今日は新機能をリモート会議で存分に発揮する日である。


「わかりました、社会保障改正2案の修正を受け入れましょう。しかし、自衛隊法をはじめとした5案は受け入れられません。これでは、戦う意思のない国民を戦地に送り込めてしまう。」


「元からそのつもりだと言っている。自衛隊員が全く足りていないことは知っているだろう! 」


 現総理と前総理が首相官邸の新会議室で激論を交わす中、名も無き組織代表の上杉は議論の成り行きを見つめていた。上杉の役割は正確な情報を伝え、現状を説明して議論を円滑に進める事にある。名も無き組織は、日本国が今まで不可能としていた行動を実現させていたため、2人の総理は助言役として呼んでいたのだ。勿論、名も無き組織がただ「助言」を行うだけではない事を痛感している2人は、互いに主張をぶつけ合いながらも、変えてはならない、妥協してはいけないラインを引いていた。

 組織は判断が早く優秀だ。しかし、誰もがブレーキをかけるところでも、彼等は速度を緩める事が無い。車を運転中に脇道から子猫が飛び出て来たとしても、目的地に到達するためにはアクセルを踏み込んでしまうのだ。名も無き組織は、誰かが手綱を握らなければならなかった。


 現総理と前総理は与党と最大野党の党首として、混沌とした時代に突入した日本国の舵を滅亡以外の方向に何とか操作して来た。しかし、自らの判断が「正しかったか?」と問われると、「それ以外に方法は無かった」と言う他ない・・・。

 国を救う判断をした替わりに、取り返しのつかない結果を招いてしまった。その最たるものが防衛出動であり、想定しえない事態を前にして、審議もろくに行わず独断専行で防衛出動を命令してしまう。この決断は当時の総理大臣(今の前総理)が行ったものだが、半漁人の攻勢から国を防衛することに成功する一方、未だに防衛出動を終わらせることが出来ていない。この問題は予想外に尾を引き、蜀では調査もせずに問答無用で精霊を滅ぼし、南海大島にいたっては無差別攻撃ともとられる攻撃を行ってしまった。


「不足は彼等( 名も無き組織)が用意する人員でまかなえます、それ以上人を増やす意味はありません。」


「それが気に食わないんだ。日本は日本人で守るべきだ。」


 国が安定した現在、国防に関して与野党で意見が割れていた。自衛隊の不足を外人部隊に頼る考えの与党だが、前総理率いる最大野党は、あくまで国民が国を守るべきと考え、国民の徴兵が必要と主張して両者の意見は合わない。


「宜しいでしょうか? 」


 現総理と前総理が互いに折れない中、会議に参加している名も無き組織の上杉が発言する。


「我が国の現状は徴兵に向いていません。少子高齢化が次の段階へ進み、自然減少だけで毎年60万人を超える人口減となっています。国民を徴兵するより、工場で働かせた方が防衛力強化になるのです。」


 国政統計と今後の予想値は既に公開しているため、2人が党内で議論をまとめた上で話し合っていることも理解しているが、上杉はもう一度状況を伝え、丁寧に説明する。


「我が国が導入する外人部隊ですが、傭兵ではなく、自衛隊員の扱いとします。任期の5年を務めあげると日本国籍の取得申請が可能となる制度を採用しますので、改正法案を早期に通していただきたい。」


「勝手に進めるな、国籍取得要件は議論の途中だと言っただろ。」


「あなた方の出した案では日本人が外人部隊へ入る方法もあるようですが、これは? 」


 日本人による国防にこだわりが有る前総理は党内で意見をまとめられなかったようだが、もう時間切れである。与党と賛同する国会議員で可決確実なので、前総理が反対した所で強行採決する予定である。

 上杉は現総理から指摘された箇所の説明を行う。外人部隊へ日本人が入隊するのは違和感があるかもしれないが、これも自衛隊員を増やすための手段なのだ。



日本国防衛省、外人部隊


 自衛隊員の不足を補う目的で設立された新組織であり、試験に合格した者は日本国籍を有していなくても自衛隊員と同等の扱いとなる。将校クラスは正規自衛隊員から選ばれ、新規隊員は全て一兵卒から始まるが、能力と実績次第で将官にもなれるようになっている。

 外人部隊ということで、日本人が殆どいない組織と勘違いされがちだが、実際に運用が始まると多くの元日本人が入隊していた。これは自衛隊入隊の条件が関わっており、欠格条項に該当する者は「侵略者と戦う!」「国を守る!」といった志を持っていたとしても採用されることはないため、戦う意思があるにも関わらず戦うことが出来ない者への救済処置であった。

 また、日本国民が外人部隊へ入隊するには、入隊時に蜀か倭国の国籍を取得して名前を含めて別人になる必要があり、新しい身分で5年間勤務すれば犯罪歴の無い人生を歩める、というカラクリもある。勿論、重犯罪を犯した者は審査の段階で省かれるが・・・


「平等という観点で見れば徴兵は平等ですが、戦う意思のない兵士は組織の欠陥品。志願制ならば、最初から欠陥品の混入を防げます。」


 会議は名も無き組織のパートとなり、人を部品として見る上杉に2人の総理は嫌悪感を示すが、何をするにも必要なパーツとなっている上杉と言い争う気は無い。


「弱者である国民は福祉に頼る権利があります。その一方で強者である市民は国に命を捧げ、奉仕する義務があります。」


「ノブレスオブリージュですか・・・自衛隊員の待遇を大幅に改善させたのは、国民と市民を分けようとしていたからですね。」


「生憎だが、俺達は昔の身分制度を採用する気は微塵もないぞ。」


 名も無き組織が国を守る上で必要と判断したものが何なのか判明し、2人の総理は身分を分ける気が無い事を伝える。勿論、上杉は身分制度を変えようなどとは想定しておらず、自衛隊員には上位の配給券や勤務した年数によって学費と医療費の免除、移動制限の緩和等、数々の優遇処置を行うことで他業種との差別化を計っていた。組織の思惑はおおむね実現し、自衛隊への志願者がじわじわ増加している。


「国が国民と市民を分けるのではありません。国民一人一人が判断した結果であり、国民の判断に国は応える必要があります。失礼を承知で言いますが、今の若者は脅威を説明して徴兵を行ったところで戦いません。」


「国の一大事に立ち上がらない者があるか! やる気の無い者など・・・」


「・・・」


 上杉の発言に前総理は反発するが、思い当たる所のある現総理は沈黙する。3者には世代の違いと、地球での国際的な枠組みをどこまで理解していたかが出ていた。一番年齢が高い前総理は国民全体が一定の水準になるような教育を受けており、現総理は競争社会に対応した教育を受けている。上杉は現総理と同じ教育を受けていたが、「持続可能な枠組み」につての知識と、今の若者についても調査を行っていたことから、若者が何を嫌がり、どうすればやる気になるか、既に一定の答えを持っていた。

 徴兵は嫌だ、戦争には行きたくない。2人の総理には非常時にもかかわらず「やる気が無い」若者の考えが理解できない。上杉も最初は同じ考えだったが、独自調査によって「やる気が無い」若者という見方を改めていた。

 若者は若者なりに世界を把握して、新しい生き方を見つけていたのだ。


 黒霧発生前から地球の人口は飽和状態にあり、限りある資源と仕事を各国が奪い合っていた。そこで世界は「持続可能な開発目標」を掲げて様々な問題への対応に乗り出したのである。

 古い考えの抜けきらない人間は何をすればよいのか判断できずにいたが、若者は「先の無い競争主義と大量消費社会」に見切りをつけ、家、物、仕事すらシェアし始めていた。これら若者の変化を「変な流行」と捉えるか、「持続可能な開発目標を達成するためのヒント」と捉えるかで、若者のやる気を出させる方法に方向性を持つ上杉と、見当違いな方法を取ろうとしていた2人の総理で違いが現れていた。


「徴兵は平等に兵役を課すシステムですが、人は皆平等ではないため、徴兵された一人一人の能力を引き出すことはできないのです。また・・・」


 上杉は徴兵にこだわる前総理へ「国民国家」的な考えでは、現在の日本国民は戦わない事を念を押して訴え。若者が「やる気が無い」ように見えるのは本質が見えていないだけで、誰が指示するでもなく「戦う勇気のある者が志願し、周りの者達が支える」形が出来上がりつつあることを伝える。


「それで若者のやる気が出るなら良いが、俺の目が黒い内は絶対に階級社会にはさせないからな。」


 前総理は膨大な資料と分析結果を上杉に見せつけられ、押し切られてしまう。はっきり言って、並の国会議員より遥かに強力な上杉には反撃すらまともにできないのであった。


「しかし、状況を正確に把握している国民だけではありません。その点について、組織の考えを聞かせてください。」


「総理の懸念は組織内でも重大な懸念として対処法を模索していました。「無職の派閥」の主張は国民が求めるものですが、国民に夢物語を語っているに過ぎません。宗教、の方が近いかもしれませんね。」


「そんな雑音は放置でいいだろう。取るに足らない議席数だ、国民投票法案はどの道可決される。」


 前総理は、ここまで来て理想論しか言わない新政党「無職の派閥」を障害とも考えていない。だが、現総理は独自の情報網から名も無き組織が何か企んでいる事を察知しており、遠回しに上杉へ聞いていた。


「5月の国会で、彼等を完膚なきまでに叩き、支持者の目を覚ましたいと考えています。」


「奴等に聞く耳があればいいのだが・・・」


 国会で上杉等が日本の置かれている現状を説明するものと思い込んでいる前総理は、「「無職」の支持者も頭で考えて欲しい。」と愚痴を言う。しかし、現総理は上杉から漂う不気味な雰囲気を前に、ある確信を持つ。


「その時は、あなた方の覚悟も国民へ向けて示す必要がありますので、迷いは今のうちに断ち切っておいてください。」


 雰囲気の変わった現総理を見た上杉は、名も無き組織が何をしようとしているか薄々感づいていると判断し、2人に「準備」の助言をするのだった。

自衛隊の頭数を増やすいい方法ですが、当初は「宇宙の騎士」を習ってノブレスオブリージュを日本が採用する予定でした。ただ、作中では「自衛隊に入ればいい事がある」程度しか法制度の変更はありません。法を変えるより、国全体をやる気にすればOKといった感じです。

F自小説で国を立て直しつつ自衛隊の強化って、中々参考が無いので書くのにてまどりました。


次回でこの章は終わりです

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