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とある転移国家日本国の決断  作者:
大陸間戦争勃発
138/191

留学準備期間

 転移以来、日本国は国をあげて転移した星の調査、研究を行っているものの、未知の分野である魔法学を一から始めなければならない状態だったため、思っていた以上に研究は難航していた。



日本国北海道、北海道大学

 この日、新世界の生物を研究している部署へ、待ちに待った装置がもたらされる。


「ついに来ましたよ! これで魔術回路が見えるはずです。」

「やっとか、これで研究速度を上げられる。」


 研究員達は理化学研究所から送られてきた装置を組み上げて、早速試運転を行おうとしていた。装置は分析機とモニターが組み合わさったもので、科学技術のみで作られた魔術回路リーダーである。


 試験サンプルの解析開始から50分後、完了のブザーが鳴ると同時にモニターへ魔術回路が映された。


「問題はないようですね。サンプルの魔術回路は教団から送られて来た物と一致します。」

「じゃぁ、早速アレを見ようか。」


 生物の魔術回路を見る装置は瘴気内では神竜教団が保有しており、瘴気外では医療機関など一般に広く普及している。当初、日本の研究者達は装置を輸入して使う予定だったが、使用条件が「操作する者は微量でも魔力を有し、魔力を操れる」だったため、独自の装置を開発せざるをえなかった。

 研究を進める上で魔術回路を見たい生物が多くある中、待たされ続けた研究員達は歓喜の声を上げながら装置にサンプルを投入していく。


「同じヒトでも魔術回路には相違点が多いな。これは・・・遺伝子情報と類似点があるぞ! 」

「妖怪の回路は太くて複雑だが、半魚人はシンプルだな。」


 各々の研究員が自身の担当する生物の回路で盛り上がる中、1件だけ3時間以上かかっても解析できないサンプルがあった。更に4時間もの時間をかけて解析が完了したのだが、サンプルの魔術回路がモニターに表示された瞬間、その場が静まり返る。


「不具合か? 」

「いえ、機械は正常です。魔術回路は全て正常に表示されています。」


 モニターには複雑な幾何学模様が表示されており、電子回路にも見える魔術回路は今まで解析した生物とは異なって「人工物」のような見た目だった。


「このサンプルは・・・」

「日本人の変異体です。」


 この世界の生物とは明らかに異なる魔術回路を持つサンプル「RA」は、専門チームによって独自研究が進められることとなる。



倭国、静京

 倭国の首都「静京」は倭国内でも特殊な都市であり、ここに住む者は国会議員や神官、庶民から浮浪者に至るまで全員が大妖怪である。大妖怪が国の中心に住み、周囲にその他の妖怪や人間が住む構造はパンガイア大陸で太古に栄えた魔族国家に近く、現在でもその形を色濃く残していた。


「遂に来てしまった・・・」


 白石小百合は空港から出た瞬間眩暈に襲われる。利子と共に南海大島から船で倭国の玄関口に到着し、港でセシリアと合流してから空飛ぶ畳で静京の空港に相当する施設に来たのだが、そこには想像を超える世界が広がっていた。

 これが、妖怪の国!



「小百合さんどうしたの? 」

「今行く。」


 中々歩き出せない自分を利子が心配したため、精一杯の勇気を出して応えて2人の後を追う。周りには大妖怪しか存在せず、中には日本へ良く来る妖狐以上の妖怪が平然と歩いている状況に、悪寒と嘔気が一気に襲ってきていた。


「スゲー日本の妖怪だ」

「人間もいる」


 静京で日本人は目立つ存在であり、興味を持った子供達が見物に来ていたが・・・

「あの犬耳のガキは利子以上じゃない。下の上ってところかしら。」

 子供でありながら既に利子を超える妖怪に、小百合の頭は理解が追いつかない。一般のナギが事前情報もない状態で静京に来た場合、間違いなく発狂するだろう。


 小百合は心を落ち着かせながら周囲の妖怪を観察していく。鴉天狗は転移してから周辺国の調査を独自に行っており、とあるナギの努力によって大妖怪のランクが完成していた。

 安全が確保された調査だとしても、このような死地にナギが訪れるなど考えられない事で、大妖怪を調査したナギは頭のネジが何本か抜けているのは確実だ。

「こんな事ができるナギは、あいつ以外いない・・・」

 こんな狂った調査を行う人物に心当たりがある小百合は、その人物が自分を見下す情景が頭に浮かぶ。

「ここへ何をしに来たの? 今の貴女に、この仕事が務まるの? 」

「うるさい! 」

 度胸と行動力で鴉天狗を抜け、今は国の重要人物として独自の地位を自力で手に入れた異色のナギ。自身の母に対して、小百合は対抗心を燃やす事で委縮した自分の行動力としていた。


「何か、懐かしい雰囲気がする。昔の日本って感じ? 」


 大正から昭和初期の日本の雰囲気が感じられる静京に利子は感心する。最初は妖怪の都市と聞いて、おどろおどろしいイメージがあったものの、活気のある明るい都市だったため最初の不安は無くなっていた。


「静京はジアゾ文化が広く取り入れられていますので、和洋折衷のように見えるのでしょう。」


 留学生を担当する日本の現地職員が答える。この職員は倭国に大使館が開かれてから現在まで駐在しているベテラン職員であり、留学生に倭国の歴史から文化、風習まで日本人の感覚で様々な助言を行うために随行していた。

 留学生一行は、空港から車両の通行許可が出ている地区まで静京についての簡単な説明を受けながら歩いていく。


「車には私も乗らなければならないのか? 」

「えぇ、教授にはなるべく学生の近くにいてほしいので・・・」


 セシリアはガソリンという高揮発、高引火性、氷点下でも危険性の変わらない液体を爆発的に燃やして走る車の安全性を信じておらず、未だ乗らずにいた。しかし、今後の関係もあるので意を決して車に乗るほかなかった。



魔法科学院、静京第零出張所

 つまりはセシリアの研究所兼自宅に利子と小百合は到着した。ここが留学生の宿泊所である。安全面を考慮してセシリアの研究所で寝泊まりしながらスーノルド帝国大学へ行くまでに基礎学力とパンガイア大陸の一般常識を学ぶ予定となっていた。


「・・・まぁ、こんなものだね。今日は移動の疲れを癒すと良い。」


 セシリアは2人に小さな研究所を案内し、自室に戻っていく。


「良かった~、1人だとちょっと怖かったんだよね~。」

「同部屋とか聞いてないんだけど。」


 元倉庫の部屋は狭く、すぐそばに相方がいる事で利子は安心し、小百合は身の危険を感じていた。


「利子、触手は絶対にこのラインを越えて移動させないでね。」


 小百合は危険生物その2を主人から言い聞かせることで、予防線を張る。寝ている時に何かされたらたまったものではない。


「何を心配しておられるのですか? 私は無害な生物だと以前から説明を・・・」

「どの口がほざく。」


 利子のダッフルバックからヌルッと出て来た触手に対して、小百合は殺気のこもった突っ込みを入れる。


「大地の魔力が阻害されることなく流れています。この地はとても良く手入れされた土地でございます。」

「今日はやけに調子いいね・・・そういえば私も、何か体が軽いような? 」


 「勘弁してほしい」妖怪の本拠地とあって、絶好調な利子と触手を見て小百合はどんどん不安になっていく。


コンコン


「少しいいかな? 」


「どうぞ。」


 突然のノックに3人?の視線がドアへ向かう。


「3人に言い忘れていたことがあって・・・何? 」


 部屋に姿を現したセシリアを利子と小百合は凝視していた。今までセシリアが着ていた服はフィールドワーク用の物で、見た目にもエルフといった感じだったが、部屋に入ってきた彼女は私服に着替えてあり、あまりにもラフな格好に利子と小百合は中々言葉が出て来ない。

 今のセシリアが着ている服は倭服で、日本の着物によく似ているのだが、彼女はかなり着崩していたため、両肩が露わになっていた。


「いえ、何も。」


「体力や好奇心が有り余っているからと言って、遠くへ行かないように。寝泊まりはここ以外でしないこと。都市部では禁止が徹底されているけど、地方は夜這いの習慣が全然なくなっていないから気を付けるのよ。それじゃ。」


「ん?・・・え”!? 」


 2人に言い忘れた注意点を伝えたセシリアは部屋から出て行ったが、穏やかじゃない単語を聞いた利子は無言で小百合に説明を求める。


「良かったじゃない、地方に行けば利子でも男性経験豊富になれるわよ。」

「・・・小百合さん。私、本気で怒るよ。」


 新天地倭国にて、希望と不安が交錯する中、赤羽利子と白石小百合は自身の人生と国の運命を変える大きな決断をすることとなる・・・

作者が出したかった着物エルフです。

セシリアの元ネタ(見た目のみ)は某RPGに登場する四魔貴族の1人ですが、倭国に長年住んでいたことで黒龍波とか出せるかもしれませんね。


大妖怪のランク分けは大きく上中下で分けています

利子が下の中

コクコは中の上

センジュウロウは上の下となり、魔王クラスは規格外です

セシリアを当てはめた場合、下の下となります

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