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とある転移国家日本国の決断  作者:
大陸間戦争勃発
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魔族と魔王

魔族

 彼等の定義は非常に曖昧だが、世界共通の認識では人間を遥かに超える身体能力と知識、魔力を有する捕食者とされている。

 全ての生物が魔力を有し、固有の属性と魔法耐性を持っている関係で、並の生物が行使する魔法は大幅に弱体化されてしまう。しかし、生態系の上位に位置する魔族は、その圧倒的な魔力と身体能力で他の生物をねじ伏せる事ができる。


 弱肉強食の世界で、魔族が地位相応の振る舞いを行う事は必然だったのだろう・・・


 遠い昔、魔族は恵まれた能力を十分に発揮して他種族の土地を侵略し、人間を奴隷や家畜としていった。そして、パンガイア大陸東部に大帝国を築き上げる。

「我々こそ世界の支配者である!!」

 最盛期を迎えた彼等は、そう信じて疑わなかった。だが、彼等は自らの力に溺れることで、その歴史に幕を下ろすこととなる。

 魔族帝国の脅威は2つのノルド帝国にも届いており、ノルド帝国が魔族帝国に大軍を派遣したことで人魔大戦が勃発するのだった。

 魔族帝国の敗因は1つしかない。魔族達は強力な魔力を有するが故に古代文明の防衛装置が働いてしまい、遺跡から古代兵器を入手できなかったことに尽きる。勇敢なノルド人の噂は当時の魔族にも届いていたものの、身体能力の低さから彼等は「ただの人間」と侮っていた。だが、決戦の地に集結した魔族軍が見たものは、千を超える人機と数万の装甲歩兵だった。

 最初の決戦で魔族軍はノルド軍の10倍を超える戦力を投入したものの、大敗北を喫する。確かに魔族達の魔法は強力であり、大地や精霊の加護を受けたエルフ族も蹴散らす事ができるが、古代兵器が誇る特殊セラミック装甲の前では魔法の効果は薄く、クリード系魔力投射兵器によって文字通り魔族軍は溶かされていった。身体能力を活かした接近戦でも装甲服を装備した歩兵に大苦戦し、初戦で魔族は自分達のアドバンテージが全く通じないと思い知ることとなる。

 魔族帝国は幾度となく戦況を打開しようとするも、全ての決戦で敗北し、やがて抵抗する力も無くなった魔族達は降伏の意志を示したのだが、ノルド人は彼等を容赦なく滅ぼしていった。

 魔族は人間と共存するには余りにも強かったのだ。


 ノルド人による魔族討伐は様々な形となって現在にも伝わっており、歴史書から吟遊詩人の詩、子供向けの絵本に至るまで沢山ある。その中でも多くの者を惹きつけるのは魔王討伐物だろう。勇者が魔王との一騎打ちに勝利する、一般戦士が仲間と共に魔王を倒す。この手の物語はノルド人だけでなくパンガイア中で親しまれており、近年ではジアゾ大陸でも流行していた。

 魔王は他の魔族とは隔絶した能力を有している存在であり、魔族国は基本的に1人の魔王が統治している。魔王は強大な力と統率力を有し、場所によっては魔族、人間問わず神として崇められる者も存在していた。


 パンガイア大陸から瘴気を隔てて東の海に、人魔大戦に巻き込まれず生き残った魔族国家「倭国」が今も存在している。倭国には妖怪と呼ばれる魔族が住んでいるのだが、正確には妖怪全てが魔族というわけではない。魔族に分類されるのは大妖怪であり、その他の妖怪は亜人や魔物の扱いである。

 大陸と隔絶された環境からか、倭国は他の魔族国にはない特徴があり、中でも人間との共存はパンガイア大陸でも広く知られている。しかし、倭国に魔王が3人いることを知る者はいない。



倭国、霧氷連山内

 警備の制止を振り切ってアカギの屋敷に到着したフタラは、まるで実家にいるような感覚で庭を進んで行く。門をくぐって屋敷に入ってしまったフタラを止める者は誰もおらず、後ろから声をかけていた警備は屋敷から見えない位置へ戻っていた。


「アカギー、様子を見に来たよ。」


「貴様を呼んだ覚えはない。」


 フタラが庭の中心まで来たところで、屋敷から漆黒の倭服に身を包んだ長身の女性が姿を現す。身長は190㎝はあるだろうか、黒い瞳、ひざ下まで伸びる朱色の髪、大妖怪アカギはゆっくりとフタラの前に移動していく。


「聞いてよアカギィ、あなたの所の狐が外国から変なの連れてきて、静城にいついちゃったんだよ。」


「それ以上近づくな。」


「あれ? 顔色悪いけど大丈夫? 」


「来るなと言っている! 」


 マズイ。フタラが身の危険を感じた直後、アカギから照射された光の束がフタラを貫き、背後の門を融解させる。更に門を貫通した光は洞窟壁面に命中し、壁は真っ赤な溶岩となって地面に流れ始めた。

 通称「妖怪レーザー」。アカギに挑んだ者をことごとく葬ってきた彼女固有の大妖術である。洞窟内で使う関係で今回は威力を絞っているが、その出力はレーザー護衛艦「陽光」の最大出力を既に上回っていた。


「すごい、また短縮したの? 」


 フタラは会うたびに術発動までの時間を短縮するアカギに感心する。そんなフタラは岩すら溶かす光線を受けても傷1つ負っていなかった。いや、「受けた」という表現は正しくない、フタラは彼女固有の妖術「霊体化」によってアカギの攻撃を回避していた。


「何の用だ・・・」


 今回もフタラに術が効かなかった事で、アカギは彼女に用件を尋ねる。こうなってしまっては、力でフタラを追い返すことは不可能であり、話を聞く以外に自身のテリトリーから天敵を排除出来ないと理解しているからである。


「もう知っていると思うけど・・・」


 フタラは瘴気内に出現した日本国の詳細を話し、瘴気外国家が近く侵攻して来ることを伝え、更に瘴気内の各国が協力して一大決戦の準備を進めていることも話す。


「妖怪の存続がかかっているの。できる事だけでいいから協力して。」


「断る。」


 即答である。「まぁ、そうなるね」アカギの性格から結果は分かっていたが、国際情勢に疎いアカギに最新の情報を伝えられただけでも訪問した甲斐はあったというものだろう。様子も見れたし・・・

 その後もフタラは南海大島を平定できた事、蜀で精霊が排除された事、神竜ヴィクターが動き出した事などを伝えて再度協力を持ち掛けるも、断られてしまう。


 フタラが立ち去った後もアカギはフタラの気配が完全に消えるまで警戒を解くことはない。アカギは過去に2回、フタラに生死を賭けた戦いを挑んで負けていた。

 アカギは妖怪ムカデという魔物であり、生態は地球のムカデと変わりないのだが、倭国の地下に広がる魔石鉱床の影響で突然変異を起こし、また、知恵を持つ他の生物を食すことで高度な自我と知識を持つに至っていた。アカギはひたすら敵を倒し、喰らい、蟲毒では兄弟姉妹も食い殺し、やがて妖怪の頂点に君臨する。頂点に立った者が次にすることは頂点を極める事であり、アカギは今まで手が出せなかった獲物、「フタラ」を標的にするのだった。

 フタラとの出会いは彼女からアプローチされたものであり、各地の有力者に挨拶回りしていたフタラが人間をアカギに献上しに来た時である。ここで、フタラを一目見たアカギは彼女が最大のライバルになる事を確信する。


 最初の戦いはアカギがフタラの神殿に乗り込むことで始まった。短期で決着をつける予定だったアカギだが、フタラの妖術によって想定外の長期戦となる。攻めあぐねるアカギだったが、魔力、体力共にフタラを上回るため、負ける気は一切しなかった。

 3日目の夜、「時間が経てば経つほど有利になる」そう思っていたアカギに異変が現れる。魔力消費が極端に増え、体が思うように動かなくなっていたのだ。


「勝負はつきました。これ以上は容赦しませんよ。」


 勝ち誇ったようなフタラの声にアカギはようやく状況を把握する。


「毒・・・」


 アカギが最強の毒虫である一方、フタラも強力な毒を持っており、彼女は戦いが始まる前からアカギに気付かれることなく毒を注入し続け、今になって効果が出たのだった。

 戦いを挑んだ者が敗北し、喰らおうとした者に慈悲を与えられ、最強の毒虫である自分が毒によって倒される。最初の敗北はアカギにとって屈辱以外の何物でもなかった。


「必ず貴様を倒す」


 最初の敗北からアカギは再戦を誓っていたが、今はやらなければならない最優先事項ができていた。


「時代が変わった・・・何故、今なのだ。」


 フタラの気配が完全に消えたことを確認したアカギは、人から巨大なムカデの姿に戻りながら振り返り、館の奥へ消えていく・・・




日本国、横須賀

 言わずと知れた海上自衛隊の拠点「横須賀」は、量産が始まったフリゲート級の無人護衛艦が次から次へと配備され、港が埋まりつつあった。


「まさか、倭国が妖怪の国と言っても同盟国です。あなた方は同盟国へ核攻撃をするつもりですか! 」


「その倭国から依頼されたのですよ。それと、命令は作戦実行の前日に出ます。それまでは倭国沖での訓練に専念していてください。」


 海が良く見える建物で、楠木日夜野は名も無き組織から密命を受けていた。


「妖怪の恐ろしさは誰よりも知っているでしょう。貴女が行うべきことは、魔王クラスの妖怪の実力を正確に把握して、適切な兵器を選定する事です。そのために、我々は核兵器と古代兵器の「要請権」を貴女に与えたのですから。それとも、まだ不満があるのですか? 」


 組織から派遣された女性は窓から外を眺める。横須賀の港には最新鋭ミサイル護衛艦「あまぎ」が係留されていた・・・

新たな3人組が発覚! 魔王3人組 もう一人は倭国議会で議長をしているオウマです


裏設定として、アカギには姉がいました。人に化ける変化の術を教えることでアカギに外の社会とかかわりを待たせたり、「人の形をした者との話し合いでは人の姿に化ける」というルールを作ったり、社交的で割とフランクな妖怪だったのですが、アカギが食べちゃったのでこの世にはいません。



関係ない話ですが、アカギの写真をダニエルに見せたところ、「B」という謎の回答がありました

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