異世界住人の脅威
日本が転移した世界には魔法が存在し、全ての生物は未知の力「魔力」を持っている・・・
北海道大学、魔法研究所
国内最大の魔法研究機関である北海道大学は日夜研究を続けており、友好国の協力もあって魔法研究は急速に進んでいた。
魔法研究所主催の説明会は頻繁に開かれるようになり、研究者達は魔法を使える者の危険性を省庁や自治体から派遣された職員に説明することで、日本の魔法認知度を向上させていた。
「入国制限解除はダメですね。」
「はぁ、平和になっても観光客は呼べませんか・・・」
妖怪や獣人、精霊など、この世界にはヒトの能力を超える存在が多数確認されている。日本国は警察力を超えかねない人物の国内流入を警戒していたが、倭国の外務局長が来日したことをきっかけに強固な入国制限を設けていた。
「この映像は国内と蜀での比較実験となります。」
「同じ魔法を使用していますが、明らかに国内では破壊力が上昇しているように見えます。」
映像は蜀人がストーンバレットと呼ばれる魔法で立木を攻撃しているのだが、蜀では木にかすり傷程度しか与えられていないのに対し、日本国内では木を深く抉っていた。
「まるで銃撃だ・・・」
「この違いは地域の属性と個々の生物が持つ魔法耐性が大きく関係していると思われます。」
研究員は地域によって魔法属性があり、使用する魔法の属性によって効果に影響を及ぼす事を最初に説明し、個々の生物が持つ属性と魔法耐性の話に入る。
「蜀は長年人間と森が戦ってきた経緯があり、大地自体が人間の魔法に対する防御手段を講じていると考えられています。また、木自体も個々で属性と魔法耐性を有しているため、被害を最小限に抑えたのだと思われます。」
「対して国内の木ですが、魔法に対する防御手段を一切保有していない事が原因です。」
この実験は木に対して行われたものだが、これが日本人だったら・・・研究者達がこの世界の住人を国内へ入れないように助言しているのは、このためである。
「この世界の住人は全身武器人間と言えるでしょう。しかし、実験に参加した蜀人は日本国内で魔法を行使した後、強烈な疲労を訴えて専属医師から「魔力切れ」と診断されています。これは日本国内で魔力が自然回復しない事が原因であり、国内での魔法行使には大きなリスクもあるようです。」
「また、対処法が無いわけではありません。入国制限解除には以下の対策をとる必要があるでしょう。」
1、国内のインフラや建物を魔法耐性のある材料で作る。
2、衣服などを魔法耐性のある素材で作る。
3、対魔法結界を張る。
4、入国者に魔法制限アイテムを強制で身につけさせる。
5、その他
これらの対応策は既に動いているが、全国が対応するまでにはかなり時間のかかるものであった。
説明会終了後、参加者達は各々方法で岐路についていたが、ある内陸県の警察関係者は隣接県警と警視庁の参加者とで、簡単な情報交換を行っていた。
「警視庁は20式小銃を導入するのですか? 」
話は現場の警察官に持たせる銃のもので、拳銃では対魔物、対人にも火力不足な現状を変えようと全国で小銃の導入が検討されていた。
警視庁は整備性、携行性で89式に勝る20式を自衛隊の大増産に合わせる形で安く契約を結んでおり、県警関係者達を驚かせる。
「少なくなったとは言え、都には半漁人の上陸がありますし・・・大きな声では言えませんが、倭国の工作員が日本人の拉致を計画していた事件もありまして。」
倭国の工作事件を担当した警視庁に対して、国は情報の開示を禁止していた。だが、伏せたままで良い情報ではないと判断している警視庁は、同じ警察組織と情報の共有をはかろうとしていた。
「そんな事件が、もう起きているのですね。」
「妖怪相手にSATが何処まで通用するかも未知数なのです。」
普通、警察関係者はこの様な弱気な発言はしない。対処法が見つからなくとも「現在対処法を研究中」と言うはずである。しかし、警視庁は「魔法を使ってくるヒグマのような相手」をどう取り押さえるかで答えが見つからず、装備の充実を以って対処する方向にシフトさせており、最も重要な身柄確保に大きな不安を抱えていた。
「特に大妖怪の対処法が無い。情報によると、ライフル弾すら効かないバリアを張れるそうです。」
「確か、最初に接触した外交官と頻繁に来日する外務局長が大妖怪と聞いています。」
話は対処法が無い大妖怪に移り、各自が持っている情報を出し合うのだが、殆ど海外へ姿を現さない大妖怪の情報は無く、どの組織も手探りの状況であった。その中で、内陸県の県警関係者は管轄内に住所を持つ大妖怪の情報を出す。
「我々も公開を止められている情報があります。実は、管轄内の住人に大妖怪がいるのです。」
「転移の影響かは不明ですが、北海道大学では「変異した」と予想しています。」
「日本人が、ですか? そんな情報、まさか、上は知っていて・・・」
警視庁の関係者は驚くが、思い当たる節があるようで考え込む。国は口止めをしているものの、警察組織への情報提供はしており、各警察組織の上層部は情報漏洩を最も気にしながら部下に対処法を考えさせていたのであった。
「先ほどの話にあったバリアですが、自衛隊のバズーカを防ぐ強度が確認されています。」
更に、身体検査によって常人を凌ぐ運動能力を持ち、38口径の拳銃弾を受け付けない強靭な身体を持っている事が伝えられる。
「はぁ、工作員の検死結果から大妖怪の能力予測は出来ていましたが・・・これは考え方を根本的に変える必要があります。警視庁では倭国の警察組織に協力を依頼しているところですが、そちらは? 」
「職員を南海大島に派遣して対魔族結界の作成技術を学ばせています。」
「やはり魔法技術の取り込みを行っているのですか、うちは蜀へ職員を派遣しています。」
「有益な情報は積極的にお伝えする予定です。」
「それはありがたい、こんな状況では横の繋がりが重要ですからね。」
治安維持に関して国は各地の警察に一任しており、妖怪対策のマニュアル等は作成していない。これは一見無責任に思えるが、日本全国で状況が同じではないため、地元の実情を一番把握している警察組織が最適な対応策をとってもらうためである。「現行法でできる事なら自由」に動けるため、各組織は協力しつつ独自の対応をとっていた。
連絡先を交換し終え、内陸県の警察関係者達は帰路につく。
「何処も対処が進んでいますね。しかし、工作員対策ですか・・・」
「今は大妖怪対策の結界導入が最優先だ。大妖怪を弱体化できる結界が完成すれば、工作員対策も一気に進むだろう。」
他組織との情報交換で新たな問題の対応を考える必要が出て来たが、これまでの対応を一気に変える必要はないだろう。
この県警が対策を考えるにあたり、参考にしたのは南海鼠人であった。日本人は魔法攻撃に対して脆弱であるが、魔力回路自体持たないが故に幻惑魔法、回復魔法が全く効かない特徴もある。魔力を殆ど持たない南海鼠人が倭国相手に互角以上に戦えたのは、ジアゾ由来の対魔族結界技術の役割が大きく、県警内では日本に一番必要な技術だと確信していた。
「結界のサンプルは来週届きますし、小銃の発注も間もなくなので、今まで以上に忙しくなりますね。」
「そうだな、64式の扱いは自衛隊でも少ないから注意しなければ・・・」
先の情報交換で話に出さなかったが、県警は新64式小銃を選定していた。名称に64式とつくが、蜀での使用環境に耐えるようオリジナルより頑丈に作られ、部品点数を大幅に削減して整備性を向上させ、より実戦向きのサービスライフルとなっていた。何よりフルオート射撃機能がないので警察に合った小銃と言える。県警では銃器メーカーと新64式小銃改3型をベースに警察仕様を設計し、発注していた。
どんなに恐ろしい犯罪者が現れたところで対処法は大体決まっている。拳銃が効かなければ小銃を使い、人間並みに弱体化させてから多少の怪我を負わせれば、人力でも容易に確保できるだろう。これが管轄に大妖怪が住んでいる県警が行き着いたドクトリンである。
県警の警察力向上は直ぐに実行され、大妖怪の犯罪者にも対応できる体制が急速に整うのだった。しかし、倭国から戻ってきた住人は劇的な進化を遂げており、小銃すら効果のない体となっていただけでなく、物理的に人間が取り押さえられる構造ではなくなっていた。困り果てた県警は国に協力を要請し、大妖怪対策にヴィクターランドから人機の導入を始めることとなる・・・
倭国北方
倭国の北方には妖怪以外人間の居住がない立ち入り禁止の危険地帯が広がっている。この地は同心会の本拠地が置かれており、政府も迂闊に手を出せない治外法権地帯となっていた。
人食いの妖怪が多数住み、犯罪者も多く流れ着く地域であるため、政府は不定期で軍を派遣して「掃除」を行っているのだが、掃除の範囲は政府と同心会の設定した緩衝地帯でのみ行われ、緩衝地帯から北部では政府軍と警察は一切活動していない。
霧氷連山内アカギの居城
緩衝地帯から約60㎞北上した所に霧氷連山と呼ばれる霧雨連山に似た山脈がそびえている。霧氷連山も霧雨連山同様、地下に豊富な魔石鉱床が広がっており、同心会のトップである大妖怪アカギが居城を置いていた。
同心会は霧氷連山自体を厳重に管理しており、アカギの居城には選りすぐりの大妖怪が警備を行っていることから、倭国で最も厳重に守られた場所と言われている。だが、そんな霧氷連山内でアカギの居城目がけて突き進む者がいた。結界をすり抜け、封印をいとも簡単に解き、警備に就いている上位の大妖怪達を軽くいなしながら、その人物はアカギの屋敷前に到着する。
「アカギ様は誰とも会いません! どうかお引き取り下さいフタラ様! 」
警備の制止を振り切って、大妖怪フタラはアカギの屋敷に踏み込むのだった。
日本における魔法技術の積極導入は警察が最初になります
その中で海無し県のとある県警は人機の導入を進め、後のパトロール人機になります
次の話は人機と魔族の説明をしつつ、フタラがアカギに愚痴を言う話になる予定です。ちなみに、2人の関係は強敵(友)です。
外伝が全然進んでいないので、そろそろ手を付けようかと思います。新秩序確立戦争が始まる前にリュクスの昔話を終わらせなければなりませんし、利子も大学に到着させる必要があるので、バランスよく書いていくつもりです。